パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
「……というわけで、ジョー達が雑魚共の相手をしている隙に、私達が魔王の首を取る!完璧な作戦だな!」
中央に広げられた地図を指さし、私は堂々とそう告げる。
う~ん、我ながら完璧な作戦だ。天才。そりゃそうだ。
こればっかりはいくらジョーやロフトでも文句のつけようがあるまい。
崇め奉っても良いんだぞ、この私を!そう思いながらちらりと辺りを見回すと、ロフトがすうーっと息を大きく吸い込んで言葉を吐き出す。
「どこが???」
「全てだが??」
ロフトは私の返答に頭を抱えてうずくまる。
おいおいおいおい、何だ何だ、この私の完璧な作戦に文句でもあるのだろうか。
貴様の凡人俗物平々凡々な脳味噌では理解できないだけではないだろうか。
そこを私のせいにしてもらっては困るなあ。
そんな気持ちでやれやれ、と溜息を吐く私にロフトは苦々しげな表情で言葉を紡ぐ。
「……まず、だ、俺達が雑魚の相手をするっていうのは良いよ。これでもA級冒険者だしジョーもカリカも四層の魔物にも慣れてきただろうし、ただお前らがどうやって魔王のとこまで行くんだ?」
言いながら、ロフトはいくつかの小石を地図の中央に置く。
「魔王の配下は既に城に集まってる。俺達が注意を引いたとして、お前らが気付かれずに城に侵入できるかは疑問だ」
そう言って地図上の道を指でなぞるロフト。
なるほど、道を辿れば敵にぶつかる。
そして私達、いや、この私が見つかれば連中は必ず私を最優先に狙ってくるだろう。
何せ大目的の鍵を持っており、しかも可愛い。美少女。天才神官様とあっては当然だ。
が――
「道を行けば、の話だろう?」
言いながら、私は地図上の道――ではなく、その上の虚空を指差して答える。
「幸いこの海底神殿の出口は白冠都市の上空にある。このままここから飛んでいけばいい」
「……はぁ?馬鹿言うなよ、どうやって飛んで……」
私の言葉に素っ頓狂な声を上げたロフトを手で制すと、私は視線を祭壇よりやや外れた柱の陰に向け、問いかける。
「いけるだろう?カンナ!」
「…………は?え?あたしィ!!?」
予想外だったのだろうか、私が声をかけてからやや間を開けてから皆がカンナへ視線をやり、カンナ自身も驚いた様子で自分を指差す。
「吸血鬼なら飛べるんじゃないのか?」
「飛べっ……いや、まあ、出来るけど……そういうことじゃなくてさぁ!」
カンナは呆れた様子で溜息を吐くと、とんとん、と、床を踏み鳴らして答える。
「流れでついてきただけで協力してもらえるとでも思った?あたしは吸血鬼、魔族だよ?魔王様に協力する理由はあってもあんたらに協力する理由なんて……」
「じゃあ何でまだここにいるんだ?」
「それは……」
カンナは言葉に詰まった様子で、その場で俯く。
うむうむ、分かるぞ。味方を裏切るというのは辛いことだろう。
「だが、この私のカリスマ性に惚れ込んでしまい一緒に来たい、と思ったのだろう?ふふふ、罪な神官だ私は……そういうことなら例え魔族だろうと下僕くらいにはしてやっ」
「いやそれはマジで違うけど」
……違うの?
おかしい、てっきりこいつは私の美貌と人間性とカリスマ性に惹かれて改宗したのだと思ったのだが。
では一体なぜ……不思議そうな顔でカンナを見つめていると、カンナは再び溜息を吐き、言葉を紡ぐ。
「あたしがここに――この迷宮に来たのは師匠に誘われたからだ。師匠が行くって言ったからだ。あたしは正直なとこ魔王様のやりたいことはどうでも良い。けれど――」
カンナはゆっくりと目を閉じ、考え込むように俯くと、しばらくの後、ゆっくりと顔を上げて口を開く。
「良いよ、飛んであんたら運ぶくらいならやってあげる」
「よ~~~~~~し!ほーらな!これが私のカリスマの成せる技!」
「あんたの為じゃないっつってんじゃん!ただ、あたしは――」
カンナはそこまで言って口を閉じると、ゆっくりと首を振り、ぽつりと続きの言葉を呟いた。
「あたしは、師匠に会いたいだけだよ」
――――――――――――――――――――――――――
そして現在、あたしは背中から大きく広げた血の羽をばさりと羽ばたかせながら、眼下に立つ純白な城を空中から見下ろしている。
つい先ほどあのクソ神官達をここから降ろしてやったけれども……そう考えながら、落下の衝撃でブチ割れた城の窓を眺める。
粉々に砕け散った窓からは、僅かに窓枠に残った破片がパラパラと零れ落ちているのが見える。うわあ、これひょっとして死んでんじゃないかな。
……いや大丈夫かな。あの神官はアホだけどしぶとい、いや本当にアホみたいにしぶとい、この程度じゃ死んでないとは思う。
てか死んでてもあたしには関係ないしね、うん。
そう考えて空中で頷くと、気を取り直したあたしは羽を動かして空気を捉えると、ふわりと後ろに向かって飛ぶ。
あっちが不安と言えばそうだけど、あたしの目的はそこじゃない。
視線を城から城壁へ動かすと、そこでは均整の取れた美しい城壁とは不釣り合いな程に禍々しく、凶悪な怪物達が一点に向けて押し寄せていた。
