追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。

社長視点の配信回となります。
特殊タグを結構多用しているのでその部分については注意です。

今回はちょっと長めです。


閑話 コラボ配信回

 とうとうブルーがやらかした。

 

 彼女は定期的に我が社の広報担当兼黒騎士のイメージアップを担うVtuber“蒼花ナオ”こと日向晴に配信中にドッキリをかますということを行っているわけだが、今回に限ってはその度合いが段違いにえぐかった。

 日向晴の恩人であり、デビュー当時からの推しである黒騎士、カツミ君をまさかの配信中に向かわせるという暴挙。

 その衝撃は私だけではなく多方面に及んでしまったわけだ。

 

 幸いなのはその余波が強すぎたということもあるのだろう。

 

 “黒騎士、蒼花ナオ宅に居候!”

 “スキャンダルか!? 正義の味方の裏の顔!!”

 

 などなど、炎上という名の種火に油を注ごうとする連中がいた。

 本来は私が色々と手を回して対処すべき案件ではあったが、それらはさらに上回る話題性という濁流によって、種火は燃え広がることなくあっさりと鎮火したことでその必要がなくなってくれた。

 ここはむしろ膿を焙りだしてくれたことをブルーに感謝しておくべきだな。

 この状況で不穏な動きを見せたところはきっちりとマークできた。

 

「味方のはずの地球人に妨害を受けるわけにはいかん。害意を向けてくるならば、相応の反撃をさせてもらうつもりだ」

 

 彼らは地球を守るために命を懸けて戦っているのだ。

 守られている民衆に石を投げられるなんてことがあれば、カツミ君たちが許してもこの金崎レイマは絶対に許さん。

 徹底的なイメージアップにより、人々には味方でいてもらわなければならない。

 

「ふふ。この予期しない配信事故。存分に利用させてもらおうではないか」

 

 しかしここでてんっさいマッドサイエンティストで敏腕社長である私はこの状況を利用する手を考えた。

 律義にも、ルインがこちらの本部完成まで襲撃を抑えている間に、なんやかんやで公開するタイミングを失った情報を出してやろうじゃないか。

 本来はもっと正式な形で公開するべき案件なのだが、当のカツミ君の過去を考えると下手なインタビューなどはマイナスでしかない。

 

「なのでここで黒騎士×蒼花ナオのコラボ配信という形を行う采配よ。ヴェーハッハッ!! この神の如き采配に慄くがいい視聴者共!! ぶっちゃけさらなる事故が起こる予感がするが、ピンチをチャンスにしてこそ社長たる所以!!」

「主任! うるさいので黙ってもらってもいいですか!?」

「レイマ、純粋にうるさいので静かにしてくれ」

「はい、すみません……」

 

 私の部下たちはいっつも私の大声に厳しい。

 目下の臨時拠点である廃ビルの一室にて、端末を前に機器の調整やらを行っている大森君とグラトの姿を確認した私は映像越しに移るカツミ君とブルー妹こと日向晴の姿を見る。

 こちらが行うのはブルー宅の生放送を経由して放送すること。

 本来なら本部のスタジオで配信できたのだが、生憎この仮拠点の設備は機密だらけな上に、純粋に狭いのでこのような形式をとることになった。

 

「日向君、そちらの準備はできているかな?」

『もうちょっとだけ待ってもらってもいいでしょうか?』

 

 設置したカメラ越しに確認をとる。

 カツミ君は……せわしなく機器を見回している。

 

「ブルーの妹は普通にしているけど、かっつんは緊張してるね」

「カツミ、本当に大丈夫なのかな」

 

 同じ部屋には映し出された映像を見守るアルファとハクアもいる。

 姉妹仲良く、と言うと少し変な感じにはなるが、二人並んで座っているのを見ると不思議とそっくりに見えてしまう。

 

「社長、ブルーは今もかっつんの家にいるの? また変なことしないと限らないと思うけど」

「その点は安心するといい。既にブルーはレッドとイエローに捕獲させているので、この配信に割り込む心配はない」

 

 多少のハプニングは構わないのだが、外ならぬレッドとイエローの強い要望でブルーは配信に割り込めないように捕縛されることになった。

 

『葵のバカはどこ行った!』

『捕まえ次第折檻やァ……!』

 

 それはもうものすごい気迫でブルーを捕縛しに向かっていたからな。

 最終的にはプロトに協力してもらいLINEでおびき寄せ捕まえたらしいが、その顛末は無駄な駆け引きが行われたと言っておこう。

 


 

< 日向葵

 

 
既読1

17:22

葵、いるか?

