パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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雷雨注意

 美しくも寂しく、静かに佇む白冠都市。

 中央にそびえる城へと続く道の一角で、弾けるような雷鳴と雨音が周囲に激しく鳴り響く。

 

「っち!」

 

 稲光を走らせ、浮遊する鎧の騎士、ザッパローグはそれを見ると、苦々し気な舌打ちと共にこちらを見下ろす。

 

「はっ!バァーーカ!!そんだけ何度も食らってりゃ攻撃のタイミングくらい読めるっつーの!!バーーーカ!!!」

 

 言いながら、建物に隠れて様子を窺う俺とカリカの視線の先で、水龍剣を構えたジョーが自慢げに叫ぶ。

 

 ――ジョーはアレでいていささか慎重、というか自分を低く見積もるところがある。

 

 先の雑談でザッパローグに勝てるか、という話題になった時に微妙じゃないか、と答えていたが、いざ対面してみれば、ザッパの魔術発動のタイミングに合わせて水龍剣を振り、見事に頭上から降る雷の槍を防いでいた。

 加えて、周囲に水流を巻き上げ、雨を降らせることで炎の魔術も防いでいる。

 ザッパの攻撃手段はそれなりに限られて決め手に欠けている状態だ。

 尤も、雷の迎撃タイミングを間違ったら一気に不利にはなるだろうし、そもそも空中のザッパに有効的な攻撃があるか、と言われたら確かに微妙なところではあるので、決め手がないのはお互い様なのだが。

 

「そこをどうにかするのがパーティメンバーの仕事だよな、カリカ」

 

 言いながら、俺にしがみつくようにして背後に控えるカリカに顔を向け、互いに視線を交わす。

 流石にパーティを組んで付き合いも長い。

 カリカは俺の意図を察した様子で頷き、身軽な動きで建物の影に消えると、俺はその場に残って再びジョーとザッパの戦闘に視線を戻す。

 

「雷槍連」

 

 見ると、ザッパが呪文とぱちりと指を鳴らし、再び雷の槍――を、連続で放つところだった。

 正しく光の速度でジョーに向けて襲い掛かる幾多もの雷の槍。

 初見であれば防げる道理も無いだろうが――

 

「うおっらああ!!!」

 

 ジョーは水龍剣で巻き上げた水流で雷を受け止め、電流を辺りへと散らす。

 俺だって流石にこんだけ見てれば分かる。

 ザッパは魔術を放つ際にあの指を弾く動作が必要なのだろう。

 癖なのか、あるいは魔術の威力や速度を高める為の動作なのか、いずれにせよ、あの指の動きとほぼ同時、そして正確無比に標的へと向けて攻撃が放たれる。

 きっとジョーやカシミールとは比べ物にならない程に律儀で真面目な性格なんだろうな。

 寸分の狂いも無く、正確無比で高速の攻撃。

 だが、それ故にタイミングが取りやすいのだと思う。

 尤も、大概の奴はそのタイミングを計る前に死ぬだろうし、事実、ジョーだってカミラの回復が無きゃ一戦目でやられてたんだろうけどな。

 

「どうしたオラァ!もう終わりかぁ!?大したことねえな魔導騎士ってのは……」

 

「――氷陣」

 

 ジョーの挑発が耳に入っているのかいないのか、変わらぬ無感情な声で再びザッパが魔術を放つと、瞬く間にジョーの周囲に広がる水が凍りつく。

 雨と水流での迎撃によって周囲は水浸しだ。

 このままではジョーの動きは大きく制限されるだろうが――

 

「それも前に見たよなぁ!」

 

 言うと、ジョーは凍り付くよりも早く、周囲の水を纏めて水の渦と化すと、それをそのままザッパへ向けて巻き上げる。

 言うなれば雹の混じった小型の竜巻を直接叩き付けられるようなものだ。

 さしものザッパも水流を受けて大きくよろめき、落下しかける。

 

「む……!」

 

 が、流石と言うべきか、落下するよりも早く風の魔術を展開し、再びふわりと浮き上がる。

 

「はっはっは!俺の雨を利用しようと思ったんだろうが、残念だったなあ!利くわけねえだろそんな浅はかな」

 

「上か」

 

 ザッパは勝ち誇るジョーの言葉を意に介さず、ぽつりと呟くと、再び指を鳴らして唱える。

 

「氷刃」

 

 言うと同時、降り注いでいた雨が空中に静止し、雨粒一つ一つが寄り集まり、あたかも幾千もの刃のような氷柱へと凍り付き、姿を変える。

 

「ちょっとその技は聞いてねえ」

 

 ジョーのそんな言葉が届くが早いか否か、すぐさま幾多もの氷柱がジョーへと向けて連続で降り注ぐ。

 

「っだあーーーーっ!!ックショウ!!!」

 

 なんとか水龍剣を手に降り注ぐ氷柱を防ぐジョー。

 速度自体は先程の雷とは比較にならない程度の遅さだが、何しろ今度は物質的な質量がある。

 水流で壁を作っても突き抜けて降り注ぐだろう。いや、視界が塞がれてしまう分、下手に壁を張らない方が良いかもしれない。

 事実、どうにか剣で防ぐジョーだが、欠けた細かい破片や、地面に落ちて砕けた氷の欠片が、体をかすめ、突き刺さり、切り裂く。

 破片自体がさほどのサイズではない為に致命傷には至らないが、これを何度も食らえばキツいだろう。

 そして氷柱を捌くジョーに対して、ザッパがゆっくりと腕を構える。

 雷だ。

 

