パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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やくめでしょ。

 ぱちん、とザッパローグが指を弾くと同時に、雷鳴が轟き、ドラゴンの頭上から雷の槍が降り注ぐ。

 激しい衝撃がドラゴンに突き刺さると、ドラゴンは苦しむような雄叫びを上げながら、ずしりと足をよろめかせる。

 流石はザッパローグだ。ジョーとの戦闘を繰り広げた後で尚、これだけの魔術を放てるとは。奴もまた天才なのかもしれないな、私の次にだが!

 少しは見直してやろうかと思わんでも――

 

「あっっぶね!!?」

 

 咄嗟にジョーが私の体を抱きかかえるようにして飛び込み、地面にごろりと転がると、続けざまにどぉん、と、雷鳴を轟かせ、先程まで私がいた地面に雷が落ちる。

 

「あっ、あいつ!今絶対に私ごとブチ殺すつもりだったぞ!!?」

 

 ジョーが奇跡的に気の利く行動をしてくれたから良いものの、あわやドラゴンの近くに落ちた雷槍で焼き貫かれるところだ。

 というか普通によろめいたドラゴンに踏み潰されそうでもある。

 これを狙ったのだとしたら卑怯極まりない、流石は魔族とも言うべき陰湿さだろう。

 

「はっ、まったく、魔族というのはせせこましいことばかりするじゃあないか!バーーカ!!汚いな!さすが魔族!きたない!」

 

「…………人間如きが」

 

 チッ、と僅かに頭上で舌を鳴らす音が聞こえた気がした。

 反省の色が見られないな!っは~!これだから魔族は!やっぱり闇に堕ちた悪辣な連中というのはこういうもの!

 仮に意図的で無かったにしろ地に額を擦りつけて咽び泣きながら謝罪の意を述べるべきだろう!

 申し訳ないと思ってるならドラゴンの炎が身を焦がす場所でも土下座できる筈だぞ!?

 などというやり取りの間に、落雷の衝撃から回復したのだろうか。

 よろめいていたドラゴンが突如、ずしん、と大地を踏みしめ、長い首をぐるりと上空へ向け、ふわりと宙を浮くザッパローグを睨みつける。

 そして――

 

「――――むっ」

 

 連続で何かが爆ぜるような爆音と同時に、ドラゴンの口から幾多もの火球がザッパローグ目掛けて放射された。

 最初に放ってきた火炎放射と比べて溜めが短い。

 が、それは逆に受け取れば、最初の火炎放射と比べて威力が低いということだ。

 事実、サッパローグは大砲の如く自身目掛けて飛んできた火球を、躱し、防ぎ、見事にいなしている。

 ちっ、流石にやるじゃないか、私としてはここであいつがやられてくれても――私がそう思った時だった。

 ゴクン、と、ドラゴンが喉を鳴らしたかと思うと、再び、爆音と同時にドラゴンが火炎を吐き出した。

 

「っな……ぐ……!?」

 

 最初と同じような火炎放射。

 喉を鳴らし、これでもかというほどに口を開いて放射する炎――否。

 

「熱っつ……!これは……熱波か!?」

 

 熱波、あるいは熱風と言うべきか、炎であって炎ではなく、それによって生じる風。

 目に見えず、避けることも難しく、風や雷を起こしたところでそう簡単には防げないだろう。

 ましてやザッパローグはあの鎧を纏っている。

 直接的な熱のダメージがどのようなものかは想像もしたくない。

 それでも何とかドラゴンと距離を取り、熱波を弱めようとするザッパローグに、ドラゴンは追撃とでも言わんばかりに喉で何かを爆ぜさせる。

 と、勢い良く吐き出したのは――煙、黒々と立ち上る煙を、あたかも自身が蒸気機関にでもなったかのように勢いよく吐き出した。

 煙は瞬く間に辺りを覆い、迷宮の天井までもうもうと立ち上っていく。

 

「げほっ!」

 

 辺りに充満した煙を吸い込み、思わず咳き込む。

 この煙自体は普通の煙だ。恐らくはドラゴンが体内で炎を生成した際に副産物的に蓄えられるものなのだろう。

 攻撃性能は無い――が、タチが悪い!

 上空に厚く煙を張られたことで、ザッパローグの姿が視認できない。

 熱波で死んでいなければ、恐らくはあちらも同じだろう。

 この巨体に超火力の火炎を持ちながら、尚も絡め手まで使ってくるとは……こいつドラゴンとしての矜持とか無いのか!?恥を知れ!汚いぞ!

 そう考えていると、よもや私が内心で罵ったのを聞いたわけでは無いだろうが、ドラゴンは今度はぐるりと首を下へと回し、私をじろりと睨みつける。

 

「まずっ――ええい!」

 

 ドラゴンの顔の正面にいては、ブレスが来る!

