パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
海底神殿の祭壇から少し外れた小部屋――と言っても、普段俺達が使っている宿の一室よりは余程に広いだろう。
しかしあたり一面に乱雑に散らばり、高く積み上げられた武具に圧迫されるせいか、そこまでの広さは感じない。
魔物どもの武器庫と言うべきか、この神殿の一室は恐らく倒れた冒険者の武具、あるいは迷宮が生み出す武具をしまうのに使われていたのだろう。
そんな部屋の真ん中で、俺は手にした剣を軽く振りながら出入り口でしゃがみ込むロフトに問いかける。
「で、あの作戦どう思う?」
「馬鹿だな~って思う」
「だよなぁ!?」
俺は剣を構えたまま、ロフトに顔を向けてそう言う。
マトモなのが俺だけじゃなくってマジで良かった。
とはいえ、と、ロフトの脇で布に包まれた武具を手にしたトゥーラが言葉を紡ぐ。
「で、でも、カミラさんの作戦が一番良い……とは言えないですけど、一理はあるというか……成功したら一番というか……」
「ハイリスクローリターンだね!そういう博打は僕も嫌いじゃないよ!」
まあ僕はそれで死んだんだけど、と、脇でふわふわと浮いていたシヴがカラッと笑いながら付け足す。
縁起でもないことを言わないでほしいってかその死人ギャグやめろ。
っつっても止めないことは俺が一番知っているので、溜息を吐いて手にした剣を鞘にしまう。
「その剣どう?ジョー?」
「水龍剣とはだいぶ使い心地は違うが……まあイケるだろ」
「うんうん、心して使ってくれよ!何せ僕の、いや、勇者の剣なんだからね!」
そう言うと、シヴはどこか懐かしむような眼で俺の手にしている純白の剣を眺める。
――勇者の剣。
なんて言うと大層なもんだが、要はシヴが生前に使っていた神聖武器だ。
作戦を聞いた後、もしかしたらということで神殿内を捜索したところ、この武器庫と、そこに埋もれたこの武器を発見した。
そして作戦の都合上、俺がこれを使うのが一番良いのではないかとなったわけだ。
「大勢の敵を相手にするんだ。それに魔物達は魔王の復活の影響で魔族としての力が増している……かもしれない!」
「そうなりゃ魔剣より神聖武器の方が通りが良い……っつってもなぁ……」
この武器の効果はシヴから聞いた。
だが、どうにも試すことの出来ない効果だ。
てかこんな倉庫に何十年も仕舞われてたら効果も消えてんじゃねえか?
そもそもシヴは勇者だから神聖武器も使いこなせただろうが、俺はただのちょっとベテランの戦士ってだけだ。
そんな俺がこいつを使いこなせるのか?
そこのところはつまるところ一発勝負。
「――まあ、いつものことか」
はぁ、と、諦めにも似た溜息を吐き出し、俺は武器庫の入り口に歩を進めると、俯いて武具の包みを抱えるトゥーラちゃんの背中をトンと叩く。
ひゃっ、と、短い悲鳴を上げるトゥーラちゃんだったが、俺は構わず歩みを進めながら、一言告げる。
「後のとこは任せたぜ、しっかりやれよ」
「――――がっ、頑張りひゃふ!」
そんなトゥーラちゃんの緊張で噛み噛みの言葉にはにかみながら、俺は――俺達パーティ一行は、再び白冠都市の入口へと向かうのだった。
―――――――――――――――――――――――――
「――打って出たと?」
「はっ、現在城門前にて交戦中です」
ひび割れた鎧を身に纏い、片膝をつく魔道騎士ザッパローグの言葉に、余は思わず問い返す。
些か予想外の行動ではある。
あれだけ彼我の実力差を思い知った筈の彼奴らだ。
次なる一手は逃げか服従か、そのどちらかだと予想していた。
「それが打って出るとは」
「如何なさいますか?」
ぽつりと呟いた言葉にザッパローグが問いかける。
