パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
白冠都市に立ち並ぶ、均整の取れた純白の建物の群れ。
その一際高い場所、塔の如く伸びた四角い建築物の屋上から、私は上空に現れた扉を眺めていた。
「ダゴンか……あれがこの階層にまで降りてくるとは聞いていないが……」
「フフ、想定外のことは起きるよ。だろうザッパ?そうでなきゃ面白くないしねえ」
私の呟いた言葉に、のんびりとした様子で座り込んでいたダキアが反応する。
迷宮第三層を抜ける際、あのダゴンとの戦闘になり、カンナとはぐれた。
それからは例のジョーという冒険者の一行や、迷宮の現生モンスターで出くわして戦闘になりつつも、ようやくこの塔を拠点とし、腰を落ち着けた。
如何せん、全てが白いこの都では私の黒い鎧と外套が目立ちすぎる。
故に都市から見えづらい高所を取り、敵を排除するという方針は間違ってはいなかった筈なのだが……
「ダゴン……それに例の鍵の少女……カミラが来るとなると、話が変わってくる」
「ンン~……まあ、そうだねぇ。ジョーの一行も彼女を確保する為に動くだろうし、ダゴンのあの様子……どうやら迷宮の魔物達も鍵の価値に気付いたようだ」
「鍵の価値?」
くっくっと不気味に笑いながら、何やら納得した様子で呟くダキアに、私は兜の下で怪訝な目を向け、問いかける。
「ン?ンフフ……鍵は鍵だよザッパ」
と、ダキアは何が面白いのか、やはり笑いながら、どこかこちらを嘲るような――少し嬉しそうな表情で、言葉を紡いだ。
「鍵は……何かを開く為にあるものだろう?」
「…………」
ダキアの言葉に、私もまた無言で返す。
鍵。
元々は私達に迷宮の調査を命じた魔王様が口にした言葉だ。
迷宮に眠る鍵を見つけ、確保せよ。
それが魔王様に課せられた私達への命令だ。
それ自体には特に不安や疑問は無い。
だが――
「フフフフ、さてザッパ、僕らも向かうとしよう。ダゴンの目的は恐らくは都市の中央、あの城の祭壇だ、そこで――」
「ダキア、貴様……私に何か隠していないか?」
「……」
「何故ダゴンがあの城を目指すと分かる?迷宮第二階層のドラゴンのこともそうだ。貴様は本当はこの迷宮のことを――」
「…………フフ、隠していたら、何だい?」
私の問いに、少しの間を開けてからダキアがいつもの微笑みを浮かべながら答える。
もしもダキアが私に隠し事をしていたらどうするか、言われてそれを考えたところで、私の答えは変わらない。
「……どうもしない。私の役目は鍵の確保、それが魔王様に託された命令だ」
「そうだろう、そうだろう。それで良いよザッパ。フフ、魔王様もそういう奴だからこそ君を選んだわけだからねえ」
言いながら、ダキアと私は荷物を纏め、城を目指すダゴンを追うべく、塔を下る。
そうだ。些か癪ではあるが、ダキアの言う事は間違ってはいない。
私は魔導騎士ザッパローグ。
魔王様に仕える騎士なのだから。
―――――――――――――――――――――――――
「あああああああああ!!!止まれ馬鹿ぁぁぁぁ!!!!」
私の制止の声も空しくかき消され、ダゴンが上空から都市に着地――いや、落下する衝撃音が響く。
迷宮第四層・白冠都市、私は一度ここに来たことがある。
尤も、あの時はジョーのヘマで撤退せざるを得なかったわけだが。
うん、決して私のせいじゃないぞ。私がヘマするわけないからな。
過去のことを思い返しながら、ダゴンの手の中から頭を出して、きょろきょろと辺りを見回す。
どうやら周囲に魔物はいないようだ。
ダゴンと一緒に飛び降りてきたマーマン達を除けば、だが――
「さあ行きましょう!行きましょうぞ!」
「ちょまっ!」
私が思考を巡らすよりも早く、ダゴンが駆け出す。
くそっ!こいつ全然話を聞かない!これだから魚類は!やっぱり脳は発達していないんだろうな!は~!やっぱり神の祝福を受けてない連中は駄目だ!
にしても一体どこを目指しているのか……激しい揺れの中、なんとか目を開きダゴンの進行方向を見ると、うっすらと白く輝く巨大な城が見える。
あれか、都市の中心にそびえる城、ジョーやロフトとあそこに迷宮の宝、願いを叶える神具があるのではと予想を立てたものだが――
などと考えているうちに、ダゴンは立ち並ぶ建物を意にも解さない様子で突き進み、あっという間に城への距離が縮まる。
どうやらこの魚巨人は明確にあの場所を目指しているらしい。
待てよ……?これは結果的にはOKなのかもしれない。
私の目的は願いを叶える神具、ついでに迷宮を踏破したという実績と栄光だ。
このままダゴンに突き進めさせれば、あっさりとあそこへ辿り着けるじゃないか!そして私は労せず栄光を手にすることが出来るというわけだ!