「終わりだ」

 

 パチリ、と指が鳴るか鳴らないか、というその瞬間、俺は腰に下げた鞄から一つ袋を取り出し、放り投げる。

 と、ザッパも咄嗟に視界に飛び込んで来たその袋へと視線を向け、そこへ雷の槍を放ち――

 ぼん、と、何かが弾けるような音と共に、周囲がもうもうと立ち込める煙に囲まれた。

 

「……煙幕か」

 

 正解。

 俺は斥候だからな、こういう役立つ道具は当然ながらいくつか常備してる。

 普通は逃げる時に使ったりするんだけどな。カシミールがパーティにいる時はよく使ったなあ。

 さて、とはいえ、ザッパには風の魔術もある。こんな煙すぐさま吹き飛ばされるだろう。

 その前に、と、俺は煙の中、ジョーの大体の場所まで駆け寄ると、囁く。

 

「ジョー、無事か?」

 

「当ったり前だ、で、どうしたロフト?撤退か?」

 

 煙の中、撤退ならそれはそれで、と言いたそうななんとも苦々し気なジョーの髭面が見えた。

 撤退を進言すれば受け入れるが、それはそれとして勝負がつかないのもムカつく、というところだろう。

 

「いいや、逃げない。いいかジョー……これから……」

 

「……はぁ!?いやでもそれ……さっきよ……」

 

「いいから、今度は――」

 

 俺がこっそりジョーへ作戦を耳打ちすると、すぐさま突風が吹き、辺りの煙幕を吹き飛ばす。

 煙が払われ、丸裸になった俺とジョーを見下ろすように、上空から重々しい声が響くのが聞こえた。

 

「無駄なことだ。斥候如きが一人増えようと」

 

「それはどうかな、やってみなきゃ分からないだろ……なあ、ジョー!」

 

「おまっ、クソッ!やったらぁ!!」

 

 言うと、ジョーが水龍剣を振るい、再び周囲に水を巻き上げるとまた先程のように辺りに雨が降り注ぐ。

 

「馬鹿め」

 

 それはさっき失敗しただろう、とでも言いたそうに、ザッパは呆れたように呟くと、腕を前に突き出し、再び唱える。

 

「氷刃」

 

 またも雨粒が固まり、幾多もの氷の刃が生成される中、俺はにやりと口の端を吊り上げ、叫ぶ。

 

「今だジョー!」

 

「おっしゃあ!!」

 

 ジョーが吼えながら、また水流を巻き上げ、雨を降り注がせる。

 

「何を――」

 

「もっともっと、もっとだ!」

 

 僅かに困惑した様子を見せるザッパを他所に、また雨を、また雨を、また雨を、雨を!

 繰り返すように水を巻き上げ、最早嵐の只中にいるかの如き豪雨と化し、降り注いでいた。

 

「っ……!」

 

 勿論、これらの雨もザッパの氷刃に組み込まれ、凍り付く、が――

 何重にも振り、折り重なった雨は最早、刃ではなく、不格好な岩のように大きく、醜く固まり、宙に静止している。

 

「馬鹿重い氷塊と自分の体!どこまで魔術で支え切れるかな!」

 

 ザッパの浮遊は風の魔術を用いて行っている行為だ。

 原理はよく知らないが、風の魔術ということは風の流れを利用しているんだろう。

 ならば――その風がコントロール出来ない程の豪雨の中、更に情報から激しい雨粒を叩き付けられたら?

 さっきの水の竜巻を食らった時と同様、落ちはしないまでも体を支えることはかなり困難なのではないか?

 ましてや、浮遊の魔術と別に氷刃の魔術、二つを同時に発動している状態だ。

 ここで予定外の物が加わったら――

 

「魔術の……制御が……!」

 

 滝のような雨にザッパの体が上から抑えつけられ、そしてふっと力を失ったかのように、押し流されるように落ちていく。

 

「だが……支えられぬのなら……!」

 

 そして、ザッパが落ちると同時に、必然ながら、巨大な一塊の氷塊も俺達の頭上目掛けて振り下ろされる。

 

「潰れて死ね!人間よ!」 

 

 落ちる間際、そう言い放つザッパだったが、しかし、それを受けてジョーはにやりと笑みを浮かべながら、剣を鞘に納める。

 

「馬鹿言いやがる!ああ、こういうのだ、こういうので良いんだよ!キノコだのダゴンだのブヨブヨしたのじゃなく、細けぇ氷柱なんかでもねぇ!」

 

 すぐ頭上に迫る氷塊を前に、ジョーは鞘と剣の柄を手に、ぐっと力を入れて構えると――

 

「ただのデカい氷塊ぐらい、俺に斬れないわけがねえだろうが!!」 

 

 大きく吠え、一閃、剣を振り抜くと――僅かな水滴を走らせながら、氷塊が真っ二つに切り裂かれ、そして――

 

「……割っても落ちてくるのは変わんなくね?」

 

「……あ?あああああああああああああああああああ!!!?」

 

 二つに割れた氷塊が、地響きを鳴らしながら降り注いだのだった。

 

 

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