追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

104 / 187
お待たせしてしまい義本当に申し訳ありません。
今回は主人公視点でお送りします。


新坂家から日向家へ

 アカネの家に住まわせてもらってから一週間。

 天塚家と同じく騒がしくも楽しい日々を送らせてもらったわけだが、今日でそれも終わり今度は葵の家に移動することになった。

 実家が神社だというどう考えても普通ではない彼女の家。

 少し……というよりかなりの不安を抱えながら、荷物をまとめた俺は玄関にて新坂家の面々に見送られていた。

 

「カツミ君、一生ここに住まない?」

「私たちは君を歓迎するわ……!!」

 

 もう執念を感じるほどにアカネの姉二人に止められている。

 流石にヒモになるつもりはないので、柄にもなく気遣いながらやんわりと断りつつ、助言のようなものを送っておこう。

 

「俺が言うのはなんですけど、お二人は少ししっかりした方がいいかと……」

「「がはっ……!?」」

 

 見えない衝撃を受け膝を屈する二人。

 そんな二人を見て、晴れやかな笑顔を浮かべた紫音さんが歩み出てくる。

 

「よく言ってくれた。このバカたれ共に必要だったのはその言葉だった」

「は、はぁ……」

「ま、この子たちではないが、帰りたくなったらいつでも来てもいい」

 

 最初に会った時と同じように頭に手を置かれガシガシと撫でられる。

 ……大抵の怪人の攻撃に動じることはなかった俺だが、不思議と面を食らってしまった。

 

「わんっ!!」

「きなこもまたな」

 

 足元までやってきた犬、きなこを撫でる。

 最初からこの時までずっとなつかれたままだったな……。

 その後、改めて新坂家にお礼の挨拶を済ませた後に、見送りについてきてくれるアカネと共に家を後にした。

 

「さすがにここまで変装してるとバレないね」

「そりゃ当然だろ」

 

 時間的に夕暮れの手前くらいの時間帯なのでそこかしこに人がいる。

 姿を知られている俺が普通に出れば気づかれてしまうだろうが、当然変装しているわけだ。

 深く被ったニットキャップに口元を隠すように巻いたマフラー、冬には少し早いがこれで正体がバレることはないだろう。

 

「……そういえば記憶を失った頃に、変装してたな」

「そうなの?」

「二番目にシロで変身した日だったな。ハクアと買い物に出かける時に、変装しろって言われた」

「……へぇ、そうなんだぁ」

 

 当時は意味が分からんかったが、あれは俺の正体を明かさないようにしていたと考えてもいい。

 結果として俺はどうあがいても戦う運命にあったが、あれは彼女なりの気遣いでもあったんだろう。

 

「今思えば、どこかに出掛けたがるのもアルファん時とそっくりだったな。そういう意味でも姉妹ってやつだったんだな……」

「そうだね。似た者同士だね。……今、二人で一緒に住んでいるし、今度顔でも出しに行こうかなっ!」

 

 なんだろうか、笑顔のはずのアカネから妙な気迫のようなものが伝わってくる。

 ……まあ、いいか。

 

「あ、そういえば、その時公園で怪しい三人組を見かけたわ。まあ、お前らなんだけど」

「気付いてたの!?」

「あんときの俺記憶失ってお前らのこと知らなかったし、普通に変な三人組かと思ったぞ。一人、妙なダウジング持ってたし」

 

 それほど心配をかけさせていたとも言えるが。

 思いもよらなかったのか驚きの表情を浮かべるアカネに苦笑する。

 


 

「よくもこの私をここまで待たせてくれたものだ……」

「時間通りなんだが」

「てか、やってきたのは葵だよね?」

 

 待ち合わせの駅前に到着すると、その直後にやってきた葵に出合い頭にそんなことを言われる。

 

「私は一週間待った。アカネ、貴様に敗北を喫したその日から……!!」

「ねえ、見てカツミ君。シザリガーに屈した負け犬がなにかほざいてるよ。あははっ! 無様だねぇ!!」

「おのれぇ!」

 

 最早キャラ崩壊しながら腕をぐるぐるとさせてアカネに向かっていく葵。

 その間に入り止めながら、ため息を漏らす。

 

