……よし。
約4年ぶりのハーメルンでの投稿になります。
いつのまにか色々な技術が増えて、ちょっぴり実践してみたいと思いオリジナルの短編という形で投稿いたします。
注意:ネタ要素多めです。
追記:いつの間にか長編になっていました。
追記2:流れるコメント作り直しました(2023/09/15)
追加戦士にされたくない
俺はワルモノだ。
子供の頃に色々あって、このクソッたれな世の中と、能天気に生きているやつらの横っ面に蹴りをいれるために生きてきた。
研究所で破棄されるはずだった変身スーツを盗んだ後は、それを身に着けてさんざん悪いことをしてきたものだ。
だが、この平和な世の中に生きてるやつらもただでやられているわけでもなかった。
危険な怪人を作り出す妙な組織が現れはじめたことで、政府も妙な組織を作ったのだ。
「燃える炎は勇気の証! ジャスティスレッド!」
「流れる水は奇跡の印! ジャスティスブルー!」
「轟く稲妻は希望の光! ジャスティスイエロー!」
「「「三人合わせて! 三色戦隊ジャスティスクルセイダー!!!」」」
と、まあ、こんな口に出すのも恥ずかしい登場台詞を何回も決める戦隊ヒーローじみた変態共だ。
どこのニチアサだ。
なんで全員女なんだ。
男女比崩壊どころの騒ぎじゃないぞ!
どうせなら仮面ライダーにしてほしかったわ!
だが、怪人という存在が現れ、不安定になっている今の社会へのアピールもあったのだろう。
グッズも売られたし、色々と特集もされていたりしていた。
俺としてはそんなふざけた奴らに負けるはずがないと思っていたが、これがどうも中々に強かった。
一対一なら、俺の方が強かったが奴らは三人集まると俺と互角かそれ以上の強さになるのだ。
で、結局俺は最後の最後にそいつらに負けた。
別組織のボス、というより怪人を打倒したあと、正真正銘の最後の戦いを繰り広げた末に俺は、ジャスティス連中に敗北したのだ。
そこで俺は自ら持参した自爆装置で死ぬはずだった。
……死ぬ、はずだったのだが―――、
「くっ! 俺を殺せ!!」
「えぇ、なんで?」
どういうことか俺は、ある施設の部屋に閉じ込められていた。
俺の前には、赤い髪をポニーテイルにさせた女がおり、椅子に座りながらさっきからこっちを笑顔で見ている。
そう、俺は捕まってしまったのだ。
用意した爆弾も自称理系のブルーがあっさり解除しやがった。
その後は他の捕獲された怪人たちと同じように、監獄へ送られるかと思ったが、俺が閉じ込められたのはもっとおかしなところだった。
「どうして俺を拘束してないんだ!!」
「必要ないでしょ? 無抵抗の人には攻撃しないのは分かってるし」
「ぐ、ぐぅぅ……!」
しかも拘束すらもしてないとは危機管理が杜撰すぎるだろ。
いっつも独房に遊びにくる感覚で来てるんだぞ、こいつ……!? 誰かこいつに俺が犯罪者だって教えてやってくれよ……!
「俺をこんなところに閉じ込めてなにが目的だ! レッド!!」
「何度も言ってるでしょー。貴方を仲間にするために決まってんじゃん。あと、レッドじゃなくて私は
「誰が呼ぶか!! 友達か!!」
「私は友達だと思ってるけど」
少なくとも戦友と呼べる期間はあったが友達だった時はない。
俺の悪態に微笑ましい様子で受け流した彼女は人差し指を立てる。
「私が名前で呼ぶから、カツミくん」
「ふざけんな! 俺は許可してないぞ!!」
「じゃあ、ブラックナイト? 黒騎士? それとも本名の穂村克己くん?」
「くっ……!」
にやにやと俺のヴィランとしての名を出すレッド。
捕まったせいで俺の身元は完全にバレてしまっている。
報道で俺の本名が出ている訳ではないのが、幸いだが……。
「そもそも、どうして俺を監獄に送らないんだ!!」
「……えっ」
そんなこと言われるとは思っていなかった、といいたげな顔をしたレッドは数秒ほど思考した後に明るい笑顔を浮かべる。
「だって君、いいやつじゃん」
「なんでそんなこというんだよ……」
混じり気のない本音に思わずか細くなった声が震える。
おかしいだろ。
なんでこいつこんな目で見てくるの?
