パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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海底の吸血鬼

「ぶわっは!!」

 

「おや、おかえり」

 

 息を整えながらも水面から顔を上げて、洞窟の中を見回すと、のんびりと焚火の前に陣取るカミラがなんとはなしに口を開く。

 

「何がおかえりさ、ブッ殺すよクソ神官」

 

「はっ!この私の手足になって役に立てるんだ!むしろクソ魔族には感謝してほしいくらいだがね!」

 

 ざばり、と水を滴らせながら洞窟内へ上がるあたしに自慢げにそう語ると、カミラちゃんはそれで、と続ける。

 

「で、調査結果は?」

 

「ロープの範囲内には何も無かったよ、ルート探すならもうちょい遠出しなきゃね」

 

「で……でもロープはこれしか無いですし……」

 

 カミラちゃんのパーティメンバーとあたしは焚火を囲みながら、あたしの腰に括りつけられたロープを解く。

 ロープの範囲内で行けるところまでは探索した。が、持ち運び出来るロープで探れる範囲なんてタカが知れたもの。

 大した結果は得られなかったのだ。

 ということを言って聞かせると、困ったように頭を抱えるリガス君とトゥーラちゃん……と対照的に、相も変わらず偉そうに腕組みをするカミラちゃんが言い放つ。

 

「となれば命綱無しだな、よし、頑張って死にに行ってくれ魔族!」

 

「あんたさっきから喧嘩売ってんの!!?」

 

「はっ、馬鹿を言え!魔族如きに喧嘩を売る価値があると思うか?これは義務!そう、つまり卑劣でダメダメな物はより優れた天才!つまり私に従うべきだという事実!ふふん、さあ行け!テイムされた魔獣が如く!」

 

「あたしコイツ嫌い!!」

 

「慣れると可愛いもんですよ」

 

 堂々と胸を張り、自分の為に尽くせと言ってのけるカミラちゃんを刺して、色々と諦めたようにリガス君があたしに言う。

 いや慣れんわ。

 ともあれ、師匠に追いつく為にも、ここであたしが手をこまねいているわけにもいかない。

 尺だが、どのみちあたしが海に飛び込むしか無いのだろう。

 

「とはいえ、命綱無しはちょっとね……しゃーないなあ……」

 

 うんざりして溜息を吐きながらも、あたしは自分の人差し指に牙を突き立てる。

 と、指先から流れ出した血が糸のように細く伸び、先程のロープの先端に巻き付いた。

 

「はええ……血、血の魔術ですね……!はじめて見ました……!」

 

「ふふ~ん、でしょ?こればっかりは吸血鬼の専売特許だからね!まあ師匠からしたら他の魔術も覚えてほしいんだろうけど……」

 

 てかあたしももっと他の魔術覚えたいけど。

 こればっかりは向き不向きがあるので仕方ない。

 トゥーラちゃんのこと馬鹿に出来ないな。と、考えながら、指先から流れ出る血液をスルスルと長く伸ばしていく。

 

「何かあったらこれ引っ張るから、ちゃんと引き上げてよね」

 

「ふふん、任せておけ!こちとら天才だからな!」

 

 その天才が積極的に魔族殺しに来てるじゃん。

 と、思わないでもないが、喉まで出かかった言葉をぐっと堪えると、あたしはまた深い深い海の底目掛け飛び込むのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 あたかも星々が隠れた真夜中の如く、暗く、漆黒に染められた海の底。

 とはいえ、吸血鬼としてはむしろ望むところといった明るさだ。

 吸血鬼の持つ目は夜闇の僅かな光を捉え、ぼうっと歩く人間を静かに狩るのに適している。

 深海の闇も、あたしにとってはそこまで問題にはなり得ない。

 

「……てなことまで、分かっててあたしに行かせてんのかな、カミラちゃんは」

 

 ふと、そこまで思い至り、ポツリと独り言ちる。

 や、まあ、他の人間達じゃこうして血液を命綱に変質させるなんて出来ないし、灯もカミラちゃんのヒーリングトーチしか無いから、っていうのもあるんだろうけど。

 いずれにしても、この海中探索にかけてはあたしが最適ではあるのだ。

 まあ単純に面倒臭いのと魔族憎しで押し付けてきただけかもしれないが。

 

「ま、この状況で他の奴らにいられてもかえって――うわぉ!?」

 

 などと考え事をしながら泳いでいるあたしの眼前に、突如として上空……いや海上?から巨大な塊が降り注ぐ。

 すんでのところで躱して上から覗くと、塊の正体は巨大な岩石――否、魚か?

 体の半分近くが石化した巨大魚が口をぱくぱくと動かしながら、必死に尾鰭をばたつかせ、海底の砂を巻き上げていた。

 

「トゥーラちゃんか……えっぐいことするなあ……」

 

 石化魔術しか使えない、という話だったが、あのダキアをして一時的に完全石化される程の石化魔術の精度・出力だ。

 多少なりとも石化耐性があっても抵抗は難しいのだろう。

 いや、というか完全石化から多少なりとも回復してアレだったりするのだろうか?

 

「……やっぱあの3人をあたし一人で襲うのはキツいかも」

 

 と、思わずぞわりと背筋を震わせながら呟くと、その間にも巨大魚はなんとか、といった風に体を持ち上げ、地上でジャンプでもする時のように、海底を跳ね上がり、どこかへと去っていく。

 もしかしたら他にもああいった中途半端な石化をした海底モンスター達がいるのだろうか。

 いたとしたら――まあ石化しているから敵では無いだろうが、目の前で暴れられるのは少し困る。

 なにせあの巨大魚に辺りの砂を巻き上げられたことで視界が悪い。

 流石の吸血鬼と言えど、夜闇の暗さではなく砂埃や煙のようなものを見通すには苦労するのだ。明るさとは別の要素だから。

 ともかく、この砂が落ち着くまで待たないと――あたしがそう考え、海底に足を着けると、不意にこつん、と、冷たく、硬いものが足の裏にあるのを感じた。

 岩ではない。つるりとした表面は例えるなら槍の持ち手のような――つるりとした金属製の物体。

 

「まさか」

 

 あたしはゆっくりとしゃがんで、足元に沈むそれを持ち上げ、しげしげと眺める。

 物体の正体は金属製の杭だ。

 そこまで長くは無いが、岩盤に突き刺し、目印にするには丁度いい。

 そして、今までは砂で隠れていたのだろうが、改めて見ると杭の上部には目印だろう。

 わかりやすく、赤い派手な布が括りつけられている。

 恐らくはこれが先達の冒険者の目印、というやつなのだろう。

 見ると、あの魚が周囲の砂を巻き上げたおかげか、辺りにも、あたかも足跡の如く赤い布が海底に顔をのぞかせているのが見える。

 

「あとはこの目印の先に何かあれば良いんだけ……うわ、なにこれダッサ!」

 

 ひとまずカミラちゃん達に報告に戻るべきか、そう考えながら杭に括られた布を眺めて、思わずあたしは顔を顰める。

 

 布にはこれまた派手な金の糸で刺繍が施されていた。

 こんな探索用の杭にここまでする意味があるのか、本当に人間は愚かだ。

 しかも、何か重要な情報を刻んでいるのかと思ったら、全く意味の無い自己満足――

 

 【勇者参上!】

 

 そんな、呆れるほどにくだらない文言が、赤い布に刻まれていた。

 

 

 

 

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