パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
まるで海の中にいるかのような、暗く、深くまで沈んだ意識の中、あたしは昔の記憶を夢に見る。
夢で会うのはいつも同じ顔だ。
どこかの吸血鬼にまんまと騙され、あたしを産んだ馬鹿な母親。
魔族の血を引くあたしを恐れて蔑みながら、そのくせ自分達の方が上なんだぞと言わんばかりに、ニヤニヤと笑みを浮かべ、拳を振り上げる村の男達。
それから――そんなクソみたいな村に雷を落とす、大きな、漆黒の鎧の魔導騎士。
村を焼いた魔族――魔導騎士ザッパローグは、あたしの手を取り、連れて帰ると、そのまま住むところと食事を与えてくれた。
偶然見つけた魔族の子供を放っておけなかったのか、それとも単なる気まぐれなのか、師匠が何故そこまでしてくれたのかは分からない。
師匠は口数が多くない。
あたしに多くを語って聞かせたりはしないし、鎧に隠された素顔を見せてくれもしない。笑ってるところだって一度も見たことが無い。
けれども、あたしにとってはそれで十分だった。
師匠はあたしを蔑んだりしない。殴ったりもしないし、あたしの顔を見て泣いたりしない。
だから、そんな師匠だからこそ、あたしは――――
師匠がやることだったら、どんなことでも着いて行くって、そう決めた。
―――――――――――――――――――――――――――
「師匠……」
暗く沈んだ微睡から目覚め、ゆっくりと瞼を開く。
視界に入ったのは、青白く光り、ごつごつとした洞窟の天井だ。
何故ここに?師匠は?ダキア……は、どうでも良いけど、私はどうして気絶してたんだっけ?
と、目覚めたばかりの頭を働かせ、起こったことを思い出そうと目を閉じると、不意に洞窟内に甲高い声が響いた。
「い~~~や!私は放っておくべきだと思うね!魔族だぞ!?」
生意気で自信に満ちた明るい女の子の声……この声は聞き覚えがある。
カミラちゃんだ、師匠や魔王様の求める鍵を持った神官の少女……
どうして彼女がここに?と、身を起こそうとしたところで、自分の腕が後ろ手に縛られていることに気付く。
腕だけではなく、足も縄で縛られている。
察するに、気を失っているところをカミラちゃん達に発見されて、そのまま拘束されていたのだろう。
あたしとしたことが、迂闊だった。師匠に見られたら呆れられるかもしれないな。
等と思いながら、なんとか腹に力を入れて身を起こすと、そのまま身をよじって洞窟の壁にもたれかかる。
どうやら、ここは洞窟内の横穴のようだ。
狭い部屋がいくつか繋がったような構造の穴の一つで、カミラちゃんと仲間達が何やら話し合いをしているらしい。
「で、でも……こんなところに放っておいたら死んじゃいますよ……そ、それは流石にちょっと可哀想というか……リガスさんはどう思います?」
「うーん……俺も魔族を助けるのはどうかと思うけど……ただ見捨てていくのも後味が悪いっていうのも分かるよ」
「っは~!やれやれだ、甘ちゃんたちめ!そんな気構えで迷宮を生き残れると思ってるのか!?」
トゥーラちゃん、リガス君の声に続いてカミラちゃんの呆れたような声が洞窟に響く。
全くだ。甘いにも程がある。
思わずあたしも溜息を吐きながら、カミラちゃんの言葉に頷いた。
敵を見つけておいて殺さずに助けるなんて、あたしだったら多分しないね。
まあ、とはいえその甘ちゃん思考のお陰で、あたしも助かったみたいだけど……と、聞き耳を立てていると、カミラちゃんに僅かながらに反論するかのように、トゥーラちゃんがおずおずと口を開く。
「えと、その、同じ迷宮に潜ってるんですし……今の私達は敵である前に同じ冒険者ですよね……冒険者同士は助け合いが基本だってその……ギルドで……えへ……」
「それは……そうだがなぁ~……!」
トゥーラちゃんの言葉に、カミラちゃんが困った様子で唸りながら腕を組む。
冒険者ってそんなルールあったんだ。知らなかった。
あたし冒険者じゃないから知ったこっちゃないんだけどな。
ともあれ、連中がそういう意識でいてくれるのなら、あたしとしては大歓迎である。
油断した隙に寝首を掻いて鍵を奪い取る。
手足を縛った程度であたしの動きを封じたつもりかもしれないが――生憎、あたしは変化が得意な吸血鬼だ。
ほんの少し、精神を集中させて変化の魔術を唱えると、瞬く間にあたしの手足がどろりとした赤黒い血に変わり、するりと縄を抜け出す。
これで準備はOKだ。
後は連中が隙を見せたところで襲い掛かる。
3体1じゃ流石にちょっと厳しいかもしれないけど、最悪カミラちゃんだけ倒して鍵を奪い取って逃げれば――――
逃げ……れば……
そこまで思い至ったところで、ふと、あたしが気を失う前の状況について思い出す。
そうだ、確か――いや、いやいや、待って、ちょっと、駄目じゃない?