 

どしたの? 17:23
      

line、普通に使えるようになってたんだね 17:23
      

 

 
既読1

17:23

大事な話があるから本部まで来てくれ

 

大事?アカネときららも呼ぶ? 17:24
      

 

 
既読1

17:24

できれば二人きりがいい

 

くぁwせdrftgyふじこlp 17:25
      

 

 
既読1

17:34

葵?

 
既読1

17:34

どうした?

 
既読1

17:34

なにかあったのか?

 

すgにいきゅ 17:35
      

すぐに行く 17:35
      

 

 
既読1

17:35

待ってる

ずっとな

 

ふぁい 17:36
      

 

+□

 

『お、おおお、お待たせぇ……』

『ウェェルカァム……』

『いらっしゃーい』

『……。え?』

 

 ———レッドとイエローの策に嵌り、仮拠点へとやってきたブルー。

 次の瞬間には彼女は待ち構えていたレッドとイエローに捕縛された。

 椅子に座らせられ、レッドとイエローに見張られた彼女は己の失態に呻く。

 

『こ、このブルーが! 近距離パワー型共に後れを取るなどぉぉ……!! 乙女の純情を踏み潰してなにが楽しいかッ!!』

『私はお姉ちゃんに潰されたからお相子だね!』

『私も母さんになぁ。だからなーんも心が痛まへんわ』

『この羅刹共……!!』

 

 お互いがお互いをけん制し合う。

 その上で良好な関係を築けている上に、今後もその関係性が揺るがないと断言できるのはある意味ですごいとも言える。

 

『大人しくここで配信見ようねっ! 大人しくねっ!』

『そうやねぇ。これ以上の好き勝手はお天とうさまが許しても私が許さんわ』

 

 よほど日向君の配信乱入に肝を冷やしたのか、レッドもイエローも配信終了までブルーを解放するつもりはないようだ。

 

『か、カツミ君はこの件に関与しているの……!?』

『ううん、あれプロトにやってもらったから』

『よ、よかった……。あ、だから異様に返信が早かったんだ。……ハッ!?』

 

 そこでなにかに気づくブルー。

 

『本当に脅威なのは私じゃない! 我が妹こそがジョーカーなの!!』

『ハルちゃんと貴女を一緒にしないでほしいな』

『あんないい子になんてこと言うの?』

『本当なの! 信じて!!』

 


 

 ———と、こんなやり取りが別室で行われていた。

 今はレッドとイエローに見張られながら配信を見ていることだろう。

 いや、なんかキャラ崩壊したブルーが必死に訴えかけていたようだが……。

 

「主任、あちらの準備が整ったようですよ」

「ふむ、では早速開始させるか。日向君も配信には慣れているからな、こちらの段取り通りに進めてくれれば何事もなく終わってくれるはずだ」

「それフラグでは?」

 

 お黙り、大森君。

 フラグというものは壊すためにあるのだ。

 とりあえずこちらからゴーサインを出して今の今まで待機させていた配信画面を開始させる。

 

 

——皆さん、こんばんわ。

 

——KANEZAKIコーポレーション公式Vtuberの蒼花ナオです

 

——本日は予定通りに19時から配信させていただきます

 

始まった!

ワクワクしすぎて震えてきた

やばすぎ

本当に来るのか

待ってた!

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

おおおお!

来た!!!!

黒騎士くーん!!!

