パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
迷宮第三層・淵の海、その最深部にあたる海底神殿
ぴちゃり、ぴちゃり、と、どこか寂し気な水音だけが響く湿った暗闇の中にあって、その場に似つかわしくない軽快で素晴らしい美少女ボイスが静寂を打ち破る。
「はーっはっはっは!!さあ貴様ら!この私をもっと褒め称えるがいい!」
「■■■■―――!!!」
そう、私だ!天才神官カミラちゃん!
リガスらを逃がした後、ダゴンとマーマンに連れ去られた私は、神殿内部の広間――恐らくは何らかの儀式が執り行われていた祭祀場なのだろう。その中心部へ連れてこられた。
当然ではあるが、この神殿は私の所属するギアナ神のものとは違う。古代の異教、蛮族の信じる神のものだ。
と、なれば私をこの神か何かの生贄にでもするつもりかと震えたものだが、結果は意外なものだった。
奴らは祭壇に立った私を崇め始めたのである!
「■■■■――!」
「■■――■■■――!」
「はははは、そう推すな推すな!無論、この美少女天才アイドルカミラちゃんを目の前にして興奮するのは分かるがな!は~!魔物さえ私を崇めたくなる罪……!やはり私!!」
周囲に群がるマーマン達が何を言っているのかは分からないが、皆、一様に跪き、手を合わせたまま、私を見上げて懇願するように声を発していた。
「ふむ、とはいえ――どうしたものかな」
頭を下げるマーマン達を尻目に、さて、と、私は顎に手を当て、真面目に思考を巡らせる。
連中が何を言っているかは不明だが、少なくとも私に危害を加えるつもりは無いらしい。
が、流石に言う事を聞いてくれるとまでは思えない。
そもそも、この祭祀場に連れてこられるまで私も何も抵抗しなかったわけではない。
離せ!やめろ!私なんかより他の奴らの方が美味しいぞ!とばかしに叫んで抵抗したのだ。
が、連中がそれを聞き届けることも無く、私は有無を言わさずにここまで連れてこられてしまった。
仮にリガス達と合流しようとしても、奴らが手を出してこないのは恐らく私だけだろう。
先の戦いでリガスはこっぴどくやられていたし、カンナもトゥーラもマーマン達から積極的に狙われていたように思う。
「うーむ、どうしたものかな……」
そう考えた時、不意に第二層でのドラゴンとの戦闘が頭を過ぎる。
そういえば、あの時はこの首飾りから出てきた手がドラゴンを大人しくさせたのだった。
ああいうことがまた起きれば良いのだが……そう考えながら、私の首元にぶら下がる首飾りをチャラリと揺らすと同時、周囲からワッと歓声が上がった。
「■■――!!
「■■■!!!」
「……まさかとは思うが」
チャラリ、私はまた首飾りを掴み、今度はマーマン達によく見えるように鎖を伸ばす。
と、やはりと言うべきか、周囲から先程以上の歓声が沸き上がり、マーマン達がまるで祈りを捧げるかのように手を合わせ、首を深々と下げている。
なるほどな。
「私を推してるわけじゃないんかい!!!」
思わず首飾りを引き千切りたい衝動に駆られる、引っ張るが、残念ながらぐいっと鎖が私の首に食い込むだけで終わった。
呪われているので外せない。
くそっ、腹立つ。
いやまあ、考えてみればドラゴンも私ではなくこの首飾りの力に跪いたように思えたし、当然と言えば当然。
恐らくはこの首飾り自体に、迷宮の魔物に対する何らかの効果等があるのだろう。
だが、だからこそ不満だ。
それだけの力があるのならば猶更、私にもっと利益があってもいい筈では無いだろうか。
「せめて、こいつらの言葉が理解できるようになるくらいはしてくれても良いだろうに」
はあ、と溜息を吐き出しながらそう呟いた瞬間、突如として首飾りが僅かな熱を帯びるのを感じた。
「なんっ……!?」
瞬間、戸惑う間もなく、首飾りが強烈な光を発すると、マーマン達が今までにない程に湧き上がる音――いや、声が私の周囲に轟く。
「オ■■オ■――ア■コ■■ハ!!」
「■カリ!ヒ■■ガ!」
「ファ■サ!!■ァン■!!ア■■ト!!!」
断片的に――だが、所々しっかりと、マーマン達の声が聞こえる。理解できる。
最初、断片的だったそれらの声は徐々に、明確な言葉として私の耳朶に届くようになった。
「これは――また、この首飾りが……!」
首飾りに目を落とすと、先程までの光が嘘のように、古めかしく、鈍く光を反射するのみである。
これが何かをしているのは間違い無いだろうが――いや、まさか――
思考を巡らせる中、突如として神殿を揺るがすような、大きな振動音が鳴り響く。
「……ヤ……イア……」
「ダゴン……!」
ずしん、と、大きな足音を響かせて祭祀場に姿を現したのは魚巨人――ダゴンだ。
やはり、というべきか、こいつの言葉も理解できそうだが……
薄暗い神殿の中、暗く、感情の見えない瞳で、じっと私を見つめていたダゴンだったが、しばらくそうしていたかと思うと――あたかも騎士が主君に対してそうするかのように、胸に手を押し当て、深々と頭を下げた。
「んっ……はい!?」
思わず固唾を飲む私に、ダゴンは先程戦った印象とはまるで違う、丁寧な口調で語り掛ける。
「ああ……ようやく……長年頭にかかっていた靄が晴れたような心地です……」
マーマン達と比べてより流暢に、はっきりとした言葉でそう語ると、ダゴンは下げていた頭を再び持ち上げ、私をじっと見つめながらまた口を開く。
「お待ちしておりました、我らが女王」
「……へい?」
女王。
その言葉に付き従うように、それまでバラバラに私を称えていたマーマン達が、敬礼のような動作を取る。
一方、私は予想外の展開に、思わず慌てて眼前に跪くダゴンに問いかけた。
「待て待て、待て!女王とは何だ!勝手に納得したようだが私は――」
「ああ、ああ、私としたことが、申し訳ありませぬ。女王には……このような神殿は相応しくありますまい!ああ!やはり、やはり!」
「いや、言葉が通じるようになった意味……うわぁ!」
「ああ、ああ、失礼いたします。我が下賤な手で触れることをお許しくだされ!」
折角言葉が通じるようになった筈――なのに、くそっ!
こいつ私の話を聞きやしない!やっぱり魔物は駄目だ!
わけのわからないことを言いながら勝手に納得した様子のダゴンは、有無を言わさず私をその巨大な手でがしり、と掴むと、巨体を引きずり、祭祀場の奥へ、奥へと進んでいく。
「くそっ……離しっ……ええいもう!どこに連れて行くつもりだ!」
「ああ、決まっています、ああ女王が、王の番が現れたのです、戻ってきたのです!であれば、目指すべきところはただ一つ!」
言いながら、祭祀場の奥――巨大な扉の前に行きついたダゴンはゆっくりと、私を掴んでいない方の手で扉を押し開く。
「行きましょう、我らと、迷宮の最奥――白冠都市へ!」
その言葉と共に、ダゴンと私の体は、眩く、白く輝く光の中へと呑み込まれていったのだった。