パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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魔王からは

 この俺、A級冒険者ジョー・コールマンは決して最強の冒険者というわけじゃあない。

 んなこたとっくの昔に分かってる。

 が、それでも長いことこの仕事をこなして生き延びてきた。結構なベテランだっていう自覚もある。

 その俺が――

 

「……ふむ、中々にしぶとい」

 

 未だ、魔王に一度も近付けないまま、全身を血で濡らしていた。

 

「ジョー!」

 

「うっせぇロフト!出てくんな!俺がどうにかする!」

 

 背後でロフトが叫ぶ声が聞こえたが、俺は歯を食いしばって言葉を返す。

 俺はベテランだ。その自負がある。っつーか、その俺だからこそ、まだ立っていられている。

 魔王の指先一つで予備動作なく放たれるあの光の魔術。ありゃマズい。

 光速で放たれて軽々と肉体を貫通する光の矢だ。

 ザッパの雷の槍とも近いっちゃ近いが、あっちが大雑把に飛んでくる砲弾だとしたら、こっちはより的確に、静かに素早く、的確に放たれる狩人の矢の如し。

 今のとこどうにか致命傷は受けちゃいないが、攻撃そのものも躱せていない。

 急所に当たらなかったとて、血を流しすぎれば人は死ぬ。

 正直その前のザッパとの連戦もあって、水龍剣の魔力も落ちてるし、俺自身足がフラついている。

 このままじゃマズい。

 そう考える俺を知ってか知らずか、魔王の側で跪いたままのザッパが口を開いた。

 

「恐れながら魔王様」

 

「ザッパか。如何した?」

 

「この程度の男、直接魔王様が手を下さずとも良いのではないでしょうか。命じていただけるのならば、私でもダゴンでも」

 

 僅かな時間で少しは回復したのだろう。

 まだ荒々しい呼吸ながら、ザッパが顔を上げてこちらを睨みつけるように視線を向ける。

 が、魔王はそんなザッパの問いに淡々と言葉を返した。

 

「否とよ。迷宮の魔物達を制し、ここまで辿り着いた者達だ。手負いの貴様に任せるには荷が重かろう」

 

 魔王はちらりとザッパの方に視線をやると、すぐさま再び俺の方へと向き直り、続ける。

 

「それに、余もまだこの体の使い方を思い出しておらぬ。見よ。魔術も急所には当たっておらぬのだ。まだ準備運動が必要であろう」

 

「……準備運動だぁ?」

 

 ナメたことを言ってくれる。

 が、その準備運動で手傷を負わされてるのは事実だ。

 強気に睨み返しはするものの、貫かれ、血を流す体の痛みは変わらない。

 背筋に冷たい汗がじわりと流れるのを感じた。

 

「とはいえ、準備運動はいつでも出来る。それにこの娘の精神の上書きも存外に手間取っておる故な……ふむ、良かろう」

 

 魔王は僅かに眉をひそめ、眠ったように目を閉じるカミラの頬を撫でると、淡々とその言葉を言い放つ。

 

「逃げても構わぬぞ、冒険者よ」

 

「……あ?」

 

「余は貴様らについて何れの感情も持ち得ておらぬ。このまま戦って死ぬと言うのならば構わぬし、命惜しくば逃げて僅かな余生を地上で平和に過ごすが良い。許す。存分に魔王から逃げるが良かろう」

 

 魔王の言葉に、僅かに俺の肩の力が弱まる。

 

 なるほど、撤退すべきだ。

 

 今のままじゃ勝ち目が見えねえ。相手の攻撃手段も光の魔術以外に見てねえし、俺の体力も限界が近い。

 地上に戻って体勢を整える。あるいはギルドや国に報告して討伐隊を組んでもらう。

 単に逃げ帰るだけじゃない。撤退すればこいつらに対抗する手段もまた何か生まれるだろう。

 だが――息を整えながら魔王と、奴が抱える少女、カミラに視線をやると、俺はもう一つ、ふうと大きく息を吐く。

 

「俺はベテランのA級冒険者、ジョー・コールマンだ」

 

 ぽつりと呟きながら、俺は背後で構えるカリカとロフトと、ちらりと視線を交わす。

 

「目の前で捕まってる女の子一人、放っておけるほど落ちぶれちゃいねえよ!」

 

 啖呵を切って叫ぶと、俺は全力で床を蹴り、魔王に向かって突進していく。

 しないわけにはいかない、が、畜生!どうする!?

 割と考え無しで飛び出しちまった!カシミールのこと馬鹿に出来ねえ!

 いや、いやいや、大丈夫だ。

 俺の経験上、こういう時は案外どうにかなる。

 こういう時は――

 

「ジョー!雨だ!」

 

「よし来たァ!」

 

 後方からのロフトの声に合わせて、水龍剣を振りかざすと、屋内に突如として土砂降りの雨が降る。

 

「死ぬ方を選んだか」

 

 降りしきる雨の中、やはりと言うべきか、魔王はぴくりとも眉を動かさないまま、黒い閃光を放つ。

 さっきまでより距離が近い。狙いも正確だ。

 光速で突き進む黒い光は、正確無比に、一瞬で俺の心臓目掛けて突き刺さ――らない。

 黒い光の矢は雨に遮られ、霧散し、俺に届く前に消え去っていた。

 なるほど、黒かろうが何だろうが、攻撃が光であるならば雨雲や霧には遮られて届かない。

 

「やるぜロフト!天才だな!!」

 

 魔王の魔術を防いだ一瞬の間で距離を詰め、俺はカミラの体を支える魔王の腕目掛けて水龍剣を叩き付けると、刀身が魔王の腕に食い込み――止まった。

 