 私は慌ててドラゴンの顔から右へ回り、背後を取るべく駆ける。

 ブレスはドラゴンの背後には届かない!それはさっき確認済みだ!後ろを取ってさえしまえば――

 

「――っぶねぇ!!」

 

 ドラゴンの背後まで駆け抜けた、その時、ジョーの掛け声と同時に、私の体が強く押し出され、そのまま勢いよく転がる。

 

「痛っっった!!何するジョー!とうとう敵と味方の区別も――」

 

 ごろりと転がった私が振り向くと、先程、私が突き飛ばされた場所には、ドラゴンの刺々しく、太い尻尾が、あたかも今まさに叩きつけたかのように、地面にめり込み、周囲の地面を盛り上げていた。

 そしてその尻尾の下敷きになるようにして、上半身だけが顔を出しているのが――

 

「っ……ジョー!?」

 

「馬鹿……だから油断するなって……」

 

 口から吐血し、血に這いずりながら、ジョーは力無く手を伸ばす。

 どうする?回復させないといけない、私ならすぐさま回復させてやれる。

 が、駄目だ、ジョーの体はドラゴンの尻尾が押さえつけている。このまま肉体を回復しても、またすぐさまバキバキに潰されるのがオチだ。

 まずい、どう――

 しかし、私が次の一手に頭を悩ませ、手を考えるよりも前に、ジョーの体はそのまま勢い良く振り上げたドラゴンの尻尾に、地面ごと抉るようにして吹き飛ばされた。

 まずい、そもそも距離が離れてしまっては回復どうこう以前の問題だ!

 

「ましてこの煙幕の中――」

 

 私が吹き飛ばされたジョーを追おうと、目で追った時、体の正面からどしん、と、地響きのような音が響き、煙の中からぬっと、ドラゴンの顔が姿を現した。

 思わず見つめてしまったその瞳は、赤く爛々と輝き、鋭く生えそろった牙で今にも獲物を食らおうかと、口は凶暴に開かれている。

 間近で吹かれる吐息の熱に、思わずその場で固まり、全身から冷たい汗がぶわりと噴き出す。

 震える体をぴくりとも動かないまま、ドラゴンの真っ赤な口中が眼前に迫り、思わずぎゅっと目を閉じる。

 まずい。まずい。終わった。終わるのか?何が?私の人生が?

 馬鹿な、天才の私が?こんなところで、ドラゴンに食われて終わる?

 馬鹿、馬鹿馬鹿、そんなのあるか、私は、私はこれからのし上がる筈の、権力を掴むはずの天才神官様なんだ。

 ああ、駄目だ、駄目駄目、誰か、神様!神官がピンチなんだぞ!なあ、神様、今までどれだけ信仰してやったと思ってる!?

 私は天才神官様だからそれはもう、すごい信仰した!ああ、偉大なるギアナ神!すごい!天才!私よりも天才かもしれない!流石は神だ!

 だから助けられます!神様なら私のこと助けられる!ね!そうですよね!?

 ほら、なんかもう、まだドラゴンに食われてないし!今ならまだ――あれ?

 

 まだ、食われていない。

 

 死の間際で体感時間がすごく長くなっているのか?それとも別の……?

 よもやもう死んでいる、なんていうのは無いだろうな……と、恐る恐る、目を開けると――そこにあったのは『手』だった。

 幾多もの白い、どこか神聖な印象を抱かせる手が、ドラゴンの体を撫でるように、優しく触れている。

 なんだ、これは?この手はどこから来た?

 そんな疑問に答えるように、私の胸元に下げられた首飾り――ザッパローグは鍵と呼んでいた、この呪いの装備が、ふわりと、柔らかな光を放つ。

 そういえば、ドラゴンは宝を守る為に配置されている、とザッパローグは言っていた。

 宝、つまりこの首飾りと、それを持つ私を宝として認めたということか?いや、にしても、この手は何だ?

 考えを巡らせる私を他所に、白い手がドラゴンの額をゆっくりなぞるように撫でると、ドラゴンはどこか安心したような――あたかも飼い主に撫でられた犬のように、安らかに目を閉じ、そしてその場に、ごろり、と横たわった。

 死んだわけでは無いようだが……もう敵意は感じない。

 ぐるりと体を丸まらせたドラゴンは、穏やかに寝息を立て、眠っている。

 と、白い手はドラゴンを撫でることを止めると、ぽかんと口を開ける私に何かを伝えるかのように手をふわり、と振ると――

 それまで浮かんでいた白い手はその全てが、あたかも夢を見ていたかのように消え去り、煙の晴れた迷宮の中庭にはただ、寝息を立てるドラゴンと、焼け焦げた大地だけが残されていた。

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