パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
炎に包まれ、焼け焦げた中庭に立つ小山のようなドラゴンは、ひとしきり炎を噴くと、最後にボン、とゲップでもするかのように黒煙を吐き出し、ぎょろりと辺りを見回した。
その様を見ながら、燃え残った瓦礫に身を隠した私は、隣で座り込むジョーに声を掛ける。
「よし、良い事を思いついた。ジョー、私が回復してやるから肉壁になって炎を防ぐが良い!!」
「無理に決まってんだろが!!お前マジで!!馬鹿がよ!!」
私が天才的な提案を投げかけてやったにも関わらず、ジョーはすぐさまうるさく叫んで否定する。
使えない男だ、戦士職なら敵の攻撃を身で受けるくらいはすべきだろうに、役目でしょ。
などと、私が不満気に溜息を吐くのに苛立った様子で歯を食いしばるジョーの肩を抑えつつ、その背後のザッパローグが口を開く。
「ドラゴンのブレスは範囲攻撃だ。いかな回復術があったとしても、ジョーだけでは全てを受けきることは出来なかろう」
「ほら見ろ、ザッパもこう言ってるじゃねえか!!バーカ!!!考えが浅はかなんだよメスガキ神官がよ!!!」
「は~!?脳まで筋肉で出来てるような戦士に言われたくないんだがねぇ!!?」
この男、ザッパローグのフォローが入った途端に強気になって私を責めてきた。
昨日の敵は今日の友、なんて言葉があるにしても手の平を返すのが早すぎるだろう。
私だって元パーティメンバーだぞ。
言い争う私達、というかジョーにだと思うが、流石に呆れたように兜を抑えながら、ザッパローグが淡々と続ける。
「ましてや、貴様らは先の戦闘で疲労があるだろう。回復術を使うとして、あとどれだけ神聖力が持つ?傷が癒え、体力が回復したとて、あとどれだけ気力が持つのだ?」
「むう……」
ザッパローグの理知的な反論に思わず言葉が詰まる。
確かに、さっきまでの回復で結構な数の神聖術を撃ってしまった。
いかに私が天才であり、レベルも2層に入って上がったと言っても、流石に無尽蔵に回復を撃てるわけではない。
ジョーの方も同様だ。
回復術によりその場で体力は回復するとは言っても、絶え間なく襲うダメージと回復のギャップは受け手の気力、精神を蝕む。
ジョーが幾度も大ダメージからの回復を繰り返しても平気なのは、偏にジョー自身の精神力と、私が以前から無理矢理にでも回復して立たせまくっていた故だろう。
つまり私のお陰なのだが、ジョーとしてはそれが嫌で私を追い出した部分もあったのかもしれないな。恩知らずな奴だ。
ともあれ、ジョーを囮にしてドラゴンを叩く作戦は無しだな。
となれば……
「近距離戦で殴り合うしかないか」
私がポツリと吐いた言葉に、ジョーが驚いたように目を丸くして、呆気に取られたように問い掛ける。
「お前今なんつった???」
「近距離戦で一か八か、殴り合うしかないと言ったのさ、ジョー、耳が遠くなったかな?」
「ばっ……お前、本当に馬鹿か!?さっきのブレスの威力見ただろうが!水龍剣でもそう何度も何度も防げねえぞ!」
私の言葉にジョーが火でも着いたかのように、わんわんと喚き立てる。
やれやれ、やかましい奴だ。ふふん、やはり剣をブンブン振り回して戦うような原始人には知能が足りないと見える。
私は喚くジョーの口元を抑えるように指をやり、静かにその場に佇むドラゴンを指差し、言う。
「見ろ、ジョー、さっきブレスで私達のいる周辺は焼き尽くされたが――ドラゴンの背後は燃えてない」
「……で?」
「つまり、ブレスを躱すには奴の背後に回るのが一番、故に接近戦が最適解!というわけだ!」
私の理知正論とした理論に、ジョーが顔を手の平で覆い隠し、うなだれる。
事実、ブレスはドラゴンの口元から放射状に、広範囲に広がっているようだった。
よってブレスを躱し、ドラゴンの背後に回れば攻撃を仕掛け放題な筈だ。
ましてや――これはジョーが気付いているかどうか、いや、アホだから気付いてはいないだろうが、今のドラゴンはまだ動きが鈍い。
開幕のブレスこそ殺意マシマシだったが、今はどこかぼんやりした様子で、静かに四足で立ちながら、時折キョロキョロと辺りを見回すのみだ。
恐らくだが、今どういう状況なのか?何をすれば良いのか?何故起こされたのか?あのドラゴンも理解出来ていないのでは?
