月並みな言葉ですが、これからも本作品をどうかよろしくお願いします<(_ _)>
そしてお待たせしました。
前半が主人公視点
後半からアカネ視点となります。
星界戦隊が占拠した区域に到着した俺たちが目にしたのは、数えきれないほどの円錐状の物体が建物や地面に突き刺さった都市の光景であった。
今は人一人いないスクランブル交差点。
一際目立つ明かりに照らされたその場所に星界戦隊の奴らが俺達を待ち構えている。
モータルレッド、ブルー、グリーンに、ヒラルダ。
イエローだけがいないことに疑問を抱きながら、戦闘機を操縦しているハクアにハッチを開けるように指示する。
「ハクア、ハッチを開いてくれ」
「分かった! 社長、一人だけ振り落とされないようにね!」
だが、俺達を待ち受けようが関係ない。
乗っているホワイト5の後部ハッチが開かれると同時に戦闘機を飛び降り、問答無用で星界戦隊の奴らを始末しにかかる。
「は!? ホムラ!?」
「私達も行こう!」
「せやね」
「とりあえず私は援護射撃だね」
呆気にとられるコスモの声に、飛行機から援護射撃を放つブルー。
その声と音を確認しながら空中を蹴り、プロトワンの最高加速で突き進む。
「ッ、黒き———」
「邪魔だ」
すれ違いざまにモータルレッドの頭部を拳で粉砕し、その勢いのまま鷲掴みにしたブルーとグリーンの頭を地面へと叩きつけ、もう一度粉砕。
———こいつらもしかして囮か? 驚くほど手ごたえがねぇぞ。
「ッ、あっは!」
残るは桃色のスーツを着るヒラルダ。
こいつの対処法はベルトを引っこ抜いて憑りつかれている人を解放することだ。
「!」
ヒラルダの目と鼻の先にまで接近しバックルに触れようとした瞬間、身体がなんらかの圧力を受けたように動かなくなる。
周りを見ればモータルレッド達の機械の残骸から超音波のような何かが放たれ、俺を拘束していた。
「———あぁ?」
『カツミ、空間に干渉させて動きを止められている!』
「対処法は?」
『思いっきり動いて!』
分かりやすい。
プロトの指示通りに力任せに身体を足を動かすと、俺の動きを止めようとしていたガジェットは火を噴きながら爆発する。
「最高出力の星界エナジーで数秒止められるのが限界とか……」
「……」
「しかも会話する余地すらない!」
もう止められないはず。
手早くバックルを引きはがして憑りつかれている彼女を解放する。
「おっと! 手を出したら駄目だよ!」
問答無用で無力化しにかかろうとすると、ここでヒラルダはいきなり変身を解いた。
触れようとしたベルトそのものが彼女と同化するように消えてしまい、手を出せなくなる。
「!」
「これで攻撃できないでしょ? 地球人ってやっぱり甘いんだね」
現れたのは俺達より少し年上に見える女性。
ややウェーブのかかった肩ほどの長さの髪。その服装もニットとジーンズというついさっきまで街中を歩いていたのかと思わせるようなものだ。
とても数か月行方不明になっていたとは思えない姿の彼女だが、その雰囲気は明らかに人のものではない。
「この姿で会うのは二度目かな? ホムラ・カツミくん」
立ち止まった俺に無警戒にヒラルダが近づいてくる。
生身のまま少しも動じた様子もない彼女は、その瞳に怪しい桃色の光を浮かばせながら下から俺を見上げてくる。
「私に手を出せない。だってそれが正義のヒーローなんでしょう? 桃子が言っていたよ」
無言の俺にヒラルダはおちゃらけたように笑いながら手元のスイッチのようなそれを俺に見せてくる。
「君の足止めはできて数秒。でも、その数秒でコレを押しちゃえばいいんだよね」
「……」
「ふふっ、君ならもう分かるでしょ?」
……周りに突き刺した黒色の怪人の起動装置か。
俺の予想通り、数秒も経たずに周囲の円錐状の物体に卵の殻のような罅が入り、黒色怪人が活動を開始しようとしてしまっている。
「順序の問題だよ。バラバラに星界怪人に都市を襲わせるか、私達と同時に星界怪人に都市を襲わせるか……どちらが状況的に厄介でしょうかって話」
……ぺらぺらと喋るが面倒だな、こいつ。
ただ身体を寄生する奴じゃない。
脳死不死身を繰り返す星界戦隊の数倍は頭が回る。
にしては、俺を倒す気が微塵も感じられないのも意味不明だ。
「どちらにしてもお前らに勝ち目はない」
「そーだね。星界戦隊には少しの勝ちの目はないね」
なにか企んでいやがるのか?