「おい、俺を挟んで喧嘩すんな」

「きゅん」

「ときめき音を鳴らすな……」

「じゃあ、なんの音がいい?」

「どういう思考回路ならそんな質問ができるの……?」

 

 もう異次元レベルじゃん。

 まともに会話できてること自体が奇跡くらいに次元が違う。

 

「次は私ん家」

「なあ、もうホテルとかでよくないか? さすがに他の家に迷惑をかけるのも―——」

「カツミ君。……君が来なかったらもうジャスティスクルセイダーは今日を以て解散すると思った方がいい」

「どんな覚悟でここにいるのお前……?」

「正直、葵の言うことも分かる」

 

 なんでお前も分かるの……?

 困惑するどころか葵の言葉に頷いているアカネにも困惑する。

 ……まあ、ここまで来れば仕方ないか。

 

「はぁ、分かった。ついていくから」

「ん」

 

 あちら側の家族が了承してんなら俺からは何も言わない。

 カバンを肩に抱えなおした俺は、アカネへと向き直る。

 

「じゃ、ここまでありがとな」

「次はいつ来るのかな?」

「気が早くない……?」

 

 ついさっき出たばかりなのに……?

 しかも屈託のない笑顔で言うもんだからなんとも答えにくい……。

 

「まあ、いつかな」

「次の五日ね。分かった」

「言葉って難しいなぁ、おい!!」

 

 こいつぜってぇ分かってんだろ。

 そんなやり取りを交わしながらアカネと別れ、葵についていく。

 実家が神社をやっているという葵の家。

 いったいどんな場所なのか……正直、気にはなっている。

 


 

 電車を乗り継いだ先の駅から15分ほど歩いた先に葵の実家と思われる神社があった。

 都会にあるとは思えない林に囲まれた場所に存在している神社に入ると、まず最初に歴史を感じさせる鳥居に石畳が視界に入る。

 それらの先を歩いていくと本殿があり、ここもかなり大きい。

 

「もしかして由緒正しい神社とかなのか、ここ……?」

「そうらしいね」

「なんで他人事なの?」

 

 お前ん家だよな?

 ふわふわな応答をする葵にツッコミをいれつつ、本殿の裏手から少し離れた建物へと向かっていく。

 ……多分、ここが家なんだろうが……もうこれ屋敷だよな……。

 

「どうぞ、上がって」

「おう」

 

 玄関から入るように促された先の部屋。

 そこに顰め面をした男性が腕を組み、無言のまま座っているのが見える。

 

「これはお父さん」

「え……」

「彼は前に話したカツミ君」

「うむ」

 

 それだけ説明した葵はそのまま母親を呼びに行くといって部屋を離れて行ってしまった……っておい待てぇ!!

 こんな重苦しい雰囲気の中で俺を放置していくなァ!!

 

「君がカツミ君か」

「っ、はい。今日からお世話になります」

「ああ」

 

 寡黙な人なんだな。

 最初に顔を合わせた時の葵を思い出させる。

 

「君のことは、聞いている」

「そ、そうなんですか……」

「ああ」

「……え、えーっと、どんな風に聞いているんですか?」

「それは、言えん」

 

 なんでだ……!?

 葵はいったい父親になんて話したんだ!?

 変なこと吹き込んでねぇだろうな……!?

 

「……」

「……」

 

 しかも気まずっ……。

 会話が続かず謎の居心地の悪さに別の意味で吐きそうになる。

 え、こ、これ怒ってないよな?

 よく思われてないなら別にホテル暮らしでも別にいいんだが?

 

「ん、お母さんもう少しで帰ってくるって」

「「ほっ……」」

 

 葵が戻ってきたところで、なぜか俺と同じタイミングで安堵の吐息を漏らす葵の父。

 

「カツミ君。今から部屋に案内するから玄関の荷物を持ってきて」

「分かった」

 

 座布団から立ち上がり、荷物の置いた玄関へと戻る。

 ああいう人のことを寡黙っていうのかもしれないな、うん。

 

『それで、なんでそんなに威圧感出してるの?』

『なに話していいか分からなかった……。怖い人だと思われたらどうしよう……』

『鬱陶しいからもう下がっていいよ?』

『酷い……!』

 

