パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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武闘家パンチだ

 衝撃と共に私の体が硬い石畳に叩き付けられる。

 それとほぼ同時に巨大な氷塊が地に落ち、砕けた氷の欠片がこちらへ散らばる。

 全く、よくやるものだ。

 あのジョーという男、単純な力や魔力こそ魔族には及ばないものの、あの剣技、胆力、気力といったものは敵ながら賞賛すべきだろう。

 氷塊を叩き付けはしたが、私が落ちた時に氷塊が二つに割れる……いや、斬られるのが見えた。

 恐らく直撃はしていまい。

 落下した私に対して追撃を仕掛けてくるつもりの筈だ。

 

「ならば……氷陣」

 

 私はパチリと指を鳴らし、雨によって生まれた周囲の水溜まりを氷の壁へと変化させる。

 あの氷塊の落下の最中、連中は私がどこに落ちたかも完全には把握していない筈。

 この氷の壁の中で迷い、動きが制限されている間に、私も再度魔力を整え、空中に浮かび上がる。

 そうなれば今度は先程のような雨は通用しない。

 次は氷ではなく別の手で攻めれば良い。魔術の長所は汎用性の高さだ。

 どのような状況でも必ず打開すべき方法は――

 

「……?」

 

 思考を巡らしながら魔力を整えていると、不意にばきり、と、何かが砕けるような音が辺りに響いた。

 何か、決まっている。この周囲の氷だろう。

 恐らくはジョーが私に追撃を仕掛けようと氷を砕いているのだ。

 だが、そう簡単には見つからな……いや、待て。

 

 氷の砕ける音が、次第に私に近づいてきている。

 

 私の位置を把握していたのか?あの氷塊が落ちる中で?

 些か予想外ではあるが、まあ良い。こちらに向かってくると分かれば迎撃するだけだ。

 魔力はまだ完全には整っていないが、氷を砕く音の方向へ向かって魔術を放つ程度の余裕はある。

 ばきばきと砕ける音の方角へ向けて構え、指を鳴らす。

 

「雷槍」

 

 些か制御が乱れているせいか、普段よりも荒々しく、周囲に散らばるような雷が広範囲に落ちる。

 想定とは違う魔力の挙動だが、こちらも相手を黙止していない以上、広範囲へ散らばるのはかえって好都合だ。

 この雷を掻い潜って私に迫ること等――――

 

 ばきり。

 

 氷の砕ける音と同時に、私の眼前に聳え立つ氷壁が粉々に砕け散り、氷の破片の隙間から金に輝くふわりとした髪が浮かび上がる。

 ジョーではない。

 いや、そうか、ジョーのパーティメンバーだ。

 カンナが交戦したと聞いた。

 金髪にがっしりとした肉体を持ち、ひたすら突き進んできたという。

 

「武闘家の――カリカ!」

 

 言いながら、次なる魔術を放つべく腕を突き出すと、私はぱちりと指を鳴らし放った雷を――躱された。

 カリカは至近距離から放たれた雷をするりと身を捻って避けると、そのまま拳を下から抉るように突き出す。

 

 ばきり。

 

 腹に響くような衝撃と、何かが砕けるような音。

 無論、今回砕けた物は先程のような氷ではない。私の鎧だ。

 鎧に包まれた筈の私の体――いや、腹部の鎧は砕け、内に着こんでいた鎖帷子が露出してしまったが――が、軽々と吹き飛ばされる。

 まさか、この私が至近距離から武闘家の拳を叩き込まれ、あまつさえこの鎧が破壊されるとは。

 想定外だが、私とてそれで狼狽える程度の経験しか積んでいないわけではない。

 空中で体勢を整えると、再び浮遊の魔術で宙に浮かぶ。

 まだ魔力が完全には整っていない故、ぐらぐらと、ひどく落ち着かない浮遊ではあるが、それでも手早く距離を取らねばいけない。

 と、宙へ浮かび上がった私の脚を、ぎしり、と、カリカの手が掴む。

 この女、私が完全に飛ぶ前にジャンプを――

 不安定な浮遊の魔術で二人を持ち上げられる筈も無く、そのまま落下した私の脚を掴んだまま、カリカは思い切り私の体を振り上げ、叩き付ける。

 

「ぐっ……!この女……!」

 

 ぱちりと指を鳴らす。

 稲光が走り、カリカに直撃する。今度こそ至近距離の雷だ。

 魔力の制御と練りが足りない為、威力も射程も今一つだろうが、一先ず脚から手を離させることは出来た。

 後は距離だ。距離を、とにかく距離を取らねばいけない。

 距離を――取るべく、後ろへ飛び退いた私に、起き上がったカリカが一足飛びで追いつき、眼前に迫る。

 

「――――な」

 

「ッ!」

 

 衝撃、衝撃、衝撃。

 休む間もなく連続した拳が鎧目掛けて撃ち込まれる。

 距離を……取れない!