なるほど、予想外ではある。然れど問題には非ず。
追い詰めた敵が打って出るなぞ当然である。当然すぎるが故に意外だっただけのこと。
盤上の遊戯で『このまま攻めれば負ける』と考えれば手を捻って妙手を打つものであり、敵もその思考を読み妙手の対策を打つ。
そこを正面から馬鹿正直にそのまま攻める。それは意表を突いた最善手足り得るだろうか?否。単なる悪手に過ぎない。
故に対策を練る意味すらない。ただただ此方も正攻法で圧し潰すのみ。これはそういった話だ。
「配下の魔物達、城に既に集まった者達を使い出てきた者達を捕えよ」
「は、ではそのように」
言うと、ザッパローグは頭を下げたまま広間を後にする。
それを見送り、一人となった私は、白亜の城の天井……美しく彩られたステンドガラスの煌めきを見上げて独り言ちる。
「……些か残念だな」
呆気ない。
余から一度は逃げおおせた時には少しばかり楽しませてくれるのではないかと期待したのだが……いや、良いか。
余の目的は魔族の復活の筈だ。そのような感情は不要の筈。
それが……
「若返った故に血が滾りでもしたかな」
ふ、と、僅かに微笑を洩らしながら、私は玉座に深く腰を埋める。
問題は無い。
ザッパローグはまあどうでも良いが、こちらにはダゴンをはじめとする我が忠実なる家臣どもがいる。
更に彼らは迷宮の魔力により、死しても死なず、新たに器となる魔物の肉体を得て蘇るのだ。
故に余が負ける道理はない。
全ては計算通り、順調に進み――――
「っだああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
――余の思考をすぱりと断ち切るかのように、美しい筈の、けれども余の知るはずの優雅さとは程遠い声が――頭上から響いた。
「……何?」
余が天を見上げると同時、美しく彩られ光を放つステンドグラスが粉々に打ち砕かれ、上空から三つの影が現れ――盛大な砂埃を巻き上げ、城の床へ叩きつけられた。
「!?」
思わず目を見張り、立ち上がる。
飛び込んできた影の一つはまごうことなく我が妻、麗しきクリティアスの姿。
つまり彼女の肉体の写し見となった少女だ。
それが――上空から飛び降り、床に叩き付けられた。
「いかん……!」
中の少女はどうでも良い。
だがあの器は我が妻の魂の器なのだ。
それが床に叩き付けられ、無残にも破壊された姿を思うとこの余の胸にも焦りが生まれる。
生きているだろうか、いや、生きておらなんだとしても肉体は修復可能な程度の損傷であれば良いのだが。
そんな思いを胸に駆け寄った私だったが、彼女の元に辿り着こうかという寸前、がくりと脚が重くなり、止まる。
「ぬ……!?」
思わず止まった脚に引きずられ、がくりと膝をつくと、白亜に輝く美しい我が城の床がいつの間にか、泥沼のごとき泥濘に変化していることに気付く。
考えてみればおかしなことだ。
石で出来たこの城の床に叩き付けられたとして、砂埃が舞うはずも無し。
それでも焦って妻の肉体の安否を確認しに向かわざるを得なかった、この余の脚を捕らえる泥沼……いや、これは……
「粘土化……なんて、使いませんものね、普通の魔術師なら……」
沼に嵌り、動きの止まった余の耳に、砂埃の中から落ち着いた声が響く。
我が妻ではない。これは――
余が思考を巡らせるよりもなお早く、砂埃を晴らして二つの影が姿を現す。
片方は茶色くくすんだ髪に神聖武器であろう、純白の爪を構えた男の戦士。
もう一人は……
「クリ……」
「ホーリーハンマー!!!!死ねぇ!!!!!」
我が妻――の、麗しの名前を呼ぶよりも早く、光り輝くモーニングスターの一撃が、余の脳天に振り下ろされたのだった。