どうなってんだこれ

視聴数えっぐ

公式でやるのか……

□    ライブ
 
     

♯雑談

【公式:黒騎士】蒼花ナオのコラボ雑談

 XXXXX人が視聴中
高評価低評価共有保存 …

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 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数XXX万人

 

 そうして時間通りに始まった配信。

 最初の挨拶と今回のコラボに関する注意事項などをしっかりと口にしていく。

 

『では、今回のゲストの方を紹介させていただきたいと思います』

 

 彼女の操作に合わせて配信画面にもう一つのアバターが表示される。

 黒いメタリックな頭部と角に赤い複眼。

 首に巻かれた赤いマフラー。

 モニター内のカツミ君の動きに合わせて動くそれは、私が作成した黒騎士くんアバターである。

 プロトワンをアバターとしてのデザインに押し込めた私の力作。

 それがカツミ君を通して動き出している姿を目にし若干感動していると、彼はややぎこちなく手を動かしながら画面を食い入るように見つめる。

 

『えー、穂村克己です。……って、うわ、本当に動いてる。どうなってんだこりゃぁ』

 

 彼の驚きを現すかのように赤い複眼が目を丸くするような形に歪む。

 フッ、この私が無駄にすんごい技術をつぎ込み、無駄に手をかけたそれはカツミ君の感情をそのままに表現する最高傑作だ。

 微細な顔認識機能で変わっていく表情差分に慄くがいい……!!

 

『カツミさん、今は黒騎士って名乗った方がいいですよ』

『そうだったな。……なんか蒼花って配信時だと性格違うな』

 

・!!?

・!?

・いきなり爆弾発言で草

・まるで裏では性格違うみたいな言い方ァ!

・草

 

『黒騎士さん相手だけですから。姉相手でも普段はこんな感じですよ』

『ん? 別に気を遣わなくてもいいぞ』

『気なんて全然使ってませんよ。あ、ナオで構いませんよ』

 

・強い

・つっっっよ

・ガチ勢がウキウキしてる

・全世界の姉派閥からの嫉妬を集めてるやつはちげーぜ……

・これ燃えるのでは?

 

 流石はブルーに鍛えられているだけある。

 恐れがまるでない。

 彼女がカツミ君に対する恩義を考えれば接し方も変わることも納得できる。

 

『こういう場は初めてと聞きますが、緊張していますか?』

『いや、実感がないから分からないんだよな』

『では、チャットとか見てみます?』

 

 日向君がカツミ君にPC画面を見せる。

 そこにはコメントなどが凄まじい勢いで流れており、現在進行中でその速度を増し続けている。

 

上位チャット▼

B追加戦士β

10000円

地球を守ってくれてありがとう!

Sナマコ怪人Z

40000円

初スパチャです

海月ウミナマコウシ

50000円

そろそろ両生類に進化できそうです

ENGINEER【ジェム】

50000円

またおうたきいてほしい

Bカチドキ旗

2300円

こんな形で出てくるとは、支援するしかないじゃない

Zアークわんこ

10000円

頑張れ黒騎士くん!

Mナマコ博士

10000円

食らえ黒騎士くん!

O列怪王

50000円

謝ッッッ!

B果汁サウザー%

5000円

待ってました!! 配信頑張ってください!!

Jアックスレイダー

10000円

うおおおおお!!

C通りすがりの一般人

10000円

いつもありがとう

U xxxxx

xxxxx 普通のコメの方が少ないの笑う

Pカニカマ大臣

1200円

本当に出てくれて嬉しい

Hフバーハ

10000円

この勢いに乗るしかねぇ!!

N猫です

600円

初スパチャです!

B一般怪人Z

30000円

守ってくれて感謝ッッッ!!