「え! だって、前にビルが倒壊したときは私達と一緒に助けてくれたし」
「それはお前らとの戦いに横やりをいれられて、仕方なく共闘しただけだ。勘違いするな」
本気の戦いに水を差された上に、ビルまで爆破するとは。
口には出さないが、あの周辺には行きつけの弁当屋があったのだ。
俺の食生活のためには失ってはいけない場所だった。
「敵の強化怪人に負けそうになったときは助けてくれたし」
「お前らを倒すのはこの俺だからな」
というより、あの程度のやつに負ける方がどうかしてる。
一時は我がライバルの弱さに呆れたほどだ。
「そもそも私達が出る前まで一般人を守ってくれたのは君じゃん」
「なんでそんなことしなくちゃならないんだ。俺はただ襲い掛かってくるアホな連中を倒してただけだ」
「うんうん」
だいたい、なんであの組織のやつら率先して俺ばかりを狙ってくるんだよ。
ワルモノなら味方とは言わないが同業者みたいなもんだろ。
本当に意味が分からん。
「イエローの弟くんと妹ちゃんのこと守ってくれたし」
「ふん、成り行きだ。そうでなくてはなんであんな京都弁と大阪弁をはき違えた似非関西弁の身内など守るか」
あの時はクソガキ共がわらわら近づいてきてどれほど面倒だったか。
クソ、俺の財布の中身を根こそぎ奪いやがって。
次会った時は覚悟してほしいものだ。
「俺の両親は小さい頃に死んだ」
「君、突然そういう反応に困ることを言うよね」
「だから俺と同じ子供を増やすとか……なんか、違うだろ」
俺がしたいのはそういうやつじゃないんだよ……!
「やっぱいい人じゃん」
「美学を持っているんだよ!!! ぶっ殺すぞ!!」
「きゃー」
わざとらしく悲鳴をあげたレッドに息を乱す。
こ、こいつ……! なんでもかんでもいい人判定くれやがって……!
「そもそも私達、同じ学校だよね?」
「あれは世を忍ぶ仮の姿だ。それにもう俺は退学してる」
「ううん、休学中だよ?」
「えっ、嘘……」
なんで休学中なの?
俺、捕まったから普通退学だよな?
「ほら、いい人!」
「いや、なんでだ」
とんでも理論すぎる。
マジでこいつ頭がおかしいんじゃないのか?
「ねえねえ、仲間になろうよぉー。なっちゃいなよぉー」
「嫌だ! お前らの仲間になるくらいなら死を選んだ方がマシだ!! 死ね!!」
「こらっ! そんな言葉は安易に使っちゃ駄目だよ!」
普通に怒られた。
あれ、同い年だよな?
「ハッ、しかし残念だったな。仮に、仮に俺がお前らの仲間になったとしてこの社会は認めるかどうかな!?」
どちらにせよ俺の評価は悪人から揺らぐことはない。
そんな気持ちも込めて言い放つと、レッドはおもむろに部屋に備え付けられているパソコンを手に取り、カタカタと操作し、それを俺に見せてくる。
「え、じゃあ、見てみなよ。君、一般人からもワルモノとして見られてないよ」
「ハッ、バカだろお前。さんざん破壊活動をしてきた俺がそんな目で見られていないはずが―――」
出されたサイトは、ニムニム動画か。
えーと、動画名は《皆で見る黒騎士くんの活躍》。
動画を開くやいなや、特殊なスーツに身を包んだ俺の姿と、コメントが流れてくる。
「お前らの世界がおかしい」
「もう、照れちゃって。可愛いなぁ」
照れてはいない。
絶望はしているけれども。
「それにツムッターも」
続けてパソコンを操作した奴がツムッターの画面を見せてくる。
なに、なぜ《黒騎士》がトレンド化しているんだ……!?
ありえん、どういうことだ?!
なにか悪い夢でも見ているのか俺は……!?
得体のしれない恐怖に包まれながらも、俺は震える指でトレンドの黒騎士をクリックする。
お | レッド@戦隊ヒーロー @@AKARED_JCAKR | X月X日 |
#黒騎士くん
#面会
#という名の勧誘
今から黒騎士くんの面会いってきまーす!
今日はどういうお話が聞けるのかなー。
とっても楽しみ!
こ 156 | aaり4554a | ♡ 99672 | aaき a |
え | イエロー@戦隊ヒーロー @Huthu_JCYE | X月X日 |
返信先 レッド@戦隊ヒーロー活動中
お買い物行ったら、私もいくでー
こ | aaりa | ♡4323 | aaき a |
う | ブルー@戦隊ヒーロー @Rikei_JCBE | X月X日 |
返信先 レッド@戦隊ヒーロー活動中
自主訓練後に向かいます(`・ω・´)ゞ
こ | aaりa | ♡ 2344 | aaき a |
「お前らのせいじゃねぇか!!」
「うん!!」
「嬉しそうにするな!?」
すっげぇ力強い頷きだな!
なぜ面会なのにこんな嬉しそうなんだよ、こいつは。
しかもこの流れだと、イエローもブルーもくるじゃん!
「それにほら、君のスレもたくさん乱立してるし」
「やめろ! 見せなくてもいい!!」
「そう? 面白いのになぁ」
残念そうにしながらパソコンを元の位置に戻すレッド。
世間一般の認識がおかしいだけで、俺はおかしくなんかないはずだ。
「報道だって、俺が捕まって喜んでたじゃねぇか……!」
「あ、それ。多分、やっと公式な立場で活動してくれるから喜んでいるんだと思うよ」
「チクショウ!!」
頭を抱えるしかない。
どうしてこんなことになった!?