 まずい、このままでは倒される。鎧が砕ける。

 このような人間に私が打ち倒されるなど、あってはならない!

 

「うおっ!」

 

 怒声と共に、渾身の風の魔術を放つ。

 魔力の制御も足りず、ただただ風を吹かせるだけの魔術とも呼べないものだが、カリカの体をある程度まで吹き飛ばすくらいは出来たようだ。

 吹き飛ばされ、転げたカリカは、すぐさま身を反転させて立ち上がる。

 この身のこなしの速さ、肉体の強靭さ。これだ。

 ジョーめ、こんなにも厄介な仲間を今の今まで隠していたとは……いや、隠していたわけではないのだろう。

 単純に私が浮遊している間は攻撃が届かなかない為、参戦していなかったというだけなのだ。

 それ故にジョーは多少の無理を通してまで私を地上へ叩き落とそうとしていたのだろう。

 事実、私は想定外の苦戦を強いられている。

 再び距離を取り、そのまま逃走まで視野に入れたいところではあるが、果たしてそれを許してくれるか――

 

「オオオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!!」

 

 そんな私の思考を切り裂くかのように、辺りに咆哮が轟く。

 対面に構えるカリカも予想外の咆哮に警戒したのだろうか、ちらりと視線をそちらに向けると、そこには奇妙な光景が広がっていた。

 なにせ、先程まで相争っていた魔物、ダゴン、ヒドラ、サイクロプスの三体があたかも何かに跪くかのように一様に首を垂れ、城へと視線を向けている。

 凶暴凶悪、迷宮の深層に潜む強力な魔物達の筈が、あたかも王に忠誠を誓った騎士のように、整然と並び、膝を突く。

 

「ついに、ついにお戻りになられた!ああ、ああ!この覇気、この魔力!我らが王!」

 

 更に奇妙なことに、中央に跪いていたダゴンが感涙に咽び泣くかのように声を上げ、明確に言葉を発する。

 馬鹿な、こいつはわけのわからない咆哮、鳴き声しか上げられなかった筈だ。

 そんな私の疑問を挟む間もなく、ダゴンは勢い良く立ち上がり、私達の方向へ――否、その先の城へ向けてその巨体を躍動させる。

 

「ああ!!今すぐ!!今すぐ向かいますぞ!我が主!我が王!!」

 

「……!」

 

 こちらに勢い良く迫るダゴン。

 だが、これは逆に好機かもしれぬ。

 そう考えた私は、カリカが変わらずダゴンへ視線を向けて警戒しているのを確認すると、足元へ向けて風の魔術を放ち、大きく跳躍する。

 浮遊の魔術ではないが、これで十分。私はそのまま突進するダゴンの背中へ飛び乗ると、勢いそのまま、ダゴンは構えるカリカの上を乗り越え、城へ向けて歩を進める。

 これで良い。あれとは距離を取らねばどうしようもない。態勢さえ整えればまだ対応も出来る筈だ。

 それに、ダゴンの言葉も気になる。

 確かに言う通り、城の方から圧倒的な魔力、覇気とも言うべき威圧感が漂っていた。

 そして、私もその魔力の質には覚えがある。

 だがしかし、まさか――

 

「オオオオオオオオオオッ!」

 

 再度の咆哮と共に、ダゴンが城の大扉へとぶつかり、巨大な扉が勢いよく開く。

 そうして現れた白く輝く広間に見えた姿は――まず人狼、ダキアだ。何があったのか、全身から血を噴き、倒れ伏している。

 二つ目にカミラ、そして三つ目に見えたのは、そのカミラに相対する黒く、美しく佇む紛れもない王の姿。

 魔王様の姿が、そこにはあった。

 

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