パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
先程までの地を揺るがす轟音と炎の熱気が嘘のように、静まり返った中庭で、ドラゴンは静かに体を横たえ、目を閉じている。
どうしてこうなったのかはよく分からないが……まあ多分、私が天才だからだろうな!!
神が私を生かしてくれたということだろう!うん、やはり天才神官!信仰というのはしとくもんである!
「と……そうだ、ジョー!無事か!?」
まさか死んではいないだろうが、不本意とはいえ私を庇ってドラゴンの尻尾に吹き飛ばされたのだ。
このまま放置して死なれてしまっては流石の私も寝覚めが悪い。
ひとまずドラゴンを放置し、ジョーが吹き飛ばされた方向へ向かうと、すぐさま本人が見つかった。
気を失っているようだが、まだ息はある。
「流石に頑丈な奴だな。そのくせ気絶しているのはマイナスだが……回復してやるから後で咽び泣いて感謝するが良い!ふふん!」
気を失っているジョーの体にヒールをかけると、淡い光が辺りを照らし、傷を癒していく。
実際のところ、ドラゴンにマトモに殴られて息があるだけでも大したものだろう。
「ともあれ、これで一安心だな……後はリガス達と合流できれば……」
「驚いたな」
ジョーを回復させる私の背後から、一つの低く、くぐもった声が響く。
咄嗟に後ろを振り返った私の眼前に立つのは、焼け焦げ、赤茶けた鎧に身を纏う一人の騎士、ザッパローグだった。
「おや、生きていたのか、やるじゃないか」
「無論だ」
互いに緊張感の走る中、私が挑発的に言葉を掛けると、ザッパローグもそれに答える。
ドラゴンの炎に焦がされて、それでも生きているのは実際大したものだ。
とはいえ、見た印象の通り、もう体はボロボロの筈だ。戦える程の体力は残っていないだろう。
だが――
「……その鍵が、どういう物なのか、なるほど、理解させてもらった……やはり……それを貴様らに持たせておくわけにはいかぬ……!」
言うと、ザッパローグは恐らく残り少ないであろう魔力を練り上げ、かざした手の平に集中させていく。
どうするか?私は戦闘態勢に入ったザッパローグを前に、考えを巡らせる。
相手は満身創痍だが有能な魔導騎士、対して私は、そこそこ消耗しているが、天才美少女完璧神官だ。
ふむ、なるほど……
「であれば――勝てない理由が無いな!その気ならば来るといいさ、ザッパローグ!返り討ちにしてみせるとも!」
「その思考の飛び具合はどうかと思うが……まあ、私としては都合が良い……悪くは思うな!」
互いに向き合う形になった私に、ザッパローグは魔術を放つべく、腕を突き出し、指を鳴らそうと構えるが――
「ッ!?」
その時、横合いから二つの影がザッパローグ目掛けて飛びかかった。
ザッパローグが慌てて術を中断し、飛び退くと、目標を失った拳が空を切り、地を抉る。
「……遅かったか」
「手は出させないよ……カミラさんは、うちのパーティメンバーなんでね!」
飛びかかった影の一つ、リガスが爪を構え、そうザッパローグに宣言する。
もう一つの影はカリカだ。相も変わらず無言のまま、軽く地面を抉った拳をゆっくり持ち上げ、構える。
「はあ、間に合ったか……うわ、ジョー気絶してるじゃん!」
「か、カミラさん……ふへ……私にも回復もらえますか……?」
二人に続くようにして、背後からロフトとトゥーラも姿を現した。
ロフトの方は特に問題なさそうだが、トゥーラの方は足元をふらつかせながら、下痢でもしたかのように腹を抑えている。
大丈夫かこいつ。と、心配になりながらも私はトゥーラにヒールを唱えてやり、問いかける。
「よく来たな、トゥーラ、大丈夫だったか?」
「ふへぇ……わ、私はお腹が粘土になったくらいで大丈夫です……」
ちょっと何を言っているのかよく分からない。
下痢の比喩か何かだろうか、ともあれ、トゥーラはかなり消耗している様子で、私のヒールを受けながら体を横にして目を閉じている。
どっちが助けに来たのか分からないな、と、今度は傍らのロフトに目を向け、そちらに語り掛けた。
「しかし、ここまでの道にキングマタンゴがいた筈だが……奴はどうしたんだ?」
「それは門の裏側からカリカが腕突っ込んで縦に裂いてたぞ」
「なるほど、全てを筋力で解決しようとするのはどうかと思う」
ちらりとカリカに視線をやると、どこか自慢気な様子でガッツポーズをしているのが見えた。
相変わらず筋力に全振りしたような女だ。まあ門の内側から、ということは背後から攻めたことになるので、キングマタンゴも対処が取りづらかったという部分もあるのだろうが。
「さて、それで――どうする?ザッパローグさん、まだやりますか?」
と、カリカの隣で爪を構えるリガスが、眼前のザッパローグに問いかける。
おや、リガスはちょっと見てない間にどこか肝が据わったような感じがする。
私の見ていないところで何かがあったのか、経験値を積んだのかもしれない。
ふむ、良いぞ、天才神官の私のパーティにいるんだ、それに恥ずかしくない程の成長をしてくれ!
ガチャリ、と、爪を鳴らして構えるリガスに、ふう、と、溜息をこぼしながら、ザッパローグが答える。
「否、貴様らが来たということは、ダキアもカンナもやられたのだろう。加えて万全であればともかく、満身創痍の今の私に一対多の戦闘は厳しい。此度は逃げさせてもらうとしよう」
「そう簡単に逃がすと――」
堂々と逃げる、と宣言するザッパローグに、リガスが飛びかかろうとしたその時、ぶわっと風が巻き起こり、周囲の灰や煤が辺りを覆い隠した。
「わぶっ……!」
「さらばだ、鍵の少女、カミラよ。また会おう」
私が舞い散る灰に目を閉じ、息を止めている最中、ザッパローグは辺りにその言葉を響かせると――それからすぐ、風が止み、本人の姿も消えていた。
「……終わっ……たかぁ~……!」
「カミラさん!?」
虫もキノコも、魔族も消え去り、ドラゴンは静かに眠る迷宮二層、宝物塔の中庭にて――ようやく私達の護衛任務が終わったことを自覚すると、私はそのままバタリと体を横たえ、リガスが何か叫ぶ中、微睡に引きずり込まれるのであった。