 しっかし、本当に広い家だな。

 きららの家も大きかったけどここはそれ以上だ。

 そのまま葵に案内され、しばらく俺が世話になる部屋にまで案内してもらったわけだが……。

 

「部屋広くないか……?」

 

 ふすまを開いて通された先の部屋は和室になっており、テーブルや座布団など先日旅番組で見た旅館の一室を思わせる光景が広がる。

 どうみても俺一人で使っていいように見えない部屋に、若干しどろもどろになりながら葵へと振り返る。

 

「元々は客間に使ってた部屋。今はあんまり使ってないから気にしなくてもいいよ」

「なんか悪いな……」

「気にしなくてもいい。ここが君の部屋になるんだから」

「……ん?」

 

 今、なんか言葉がおかしくなかったか?

 いや、間違いではないんだろうが……なんか怖いんだが。

 

「タンスは空いてるからそこに着替えとかいれるといい。夕ご飯になったら呼ぶ」

「おう、ありがとな」

 

 ともかくとして立派な部屋を貸してくれたことには感謝しなければならないな。

 というより、人生で一番広い部屋に泊まるんじゃないかってくらいに広いんだが。

 

「……なあ、プロト」

『んー?』

「広すぎて逆に落ち着かねぇ……」

『カツミ、ずっと狭いところに住んでたからたまにはいいんじゃない?』

 

 ……それもそうか。

 住めば都って諺? もあることだしな。

 大きな窓を開けると、広い庭が広がっておりこの時点でもアカネときららの家とは違うのが分かる。

 

「これも、一般家庭なんだな……」

『それは違うと思う』

 

 今まで普通の家というものを知らなかったので、こういう機会に恵まれることはかなり喜ばしいことなのかもしれないな。

 


 

「カツミ君。夕ご飯」

「分かった」

 

 荷ほどきと部屋に置かれているものを確認しているうちに夜になってしまった。

 ちょうど終わったところで呼び出してくれた葵の声に立ち上がりながら、和室を出て明かりのついた廊下へと出ると……どういう訳か葵は居間のある方とは逆へと進んでいく。

 

「ん? そっちは居間とは逆方向じゃないか?」

「妹も呼びに行くの」

 

 そういえば前に言ってたな。妹がいるって。

 てっきりこいつは一人っ子だとばかり思っていたので地味にびっくりしていた。

 

「どんな子なの?」

「私に似てる」

「おっふ……」

「……なんでそんな絶望した声が漏れだしたの……?」

 

 葵に似ているとか胃がもたれそうなんだが。

 一人ならまあ大丈夫だろうなとは思うが、二人いると考えると色々と辛い。

 俺は果たして葵×2という理不尽な現実に立ち向かえるだろうか。

 

「私に似て可愛いよ」

「そうなのか」

「……」

「照れるなら最初から言うなよ……ッ!!」

 

 こっちが反応に困るんだが?

 なんか妙にテンション高いな、浮足立ってんのか?

 そんなことを思いながら階段を上り二階へと上がると、一つの部屋の前で葵が立ち止まる。

 

「ここ」

「へぇ」

 

 二階は普通にドアなんだな。

 二階も広い造りなのかいくつも部屋が見える。

 

「じゃ、カツミ君。呼んでみようか」

「いや、なんでだ」

 

 なぜ俺に呼びに行かせる。

 見知らぬ男を部屋に入らせることも駄目だし

 

「挨拶とかしてないでしょ?」

「たしかにそうだが」

 

 そもそもこの時間になる前に教えてくれてもよかったのでは?

 

「妹の名前は蒼花(あおはな)ナオ」

「……苗字も違うのか?」

「あっ。……呼び捨てでいいよ。その方が慣れてるから」

 

 下の名前で呼ばれることを慣れている……?

 いったいどういうことだ?

 いや、こいつの妹という時点でかなりの変わり者の可能性は高い。

 

「なんか配信中って札があるんだが」

「ああ、気にしなくてもいいよ」

「“勝手に入るな”とも書いてあるんだが」

「私が許可する」

 

 暴虐がすぎないか?

 扉に掛けられた『配信中』という札を裏返す葵に首を傾げる。

 配信中ってなんだ?