いや、あるいは単に寝起きでまだ目が覚めていないのかもしれない。
接近戦に持ち込めれば戦う手立てはある筈だ。
というのが私の見立てなのだが――
「そんなことしなくても逃げれば良いんじゃねえか?」
「忘れたのかジョー、この広場の出口にはキングマタンゴが根を張ってるんだぞ?ドラゴンに逃げてるところを見つかり、マタンゴに行方を塞がれたらどうする?」
まあドラゴンの炎でマタンゴを焼き尽くすなら構わないが、と、付け加えて話すと、ジョーは腕を組んだまま、更にうなだれ、唸り声を上げる。
いずれにせよリスクがあるのだ。
ならドラゴンに背を向けるよりは立ち向かった方が良いように思う。
私の考えは間違っていない筈だ。天才だしな!
「さあ、ジョー、どうする?立ち向かうか、逃げるかだ!」
「…………しっ……かたねぇなぁ~~~」
私の問いかけに、ジョーがどこか諦めたように髪を掻き上げ、顔を上げて向き直る。
「やってやるよ、ドラゴン討伐」
―――――――――――――――――――――――
少しの間を置いた後、瓦礫の裏に隠れながらも体勢を整え、すぐにでも飛び出せるように構えたジョーが、背後に控える私達に声を掛ける。
「それじゃあ行くぞ、ザッパも協力してもらうぜ」
「構わん、カミラの鍵がドラゴンの炎で焼き飛ばされては私も困る。それに、このような形で決着というのも本意ではない」
「……意外と熱い奴だな、お前」
へえ、と、ザッパローグの答えに意外そうな表情を浮かべると、ジョーはふふん、と、どこか嬉しそうな笑みを返した。
ザッパローグ本人の表情は兜で隠れて見えないが、それでもこちらもどこか満足気な雰囲気だ。
案外、血も涙もない殺人魔族というよりは、むしろ戦士としての誇りとかを重んじるタイプなのかもしれない。確かにちょっぴり意外だ。
でも私の首を絞めてきたのは許してないぞ。
武人っぽい誇りを持ってるからって、この大天才美少女神官様に無礼をしたことが許されると思うな、馬鹿め!
と、威嚇も込めてギロリと睨みつけてやっていると、再びドラゴンの動きを見つめながらジョーが指示を出す。
「それじゃ行くぞ、3、2、1……GO!」
合図と同時に私とジョーが飛び出すと、散漫に周辺をキョロキョロと見回していたドラゴンも、私達の存在に気付いて、鱗に覆われた長い首をぐにゃりと動かす。
そうして口を大きく開け、凶悪に立ち並ぶ牙を見せて威嚇するかのように咆哮を上げると、空気を大きく吸い込み始める。
「やっぱブレスだ!来るぞ!死ぬ気で走れよ!」
「はっ、誰に物を言っているんだい!」
ドラゴンが空気を溜めている間に、なるべく早く、一歩でも先にと必死に駆ける。
そうしている間にドラゴンが息を止め、ボコン、と、喉元が赤く、一回り大きく膨らむと――
「滑りこめぇぇ!!」
次の瞬間、ドラゴンの口元から真っ白に輝く灼熱の炎が放たれる。
扇状に広がりながら放たれるそれは、最初のブレスで燃え残った瓦礫や岩をも更に熱し、ボロボロと崩していく。
もし直撃すれば命は無いだろう。
瞬時に体が蒸発し、この世には影すらも残らなくなるかもしれない。
まあ――当たればの話だがな!!