ようやく俺が口を開いて上機嫌になったのか、奴は一層の笑みを浮かべる。
「ほらほら、なにか言ったらどうかな?」
「……風浦桃子さん」
身体を乗っ取られている彼女の名を呟くとヒラルダが目を細める。
「桃子は喋らないよ? 今、喋っているのは私だよ?」
「辛い状況にいるのは分かっています」
喋ってはいないが彼女の意識は間違いなく俺を見ている。
そして今も尚、助けを求めている。
「ねぇ、私を見てよ。今目の前にいるのは桃子じゃないよ」
「もう少し待っていてください」
ヒラルダを無視し彼女の視界を通して、俺を見ている風浦さんへと語り掛ける。
あくまでヒラルダに対してはなく、風浦さんにだ。
生きたいのか死にたいのか分からねぇ奴にいちいち構っている暇は俺にはないからな。
「貴女は、必ず助けます」
「……ッ、いい加減に——」
これまで飄飄と人を小ばかにしたような笑みを浮かべていた奴が、初めてその表情を歪ませる。
苛立ちと、悲しみの感情を伝わらせた奴から後ろへと下がり距離を取る。
それと同じタイミングでアカネ達が地上へと降りてくる。
「モータル共は囮に使われたようだな」
「そのようだね。碌な武装もしていないから、多分次のあいつらが本命っぽいね」
レッドの声と同時に空から四つの光の柱が降り注ぎ、先ほど倒したはずのモータルレッド、ブルー、グリーンにイエローが地上へと降りてくる。
「そう簡単に降りれると思ってんのか?」
降りてくる奴らに拳を振るい、赤い閃光を放つ。
しかしそれはモータルイエローが展開させた半透明のフィールドのようなものに防がれる。
「強化装備越しでこの威力って……! もうやだ帰りたい……」
「さあて、舞台は整ったな!」
「久しぶりの強化装備のお披露目だぜ」
「……」
地上に降りた星界戦隊の連中は前の戦闘とは異なり、身体の各部に銀色の追加のアーマーと装備を取り付けていた。
最も目を引くのは上半身を覆うアーマー。
星界エナジーとやらを流動させ、虹色やら銀色やらのマーブル模様に輝いているのではっきりいって趣味が悪い見た目をしている。
「ヒラルダ、黒騎士の足止めご苦労! これで状況を五分に持っていけるな!」
「……チッ。ええ! ですがエナジーを大きく消耗してしまったので少しの間戦闘には参加できません! なので、ここはよろしくお願いしますね!」
「ああ、任せてくれ! この強化装備があれば問題ないさ!」
今すぐこいつらを潰してやりてぇところだが、もう星界怪人とやらが動き出しちまう。
奴らを無視するわけにはいかない。
一人だけの時は多少無理をしてでも星界戦隊どもを倒しにかかるところ……だが、今俺には信頼できる味方がいる。
「レイマ。黒い怪人の起動を止められなかった」
『状況はこちらでも把握している! ならば作戦は即時撃破から各個撃破へと移る! 星界戦隊はジャスティスクルセイダーに任せ、カツミ君、グリーンは、黒色怪人———星界怪人の掃討に向かってくれ!』
「了解」
こいつら不死身なだけに単純に倒して無駄だからな。
宇宙の船を狙いたいが前回の俺の攻撃を受けたからか、どうにも隠されているような気がする。
先に人命優先で行動していく。
「コスモ、俺達で星界怪人の相手だ」
「は!? ボク的にもこいつらに因縁があるんだけど!?」
「レッド、イエロー、ブルー。奴らを頼むぞ」
「分かった。そっちも気を付けてね」
「聞けよ!?」
背後を振り向き、腕をぐるんと回す。
都市のいたるところに降り注いだ星界怪人。
今からそいつらを一匹残らず殴って殴って殴りまくって殲滅する。
それが、俺とコスモに与えられた指令だ。
「やるぞ、コスモ」
「……ああ! もう! やるよ! 強引なやつだなお前は!」
吹っ切れたコスモに苦笑しつつ、視線の先で円錐状の物体から飛び出した黒い甲殻のような鎧を纏った怪人———星界怪人へ拳を叩きつけ、その上半身を爆散させる。
べちゃり、と暴走する暇を与えないまま肉片へと変えた怪人の亡骸を一瞥もせずに通信を開く。
『カツミ君! 現在ホワイト5で逃げ遅れた人々を避難させている! その間、ホワイト5に星界怪人が近づかれないように戦えるか!?』
「ああ、大丈夫だ。こっちの心配はしなくてもいい」
『かっつん! こっちで索敵したデータを送る!』
ハクアの声が聞こえると同時に視界にこの都市の地図が表示され、赤い点のようなものがいたるところに映る。
これは、ここにいる星界怪人の分布か?