 

「この部屋に入る上で絶対に守らなきゃならない掟がある」

「お、おう?」

「本名を口にしてはいけない。私の名前を口にするときはブルーと呼称すること。アカネときららも同じ」

「……わ、分かった」

 

 意味が分からんけど言う通りにしておこう。

 

「妹は独り言が多いから気にせずに話しかけてね。あと声は大きめに」

 

 独り言が多い……?

 本当に大丈夫なのだろうか。

 

「プロト、前に送ったメッセージの通りにサポートよろしく」

『……むぅ、面倒くさいけど……分かった』

「?」

 

 プロトに話しかけた葵に首を傾げていると、彼女がおもむろに扉を手に掛けた。

 

「聞こえてなさそうって時は肩を叩いて。それじゃ、レッツゴー」

 

 遠慮なく扉を開けたな、おい。

 開け放たれた扉から、少女の声が聞こえてくる。

 

「———今のところコラボはしないかな。当分は一人で進めたいし」

 

 ほ、本当に独り言を喋ってる……!?

 明かりのついた部屋でえらくごついパソコンの前で何かを話している少女の後姿を見て動揺する。

 

「武器はなにを使う? 遠距離が好きだからボウガンかな」

 

「おーい。ナオ、でいいんだよな?」

 

「お姉ちゃんは分からない。でも多分、来たら変な武器しか使わないと思う」

 

 よく見たら頭に何かをつけている。

 これは……なんだ? 両方の耳を覆うようにしているが、競技用に使う耳栓的なやつか? たしか、イヤーなんとかって名前だったような気がする。

 それじゃあ耳栓をして独り言をつぶやきながらパソコンで作業しているってことか。

 

「まさか、これが最近の学生の流行りってやつなのか……?」

『絶対違うと思う……』

 

「え……別の声? 誰の?」

 

 気づいていないようなので葵に言われたとおりに軽く肩を叩く。

 すると、やや不機嫌そうなため息と共に葵の妹は椅子を回しこちらへと振り返る。

 

「……お姉ちゃん。今、配信中だから悪戯はやめてって前に——」

「あー、ナオ、だよな?」

 

 こちらを振り向いた葵の妹は、確かに姉とそっくりな顔立ちをしていた。

 違う点があるとすれば姉と比べて長い青みがかった黒髪と、上下のジャージを着ていることだろう。

 

「もう知ってるかもしれないけど、今日からここでお世話になることになった穂村克己だ」

「……」

「……えーっと、君の姉に頼まれてきたんだけど……夕ご飯ができたって」

「……」

 

 ……微動だにしないんだが?

 俺の顔を見て石像のように固まった彼女に首を傾げながら、顔の前で手を軽く振って反応を見る。

 十秒ほどして目に光を取り戻した彼女は、絞り出すような声を発した。

 

「かつみん?」

「いや、カツミだけど」

「……」

 最初からあだ名ってすごいな。

 別段気にしないが、やはり葵の妹なんだな。

 

「……ん?」

 

 

 

□    ライブ
 
     

 

上位チャット▼

xxxxx !!?

xxxxx !!

a xxxxx は!!?

S xxxxx 黒騎士くん!??

D xxxxx 悪ふざけ……じゃない!?

E xxxxx !?

Q xxxxx 男の声!?

a xxxxx は!!!!!????

D xxxxx マジ!!?

F xxxxx !

C xxxxx

xxxxx どういうこと!?

L xxxxx えっ!?

A xxxxx なんで!?

E xxxxx この声の感じは!?

w xxxxx やb

S xxxxx さらっとカツミん呼び笑

X xxxxx

K金崎レイマ(エイリアン)

10000円

!!!?????

a xxxxx

u xxxxx やっば

io xxxxx

w xxxxx

K xxxxx いったいなにが起きてるんだ!?

H xxxxx カツミくん!?

Rジャスティスレッド

10000円

なんで出てるの!?

S xxxxx 配 信 事 故

xxxxx ほ、本人だぁ!

Yジャスティスイエロー

5000円

ブルーやったなお前

xxxxx 勢ぞろいで草ァ!!

xxxxx 黒騎士くん乱入とかあるんか……

l xxxxx 盛り上がってまいりました

A xxxxx

 

♯UTOPIA

UTOPIA:オープンワールドで歩き回る[蒼花ナオ]

 XXXXX人が視聴中
高評価低評価共有保存 …

蒼花ナオCHANNEL 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数XXXXX人

 

 あ、これ知ってる。

 こっちの小さいノートパソコンに映ってんのは前にななかに見せてもらった動画サイトだろ?

