パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

91 / 92
血と雷と

 鮮やかな赤い鮮血が舞い上がり、青白い閃光が瞬くと、ぶつかり合った二つの色はぱちんと弾けてどちらも消える。

 魔力の光、ぶつかり合い弾けた光がきらきらと美しく振り落ちるが、今のあたしにはそれに見惚れている余裕は無い。

 あたしは光が消え失せるよりも早く腕を前に突き出し、指をぱちりと鳴らすと、先程弾けた鮮血が再び周囲に集まり、真っ赤な槍を形作っていく。

 

「いっけぇぇ!」

 

 形が出来上がるが早いか投げるのが早いか、とにかくあたしは集まった血の槍を師匠目掛けて勢い良く放つ。

 

「氷陣」

 

 ぱちり、と、指を鳴らす音と同時、一瞬で師匠の前に氷の壁が現れ、血の槍は氷の割れる気持ちいい音を立てて壁に突き刺さった。残念ながら壁の中ほどで止められてしまったようで、槍は師匠までは届いていない。

 あたしはちっ、と一つ舌打ちを鳴らすと、それを見た師匠が鉄仮面のまま淡々と返す。

 

「攻撃に移る動作が遅い。それでは攻撃後の隙を突かれるぞ」

 

「はいはい!ご忠告ありがとうございます!」

 

 師匠の言葉に声を荒げて返しながら、あたしは再び指をぱちんと鳴らす。すると氷の壁に突き刺さったままの槍から、あたかも地中を掘り進む根のように新たな穂先が枝分かれして生まれ、氷の内壁からバキバキと軽快な音を響かせる。

 いくら固く分厚い氷の壁といえども、氷の内部から圧力をかけられては耐えられない。結果、すぐさま氷の壁が砕け散ると、現れた血の根はそのまま師匠へ襲い掛かる。

 

「なるほど、投擲した血の槍をそこで終わらせず、更なる攻撃への布石にするというのは良い、が――」

 

 襲い来る血の根を前にした師匠だったが、しかし動じることなく再び指をぱちんと鳴らす。

 

「武器を術者自身から離しすぎだ」

 

 刹那、重く低い衝撃音が響く――よりもなお早く、青白い雷撃があたしの頭上から降り注ぐ。

 身を焼き地を抉る師匠の雷の槍、あたしがまともに喰らったら死にはしないまでも戦闘続行は難しいだろう。

 

「なので……」

 

「……!」

 

 雷撃が生み出す土煙を払い、あたしは見せつけるようにして師匠の前に姿を晒す。雷撃が落ちたにも関わらず無傷な弟子の姿を。

 

「血で身を守ったか?」

 

「教えてあげない。師匠なら弟子のやることくらいわかるでしょ?」

 

 訝し気に聞く師匠の言葉に挑発的に返すと、師匠はふむ、と、納得した様子で顎に手を当てる。

 実際のところ、あたしの操れる血の量には上限がある。

 今みたいな血の槍での攻撃と身を守る為の血の盾を同時に出すのは無理……とまでは言わないまでも結構しんどい。

 そしてそれは師匠も分かっている。分かっているからこそどう防いだか訝しんでいるのだろう。

 となれば、こういう時に師匠は――

 

「雷槍」

 

 師匠がぱちんと指を鳴らすと同時、再び閃光があたし目掛けて襲い掛かる。

 

「それは読んでるって!」

 

 あたしは追撃を読んで戻しておいた血の槍を変形させ、今度は血の盾を作り受け止める。

 師匠は何故あたしが雷撃を防げたのかを見破りたいんだ。だったらその方法を見せることは無い。

 防御に使う気で戻しておけば十分に血の盾も作れるし雷撃も防げる。

 問題は――

 

「防いでばかりでは勝てんぞ」

 

 再び師匠がぱちんと指を鳴らすと、今度はあたしの周囲を取り囲むようにして風が巻き上がる。竜巻だ。

 この竜巻は敵を取り囲んで風の刃で切り裂く術。

 要するに一方向からの攻撃しか防げない盾じゃ対応できないってことなんだけど……

 

「魔術ってのは……汎用性がキモ、なんでしょ!」

 

 言うと、あたしは周囲を囲む竜巻向けて突っ込んでいく。

 このまま突っ込めば通常であれば全身を切り裂かれてかなりのダメージを負うだろう。なのでここで一工夫。

 血をより広げ、硬度を保ったまま全身に纏う。血の鎧だ。

 盾と比べたら全身に広げている分、厚さには劣るが――竜巻の攻撃力もさっきの雷撃よりは劣る。なんてったって師匠は幅広い魔術を扱えるとは言っても一番得意なのは雷の攻撃なんだ。それはあたしが一番よく知っている。

 

「だああっ!」

 

「!」

 