「――他の魔術が使えないとでも、思っていたか?」

 

 見ると、魔王の腕が先程の矢同様の黒い光に包まれ、その光の鎧とでも言うべきものに斬撃が阻まれている。

 やっぱりだ。そりゃあ、アレだけじゃねえだろうとは思ってた。

 が、光の鎧か、なるほど、こいつの得意な術が分かってきた。

 それに――

 

「こうなることくらい、承知の上で突っ込んだんだぜ!カリカァ!」

 

「魔王様!」

 

 俺の声に合わせて、俺の背後からカリカが魔王目掛けて飛び跳ねる。

 雨粒と俺の体に隠れて接近していたことにザッパは気付いたようだが、流石にここまで接近したらもう遅い。

 俺は咄嗟に水龍剣を手放し、しゃがみ込むと、それに合わせるようにして光の鎧に食い込んだ水龍剣目掛けて踵を振り下ろす。

 

「むっ……!」

 

 水龍剣での斬撃に加えて、カリカの打撃が加わった衝撃。

 流石の光の鎧も耐えきれない衝撃だったのだろう。

 魔王の腕が大きく弾かれ、全身が大きく揺らぐ。

 俺は弾かれ、中空に浮き上がった水龍剣をキャッチすると、カリカと息を合わせ、同時に、魔王の体に斬りかかる。

 再びの衝撃に、今度は魔王の体が吹き飛び、抱えられていたカミラの体が投げ出される。

 

「っ!」

 

 カミラの体が床に叩き付けられる前に、慌ててカリカが体を抱きかかえると、起き上がろうとする魔王を尻目に俺とカリカは一気に後方へとひた走る。

 

「っしゃあ!ざま見ろクソがぁ!!逃げるぞロフトーーッ!!」

 

「おっしゃ!早く来いジョー!」

 

 言いながら、ロフトが何かの袋を片手に叫ぶのが見える。

 多分煙幕だろう。こいつで目をくらませているうちに逃げ――

 

「――前言を撤回しよう」

 

 逃げる。

 そう思った瞬間、ずぶり、と、肉が潰れる音が響き、血が噴き出すのが見えた。

 俺の体じゃない。

 潰れたのは――

 

「カリカ!」

 

「っ……!」

 

 床に投げ出されたカミラとカリカ、二人の体を見て、俺も立ち止まる。

 何が起こったのか、カリカの体に目をやると、ついさっき踵落としを決めた右足の一部が、あたかも内側から食い破られたように肉が破れ、噴き出している。

 魔王はそれを見て頷くと、ゆっくり立ち上がり息を吐く。

 

「やはり、逃すわけにはいかぬな」

 

「こいつ……!」

 

 やべぇ。

 カリカの脚をやられたのは致命的だ。

 俺がカリカを、ロフトがカミラを抱えて逃げるとなると、機動力が相当に落ちる。

 仮に煙幕を炊いて逃げられたとしても、すぐさま後を着けられて追いつかれるだろう。

 かといって二人を置いていくわけにはいかない。

 俺が残って魔王を食い止めるにしても、ロフトじゃ二人を抱えらんねえ。

 やべぇ、マズい状況になった。どうする?どうやって逃げる?逃げられるのか?こいつから――

 

「ふ、ふふ、ふ、いいえ。逃げさせてもらいますよ」

 

 俺が全力で思考を巡らす中、背後で弱弱しく、しかし、はっきりとした男の声が響いた。

 驚いた様子を見せたのは魔王だ。

 感心した様子で声の主を見下ろし、口を開く。

 

「驚いた。まだ生きておったか。ダキア」

 

「ふふ、ええ、騙すのは得意でしてね」

 

 魔王の言葉に返すダキアだったが、しかし、強気な言葉とは裏腹に、その口からはごぼりと音を立てて鮮血が滴り落ちる。

 明らかに無事ではないその状態に、魔王も僅かに憐みのような表情を浮かべる。

 

「ふむ……逃げる。逃げるとな。その様でか?ダキアよ」

 

 魔王が言葉を紡ぐ間にも、ダキアは苦しげな様子で蹲り、血濡れの床に手をついていた。

 とてもじゃねえが、マトモに動ける状態には見えねえ。

 

「貴様はもう動けまい。それとも、その冒険者に頼るつもりか?余の目には、そちらも満身創痍に見えるがな」

 

 ご尤も。

 カリカは動けず、カミラも目覚めない。

 俺も正直そろそろ限界だし、ロフトはダメージこそ受けてないもののそもそも戦闘要員じゃねえ。

 手詰まりだ。俺にはこれ以上どうしたら良いか思い浮かばねえ。

 が、ダキアはそんな魔王の言葉に対し、唇の端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「魔王様――貴方は、御身がどのようにここへ着いたかお忘れですか?」

 

 ダキアのその言葉と同時に、雨と血で濡れた床が眩い光を放つ。

 

「――――貴様!?」

 

 その様子に何かを察したのか、魔王は驚いた様子で声を荒げる。

 俺は何が起きているのかわけのわからないまま、急にふわりと体が浮き上がった。

 ロフト達も同様に光に包まれ、浮かび上がる中、魔王やザッパが足元で何やら言っている声だけが聞こえる。

 

「転移の魔術――ふふ、貴方を呼ぶ為、そして万が一の時に逃げる為に仕掛けた魔術ですよ。では敬愛する魔王様――おさらばです」

 

 ダキアのその声と同時に、俺達の体は光の奔流に押し流されたのだった。 

 

 

 

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