それだと、カミラちゃんから鍵を奪ったところでどうしようもないってか……え~~~~っと……うん……!?
ヤバイ、どうしよう。
あたしが考えを巡らしている一方、それに全く気付いた様子もなくカミラちゃんが会話を続ける声が辺りに響く。
「ま、あの魔族は置いておくとして、先に進むことを考えなくてはな、天才は常に一歩先を行かなければ」
「先って言うと、この先の魔物……ダゴンだったっけ?その話?」
「その通りだとも!さっきも言ったが、ダゴンのいる場所は洞窟の奥深く、というか出口だな。あのあたりは入口同様、水中だ。真っ当に戦ってはこちらが不利、というわけで、故に準備と作戦をしっかり練らないと――」
ダゴン、ああ、ダゴン、あいつか……あいつかぁ~……!
気絶する前の記憶を思い返す。
そうだ、確かにこの洞窟の奥深く……水中であの巨大な魚人と戦った。
あたしはそれでダメージを負ったのだ。
尤も、それだけなら良かったんだけど……今の状況は……いや、う~ん……!
考えれば考えるほど、あたし一人ではどうしようも出来なくないことに気付く。
すごく不本意だけど……こうなればもう……腹を括るしかないか……
あたしは吸った息をゆっくり、大きく吐き出すと、意を決して足を踏み出したのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「――面白い話してるじゃん」
私、こと天才神官カミラ様がリガス達にダゴンの脅威を語っていたところ、不意に洞窟内に聞きなれない声が響いた。
声の主は――言うまでもない、さっき洞窟内で倒れているのを見つけた魔族、カンナだ。
一体どうやったのか、手足を縛って転がしておいた筈が、いつの間にか縄を解いてごく自然に立っている。
「貴様、いつの間に!」
私がモーニングスターに手をかけながら立ち上がると、トゥーラとリガスも、慌てた様子で武器を手に立ち上がり、構える。
っは~!ったくもう、この二人は!判断が遅い!
だから放置するか殺しておこうと言ったんだ私は!凡人が天才の言葉を素直に聞かないからこうなる!
ともあれ、警戒しながら武器を構える私達を見たカンナは、しかし、それがどうしたと言わんばかりに薄く笑みを漏らし、ゆっくりと告げる。
「ふふん、嫌われたもんね……でも安心してよ、今はあんた達に手を出したりしないから」
「はっ!どうだかな!この私が魔族の言葉を易々と信じるほど愚かに見えるか!?」
ジョーならまだしも、この大天才である私がそうそう簡単に騙されたりはしないとも!
騙せると思っていたのなら、相当に間抜けだ!馬鹿魔族め!
と、睨みつけていると、カンナは余裕綽々、といった様子で言葉を返す。
「敵の魔族を殺さないで助けてる時点で、かなり愚かだと思うけど?」
「ふふん、全くだな……だがそれはトゥーラがやったことなのでノーカンだ!私の愚かポイントには加算されてない!」
「へぇぇっ!?カミラちゃん!!?」
敵ながら正論である、でも実際トゥーラがやったことだからな、私のせいじゃない!
私は間違ってない、私は天才のままだ!
トゥーラが何かを言いたげにこちらに視線をやるが、知ったことではない。
「言うねカミラちゃん、けど本当にあたしは今敵対するつもりは無いよ、3対1じゃ流石に厳しいし……それにカミラちゃん達、さっきダゴンの話してたでしょ?」
「……それがどうした?」
ダゴンの話を聞かれていたのか。
だが、私達が話し合っていたダゴン対策と、カンナが襲ってこない理由が繋がらない。
疑問に思っていると、それに気付いたのだろうか、カンナはゆっくりと目を閉じ、そして語り出す。
「ふふ……そのダゴンのいる出口のあたり……洞窟の壁が崩れて……通れなくなっちゃったんだよね……」
「……………………はぁぁぁ!!!??」
どこか申し訳なさそうにポツリと呟いたカンナの言葉の直後、思わず飛び出た私達の呆れた叫びが洞窟内部に反響するのだった。