パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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魔族バーーーカ!!!

 

「……トゥーラさん!」

 

 間近でかけられる声に、目を開けると、不安気な表情でこちらを見下ろすリガス君の顔があった。

 あれから気絶してしまっていたらしい。

 どこか不甲斐なさを感じながらも、座り込んで私の体を支えるリガス君に言葉を返す。

 

「リガス君……大丈――……っあっいだだだだ!!」

 

 起き上がり、声を発した途端に、下腹に激痛が走る。

 ちらりと視線を下にやると、腹部は一見してもう何ともない。

 貫かれた傷跡が残っているわけでもなければ、粘土化してドロドロになっているわけでもなく、いつも通りの私の肌だ。

 が――お腹の内側は話が別だ。

 酷い下痢にかかった時のような気分の悪さと痛みが絶え間なく押し寄せる。

 やっぱり、体も内臓もその場に静止させる石化と違い、軟化させて直接体を弄る粘土化は体への負担が酷いのかもしれない。

 いや、単に私のレベルが足りていない、術に慣れていない。というのもあるのかもしれないけど……。

 

「はへぇ……先生の言う通り……もうちょっと意思を強く持たないと駄目ですね……」

 

 魔術とは意思の具現、魔力とは魂の力。

 そんな先生の教えを思い出し、不意にあの人狼、ダキアの語った言葉を思い返す。

 この迷宮の成り立ち、かつて地上に栄えた国の記憶を形にして保存したものだという話。

 果たして、そんなことが出来るものなのだろうか?

 あの話が事実だとしたら、一体それを成す為にどれだけの意思と魂が……そんなことを考えながら、そういえば、と私はキョロキョロと辺りを見回し、問いかける。

 

「それでリガス君、あの人――ダキアさんは?」

 

「逃げたよ。トゥーラさんが腕を固定してくれたから手傷は負わせられたけど――捕らえる前に狂化を解除して抜け出した」

 

 お腹に突き刺さったまま掴んだダキアの腕だったが、なるほど、あれは狂化して筋肉が肥大した状態の腕だ。

 狂化を解除することで筋肉を盛り下げ、それで生じた緩みで抜け出したのだろう。

 

「最後まで余裕たっぷりで笑いながらどこかに消えていった。なんていうか……不気味な人だよね」

 

「そうですね……迷宮のことや狂化のこと……自分が魔族であること……考えてみれば、そんなことを私達に話す必要は無い筈です」

 

 それなのにも関わらず、私達にヒントでも与えるかのように情報を与え、その上で襲い掛かる。

 矛盾している。何がしたいのかが分からない。

 襲いはしても殺すつもりではなかった?逆に殺すつもりだったから情報を開示した?

 わからない。どちらも微妙にしっくりこない気がする。

 もっと何か、肝心なことを隠しているような……。

 

 頭を悩ましているのも束の間、不意に広間の床が揺れ、遠くで何かが激しくぶつかるような轟音が響いた。

 そういえば、ダキアは迷宮には何か特殊な怪物が封印されている、というようなことも語っていた。

 それを目覚めさせるのが魔族の血だとも。

 

「あたた……り、リガス君……行きましょう……!」

 

「けど……トゥーラさん、大丈夫?」

 

「大丈夫です、直接的なダメージを負ったわけでもないですし、それに――」

 

 私の体を支えながらも、不安そうに問いかけるリガス君に、私は思わず微笑を浮かべて言葉を返す。

 

「私達のパーティの天才神官ちゃんは、危なっかしくて放っておけないでしょう?」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「バーーーーーーーーーーーーーカ!!!!魔族バーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!」

 

「くたばれクソ魔族!!!何考えてんだこのクソ馬鹿!!!」

 

「私に言われても困る」

 

 辺りに轟音が響き、地面が割れて隆起する中、私とジョーが辺りの轟音にも負けない程の声量で宙にふわりと浮くザッパローグを罵る。

 ジョーとザッパローグの技がぶつかり、決着がつくかに見えた瞬間、突如として辺りを激しい揺れが襲い、地面が割れたのだ。

 

「私達に負けそうになったからといって、勝つのを諦めて卑怯な手段に出ることにしたんだろう!!!ずるいぞ!!!」

 

「……馬鹿を言うな、これに関しては私は関与していない。恐らくはダキアの仕業だ」

 

 私の罵声に、ザッパローグが言い訳がましく答える。

 知らん、そんなの。魔族がやったんだから連帯責任だ。

 と、魔族特有の無責任さに腹を立てていると、足元で何かが爆発したかのような強い衝撃が地面に轟き、とてつもない勢いで私の体が跳ね上げられる。

 

「うべっ!!」

 

 ごろりと転がる私が顔を上げると、もうもうと湧き上がる砂埃の中、一つの小山のような影が揺らめくのが見えた。

 砂埃が晴れるにつれ、眼前に立つそれの姿が鮮明に湧き上がる。

 赤褐色の体には、全身を覆うように刺々しく、ざらざらとした鱗が生え揃い、逞しく太い腕から伸びた爪が大地を掴み、頭部からは黒く、長く伸びた1対の角が天高く伸びていた。

 初めて見るその姿はしかし、同時に幾度となく、英雄たちの冒険物語で見聞きし、目にしたことのある、馴染みのある巨大な怪物でもあった。

 

「――ドラゴンか!」

 

 同じように横で転がるジョーが、苦々し気にそう呟くと、私達に気付いたのだろうか、ドラゴンはゆっくりとその長い首を持ち上げ、爛々と輝く黄金の瞳で私達をじっと見つめ――瞬間、耳をつんざくような甲高い咆哮を上げた。

 

「っ――2階層にドラゴンがいるなんて聞いてないぞ、ジョー!!」

 

「俺だって見たことねえよ!!どういうことだクソ魔族オラァ!!!」

 

 慌てながらも、迷わず背中を向けて逃げながらも、私達は頭上のザッパローグに尚も罵声を上げると、ザッパローグはさもありなん、といったような態度で何ともなしに答える。

 

「ドラゴンは宝を守るべく存在するものだ。故にこの第2層が宝物塔であるならば――それを守る為にいるのは必定だろう」

 

「はいはい!ご教授ありがとうございます!馬鹿が!くたばれ!!」

 

「そうだそうだ!ドラゴン止めろ!」

 

 さも当然のドラゴン知識をつらつらと語るザッパローグに、私達が苛立ちながら腕を振り上げ叫ぶと、ザッパローグは困ったように顔をふるふると横に振り、再び答える。

 

「残念ながら、それは無理だ」

 

「なんで!?」

 

「何故も何も――――」

 

 ザッパローグが言うか早いか、ドラゴンは私達の逃げる姿に一瞥すると、鼻からごお、と、竜巻の如き音を立てて周囲の煙を吸い上げる。

 そして空気を溜め込んだ後、喉元が大きく膨れ上がったかと思うと――次の瞬間、大きく開けた口から、あたかも大砲の如く燃え上がる火球が放たれ、辺りを炎で覆いつくす。

 周囲の苔は燃え、水が蒸発し、瓦礫が崩れ落ちていく中、ジョーの水流による防御でなんとか炎を凌いだ私達のすぐ後ろで、ザッパローグが淡々と続ける。

 

「あのドラゴン、我々にも制御出来るわけでは無いからな」

 

「魔族バーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!!」

 

 もうもうと煙の立ち上がる、焼け落ちた中庭に、ドラゴンの咆哮よりも更に強く、私の罵声が轟くのであった。 

 

 

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