ドラゴンがブレスを放つより早く、ギリギリ滑りこんだ私とジョーは、そのままドラゴンの足元に張り付く。
「あっっっついな!!ここでも普通に熱いじゃないか!!誰だドラゴンの後ろなら安心だと言ったやつは!!!」
「お前だ馬鹿!!!オラ!やるぞ!!」
私がドラゴンの足元に身を隠す一方、ジョーはドラゴンの巨体を駆け上がり、足元から首へとするすると登り、剣を振り下ろした。
さしものドラゴンの鋼鉄の如き鱗とはいえ、攻撃中の無防備な隙、ましてや相手は仮にも一流冒険者であるジョーと、それが持つ水の魔剣だ。
素早い斬撃に鱗が引き裂かれ、首筋に一条の切れ込みが走ると、そこから真っ赤な鮮血が噴き出した。
しかし――
「かっ……てぇ!!」
なんとか鱗を切り裂いたジョーだったが、流石はドラゴンと言うべきか、鱗の下の肉を深く傷つけるまでは行かなかったようだ。
だが、それでも傷は傷である。
首元を傷つけられたことに危機を感じたのか、あるいは単におっさんが張り付いているのが不快なのか、ひとしきりブレスを吐き切ったドラゴンが身をよじり、前足の爪を首に張り付くジョーに向けて振り下ろす。
「あっぶね…!」
「プロテクション!」
ゴキン、と、重い衝撃音と同時に、ジョーの頭上へ張った防御壁にドラゴンの爪が突き刺さる。
この私のプロテクションですら完全に攻撃を防ぐとはいかないようだ。
ともあれ、ジョーなら一瞬でも防げれば十分だろう。
「ありがてぇ……なっと!」
プロテクションによって爪が阻まれた瞬間を縫って、ジョーは素早く首元から離脱すると、今度はドラゴンの背中に張り付き、再び水龍剣を抜き放つ。
「オオッ……ラァァ!!」
容赦無く放たれる水の刃の連撃に、ドラゴンの背から血が噴出する。
二度目の攻撃はジョーもコツを掴んだのか、一撃目よりも深く斬り裂くことが出来たようだ。
ドラゴンも先程よりも更に不快そうに、苦しむかのように呻き、大きく体を揺すってジョーを振り落とす。
「っと……っしゃ!来い!」
ジョーは振り落とされながらも体勢を整え、鮮やかに着地すると、挑発でもするかのようにドラゴンの顔面へ水流を浴びせかける。
これは殆どダメージを与えないようだったが、ドラゴンの怒りを買うには十分だ。
ドラゴンは咆哮を上げながら、威嚇するように前足を持ち上げ、2足で立ち上がると、そのままジョーを押し潰すべく上体を叩きつける。
ドラゴンの巨体が轟音を上げて地面に倒れ込むと、衝撃で地が揺れ、辺りの瓦礫が勢いよく舞い上がる。
あたかも地震の如きこの攻撃を防ぐには、流石にプロテクションでは無理だろう。が――
「はっ、初動が分かりやすいぜ!っと!」
防ぐのは無理でも、ジョーならこの程度は躱せて当然だ。
倒れ込んだドラゴンの瞳に向けて斬撃を繰り出す、と――流石にそれは嫌ったか、ドラゴンも素早く首を大きく振り、ジョーの斬撃を角で弾いた。
ジョーとの戦闘の中でドラゴンもそろそろ目が覚めてきたのかもしれない。
怒りのこもった視線をジロリとジョーに向けるドラゴンだったが――
「良いのかい、ドラゴン様よ、下ばっかり見てると――上から雷が落ちて来るぜ」
その言葉の通り、ジョーがドラゴンの頭上を指差すと、それを合図にしたかのように、ドラゴンの頭上に漆黒の鎧に身を纏った騎士が姿を現す。
ジョーが足元でドラゴンの注意を引き、ヘイトを買っている間、残った魔力を練り上げ、存分に『溜め』を込めたザッパローグだ。
ザッパローグは眼下のドラゴンを見つめると、ふわり、と手の平の上に浮かべた魔力を放り上げ、ぱちん、と、指を鳴らして呟く。
「雷槍」
刹那、音よりも尚早く、紫紺の雷光がドラゴンの体を目掛けて突き刺さるのだった。