パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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怒り

 

「お前がぁぁっ!」

 

 咆哮を上げて、俺はダキアに向かって飛びかかる。

 こいつのせいで俺がどれだけ苦労したか、どれだけ人を避けてきたか、どれだけ自分を呪ったか!

 甲高い金属音と共に、爪と爪とがぶつかり合い、火花を散らすと、激高する俺を煽るかのようにダキアがにやけた表情で言う。

 

「くふふふ、恨まれる筋合いは無いんだけどねえ、僕はただ死にかけていた子供を救ってあげただけじゃないか。言うなれば命の恩人だよ?」

 

「うるせぇぇ!!」

 

 どの面を下げてそんな恩着せがましいことを言えるのか。

 確かに、見方によっては命の恩人と言えるのかもしれない。

 だが、そのせいで俺は見捨てられた。

 狂化した姿に母さんは怯え、苦しみ、俺を怖がったし、父さんや村の皆は俺のことを化物だと、純粋無垢な人間のリガスは死んで、悪魔に成り変わられたのだと信じるようになった。

 それから村を追い出されて、今まで生きてこれたのは単純に運が良かっただけだ。

 一歩間違えればいつ死んでもおかしくなかった。

 だというのに、だというのに、こいつは!

 

 怒りに頭が熱くなり、筋肉が盛り上がるのを感じる。

 と、同時に体が素早く、力強く動き、突き出した爪がダキアの腹部を掠めて空を切った。

 

「おや、ふふふ、早いじゃないかリガス君、良いねえ」

 

 腹部から僅かに血を漏らしながら、ダキアは不敵に笑みを浮かべ、続けざまに突き出した俺の爪を弾く。

 まだ力が足りない。

 もっとだ、もっと、あいつが弾けないくらいの力で斬撃を突き出さなくては。

 

「ウオオオオオッッ!」

 

 全身の筋肉を隆起させ、渾身の力で爪を振り下ろす。

 目の前の男を倒す。

 爪で切り裂く。

 そして――

 

「――――狂戦士の弱点は、理性が著しく低下することだ。そうだろ、リガス君」

 

 渾身の一撃はしかし、虚しく空を切ると、次の瞬間、無防備な俺の顔面にダキアの膝が強烈に突き刺さった。

 鼻先に思い切り食らった打撃に、体が背後へと吹き飛び、床を転げる。

 

「ふふふふふ、あれだけ言っていたのに、理性を失ってカウンターを食らっていたら世話が無い!はは、狂戦士としての自覚が足りないんじゃあないかな?」

 

「グゥゥゥッ!!」

 

 なんとか床から身を起こす俺に、ダキアは煽るように腕を広げ、笑いながら言って見せる。

 こいつだけは、このまま許しておくわけにはいかない。

 絶対に殺す。絶対に――

 

「ブレイク」

 

 殺す。

 その決意を胸に、再び飛びかかろうとした時、ピシリと音を立てて、俺の足元が凍り付いたように動かなくなった。

 何が起きたのか、と、足元を見る俺の耳に、か細く、ひ弱な、震える声が届く。

 

「ふへぇ……だ、駄目ですよ、リガスさん……そういうのは……その、少し落ち着かないと……」

 

 声の主は白い杖を手に握りしめ、とんがり帽子を目深に被る魔女、トゥーラさんだ。

 トゥーラさんは足元が石化し、動けない俺の前に出ると、おずおずと語り出す。

 

「あの人は……明らかにリガスさんを挑発しています。そういうのに乗っても相手の手の内で……えっと、だからその……」

 

 トゥーラさんはそこまで言うと、ごくりと唾を飲み込み、白く輝く杖をダキアに向けて、告げる。

 

「ここは私に任せてください」

 

 そう言って普段の態度とは違う、堂々とした態度でダキアの前に立ち塞がるトゥーラさんに、しかし、ダキアはくっくっと笑いを漏らしながら、煽るように言う。

 

「ふふ、なるほど確かに、理性を失いかけた愚かな狂戦士には任せておけないか。けど……ふふ、道中に聞いたよ、君は石化の魔術しか扱えないんだよね?」

 

 ダキアは言いながら、さも眼前の魔術師が敵ではないとでも言うかのように、歩を進める。

 

「僕の友人の言うところ、魔術の際たる強みはその汎用性だ。一種類の魔術しか使えないというのは、それだけで魔術の強みの大半を失っている。ましてや石化、石化だ。ふふ」

 

 くすくす、と笑いながら、トゥーラさんの目の前――とうに爪の間合いの内側だろう、そこまで歩みを進めると、ダキアはおちょくるように腕を広げる。

 

「僕ら魔族は……まあ細かい種族にもよるけど、基本的に状態異常への強い耐性を持っている。当然、そう易々と石化なんかが効くはずも無い。ふふふ、耐性も何もないただの人間相手ならともかく、僕らを相手に君のような魔術師が――」

 

 ぴしり。

 瞬間、僅かな音にダキアの言葉が遮られると、次の瞬間――鈍い衝撃音と共に、ダキアの体がぐるりと回り、硬い石床に転げる。

 何より驚いたのは当のダキアだろう。

 何が起きたか分からない、という様子で目を見開き、態勢を立て直すと、すぐさま爪を構え、再びあのにやけた表情で口を開く。

 

「ふふ、驚いたよ。どうやら石化以外にも何かあるのかな?なら君への評価を――」

 

「ブレイク」

 

 トゥーラさんが唱えると、再び、ぴしりと音が鳴り、ダキアの全身が石と化す。

 ダキアは別の魔術かと思ったようだが、さっきのアレも間違いなく石化の魔術だ。

 トゥーラさんは――相手の石化耐性を突き破って石化の魔術を掛けている。

 だが、やはり耐性があるというのは確かなのだろう。ダキアの体もすぐさま、石化が解除され、元の状態に戻る。

 しかし、その一瞬。

 一瞬の石化、一瞬の意識の遮断と同時に、トゥーラさんは踏み込み、杖に魔術を込める。

 

「――すごい硬いブレイク」

 

 魔術により、あたかも鋼の如く変質した杖を振り上げると、そこでダキアの石化が解け、そして。

 

「改めッッブァ!!」

 

 鉄塊が肉を叩き潰すかのような、鈍い音を立てて杖がダキアの頭に食い込み、弾き飛ばす。

 再び、困惑するように目を見開き、立ち上がるダキアに、トゥーラさんはゆっくりと、落ち着いた様子で口を開く。

 

「……私は怒ってます」

 

 俺の位置からでは背中しか見えないが、それでも、トゥーラさんから今まで感じたことのない圧が放たれているように思えた。

 思わずたじろぐ俺を他所に、トゥーラさんは尚も淡々と、落ち着いて話し続ける。

 

「狂戦士にしたから、人間に受け入れられないとか、迫害されるとか……実際そうだったから許せないとか……そう言うじゃないですか、でも……でもですよ、カミラちゃんと私はそれを知った上でリガスさんを仲間だと思っているんです。リガスさんには私達がいるんです」

 

 言いながら、トゥーラさんは杖をグッと握りしめ、力強く――芯の通った口調で告げる。

 

「そんな私達を無視して、仲間を侮辱しないでください。私は……とても不快です」

 

 眼前の人狼に向けてそう言い放つと、トゥーラさんは堂々と、けれども静かに、その場に杖を構えるのだった。

 

 

 

 

 

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