D xxxxx 赤すぎて草

Bほむら姉

10000円

お駄賃

 

『なあ、なんだこれ? コメントがあるのは分かったけど、画面がほぼ真っ赤なんだが』

『あー、えーっと、これは……』

 

 日向君がスーパーチャットについて簡単に説明する。

 話を聞き、こくこくと頷いていたカツミ君だが、徐々にその顔を青ざめさせながら彼女の顔と画面に映るチャット欄を交互に見る。

 

『お金? は? この赤いコメントの一万とかってお金なのか? どうなってんだよ、おい……!』

 

 キレ気味のカツミ君のその声になぜか急加速するチャット欄。

 まるで洪水を思わせる怒涛の赤スパに金銭感覚が真っ当なカツミ君が怯えだす。

 

『お、おい、やめろ。なんでそんなことするんだ!』

 

 迫真の様子で止めにかかるカツミ君。

 アバターも困り顔+冷や汗エフェクトを出しながらあたふたとしているが、そんな彼の声にさらにスパチャは加速する。

 

『ご、5万!? ふざけんな! 大金だぞ!』

 

『もっと大事なことに使えよ!』

 

『ぐぇっ、うわあああ!? 止まらねぇぞ!? どうすんだこれ!?』

 

・ずっとスリップダメージ受けてんの笑う

・スパチャでビンタ食らい続ける黒騎士くん笑

・一時間だけで家が建ちそうな勢い

・草

・愉悦

・お 金 で 鳴 る お も ち ゃ

・オラッ! 受け取れよこの野郎ォ! これで美味いもん食え!!

・まったくしょうがない弟君だね。はい、おこづかい

・こんな反応みれるならいくらでも投げつけてやりますよ

 

『な、ナオ! どうすれば止められるんだこれ!!』

『……』

 

・なおなおが満面の笑顔なの草

・滅多にこの表情しないのにずっとしてるやん

・草

・笑顔こぼれてる

・これはブルーの妹

・黒騎士君に悪戯できてなおなおも笑顔にできる

 

蒼花ナオ

30000円

あたふた代

 

『ナオ!? これお前!?』

『あ、すみません。つい……』

『そんな気軽に大金を使うんじゃない!!』

『今使わないでいつ使うんですか!!!』

『急に大声!?』

 

 止めた方がいいか? と思い日向君を見ればその表情は満面の笑みである。

 顔認識により反映された彼女の蒼花ナオとしてのアバターも同じく満面の笑み、凡そ普段の配信ではめったに出したことのないレア表情差分だ。

 

『失礼。取り乱しました』

『えぇ、怖い……』

 

 まるで地獄の釜の中身を覗いたようなカオス加減。

 しかしこれ以上は進行の妨げになるので、日向君に指示を送る。

 

『……。次に移りましょうか』

『あ、ああ』

 

 チャット欄を見て顔を青ざめさせたカツミ君は、視線を外して日向君へと向き直る。

 

『配信と言う形ではありますが、今は世間の皆さんに黒騎士さんのことを知ってもらうための場です。事前にアンケートを取り、一般の方から黒騎士さんへ聞きたいこと、知りたいことを集計したものがあります』

『俺のことを知っても何も面白いことなんてないと思うんだが』

 

・嘘だろ

・56時間戦い続ける男が面白くない……?

・存在そのものが面白いだろ君

・草

・こっちは聞きたいことだらけなんだけどな

 

『いえいえ、皆聞きたいことが山ほどあるはずですよ』

『……まあ、可能な限り答えはするが……』

 

 集まったアンケートの数はそれはもう膨大であった。

 その全てにカツミ君に答えさせることは不可能であったので、当然質問内容は厳選することになった。

 厳選基準は二つ。

 一つは大衆が求める黒騎士の実態。

 もう一つが穂村克己という人間個人を理解してもらうためのものだ。

 

『じゃあ、最初は簡単なものですね。黒騎士さんはなにかスポーツなどはやっていましたか?』

『いいや? 学生だった頃は部活なんてやる暇なかったし、スーツ着る前は喧嘩なんてやったこともなかった』

 

 そもそもカツミ君の黒騎士としての戦闘は格闘技が介在する余地はない。

 彼の戦いはジャスティスクルセイダーのように技術ではなく、人間の動きだけでは真価を発揮しきれないものにある。

 言うなれば、黒騎士は既に独自の戦闘技術を有していると言ってもいい。

 

『次行きますね。えーっと、社長。これ聞いても大丈夫ですか?』

 

・社長いるの!?