 なんかすごい勢いで文字が下から上に流れているが、二つも同時に使っているなんてすげぇな。 

 

「———ハッ!? ァハァン!?

「んん!!?」

 

 突然、身体を震わせてテーブルに突っ伏したナオにびっくりする。

 その際にマイクのようなものがこちらに倒れたが、彼女はそれにも関わらずまた独り言をつぶやき始める。

 な、なんだ……?

 

「お、おおお落ち着け私。ついに妄想が現実に出てきたとしてもそれは単純に私の頭がおかしくなってきただけでこの場にあの人が出てきたわけじゃない。正気になれ正気になれ正気になれ……!! リスナァァ!! 私はなにも聞こえてないし見ていない!!」

「……大丈夫か?」

 

 猛烈な独り言を口にした上になぜかパソコン画面に怒鳴り込むナオにちょっと引く。

 一応、無事か声をかけるとどこか自信のない声と共に彼女がこちらへ向き直る。

 

「……え、本物?」

「俺の偽物がいたらそれはそれで嫌なんだが」

 

 なっても理不尽な目にしか遭わないだろ。

 ルインっていうとんでもねぇ疫病神に目を付けられてるわけだし。

 

「……。え、はぁぁ!? な!? ほ、穂村さん!? なんでここに!?」

「別にかつみんでもいいぞ」

「公式!?」

 

・あああああああ!!?

・意外とノリがいいの笑う

・これ絶対姉の悪戯だろ

・草

・ブルーはそういうことする

・いいのぉ!?

・かつみんオッケー!!?

 

「あ、あのか、かっ、かっ……ァッ、カ……ァッ……カッ……ァ

 

・死にかけの悟空みたいな声出してて草

・草

・草

・配信乱入!?

・待って今来たけどどういう状況?

・え、誰これ男!?

・マジで死にかけ悟空www

・もうトレンド上がってて草

 

 なんか画面で猛烈な勢いで文字列が下から上に上がっていっているがなんなんだろうか?

 もしかしてこれがプログラミング画面ってやつ……?

 

「か、キャツミさんはどうしてここに?」

「カツミンな」

「ヒィンッ」

「……いや悪い。からかっただけだから、お、おい……本当に大丈夫か?」

 

 打てば響くくらいに反応が返ってくるので思わずからかってしまった。

 ウマみたいな悲鳴を上げてのけぞりかけながらも耐えた彼女に、この場にいる理由を話しておく。

 

「事情があって今日からここに居候させてもらうことになったんだ。……家族から聞いていないのか?」

「……。おいコラ!! バカ姉ェ!!!」

 

 唐突に扉にいる葵に怒りを向けようとするナオだが、驚くべき速度で扉が閉められる。

 なんかスマホのようなものも見えたが……どうやら扉の隙間から様子を伺っていたようだ。

 

「でも居候だなんて……そんなっ、まだ早いです!!」

「早いとか遅いとかあるのか……?」

 

・ひと昔前のラノベみたいな状況で草

・黒騎士君なら許す

・前代未聞の配信事故すぎるwww

・草

・これ配信されてるの忘れてない……?笑

・草

・草

・まったく黒騎士くんはしょうがないやつだ

・なおなおが重度の黒騎士オタ勢なのは羞恥の事実だもんな

 

「あ、あああ、あ、姉と付き合っているんですか!?」

「付き合うって……なんでだ? いや、事情があって住んでたアパートが事件現場になってて帰れなくなってな。俺は別に適当な場所でよかったんだけど、レイマ……社長に頼まれた」

「社長さんが? どうしてですか?」

「ジャスティスクルセイダー内で戦争が起きるかもしれないって……」

 

・家に帰れないって怖ぁ……

・社長苦労しすぎじゃない?

