パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
「……ってわけで第四層まで行ったんだけどさあ!そっからさあ帰るか!ってとこで死んじゃったんだよね~!」
勇者シヴ、そう名乗り、あたし達の眼前に姿を現した少女の霊は、薄暗い迷宮にあって場違いな程にあっけらかんとした口調でそう語る。
「いや~、志半ばで、ってやつだよね!冒険者ならこういうこともあるか~と思うけどさ、まあそれはそれ、やっぱ死ぬほど痛かったよね!まあ実際に死んでるんだけどさ!」
「う……うっぜぇ!」
思わずあたしがそう呟くと、シヴはどこか恥ずかしそうに頭を掻く仕草をしてへへっと笑う。
「へへっ、よく言われる!サンキュー!」
「褒めてないから……じゃなくて!」
あたしはついつい相手のペースに乗せられかけていることに気付くと、色々と言いたいことを振り払うように頭を軽く振り、すう、と一つ息を吸い込み、眼前の勇者に問いかける。
「あんたに聞きたいことは沢山ある。何故あたし達を助けてくれたのか?何故勇者が幽霊になっているのか?」
勇者と言えばかつて神々の使者として魔王様に敵対し、地上を人間の手に取り戻した英雄とされている。
尤も、それは原初の勇者のみであって現在の勇者はもっぱらその活躍や功績から与えられる称号という話だが……いずれにせよ、相応の力を持ち、善に属する実力者である筈だ。
そんな奴が何故こんなところで幽霊になっているのか――あたしはもう一度、勇者シヴの目をきっと見据えると、シヴはその視線に応えるようにふふんと軽く笑みを浮かべ、口を開く。
「良いね、じゃあ後ろから順に答えようか、どうして僕が幽霊になっているのか!それはまあ、死んだからだね!以上!」
「シンプルすぎない?」
「それ以上に言えること無いからね、実を言うと僕も今さっき目覚めたばかりだし!」
「ふむ……」
この世界において、死者が幽霊――アンデッドとして蘇ること自体は無くはない。
レイスやスケルトンといったアンデッドは魔力の濃い場所で死んだ遺体や魂が変質したものであったり、あるいは力のある魔術師が遺体を利用して作り出すものだ。
が、こうして善良なゴーストとして蘇るパターン、ましてやこんなに魔力に満ちた迷宮で、というのはそう無いだろう。
あるいはこれが勇者としての神の祝福のようなものなのかもしれないが――
「なんて言うかこう、閉じ込められてる感じだったかな~、目が覚める前ね、どこにも行けないで迷宮に閉じ込められてる感じというかさ!ひょっとしてアンデッド一歩手前だったかもね!」
「…………迷宮に閉じ込められる……ですか……」
と、シヴの言葉に顎に手を当てて考え込んでいたあたしの背後で、それまでうずくまっていたトゥーラが立ち上がり、ぼそりと呟いていた。
「トゥーラ、何かわかる?」
「あ、えと……わかりませんけど……私の先生は魔力とは魂の力なのではないか、と定義していました」
魔術師としての好奇心か、あるいはシヴの快活な雰囲気にあてられたのか、少し立ち直った様子のトゥーラが、考え込むように俯きながら、杖をコンコン、と地面に突き当てる。
「この迷宮には魔力が満ちています。それが魂の力だとしたら……ええと……迷宮で死んだ冒険者の魂を捕まえて離さず、迷宮の魔力として循環させているというか……」
「面白い考えだね!それでそれで!?」
「あっ……えと……それで魔力……魂の力を何かしらの為に使っている……?単純に迷宮維持の為かもですけど……ううん……いずれにせよ、それでどうするかまでは……」
「ふーん、魔術師的にはちょっと気になる話だけど、まあ、今考えてもなって話か」
「すみません……」
あたしの言葉にトゥーラがまた、しゅんとしたように頭を下げた。
う、別に文句言おうと思ったわけじゃないんだけど……ちょっぴり申し訳なさを覚えたあたしが慌ててトゥーラを励まそうとすると、その前にふむ、と、何か得心がいったような様子のシヴがまた話し出す。
「いやいや、興味深い話だと思う!となると、君達が持っていた何かが僕の魂を迷宮の魔力から外してくれた、ということかもしれないしね!」
「あたし達が持っていた何か?」
シヴの言葉に、はて、と、トゥーラと顔を見合わせるあたし達だったが、シヴはそんなことはお構いなしに語り続ける。
「正直な話、僕は別に君達を助けようとしたつもりじゃないんだよね。ただ君達が持ってた何かが光って見えたから、それにずっと呼びかけてただけで――――あれ?」
話している最中、シヴが何かに気付いたように、あたし達をじっと見つめると、それから何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回し始めた。
「おっかしいなあ、何かこう、キラキラしたやつが近くにあったと思うんだけど……君達、この迷宮でなんかこう、すごいアイテム~!って感じのやつ持ってなかった?」
「すごいアイテム……あっ!」
鍵!