うーん!天才的発想!流石だな私は!
「そうと決まれば良いぞ、ダゴン!この調子で行け!」
「無論でございます!我が女王――」
ダゴンがそう言いかけたその瞬間、突如として視界が上下に大きくぶれたかと思うと、轟音と共に激しい衝撃に襲われ、私の体は勢いよくダゴンの手からすり抜けた。
「わっ……ぶ!!!くそっ、なんだ!?」
転げるようにして硬い石床にべちんとぶつけた鼻をさすりながら、私は周囲の様子を見回した。
すると、先程まで軽快に走っていたダゴンの体が、深い穴――落とし穴というよりは、城を守る空堀なのだろう。
そこへ落下し、頭から突っ込んだ様子のダゴンが、下半身の尻尾をあたかも陸に打ち上げられた魚のようにぴちぴちさせているのが見えた。
いや、まあ、考えてみれば当然だ。
ダンジョン内、ましてや最奥に位置するであろうこの階層にトラップが存在しないわけがない。
しかも城の目前だ。純粋に城を守る為の防衛装置だってあるだろう。
「全く……そのあたり気が回らないのか!やはり魚頭!私のような天才神官とは頭の出来が違うという事だろうな!」
やれやれ、と、肩を竦めてダゴンの考えの無さに呆れる私だったが――さて、しかしどうするか。
ダゴンが空堀から抜け出すまでにはまだ少しかかるだろう。
それまで待つか、あるいは城はもう目と鼻の先だ。
私だけでそこを目指すか――いや、うん、私だけで目指そう。
ダゴンは所詮は魔物だ。迷宮の神具を前にしたら気が変わって敵に回らないとも限らない。信用は出来ないだろう。
そう考え、ダゴンから目を背けて城へと目を向けた瞬間、私の足元にどろりとした黒い粘液のようなものが垂れていることに気付く。
はて、油か何かか?しかしロフトでもあるまいし、私は油壷や何かなんか持っていなかった筈――いや、違う!
「あっっっぶな!!!」
咄嗟に飛び退いた次の瞬間、どろりとした粘液が先程まで私がいた位置へ向けて、一気に纏わりつくように伸び上がる。
触手のように伸びたその粘液が空を切ると、先程まで足元に広がっていた粘液がぷるぷると盛り上がり、あたかも巨大なゼリーのような姿へと変わった。
「ヒュージスライム、か!」
スライム系の魔物の上位種。
不定形の粘液のような体で獲物を包み込み、消化する魔物だ。
通常のスライムでも厄介な体だが、ヒュージスライムのそれは通常よりも大きく、強く、囚われれば脱出するのは容易ではないという。
「ふふん、まあ迷宮第四層だ、強力なモンスターがいるのは分かり切っていたさ!がっ!私は天才神官!そしてスライムは物理にこそ強いが、神聖術や魔術に対する抵抗は――」
態勢を整えた私が腰のモーニングスターを手に構え、スライムと向き合ったその時――再び轟音。
だが今度の音の正体はダゴンではない。
スライムの背後、城へと続く階段の上部から飛び降りるようにして姿を現した人型のそれは、しかし、周囲の建物が椅子か机か何かのように見える程の巨体、そして顔の中心部にぎょろりと輝く一つ目が、それが人間とは全く違う怪物だということを十分に知らしめていた。
「サイクロプス!!」
一つ目の巨人、サイクロプスは、大きな瞳をじろりと動かし、私とヒュージスライムを一睨みすると、威嚇するように咆哮を上げる。
まずい、まずいぞ!ヒュージスライムだけなら何とかなるが、サイクロプスは聞いてない!
あれに捕まったら有無も言わさず叩き潰されるか、頭から齧られるかどうかだろう。
私はそんな死に方は御免だ!栄光を掴んで左団扇で暮らした後に晴耕雨読の老後を送って人々に惜しまれながらベッドで死にたい!!
となれば撤退だな、うん!ダゴンを囮にして堀を戻って――瞬時にそう判断し、背後へ振り返った私の瞳に映ったのはしかし、信じられない光景だった。
「ぬがあああああああああああああ!!!」
ダゴンは――もう堀から抜け出していた。
いや、具体的には堀から抜け出せる状況にはありつつも、堀の中から伸びた長い首に絡まれて、抜け出せずにいた。
ダゴンの物とはまた別の鱗に覆われた黄金の体をぬるりと動かし、絡みつく蛇の頭――が、一つ、二つ、三つ――九つ。
紅く、血のように輝く十八の瞳のうちのいくつかは、私へと注がれている。
「ひ、ヒドラ……!?」
さて、すぐ傍のヒュージスライム、前門のサイクロプス、後門のヒドラ……
天才神官カミラちゃんは、この最悪の状況をどう打破すべき……打破出来なくないか!!???なあ!!!!