・変態エイリアン普通におって草

・この配信やばすぎだろ

・もう一人のガチ勢

 

 誰が変態だ。

 日向君が聞きたいのは恐らくあの質問だろう。

 今となっては明かしても問題ないし、彼女のことも既に知られているのでこの際明かしてしまおうという考えだ。

 

『大丈夫なようです。じゃあ、黒騎士さん』

『ん』

『黒騎士さんの着ていたプロトゼロは、どうやって見つけたのでしょうか?』

 

 プロトスーツをカツミ君が盗んでしまった一件だ。

 当時は問題になっていたが、この件は既にこちら側が問題を取り下げているので今となっては過去の話だ。

 なのでこの機会にプロトを身に着けた経緯を彼とプロトに説明してもらおう。

 

『プロト? プロトかー……んー、プロト、お前あんときのこと覚えてるか?』

『忘れたこともないよ』

 

・!!!?

・!!!

・喋った!!!?

・は!?

・!!

・普通にしゃべるの!?

・はい!!?

・声かわいい

 

『カツミが私を見つけてくれたの』

『見つけたって言ってもなぁ。俺も迷い込んだ建物で偶然お前んところに行き当たっただけだぞ』

『警備システムは私が止めたんだ』

『お前がやってたのかよ……』

 

 えっ、あの時のプロトゼロは外部機器から完全に遮断していたはずなんだが?

 その状態で我が社———私が手掛けた警備システムを遠隔で止めてたの?

 ……初耳なんだが!?

 

『貴方が近づいてきた時すぐに分かった』

『今まで誰一人としていなかった感覚だったから』

『他の人間が私を使うのは許さないけど』

『貴方だけは別』

『あの時の私の選択は間違ってなかった』

 

・ヒェッ

・これはアカンやつですわ

・怖すぎない!?

・無機物系ヤンデレやんけ……

・ひぇ

・かわいい(白目)

 

『ふーん、これからもよろしくな』

『うんっ!』

 

・草

・あっさりしすぎじゃない!?

・一瞬で浄化されてて草

・ふーんじゃないんだが!?

・なんで黒騎士くんやばい奴らばっかりに好かれるん?

 

『仲睦まじいですね』

 

・こっちはこっちで完全スルーwww

・おかしいだろ!

・視聴者を混乱させていく

・知ってたのか

・やば

・見どころしかない……

 

『あー、俺から聞きたいことがあるんだけどいいか?』

『何でも聞いてください』

『お、おう。なんで俺って黒騎士って呼ばれるようになったんだ?』

 

 その質問に食い気味に反応していた日向君は、我に返りながら首を捻る。

 確かに彼が黒騎士と呼ばれてはいるが、どうしてそう呼ばれるようになったかは誰も知らない。

 

『別に嫌ってわけじゃないんだけど、どうして黒騎士って呼ばれるようになったのかなって』

『うーん、多分見た目じゃないですか? あと分かりやすい呼び方が必要だったみたいですし。ほら、ブラックナイトとかあったじゃないですか』

『そんな呼び方もあったなぁ』

『今は黒騎士って呼び方で統一されていますけど、当時はたくさんあったんですよ。黒鉄(くろがね)、黒仮面、怪人殺し(ファントムスレイヤー)、仮面怪人とか。当時はネットなどで考察などがありましたからね。最初のクモ怪人の事件の時は正体不明の怪人扱いでしたけど、次のスズムシ怪人で黒騎士さんの姿が公で確認されるようになって続々と名前が出てくるようになってですね。電気ナメクジ怪人のあたりでいい意味でも悪い意味でも注目されるようになった感じで……あっ』

 

・ガチ勢の片鱗見せてて草

・かつみん引いてるんじゃないかこれ

・すごい語るじゃん

・リアルで早口…w

・草

・本気で詳しいの面白すぎる

・めちゃ早口で言ってる

 

『いっぱい知ってんだな』

『い、いえ、そそそそ、そんなことは。……き、気持ち悪いですよね』

『え? なんでだ? そんなに知ってるのすげーと思うぞ、俺』

『……』

 

・無知ゆえの純粋さよ

・オタクに優しい黒騎士くん……

・解釈一致

・解釈一致

・また姉派閥の恨みが集まりそう

・は? 私も甘やかしてほしいんだが?

