パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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獣の戦士

「はぁ……くそ……ヒール!」

 

 ギチギチと体を締め付けるマンイーターの体内で必死に神聖力を引き出し、自身に初歩の回復術であるヒールをかける。

 どうやらこれは成功したようだ。

 消化液によって溶けかけた肌が瞬く間に治癒されていく。

 ホーリーハンマーは出せないのにヒールは出せる、何故だ?

 確かにホーリーハンマー……というより神聖術による攻撃呪文はいずれも中級以上の術だ。

 当然、ごくごく初歩的な術であるヒールよりは難易度も高く、消費する神聖力も多い。

 が、この私、カシミール・カミンスキ……今はカミラだが……とにかく私は天才的な高位神官だ。

 当然ながら殆どの神聖術は会得しているし、ホーリーハンマー程度であれば日に十発程度は余裕で撃てた筈だ。

 だというのに、今の私にはこの程度のヒールしか出来ない、いや、ヒールもあと何発撃てるか……

 それが尽きたらどうなるのか……

 

 嫌な想像に、つい弱気になる私だったが、瞬間、世界がぐるりとひっくり返った。

 ぐりん、ぐりん、と縦横に激しく揺れるマンイーターの体内で、肌に触れる肉壁も小刻みにびくんと震えている。

 マンイーターが激しく動いている?何があった!?

 状況を把握しようと努める私を無視するかのようにぐりぐりと動くマンイーターだったが、しばしの時間の後、私を包む肉壁の締め付けが弱まったかと思うと、そのままずるりと体液と共に私の体を吐き出した。

 

「ぐはっ!はぁ……はっ……で……出られた!?出られたのか!?はは!やった!外だ!」

 

 マンイーターの体液でぐしょりと濡れた体に、外気の新鮮な空気が染み渡る。

 せっかく買った装備はボロボロになってしまったが、まあ良かろう!今は無事に外に出られたことを喜ぼう!

 それにしても、マンイーターはどうして私を吐き出したのだろう?

 それを確認すべく後ろを振り向くと、そこには触手をいくつも断ち切られ、幹も根も、ずたずたに切り裂かれたマンイーターが倒れ伏していた。

 そして、そのマンイーターの体の上で、俯く影が一人――

 

「リガス!」

 

 背を向けていて見えづらいが、あれは間違いない、戦士リガスだ。

 なるほどな!私を救うべく決死の覚悟でマンイーターを打ち倒したということか!

 どうやら私の予想よりもよほど強い戦士だったらしい。

 いや、むしろ予想通り、奴を見出した私の目が見事だった、と言うべきか!流石だな私は!

 と、自身の優秀さに打ち震えながら俯くリガスへ声を掛ける。

 

「ふふん、よくやったぞリガス!この私をこんなところで失っては冒険者、いや!人類の損失だからな!大いに褒めてや――」

 

「ぐるる……」

 

「……ぐるる?」

 

 私の讃辞にまるで獣の如き唸りを上げて返すリガスに、不審に思っていると、それまで俯いていたリガスがゆらりと立ちあがり、こちらを振り向いた。

 改めて見たリガス――恐らく、リガスであろう姿を見て私はぎょっとした。

 若々しく、端正で人の好さげだった顔立ちには今、魔物の如き理性無き瞳が赤く爛々と輝き、口元には肉食動物を連想させる鋭い牙がずらりと並んでいる。

 体も皮鎧に包まれていてもわかるほどに一回り大きく膨張し、露出した腕には硬く黒い剛毛がびっしりと生え、指の爪はネコ科動物の如く鋭く伸びていた。

 

「貴様その姿、まさか――狂戦士か!」

 

「がああああああ!!」

 

 理性を失った狂戦士と化したリガスが、雄叫びを上げて襲い掛かるのを間一髪で躱す。

 

 狂戦士・バーサーカー、自身の生命の危機に反応して体を組み替え、忘我状態となり敵味方構わずに破壊の限りを尽くす獣の如き戦士だ。

 鍛錬で培われる能力ではなく、神々より呪いを受けて生まれるか、禁術と言うべき外法によって得られる特殊な能力。

 リガスはこの能力を持っていたのか。

 恐らくはマンイーターとの戦闘で手傷を追い、この状況になったのだろう。

 運が悪いからどうとかも言っていたが――ソロで冒険者をやっていた本当の理由もこれか!

 ピンチの時限定とはいえ、敵味方問わず暴れ回る厄介な戦士だなどと他者に名乗れるわけもなく、隠して組んだパーティの相手を傷つけたらそれこそ問題だ!

 というか現に今、私がその状況なのだからな!

