パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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輝く城と生魚

 迷宮第四層・白冠都市

 

 白く清潔で、規則正しく並ぶ美しい建造物が立ち並ぶその都市から上空を見上げると、迷宮内部の地下深くとは思えないような、どこまでも続くかに思えるような白い輝きが続いている。

 実際のところ、どこまでも続いているというわけではなく、半球状の結界のようなものが都市をすっぽり囲っているようで、俺達もその結界の間に出来た隙間のようなところから侵入したわけだが、いずれにせよ神秘的な光景だ。

 天井から視線を降ろすと、白く輝く街の中心部、一際大きく、荘厳に佇む、やはり純白の城が視界に入る。

 他の建造物に比べて遥かに複雑な装飾の施されたその城は、しかし、荘厳さに反した清廉な神殿の如き雰囲気と、どこか物悲しくなるような、そんな静かな印象を受ける城だった。

 

 いずれにせよ、あれが俺達の当面の目的地だ。

 この迷宮第四層の中心部に立つあの城にこそ、この迷宮の宝、あるいは次の階層に続く何かがあるに違いない。

 俺は改めて城を眺めながら、現在地から城までの距離を測ると、すぐ傍の純白の建物へと足を踏み入れる。

 

「……!」

 

「よお、ロフト、どんな感じだった?」

 

 建物へ入ると、野営――まあ室内なのでそう言うのもおかしいような気もするが、ともかく休息の準備を整えていたのだろう。

 荷物を床に広げて干し肉に齧りつきながら、パーティーメンバーであるジョーとカリカが出迎えてくれた。

 

「あんま目に見えるところに敵はいなさそうだな。しばらくは安心しても良いと思う」

 

「よっしゃ、隠れて進んできた甲斐があったな!」

 

 俺が報告をすると、ジョーは嬉しそうにニヤリと笑い、手にしていた干し肉を噛み千切った。

 迷宮第四層の魔物は手強い。

 俺達が第四層に足を踏み入れるのはこれで二回目だが、なにせ一回目は早々に強力な魔物複数匹に出くわして、結局あまり探索できずに撤退する羽目になった。

 第二層のスケルトンやマタンゴのように数の多い敵がいないのが幸いだが、代わりに、と言うべきか、一体一体の魔物がすこぶる強いのだ。

 まあ、それを言ったら第三層のダゴンも相当……というより、水中戦にならざるを得ないこともあり、下手な第四層の魔物よりも強力だったのだが、いずれにせよ、回避出来るのなら回避していった方が良い。

 何せ俺達の目標は迷宮に眠る宝であって、魔物達の素材では無いのだ。

 が……

 

「前回はあの馬鹿がいたからなあ」

 

「わかる」

 

「~~……」

 

 ジョーがポツリと呟くと、俺とカリカも賛同するように頷く。

 あいつ、即ちカシミール……もといカミラのことを思い出していた。

 迷宮第四層の魔物は強い、出来るだけ戦いたくない、が、あいつがいると何故か正面から戦う羽目になりがちだ。

 何せあいつ本当にヤバい状態にならない限りは『ふふん、この私がいて負けるとでも!?天才神官様だぞ!』と言わんばかりの謎の自信を持ってるからな。

 あいつ自身も勝てると思った相手でないと積極的に喧嘩を売りはしない……と思うが、いずれにせよあの自信とクソみたいな戦術眼のお陰で何度トラブルに見舞われたことか。

 

「神聖術の腕だけはマジであったから、そこだけは惜しい気もするけどな」

 

 俺がポツリと呟くと、ジョーが苦い顔をしてもう一度干し肉を噛み千切る。

 

「まあ確かに神聖術の回復速度は大したもんだけどな……お前それ受けるのもっぱら俺だぞ!?日に何度も死にそうになって回復させられるの想像してみろ!?」

 

「お前なら耐えられるじゃん」

 

「耐えられるだけで辛いことに変わりねえんだっつの!」

 