・どうしてそうなったのか分かってなさそうw

・黒騎士くんが悉く小学生みたいな思考で笑う

・え、待って辛い

・家 な き 子

・出待ち勢のせいで本人に迷惑がかかってるじゃん……

・事件現場呼ばわりは草

 

 

 さっきからちらちらと爆速で流れていく画面が気になるな。

 なんだか興味も湧いてきたので、話題を逸らすがてらナオの背もたれに手をつき、パソコン画面をのぞき込む。

 

「これがPCゲームってやつなのか……」

「ふやい」

 

 すっごい腑抜けた返事が返ってきた。

 心なしか目が虚ろなことが気になるが、とりあえず会話を交わしてみよう。

 

「へぇ、機械とかに強いんだな」

「ま、毎日触れてますから」

「俺はその辺疎いから素直にすごいと思うぞ」

「ひぃん……」

 

・ギャルに絡まれたオタクみたいな反応で草ァ!

・限界オタクと化してる……

・草

・なんでブルー宅にカツミくん怨念!!

・とんでもねぇコラボ

・どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!

・実の姉より甘やかされてて草

・草

・クール系の面影がないやんけ!!笑

・事故コラボが面白すぎる

・妹派は正しかったことが今証明されてしまった

・かっこいいクール系だったナオナオはもういない

 

「で、えへへ……カツミさんはゲームとかよくやるんですか?」

「やるのは最近になってからだな。……ん?」

 

 今、気づいたが画面に端の方になんかのキャラクターが映し出されているような気がする。

 まるで普通の人間のように口元とか顔が動いているから、アニメーションかなにかだろうか?

 

「ん、このキャラクターはなんなんだ?」

「へ、あ、えーと、もう一人の私というか……ど、どうですか!?」

「どうですか……?」

 

 なにが?

 デザイン的なあれ?

 うーん、見た目は顔とかを露出させたブルーのスーツに似ている。

 青い髪色に近未来的な装いに身を包んだ女性キャラクターを見た俺は、正直に感想を口にする。

 

「可愛い……んじゃないか? 俺は好きだぞ?」

「もう私、ここで死んでも本望です」

「なんで……?」

 

 どういう情緒……?

 ものすごい勢いで感情が切り替わっていくナオに戸惑いしか抱けない。

 しかし、ふとパソコン画面を見たナオの動きが止まり、その表情を一気に青ざめさせる。

 

「……あっ、しまった」

「どうした?」

「き、緊急事態につき本日の配信はこれにて終了ォ!! お疲れさまでしたっ!!」

 

 かたかたかたー、とすごい速さでキーボードを叩き、一息ついた彼女は妙に爽やかな笑顔と共にこちらへ振り向いた。

 

「どうしたんだ?」

「気にしなくても平気です。姉のせいで事故には慣れているので」

「お、おう」

 

 なんだろう。

 この子も葵に苦労させられてんだなぁとは思った。

 するとタイミングを見計らったのか、音もなく扉を開けて入ってきた葵がどこかドヤ顔で俺達の元へと近づいてくる。

 

「妹よ。サプライズは喜んでくれたかな?」

「カツミさん。少し席を外してもらっても構いませんか? 私はちょっとこの姉に話があるので」

「分かった」

「あれれ?」

 

 葵よ、さすがに妹に伝えていなかったのは駄目なので、素直に怒られた方がいい。

 扉の外で待っていようと考え、その場を歩きだす。

 

「あ、カツミさん」

「うん?」

「私の名前、日向晴(ひなたはる)っていうんです。ナオって名前もある意味間違っていませんけど、ここではそう呼んでください」

「おう、分かった」

 

 ……ん? この子、俺と同じように名前が二つあるのか?

 あれか? あだ名とかミドルネームとかそういうのか?

 最近の学生のブームはよく分からないけど、変わっているなぁ。




ブルー家編突入……!
ブルーの妹であるナオもといハルが最大のドッキリをかまされるお話でした。
彼女はブルーの手により何度か配信中に悪戯を仕掛けられているので慣れています。


ほぼ同じタイミングで
【外伝:隣の黒騎士くん】の最新話の方を更新させていただきます。

第七話『みんなで笑顔に』

黒騎士くんVS催眠怪人スマイリー編を今話にて登場した日向晴の視点でお送りさせていただきます。
加えて、オメガ、スマイリーについての追加の設定なども描写させていただきました<(_ _)>

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。