パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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亀裂と声

 馬っっっ鹿じゃないの!!!??

 

 大声でそう叫んでやりたい衝動を抑えつつも、あたしは両手にカミラちゃんとトゥーラちゃんの手を繋いだまま、急な光に目をくらましているマーマン達の間をするりと泳ぐ。

 そりゃまあ、あたしはこれでも立派な吸血鬼だし、ましてやこんな暗闇だったら少しくらい肌が焼けてもまあすぐ回復するけどさあ!

 あたしの視界を頼りにしておいて、あたしを巻き込むの前提の技ぶっぱなすのってどういう気なの!?この神官様は!魔族嫌いなの!?嫌いだよね!神官だもんね!!クソ!!

 等々、色々と罵ってやりたいのは山々なのだが、折角マーマンの視界を塞いだのに声を出しては元の木阿弥だ。

 いささか癪だが罵詈雑言は後に取っておくとしよう。

 まあ言ったところで『普通の奴がやらないことをやるからこそ天才なのさ!』なんて開き直られそうな気もするが。

 いやもう、本当に腹立つなこいつ。後で見てろマジで。

 などと考えながら、海底神殿から脱出すべく神殿の入口、倒れた柱や瓦礫の隙間へと向かって泳ぐ私だったが――

 

「■■■■―――!!!」

 

 けたたましい咆哮と共に、マーマン達の背後に控えていたダゴンが暴れ出す。

 逃げようとしていることがバレたのか、いや、だとしてもまだ光に目がくらんだままの筈、あたし達の姿は見えていない筈だ。

 目が見えないのなら、あたし達を直接狙うことは出来ないだろう。

 そう思ったのも束の間、咆哮を上げたダゴンはそのまま腕を大きく振り上げ、神殿の柱へ叩き付けた。

 

「ばっ……!」

 

 びしり、と亀裂の入る音が響き、そのまま柱が崩れると、今まさに目指していた神殿の入口に崩れた柱と瓦礫の山が降り注ぐ。

 

 ――逃げ道を塞がれた。

 まずい。

 瓦礫と巻き上げられた海底の砂に覆われて、入口は最早あたしにさえも見通せない状態になってしまった。

 注意深く探せば瓦礫や柱の隙間を伝って外に出ることも可能化もしれない。

 だが、そんなことをしている間にもマーマンやダゴンの視界は回復し、瞬く間にまた周囲を取り囲まれるだろう。

 そうなれば今度こそ逃げ場はない。

 

 あたし達を逃がさないためにそこまでやるあたり、もしかしたらあのダゴンには知性があるのかもしれない。

 思えば、右腕を石化されながらもそれを利用して戦闘を続けるのも、状況を理解して手下達を呼び集めるのも、知性あっての行動だったのだろう。

 だが、それが分かったところでどうする?

 相手の強さがより顕著になっただけじゃないのか?

 

 逃げ道を塞がれたあたしは、慌てて辺りを見回す。

 他にどこか逃げられるところは無いか、神殿の奥は?駄目だ、行くまでに時間がかかりすぎる。

 ひとまず岩の影にでも隠れるか、駄目だ。さっきダゴンの知性を知ったばかりだろう。すぐに見つかる。

 どうすればいい、どうすれば――

 

「……よ」

 

 思考を巡らすあたしの耳に、不意に澄んだ風のような声が響く。

 暗い海底に似つかわしくないその声に驚く間もなく、声は再び、より大きく、はっきりと告げる。

 

「……こっちだよ!」

 

 不思議な声に、思わず聞こえた方向へと振り向くと、神殿の壁の一部に細かい亀裂が走っていることに気付く。

 先程のダゴンの攻撃でついたのか、あるいは以前からあったのか、ともかく人間一人程度だったら通れそうな隙間だ。

 あるいは、単に身を隠すだけの亀裂にしかならないか、別の場所へ通じていたとして、行った先にまたマーマンがいる可能性も――

 そんな可能性が頭に浮かびつつも、他に手は無いことに気付いたあたしは、意を決して亀裂へと泳ぎ出すのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「こっち!」

 

 そう言って手を引くカンナに従って泳ぐと、私達は神殿の壁へと泳ぎ着く。

 

「な~にをやってるんだカンナ!壁じゃないか!?私だって流石にこれが壁だということくらいはわかるぞ!吸血鬼のくせに暗闇すら見通せないのか!」

 

「うっせぇ馬鹿!ほらそこの亀裂!流石に見えるでしょ!入るよ!」

 

「わっ……は、はい……!」

 

 言うと、カンナは暗闇の中、ぽっかりと口を開ける隙間を指差すと、すぐさまそこの隙間に入り込み、気絶したままのリガスを放り込んだ後にトゥーラの体を引き上げた。

 

「奥はどうなってる!?」

 

 急がないとマーマン達が視力を取り戻すかもしれない。

 とはいえ、こういう場面で私が先に進むのも良くないだろう。

 進んだ先に更に凶悪な魔物やトラップが無いとも限らない。

 こういうのは斥候に任せておいて、手柄となったら先頭に立つのが一番なのだ。私は天才だからそれを知っている。

 

「奥は……マーマン達はいない!それに水上に上がれそうな感じ――ちょっと待って、リガス引っ張るから!」

 

「わ、私も押します!」

 

 言うと、亀裂の間を縫うようにトゥーラが進み、気絶したままのリガスの体を押し出す。

 私も流石に手伝ってやりたいのは山々だが、如何せん、亀裂は人間一人が通るのが精一杯といったところだろう。

 今は後方を警戒しながら、さっさとトゥーラがそのデカい尻を進ませてくれるのを祈る他ない。

 と、警戒していると、再び、轟音が耳朶に届く。

 

「■■■■―――!!!」

 

 ダゴンの咆哮と共に、重苦しい打撃音が辺りに響く。

 さっきもこの咆哮と共に何かを破壊していたようだが、私達が逃げようとしているのがバレたのか、あるいは単に威嚇なのか。

 いずれにせよ、ヒーリングトーチを消してしまった今の私には相手の細かい様子を窺うことは出来ない。

 さっさと逃げたいところだが――

 

「っと……抜けました!カミラちゃんも、こっちに……」

 

「言われずとも、だ!こんなところ今すぐ――」

 

 亀裂を抜けたのだろう。

 トゥーラの声が背後から届き、私もそれに応えて亀裂に体を潜り込ませようとした正にその時――

 

「■■■■■■――――!!!」

 

 再度の轟音と衝撃がびりびりと海中に伝わり、ぴしり、と、眼前の壁にひびが入る音がした。

 

「ばっ……!」

 

 まずい。

 そう察知した私が慌てて亀裂から体を抜き出すと、すぐさま先程までトゥーラ達が通っていた亀裂がぼろぼろと崩れだす。

 

「いや、いやいやいや、馬鹿な、待て待て、私は天才だぞ?運だって良い、それなのにそんな――」

 

 進むべき道を見失い、呆然と海中に漂う私が他の道は無いか、隠れるところは無いか、と、辺りに目を向けるが――

 暗闇の中、ぎらぎらと緑色に光るいくつもの瞳が私をすぐそばでじっと見つめていた。

 

 

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