 ジョーが苛立ちながら声を荒げると、残った干し肉を一気に頬張った。

 実際のところ、負傷からの急速回復は術者以上に回復される側の疲労が凄いらしい。

 昔は拷問なんかでも使われたという話もあるし、相当に鍛えた戦士でも辛いものはあるんだろう。

 まあ俺はそもそもダメージ食らわないように立ち回るから関係ないけど。斥候だしな。

 とはいえ、それでなくてもカシミールがいるだけで何故かトラブルと戦闘回数は増えるのだ。

 実際にあいつが抜けた今回の探索で然程のトラブルも無く、ここまで進んでこれているのが安定している証明だろう。

 

「ま、それはそれとして、だ」

 

 と、俺がカシミールに思考を巡らせていたところで、ジョーがそれを断ち切るように言う。

 

「これから俺達はあの城を目指す。魔物も周囲にはいないし、索敵してきゃ戦闘も回避出来るだろう。が、問題は……」

 

「あの魔族連中だな」

 

「それだ」

 

 俺の答えに、ジョーが指をパチンと鳴らして答える。

 第二層で俺達が遭遇し、戦った魔族の連中。

 魔術師ザッパローグ、吸血鬼カンナ、人狼のダキア、この三人の連中だ。

 

「ダゴンとの戦闘でやられててくれりゃ良いんだけどな」

 

 言いながら、俺達が第三層を抜けた時のことを思い出す。

 海底洞窟を抜けてダゴンの巣を突破する際、俺達を尾行していたらしい連中がダゴンと戦闘になったのだ。

 あわや三つ巴の戦闘になるところだったが、俺達は上手く隙を突いてさっさと逃げた。

 ダゴンに対する知識と戦闘スタイルに対する違いだろうな。

 尤も、そこにカシミールがいたらやっぱりガチることになってただろうけど。

 いずれにせよ、ダゴンにやられてくれていれば一安心なんだが、そんな俺の思いを感じ取ったのか、ジョーが残念そうに首を振り答える。

 

「そう易々とやられる連中じゃねえだろ。特にザッパローグ、あいつがダゴン程度に負けるとは思わねえな」

 

「結構評価高いんだな。自分が負けそうになったせいか?」

 

「負けてねえけどなぁ!!?言っとくが俺ぁダゴンとだってその気になりゃ……」

 

「いやザッパローグにはカシ……カミラの回復がいなきゃ負けてたって話だし、水龍剣じゃバッチリ水中適応してるダゴンにほぼほぼダメージ通らねえじゃん」

 

「ぐぬ……」

 

 俺が言い返すと、ジョーはぐうの音も出ない。といった風に頭を抱えて俯いた。

 そんなジョーを傍らのカリカが干し肉をしゃぶりながら、慰めるように背中をばんばん叩いている。

 まあ実際ジョーが弱いってわけじゃないんだけどな。ただ、ダゴンに限らず水中の敵に水龍剣の生み出す水の刃はあんまり意味が無い……というか、水中でそれを使っても水の抵抗で敵に届く前に消えてしまうのだ。

 ダゴンを徹底して回避しようとしたのはそういった部分もある。

 

「ちっ……わかったよ、認めてやる、俺よりかザッパの方がまあ……ちょっと上かもしれねえな!」

 

「そうだな、で?」

 

「もし奴が俺達に何か仕掛けてくるようなら……徹底して逃げる!幸いこんな真っ白い街なんだ、あんな黒い鎧が近づいてきたらすぐ分かるだろ!」

 

「まあな、仮に察知されても魔術の攻撃範囲に入るよりも前に俺が気付く、が……一応聞いとくけど、それでも戦闘が避けられそうに無かったらどうする?」

 

「……そりゃまあ、俺と……カリカで二人がかりでいきゃあ……ギリギリどうにか……」

 

 なるかなあ?