「大体、俺はお前らに負けてここに捕まってんだぞ!!」
そう、俺が今いるのは収容所。
しかしただの収容所ではない。
ここは、ジャスティスクルセイダーの本部なのだ。
そこの地下の特別監視室で、俺は囚われているのだ。
「だって、しょうがないじゃん。カツミ君、ずっと旧式のチェンジャー使ってたんでしょ? あれ、私達の使う最新式よりも格段に性能が低いのに、装着者への負担がものすごいやつなんだよ?」
「だからどうした」
「君の身体は、ボロボロのはずだったんだもん。なのに頑張って捕まえてみたら全然平気ってどういうこと? 君を助けるために、本当の本当に辛い思いをしてボコボコにしてやったのにさ……」
「少しくらい罪悪感とか感じないのかな……?」
なんでこの女、ものすごく沈痛な顔して凄まじいことを口にしているのだろうか。
しかし、全然気にしたことはなかった。
だから、戦闘中に「それを使うのはやめてー!」とか「死にたいの!?」って言われていたのか……。
「それに、君ってヒーローの素質あるし!」
「ふざけんな」
「もう、口ではそんなつんけんしちゃってさー」
マジで無敵かこいつ。
全く口喧嘩とかで勝てる気がしないんだけど。
「おいーっす、きたでー」
「おじゃまします」
そうこうしているうちに、俺の閉じ込められている部屋にものすごく気軽な様子で二人の少女が入ってくる。
見るからにそれっぽい、青みがかった黒髪のボブカットの少女と、三つ編みの髪の茶髪の少女だ。
「来やがったか……! ブルー、イエロー!!」
「ブルーじゃない。
「あんたも分からんやつな。私はイエローじゃなくて、天塚 きららって名前があるの。いい加減覚えてくれぇや」
むすっとした顔でそう言い返してくるブルーと、呆れた顔のイエロー。
ブルーはともかくとして、イエローの顔にイラっとした俺は、とりあえず煽ることにする。
「うるせえ、似非関西弁が! キャラ個性のつもりだろうが、それ全然下手くそだからな!」
「なんでそんなこというの!? 酷くない!?」
こいつになら口喧嘩で勝てる。
レッドとブルーは、なんというか真正面から攻撃が吸収されているような感じがするので苦手だ。
「きららは普段はちゃんと喋ってるよ。変になるのは変身してる時と、君に会う時だけど」
「葵!?」
「やっぱ無理に個性出してんじゃん」
「う、うるさいよぉ!!」
まさか本当にキャラ付けとは思わなかった。
あれか、正体を隠すためとかそういう感じか。
意外によく考えててびっくりしたぜ……。
「まあまあまあ、落ち着いて」
イエローと俺を窘めたレッドは、椅子を用意しながら俺へと話しかけてくる。
「ここまで君がワルモノではないと言ってきたわけだけどさ。世間的には君は犯罪者なんだよ」
「当然だな。むしろそうでなくちゃ困る」
いくら勘違いされてもそれは変わらない。
なにせ、俺はスーツのプロトタイプを盗んだし、それを無断で着用した危険人物だからな。
「でも君は一般人からも人気があるの。当然、私達と同じくらいにね」
「当然じゃないよね? 全然、おかしいよな?」
否定する俺の言葉を華麗にスルーしたレッドは続けて言葉を発する。
「私達、君にはとても感謝しているの。ピンチの時とかいつも助けてくれたり、私達がいない世界を守ってくれた。私がヒーローになったのも、君が理由なんだよ?」
「え、なにそれ聞いてな―――」
「最近、不穏な流れを感じるの。新たな悪の気配を。もしかしたら、前の敵以上の強さかもしれない。私達だけじゃ勝てないかもしれない。だけど、君が仲間になってくれさえすれば、そんな心配はなくなるんだ」
レッドが背もたれに背中を預けるようにビビっている俺と視線を合わせる。
「それに、君と共闘したときはいつも安心できるの。ああ、もう勝てる気しかしないって。力でもなく、君は私達の精神的な助けにもなっているんだ。だから――」
彼女は目を細め、俺に笑顔を向けた。
その顔はいつも彼女が振りまく、愛嬌のあるヒーローの笑顔ではなかった。
「絶対に、逃がさないから」
「……」
うっすらと開けられた目は全く笑ってはいなかった。
助けを求めるようにイエローとブルーの方を見ても、ただニコニコと笑っているだけで、より一層不気味さが増してしまった。
この時点で、彼女たちがこの施設から俺を逃すつもりなんてないことを悟るのであった。
基本性能で大きく劣るプロトタイプのスーツで上位互換が相手でも一対一ならボコボコにしてくる黒騎士くん。
呉島主任かなにかかな?
Twitterのコメントマークとリツイートマークを表示できないアクシデントもありましたが、ハーメルンでしかできないような書き方ができて楽しいです。