・これで一作品作れるのでは?

 

『スマイリーの事件の後に調べてたのか?』

『はい。怪人から助けてくれたお礼をずっと言いたくて』

『それこそ気にしなくてもいいんだけどな』

 

・スマイリー?

・なおなおあの事件の被害者だったの……?

・さらっと衝撃の事実明かされたんだが!!

・ガチ勢だった理由ってまさか

・スマイリーとか笑えないやつ

 

 彼女が怪人スマイリーの被害にあったことは面接の際に聞いていた。

 カツミ君に恩があり、なんらかの形で恩返しがしたい。

 その強い意志と彼女自身のポテンシャルと配信慣れという部分で採用することになった。

 しかし、助けてもらったから恩を返したい、か……。

 それだけ、と言えば聞こえが悪いが、そこまでの行動に移せるのは驚嘆に値す——、

 

『……今正直に言っちゃいますけれど、実はあの時、黒騎士さんの素顔とか見えちゃったんですよね』

『え、マジで?』

 

 ……んん!?

 今、衝撃の声が聞こえたんだが!?

 日向君、カツミ君の素顔を知ってたの!?

 スマイリー事件の時点で!? 我々がカツミ君の名前どころか素顔を知る一年以上前の時点で!?

 

『路地裏で……それこそ目の前で変身してましたから』

『ブルーに話してなかったのか?』

『今日初めて公の場で話しました。社長にも姉にも、誰にも言ってなかったことです』

『へぇ、それが今こうして話していると運命じみたものを感じるな』

 

・ジャスクルゥ!! 内輪もめしてる場合じゃないぞ!?

・本物のガチ勢だった

・情報が完結しない!!!!???

・え、今の今まで黙ってたってことか?!

・誰よりも早く素顔を知ってたのは強すぎる

・認める、あんたより上の黒騎士オタはいない

・名実ともに世界一になってしまった

 

 ……少し気になったので、別室で配信を見ているレッド達の部屋を確認してみる。

 廊下を出てすぐの扉を少し開いて覗き見ると——、

 

『……』

『……』

『……』

 

 三人仲良く並んで見ていた彼女たちは配信画面を見つめたまま石像のように固まっていた。

 衝撃の事実に未だに情報が完結せず動けずにいるようだ。

 正直、私もそうしたい気持ちだ。

 アルファも白川君も同じ様子だったので、あえて触れずに部屋に戻りモニターへと視線を移すと、既に話題は移り変わっていた。

 

『黒騎士さんって一人っ子ですよね』

『おう、そうだ』

『ネットの噂ではお姉さんがいると言っていましたけど、その噂の真偽は?』

 

「ひんっ」

 

 近くで見ていたハクアが引き攣ったような声を漏らす。

 まあ、これは世間も気になっているし明かしてもいいだろう。

 どうせ白川君が全国の姉を名乗るやばいやつらにロックオンされるだけだし。

 

『あー……実の姉じゃねぇけど。姉になってた』

『えぇと、それはどういうことですか?』

『記憶喪失になった時にそいつが俺の姉を名乗って……一時期、そいつの弟として暮らしてただけだよ』

 

・は?

・は?

・は?

・これは度し難いですねぇ!

・は?

・は? 羨ましいんだが

・姉共が一斉に暗黒面に落ちてて草

・もう戦争では?

・は?

 

『はい?』

 

・質問した本人もキレかけてる……

・やべぇぞガチ勢がキレる!