 微妙なところだ。

 名前を呼ばれたカリカは、任せろと言わんばかりに拳を持ち上げているが、如何せん、カリカは武闘家だ。

 カリカのパワーなら鎧も砕けるだろうし、接近戦になれば問題は無いだろう。

 だが魔術師に接近するというのは容易なことじゃない。

 何せ遠距離から魔術をバンバン撃ってくる上に、ザッパに関しては浮遊の魔術で空も飛べるのだ。

 上空に逃げられたらジョー以上に手も足も出ないと思う。

 そのあたりはジョーも分かっているのだろう。どこかバツの悪そうな表情で目を泳がせている。

 

「チッ、こういう時だけあいつ並に神聖術使える奴がいりゃあ……ああ……そういやロフト、あのカミラちゃんって子……」

 

 ジョーがそういえば、という風に視線を上げて俺を見据えた。

 さて、カミラか、確かにあいつならカシミールの代わりになる。ていうか本人だし。

 とはいえ、カシミールを追い出したのもジョー自身だ。

 流石に戻ってきてほしいとは言わないだろうけど……

 

「あの子クラスなら回復任せられるんだが……ただなあ……」

 

 ジョーからは戻ってきてほしいとは言えないだろう。

 さっきあれだけボロクソ言っちゃったし、実際ザッパローグと交戦する可能性を踏まえてもあいついない方が探索が安定し……

 

「あの子、カシミールの妹か何かっぽくね?」

 

「お前マジで馬鹿なんだな」

 

「なんで!!?」

 

 呆れたように呟く俺に、ジョーが驚いて声を上げる。

 いやマジかこいつ、まだ気付いてないのか。

 

「俺はただ、あいつ本人ならまだしも妹ならまだ若いし、ちゃんと教えれば迷宮内での立ち回りを覚え」

 

「覚えねえよ、覚えないから諦めろ馬鹿」

 

「お、おう……そっか……」

 

 ジョーが言葉を紡ごうとするのを断ち切るように、食い気味で否定する。

 いやでも絶対無理だぞジョー。

 

「ま、余計なことは考えないで戦闘を避けていくのが得策だよジョー。焦らず堅実に行こうぜ」

 

「……確かに、折角ここまで来たのに焦って無理してもしゃーねえか。ありがとよロフト、そうしたら厄介毎は避けて、じっくりあの城を目指し――」

 

「■■■■■―――――ッッッ!!!!!」

 

 ジョーがそう言い切ろうとしたその時、けたたましい金切り声と衝撃音が辺りに響き、紡ぐ言葉がかき消された。

 俺達は咄嗟に武器を構え、戦闘態勢を取ると、斥候の俺が建物の窓から外をの様子を窺う。

 轟音の正体は――まさか、俺は自分の目を疑いながら、もう一度よく目を凝らす。

 やはり、疑いようもない。全身をぬめぬめを輝く鱗で覆われた魚巨人――ダゴン。

 それが、どこから出現したのか、白く輝く中空に出現した門を大きく開け放ち叫んでいた。

 先程の衝撃音はあの扉が開いた音なのだろう。だが、どうしてダゴンが……そんな俺の疑問を挟む間もなく、ダゴンが中空の門から飛び降りる。

 すると、ダゴンの叫び声に続いて、どこか聞き覚えのあるような――あまり聞きたくなかった少女の声が辺りに響き渡った。

 

「ああああああああああーーーっ!!馬鹿!!離せこの魚がーーッ!!私は!!天才神官だぞーーーッ!!!!」

 

 少女叫びはしかし、ダゴンが都市に落ち、建物が砕ける音にかき消される。

 どうやら、俺達のいる場所から少し遠いところに落ちたらしい。

 俺はなんとか状況を飲み込むと、ふう、と一つ大きな息を吐き出し、背後で頭を抱えるジョーと何故だかおかしそうに笑顔を浮かべるカリカに向き直る。

 

「どうする?パーティーリーダー?」 

 

 

 

 

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