 

「ぐるぁぁ!」

 

 慌ててモーニングスターを振り回して抵抗するが、今の私は攻撃的な神聖術もロクに使えず、装備品もボロボロの状況だ。流石に分が悪い。

 どうする?逃げるか?だが相手は野獣の如き身体能力の戦士だ。

 奴の素早さを前に逃げ切ることが出来るか!?

 などと必死に考える私を他所に、リガスは凶悪な爪で私を追い詰めるべく攻撃を繰り返す。

 そして――――

 

「がああっ!」

 

「しまっ――うがっ!」

 

 ドシン、と重く響く音と共に、私の体が猛烈な力で押さえつけられる。

 

「くそっ……待て待て待て!リガス!やめないか!私だぞ!カミラだ!パーティの仲間だろう!」

 

「ぐる……カ……ミ……」

 

「そうだ、カミラだ!わかるか!?」 

 

 せめてもの望みを懸けて、必死に訴えかける。

 狂戦士とはいえ理性が完全に消え失せたわけでは無い。

 狂戦士化はあくまでも一時的なピンチを脱する為の身体強化の一種!戦闘が終われば元の人格に戻るのが常……の筈だ!

 マンイーターが倒れた今、その元の人格に呼びかけさえすれば……

 

「元に戻ってくれ、リガス、私はお前のそんな姿を見たくない……」

 

「ウウ……カミ……ラ……」

 

「うんうん、そう、そうだ!天才神官カミラ様だ!わかったら――」

 

「オンナノ……ニオイ……イイ、ニオイ……」

 

「は?」

 

 言うと、リガスは自身の鼻先を私の顔に近づけ――舐めてきた。

 舐めてきた!こいつ!クソッ!正気か!?いや狂化してるから正気なわけはないな!?

 だとしても、理性を失っているとはいえ何故この私が男に舐められなければならない!物理的な意味で!

 いやだが、なんだ?女?女の臭いと言ったのか?なんでこんな……いや?待てよ?狂戦士化は理性を失い、獣の如き本能で暴れ回るように……いや、待て待て、まさか――

 

「こいつ――私に欲情しているのか!?」

 

 信じられない、というように私が叫ぶと、リガスはそのままクンクン、と私の脇に鼻を押し当てる。

 

「ひっ……ちょ……」

 

 そしてそのまま、ただでさえボロボロになった装備を乱暴に引き裂きくと、私の胸を露に――

 いやいや、いやいやいや、いやいやいや!

 待て待て!私は男だぞ!いや今の体は美少女だが!馬鹿な!?こいつ本当に私に興奮しているのか!?

 

「ふざけっ……リガス!やめないか!私を誰だと思ってる!おい!天才神官様だぞ!この私にこんなことをしてどうなるか――ひあっ!?」

 

 必死に抵抗しようと手足を動かす私など意に返さぬように、リガスは力づくで私の足を掴んで大きく開く。

 駄目だ、駄目だ!くそ、信じられん!本気かコイツ!理性を失っているとはいえ限度があるだろう!なんだ!?見た目が女なら何でもいいのか!?クソ化物が!

 考えろ、考えろ!こんな化け物に女として犯されるなど死んでもゴメンだ!

 狂戦士を元に戻すのは、状態異常回復の術でいけるか……いや、だが今の私に使えるのか!?

 今の私に確実に使える術はヒールくらいで……ああ駄目だ、迷っていたら間に合わん!

 くそ、待て待て!ええと、狂戦士はピンチになる……つまり手傷を追うと狂化するのだから!であれば!

 

「ああもう!一か八かだ!ヒール!」

 

「ぐるっ……」

 

 混乱する頭で、どうにかこうにかヒール――初級の回復術をリガスに向けて放つ。

 ダメージを負うと狂化するのであれば、傷を回復をすれば狂化も治る筈だ!

 もしこれでダメなら――ああくそ、考えたくもない!ちくしょう!神よ!私の祈りを聞き届けたまえ!

 ヒールに怯んだのか、リガスの動きが止まり、しばしの静寂が訪れる中――突如としてリガスの体が私の上にのしかかった。

 

「うわっ!?くそっ!?失敗か!?ああもう、やめろ!この私は――――あれ?」

 

 慌てて抵抗すべくリガスの体を押し返すと、すぐに気付いた。

 筋肉で膨張していたリガスの体は瞬く間に萎み、腕に生えそろった剛毛はパラパラと抜け落ち、元の端正な顔立ちのまま、本人は目を閉じ、穏やかな寝息を立てている。

 ……一か八かではあったが、どうにか助かったようだ。

 それにしても――

 

「……こんなことなら、女の子なんかにならなきゃ良かった」

 

 ほう、と、安心混じりの一際大きな溜息をつくと、ダンジョンの冷たい地面に寝ころんだまま、私は心底からそう思うのであった。

 

 

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