・滅多に出さないブチギレやん

・自分で質問しておいてキレるなwww

・これだけ見ると完全にやばいやつ笑

 

 む、さすがにこれは次の話題に移った方がいいな。

 別段、白川君が全国の姉を名乗る謎勢力の怨嗟の目標になったとしても構わないのだが、あくまで配信はテンポ重視。

 早速、日向君に進行を———、

 

『記憶喪失の時はどんな生活していたんですか?』

 

「日向君!?」

 

 台本にない質問をし始めたんだが!?

 あ、あれ!? そんな込み入った質問するって書いてたっけ私?!

 

『どんな生活っつったって……バイトしたり飯作ったり、掃除したり、そんな大したことはしてないぞ』

『お姉さんと一緒にですか?』

『いや、あいつ私生活ダメダメだったんだよ。殆ど俺がやってたな』

 

・は?

・は?

・は?

・コメ欄が怖い……

・は?

・は?

・殺意に塗れてて草

 

『そこらへんはあいつとそっくりだったな』

 

「んひっ」

 

 ここでアルファが白川君と同じく声を引きつらせる。

 まさかカツミ君? これ配信だってこと忘れてる?

 この勢いでアルファのことを話すつもりか!? いや、さすがに認識改編までは話さないと思うが、今度こそ日向君に止めてもらって———、

 

『あいつ? あいつとは誰ですか? 詳しく聞かせていただいても?』

『俺が怪人と戦ってる時に家に転がり込んできたやつだ。ほら、俺の記憶が戻った時上から降ってきたやつ』

 

・無自覚で地雷踏んでいく黒騎士くんよ

・あの謎の黒髪美少女か

・もうなんでも喋ってくれるやん……

・なおなおのトーンが怖すぎる

・あの美少女の謎も明かされるのか

 

『へぇ、転がり込んだってどういうことですか?』

『そのまんまの意味。いつの間にかあのボロアパートに住み着いてたんだよ』

『住み着いていた……?』

『学校に通ってたときの友達から座敷童じゃないのかって言われて疑ったけどな。実際はそんなこともなかったわけだが』

 

・住み着く? 住み着くってなんだ?

・全然色気がないあたり、得体がしれない感があるんだけど……?

・え 怖い

・ほむらくん

・まさか怪人……?

・謎が明かされるどころか深まったんだが!?

・い、意味が分からんぞ!!

 

 ……い、意外と大丈夫そうだな。

 カツミ君も明かしていい事実はちゃんと理解しているようだ。

 

『まあ、今考えると黒騎士ん時も、白川克樹の時もあいつらがいてくれて助かっていたんだよな』

 

「カツミ……」

「かっつん……」

 

『どっちも結構なポンコツだったわけだが』

 

「「うっ……」」

 

 感動するも一瞬で撃沈するアルファと白川君。

 気づけば、カツミ君も緊張が解けて喋れているようだし、今回の配信は無事に終えそうではある。

 

『でも一緒に住んでても何もなかったんですよね?』

 

「日向くぅん!!??」

 

 肝心の日向君が暴走しはじめていないかこれ!?

 君、今日で我が社の広報担当やめたりしないよね!?

 もうなにもかもを恐れていない勢いの質問が本当に心臓に悪いんだが!?

 


 

 その後、無事……無事に配信を終えることができたわけだが、色々と世間に衝撃を与えてしまったことは否定できない。

 しかし、一般人に穂村克己という一人の人間のことを理解してもらえたというだけで上々の成果とも言える。

 ……。

 この反響を考えると、味を占めてみるのも悪くないかもしれないな。

 一応、白騎士アバターの作成と、レッド達のアバターの調整もしておくか。




スパチャで往復ビンタさせられた黒騎士くんと、配信事故を起こしすぎて鋼のメンタルになった日向晴でした。

日向の過去……怪人スマイリーの事件については並行して連載している作品『【外伝】となりの黒騎士くん』第七話にて描写させていただいております。

今回の更新は以上となります。

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