それを確認すると、あたしも先程よりも大きく羽を動かして、勢いよく空を翔る。
空中からぐんぐん近づいていくと、怪物達が襲い掛かっている人物の姿が次第にはっきりしてきた。
まあ視認する前から分かってはいたんだけども。
同時に、怪物達の唸り声を掻き消すようにして、ぎゃあぎゃあとうるさい声が響く。
「無理に決まってんだろこんなもんよォォォ!!!!!!」
言いながら怪物達の中心にいた男――ジョーが手にした剣で魔物の首を断ち切った。
「出来てるじゃん!がんばれがんばれ!」
「気楽に言ってくれるよなあ!俺の周りの女どもはどいつもこいつも!」
ジョーの後ろに隠れるようにして浮いているシヴに言葉を返しながらも、ジョーは剣を巧みに操り、魔物の攻撃を捌き、叩き、そして斬る。
あたしから見てもやっぱり優秀な戦士に思える。力任せなようでいて臨機応変、魔物の動きを見切り、上手く虚を突いて攻撃を仕掛けている。
勿論そうは言っても、多対一の戦いなら自分の死角から攻撃を受ける、ということもあるのだろうけど……
「やばっ!カリカちゃん!上!」
「!」
何かに気付いたようなシヴの声と同時、ジョーの背後から飛びかかろうとしていた昆虫型の魔物の外殻が砕け散る。
ジョーと同様に戦っていたカリカが飛び上がり、拳を叩き付けたのだ。
魔物を撃墜したカリカはどこか満足気な表情でジョーに嬉しそうな眼差しを向けている。
「はいはい!後で褒めてやるから!!」
「♪」
そんなカリカの視線をいなしながら、ジョーは襲い掛かる狼型の魔物の牙をギリギリで剣で受けて凌いでいた。
きっと以前からこうして互いの死角を補いながら戦っていたのだろう。
とはいえ魔物の物量に押され気味ではあるが……
「そろそろだよな!おらこっちだ!」
ジョーとカリカに対する包囲が狭まってきたところで魔物達の背後に紫色の煙がボウッと広がる。
と、そちらに注意を向けた魔物の数匹が唸りを上げて煙の中へと突進する。
怒り狂ったように暴れまわる魔物達を余所に、どこから抜け出たのか、先程の煙とは離れたところにロフトがひょっこりと顔を出す。
「ジョー!俺もこれあと6回くらいしか出来ないからな!それまでになるべく減らせよ!」
「無理に決まってんだろって!!!!!!!」
言いながらもやはり上手く魔物の攻撃に耐えるジョー達を見下ろし、まあ大丈夫だろと考えたあたしは、そのまま周囲へと視線をやる。
見たところジョー達に群がっている魔物はダゴンやドラゴンのような所謂ボス級の魔物ではない。
今のところは雑兵をぶつけているだけだ。それで倒せれば良い。消耗した冒険者ならそれで充分――だった筈なのだろうけども。
あいにくジョー達は神聖術で体力だけは全回復している。
今の感じを見ていると雑魚だけで倒すにはかなりの時間がかかるだろう。
それはきっと望ましくない筈だ。
「師匠にとってもね」
瞬間、魔物達の合間を縫うように稲妻が走り――雷鳴。
圧倒的な雷光と衝撃にジョーの周囲を囲っていた魔物達のいくらかが吹き飛んだ。
「嗚呼!!素晴らしい!!愚かにも我らが王に牙を剝く愚かな人間共を吹き飛ばす美しき雷光!!王の僕たるだけのことはありますなァァ!!」
「……」
雷撃で焼かれた魔物や建材がもうもうと煙を立ち昇らせるのを眺めながら、鎧の魔術師と巨大な魚人が魔物達の海を割って歩を進める。
なるほど、如何に鍛えられた戦士でも、如何に隙を潰そうとも、乱戦の中で周囲を丸ごと吹き飛ばすような砲撃を受ければ話は別だ。
それ相手では剣の腕も鍛えられた体も関係なく、周囲ごと焼き尽くされるだけなのだろう。
ただ、それは勿論――
「あたしがいなきゃの話だけど」
瞬間、風が吹き煙が晴れると、先程雷撃が落ちた場所を包み込むように真っ赤な液状のドームが立っていた。
「ッ……!」
師匠が僅かに呼吸を乱した様子を耳で聞きながら、あたしはパチンと指を鳴らすと、血のドームはぱしゃりと溶けて、中からジョーとカリカの姿が現れる。
「っぶね~~~~……!!!やっぱこの作戦全部間違ってなかったか!!?なあ!?」
「あたしが協力する前提なのイカれてるよマジで」
呼吸を荒げて高速で瞬きを繰り返すジョーに言葉を返しながら、あたしは血の羽をしまって地上に降り立つ。
眼前には魔物の群れ、ダゴン、そして――
「久しぶり、師匠」
「カンナ」
あたしはさも当然のように、今までのように、地上で特訓をしていた時のように、にこりと師匠に微笑みを向ける。
対して師匠はいつもの鉄面皮。
嬉しがっているのか、困惑しているのか、あるいは怒っているのか、声だけでは分からない、が――
「雷槍」
いずれにせよ、相対する以上は敵だと認識したのだろう。
パチンと指を鳴らすと同時、あたし目掛けて雷の槍が襲い掛かる。
――ってのはしてくるだろうなと思ってたけど。
ボフン、どこか籠った爆発音と共に、あたしの目の前で血が弾け飛ぶ。
咄嗟に出していた血の盾だ。
「血で自らの身を守ったか。機転が利くようになったな」
「魔術は汎用性って教えてくれたのは師匠ですからね!」
言いながら、あたしは弾けた血を空中で束ねて赤い血の槍を形成すると、それを師匠に向けて放つ。
――ここからはあたしの戦いだ。