パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
――黒。
瞬き一つ程の刹那、漆黒の光が私の視界を覆い、魔王の手から閃光が放たれる。
と、反応する間もなく、閃光はダキアの体を貫き、吹き飛ばした。
「ごっ……」
一度、二度、吹き飛ばされたダキアは力無く弾み転がると、最早言葉を発することも出来ず、血濡れの床に倒れ伏す。
「ダキアよ……残念だ。余は貴様のことをそれなりに買っていたのだが、な」
言いながら、魔王は憐れみとも侮蔑とも見える視線をダキアに向けるが、それはすぐさま無感情な、どうでも良いかとでも言いたげな視線へと変わる。
「さて……それよりもだ」
魔王はダキアに向けた視線をゆっくりと私に戻すと、先程閃光を放った手で私の頭をぐいと掴むと、そのまま力任せに私の体を持ち上げる。
「ぐっ……!?このっ!」
私は抵抗すべく、スライムに拘束されたままの手足を振り回すが、魔王は意に介する様子も無く、じっと私の体を見つめている。
「はっ……なんだ!?この私に見惚れでもしたか!?だが私は天才神官だ!魔王とはいえ魔族如きがそう好き勝手に出来ると思うなよ!?」
「……ふむ、見惚れていたように見えたか……いや、そうかもしれぬな」
言いながら、魔王は僅かに唇の端を歪ませる。
「だが、まあ、好き勝手にしようにも君自身にはそこまで興味は無い。見た目はともかく、中身はあまりにも彼女とは違う」
「……?」
どこか懐かしむような様子で見つめる魔王に困惑した私だったが、次の瞬間、ずしりとした奇妙な感覚が頭へ流れ込む。
「がっ……!?あ……!?」
魔王の手を通じて、まるで冷たい鉛でも詰め込まれているかのような、不快な異物感が頭を支配する。
何かが私の内側に入り込み、這いずり回る感覚、重く、冷たく、柔らかい何かが私の頭を掻き回す感覚。
「きさっ……わ……私の……頭に……何を……」
「ふむ……先程言った筈であったが……」
浅く呼吸をしながら、なんとか言葉を振り絞る私に、魔王は事も無げに言う。
「君の中に、別の魂を入れる」
「はぁ……?」
「言っただろう、余はかつての国を、民を取り戻す。今を生きる人々の体に、かつての民の魂を入れてそっくり入れ替えさせる」
「はっ……め……迷宮と地上を入れ替えるというやつか……だが……!」
淡々とそう言いながら、尚も手を放さない魔王に私は言う。
馬鹿な奴だ、私に、別の奴の魂を入れるだと?それで私がこの体を渡すとでも思っているのか!?
「いいか……私は、私だ……!私は天才神――」
――――?
違う、私は……あれ……?
頭の中に、何かが浮かぶ。
白く、美しい都市で暮らす人々、日に照らされて煌めく海、花に満ちた庭園。
待て、違う、そんな光景、私は知らない。知ってる。
見たことなんか無い。ずっと昔から眺めていた。
違う、どっちがだ?
違う、思い出せ、私は、教会で――そうだ、この、この街の教会――あれ?
違う、もっと、私の町は、私は、私は女の子で――いや、違って、男だ、私の名前は――――
――――私は、誰だっけ?
―――――――――――――――――――――――――
ダゴンが駆けたことで崩れ割れた石畳を踏み、飛び越えながら走るジョー、カリカに続いて俺も走る。
「あの野郎、負けそうだからって逃げやがって!ふざけんなあの野郎!」
「いや、お前もカリカがいなきゃ負けてたよな?」
ダゴンが突っ込んできたことで、それに乗じてザッパローグにも逃げられてしまった。
ジョーとしてはそこのところが悔しいところではあるのだろう。
ともあれ、ジョーの感情を抜きにしてもここであいつに逃げられると厄介だ。
「この先だ!」
ダゴンが開けたであろう城門をくぐり、いつもの陣形で構え、警戒しながら城へと足を踏み入れる。
この都市の中心部であり、これだけ巨大な城だ。
入った途端に何かに攻撃されるという可能性も考えての行動だったが――
目前に広がっていたのは血濡れの白い床と、そこに横たわり、ピクリとも動かない人狼。
その奥では広間の中央に向かって跪くダゴンと、まだ回復しきってはいないのだろう、胸を押さえ、膝を突くザッパローグの姿。
そしてその視線の先――広間の中央付近では、漆黒の髪を煌めかせた若々しい男が、力無く、ぐったりと手を下げるカミラの頭を掴んでいるところだった。
「何やってんだテメェ!」
その光景を目にして真っ先に動いたのがジョーだ。
水龍剣を構え、黒髪の男目掛けて向かっていくが――
「不敬者ォォ!!」
そのジョーに反応して、跪いていたダゴンが立ち上がり、巨腕を振り上げる。
頭上から叩き付けられる拳に、鈍い衝撃音が響き渡る。
肉と肉がぶつかり合う音が響き、あわやジョーは押し潰されたかに思えたが――
「!」
次第にダゴンの拳が持ち上げられるように――いや、事実、拳の下に潜り込んだカリカが拳を両腕で支え、押し上げていた。
「はっ!馬鹿がよ!水中ならともかく地上でなら……俺達が魚に負けるわけねえだろうが!!」
ジョーの言葉に応じるように、カリカがダゴンの拳を弾き飛ばし、僅かにダゴンの体勢が崩れる。
そして生じた隙に、ジョーが踏み込み、ダゴンの腕へ水龍剣を振りかぶると――刹那、ダゴンの巨腕がずるりと切れ落ちた。
「っがああああああああ!!」
「はっ、水流に耐性があろうが無かろうが、直接切り刻んじまえばお終いよ!」
ダゴンの腕から噴き出す鮮血が降り注ぐ中、ジョーは倒れかかるダゴンを意に介さずに、すぐさま黒髪の男へと向かっていく。
が――
閃光。
黒く輝く閃光が走ると同時、ジョーの踏み出した脚から血が噴き出した。
「がっ……!?」
「ジョー!?」
見えなかった。
恐らく俺だけじゃなく、カリカも同様だろう。
驚いた様子で振り返り、倒れ込むジョーに視線をやると、ダゴンの隣にいたザッパローグが苦し気に、ゆっくりと口を開く。
「静まれ人間共、王の御前であるぞ」
ザッパローグの言葉に怪訝な表情を浮かべながらも、ジョーとカリカが見つめる先で、黒髪の男はカミラの頭から手を放し、体を支えるようにしてゆっくりと床に横たわらせる。
そして、すう、と一つ息を吸い込んだその時――みしり、と、音を立てて周囲の空気が震えた。
圧、というものだろうか、男から発せられる魔力、いや、それだけじゃないだろう。
威圧感、経験、そういった目に見えない圧――王の威厳が周囲を押し潰さんばかりに発せられるのを肌に感じていた。