元はと言えばあたしはそれを探しに来たんだった。
てかまあ、本当はカミラちゃんから奪い取るつもりだったんだけど、如何せんあたし一人じゃどうしようも出来ない現在の状況ですっかり頭から抜け落ちていた。
アレもカミラちゃんと一緒にダゴンとマーマン達に奪われてしまったのだろう。
なんなら一緒にダゴンの腹の中かもしれない。
カミラちゃんがいなくなる分にはあたし的にはまあ別にって感じだけれど、鍵の場所がわからなくなるのはとても困る。
新たに生まれた問題に頭を悩ませていると、きょろきょろと辺りを見回していたシヴが神殿の床の一部を見て何かに気付いたようにまた口を開く。
「あっ、なんだ!あっちにあるのか!」
「あっち?」
シヴの言葉に、トゥーラが怪訝そうな表情で視線の先を見つめる。
そこにあるのは神殿の朽ち果てた床、暗い石くれだけだ。
今一つ理解が出来ない、といった様子であたしの方を振り向くトゥーラと視線を交わし、互いに困ったように首を振ると、それを見たシヴが少し驚いた様子で問いかける。
「えっ、あれだって!見えない?こう……壁の向こう側……?なんかとにかくボンヤリ光ってる感じが……ええい!ちょっと見てくる!」
「あっ!ちょっ」
言うが早いか、シヴはするりと神殿の壁をすり抜けてどこかへ向かってしまった。
そうか、魂だけの存在である霊であれば壁や床なんて関係ないのか。
あるいは視覚ではない何か、霊としての力みたいなもので物を見ているのかもしれない。
にしても見つけた途端に飛び出すあたり、かなりの行動力だ。生前はそれが原因で死んだんじゃないか、と、思いつつ、帰りを待つ間、先程シヴの言っていたことに思考を巡らす。
シヴが言う光が迷宮の鍵……あたしや師匠、ひいては魔王様が求めるあの首飾りだとして、何故シヴがそれの位置を分かるのか。
あるいは迷宮で死んだ者として、迷宮が生み出したであろう鍵と何かしらの繋がりがあるのかもしれない。
いずれにせよ、重要なのはシヴが、鍵の位置を察知できるということだ。
戻ってきたシヴに問いただせば、鍵がどこにあるのかは分かる。
本来の持ち主であるカミラちゃんがあの状況から無事だとは思わないし、トゥーラちゃんに止められても石化のタネさえ分かっていれば対処は出来る。
後はリガス君だけど……と、あたしは部屋の隅でうずくまるリガス君に目をやる。
先程までのシヴとの会話の最中も、ずっと俯いてぴくりとも動かないままだ。
カミラちゃんを失ったことが相当に堪えているのだろう。あるいはもう死んでいるのでは、というほどに生気を感じられない。
――であれば、問題ないかな。
シヴから鍵の場所を聞き出して、回収する。
ついでに第四層へ向かう道も見つけてもらえたら良いんだけど……そうすれば後はリガス君やトゥーラちゃんと一緒にいる必要も無い。
仮に二人が鍵を取り戻そうとしてきたとしても、今のこの二人相手であれば十分に対処可能だろう。
そうしたら――
「ただいま!!」
「うわっ!」
考えがまとまりかけた瞬間、シヴが神殿の床からにゅっと顔を覗かせる。
そのままぽんと床から抜け出したシヴは、あたしが何か言おうするよりも前に、持ち前の明るい声を室内に響かせる。
「やー!あったよ!あった!あの首飾り――あっちの女の子の方が持ってたんだね!」
――あっちの女の子。
誰のことか、などと聞くまでも無いだろう。
あたしはごくり、と唾を飲み込むと、問いかける。
「女の子って……」
「いやいや、可愛い子だったよ!髪の毛サラサラでちょっと生意気そうで――」
更に続けようとするシヴの言葉を遮るかのように、突如として暗い室内にがしゃん、と金属のぶつかり合う大きな音が響く。
音のした方に目をやると、そこでは先程までうずくまっていたリガス君が立ち上がり、大きく息を吐き出すと、ゆっくりと、力強い声で問いかける。
「シヴさん、その女の子、まだ生きてた?」
「そりゃそうでしょ~!死んでる子に可愛いとか言わないよ僕!まあ僕は死んでても可愛いんだけど!」
「……マーマン達はいましたか?」
「あ、いたいた!その子も何だろ、マーマンに捕まってた……かな?」
「なら」
「ひへ……決まりですね……」
リガス君とトゥーラちゃんは互いに視線を交わすと、短く、力強く、言葉を放つ。
「今度こそ、俺達でカミラさんを助けに行こう」
そう言うリガス君と、頷くトゥーラちゃんの瞳は、先程までうずくまっていたとは思えない程に熱く、ギラギラと輝いていた。