 竜巻で巻き上げられる土煙の中から勢いよく飛び出したあたしは、その勢いのまま師匠に向かって駆け出す。

 魔術師の弱点は接近戦、それは師匠と言えど変わらない。

 尤も、師匠の場合はそれをカバーする為に風の魔術で宙に浮けるんだけれども、飛べるのはあたしだって同じことだ。

 お互いに飛べてお互いに鎧、となれば勝負を決めるのは――

 

「パワーでしょ!!」

 

 あたしは勢いそのまま、拳を振り上げ、師匠の兜目掛けて叩き付ける。

 

「むっ……!」

 

 鎧が鈍い音を響かせると、師匠は僅かによろめいて――けどしっかりこちらを見据えたまま、指を鳴らす。

 ぱちん

 いつもの音と同時、今度は師匠の手のひらからあたし目掛けて雷撃が走り、ぶつかる。

 雷の熱と衝撃で血の鎧は焼け焦げ、砕け散る、が、その時には既にあたしの姿は鎧の中には無い。

 雷撃が来る直前、鎧を変形させて抜け出したあたしは空中に飛び出し――そのまま師匠の兜目掛けて足を振り下ろした。

 

「ぬぐっ……!」

 

 再びの鈍い音だったが、今度の師匠は先程よりも大きく体勢を崩し、膝をつく。

 あたしは師匠のやってくることは全部わかっている。弟子だから。

 だから――

 

「なるほど」

 

 師匠はそう言うと、ゆらりと起き上がって構える。

 きっとまた雷槍だ。さっきの鎧がまだ手元に戻ってないから防げない……そんな風に考え……

 

「豪火球」

 

 ぱちん、という音と共に、あたしの予想を裏切って周囲に炎が巻き上がった。

 

「あっっっつ!」

 

 炎、しかも直線的ではなく周囲一帯を焼き尽くすような火炎が噴き出す。

 鎧があれば防げたかもしれないけど……いやでも直接的なダメージとしては大したものじゃない、まだ大丈――

 

「火球」

 

 師匠が指を弾くと、今度は拳くらいの大きさの火球があたし目掛けて放たれる。それも一発だけじゃない。師匠が指を鳴らす毎に一発、二発、三発と、いくつもの火球があたしに襲い掛かる。

 今のあたしには盾を作るだけの血は戻ってない。必然、矢継ぎ早に襲い掛かる火球を躱すしか出来ない。

 

「くそっ……血を戻せれば……!」

 

 良いんだけど、周囲の炎のせいで血を液状に戻せない。迂闊に戻すと蒸発しかねない。

 そうなるとこの場で操れる血の絶対量が減ってより不利になる。

 砕けた鎧に近づいて自分で回収するしかないけど師匠がそれを許してくれない。

 なんとか師匠の隙を作るしかないけど、その為には――あたしは考えながら火球を躱し、出来るだけ余裕のありそうな笑みを浮かべて師匠に返す。

 

「はっ!どうしたのさ師匠!その程度の下級魔術じゃ当たんないし当たっても効かないよ!それとも魔力がぼちぼち切れた!?」

 

「そう思うか?」

 

 まさか、師匠の魔力がそうそう簡単に切れてたまるか。というか、魔力切れ近いから軽めの魔術でセーブしようなんていう人じゃない。

 

「違うんだったら雷槍でも撃ってごらんよ、あれくらいじゃなきゃ当たんないよ」

 

 事実、師匠の雷槍は早いは火力高いわの必殺技だ。他の術ならともかく、あれの直撃は食らいたくない。

 けど、強い技だからこそ警戒して対策を立てている。防げる。そういう確信がある。

 そうしたらその隙に体勢を立て直せる。

 

「……良いだろう。では行くぞカンナ、しっかり受け止めろ」

 

「良いよ!どっからでも来い!」

 

 師匠の言葉を受けてあたしは雷槍を受け止めるべく構える。

 さっきと同じだ。流石にまだ師匠にはバレてない筈、今の内に――

 

「火球」

 

 そんなあたしの期待を裏切るかのように打ち出された火球は、あたしの体を大きく外して飛んでいき――ボッと、軽い音を立てて何かに当たると、それを燃やした。

 

「あっ」

 

 燃えたのは血の柱とも言うべきか、単なる棒状の細く立った血の塊。

 ついさっき、雷槍が来る、と確信してあたしが少ない血を集めて立てたものだ。

 少ない血で雷を防ぐ為にはどうするか?それを考えて作り出したのがこれだ。血中の鉄分を集めて柱にして少し離れたところに立てる。あたし自身はなるべく低く身を屈める。

 すると雷はあたしより先に血の柱に向かって引き寄せられる。そうすれば直撃だけは避けることが出来る。

 まあ言ってしまえば即席の避雷針というわけだったのだけれど……それを燃やされた、やばい。

 

「ちょっ、師匠待っ」

 

「雷槍」

 

 ぱちん。

 いつも通り、何度も繰り返されてきた師匠の雷の槍。

 音より早く降り注ぎ敵を焼く青白い閃光が、今度は寸分違わずあたし目掛けて降り注いだのだった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。