『役立てるかどうか分からないけど、私もここで戦うから!!』
「ありがとな、ハクア」
彼女もこの戦場で戦ってくれていると再認識する。
俺も気合入れなくちゃな。
同じくデータが送られたであろうコスモに話しかける。
「コスモ。視界に映る星界怪人片っ端から始末する。逃げ遅れた人がいたら守れ」
「りょーかい。……お前のことは特に心配してないけど、あまり無茶苦茶するなよ」
「お前、本当に丸くなったな」
「……うるさい」
「俺を殺そうとした時とか凄かったぞ」
「その時の話をするなぶっ飛ばすぞ……!」
俺が言えたことじゃないけどな。
俺自身も怪人相手に一人で戦っていた頃よりは大分丸くなっている。
だが、そんな今の自分は不思議と嫌いではない。
軽く、深呼吸をしながら
「よくもまぁ、こんなに量産したもんだ」
「ヒラルダの奴……」
ビルの壁のいたるところに張り付いた星界怪人共。
鎧武者を彷彿とさせるアーマーを持つ巨体が一斉にこちらに飛びかかってくる光景を目にしながら、俺は仮面の奥で苦笑する。
「とりあえず全員倒せばいいんだろ! やるぞ、レオ!!」
『ガブッ!』
『
隣で鍵のようなものをライオン剣のライオンの顔を模した柄に差し込むコスモ。
無駄に豪華なBGMと音声が流れ、ライオン剣が紫色のオーラを纏う。
『
『
「いっけぇー!!」
コスモの周囲に生成された大量のエネルギー弾が彼女の咆哮に合わせて発射される。
それらは複雑な軌道を描きながら、こちらへ向かってくる星界怪人を撃ち落としていく。
「うるさくないのか、それ」
「……」
「いや、なんか悪かった」
無言で肩を震わせるコスモに色々と察しながら、意識を切り替え星界怪人へと意識を向ける。
まだまだうじゃうじゃといるが、どれだけいようが関係ない。
「数揃えれば勝てると思ってるのか?」
最大稼働させたプロトワンの首元から赤いオーラがマフラーのように伸びる。
地面が陥没するほどの力で地面を蹴り、空へと飛びあがり羽虫のように落下してくる星界怪人を花火のように拳で粉砕させていく。
一気にビルの屋上ほどの高さにまで跳躍した俺は、こちらを無機質に見上げる星界怪人に拳を振り上げる。
「怪人もどきの出来損ないが、調子に乗るなよ」
所詮は怪人を模して造られたまがい物。
どれだけの強さを有しようが、ただ数が多いだけでは俺達を倒すことなどできるはずもない。
少なくとも以前までの星界戦隊の面倒な点は母艦を破壊しない限り蘇り続ける不死性にあった。
でも今のあいつらは違う。
強化装備と呼ばれる追加装甲を身に纏った奴らはその能力を大幅に強化させて、私達の前に現れたのだ。
「星界装具により、俺達の力はさらに飛躍する!」
モータルレッドの周囲の空間が歪み、私達の身体が引き寄せられる。
引力そのものを操作し、まるで奴そのものが一つの星のような影響力を持っているということか。
「こっちの力も増してるぜぇ!!」
「!」
レッドの隣に立ったモータルグリーンが地面に手をついた瞬間、奴を中心に毒々しい緑色のガスが放出される。
これはまずい……!
「イエロー!」
「分かってる!」
前に出た彼女が電撃を纏わせた斧を振り上げ、こちらに迫る毒ガスを薙ぎ払う。
しかしその際に僅かにガスが斧の刃に触れたのか、まるで酸化するように刃の部分から斧が朽ちていってしまう。
「わわっ!? 触れるのは駄目っぽい!」
あざとい悲鳴と共に最早使い物にならなくなった斧を敵に投げつけたきららは新しい斧をチェンジャーから取り出す。
「ブルー!」
「合わせる」
視界が広がったと同時に私は斬撃を飛ばし、葵はエネルギー弾による射撃を放つ。
それら全てが直撃するかと思いきや、寸前で前に飛び出したモータルイエローが展開させたバリアにより私たちの攻撃は全て弾かれてしまう。
「……。私が引力を止める。きららは腐食性のガスの対処、葵は後方からの支援」
「任せとき」
「了解」
相手の戦力を測った上で、短い指示を出し星界戦隊へと攻撃を仕掛ける。
引力を逆に利用し突っ込んだ私に、モータルグリーンのガスが迫るがそれらはきららが放った電撃が阻み霧散させてくれる。
「今度こそお前を倒してやるぞ! レッド!!」
「くたばれ」
また何かを喋ろうとしたモータルレッドを無視し、全力の薙ぎ払いを叩きつける。
横並びになった星界戦隊の4つの首を同時に落とすつもりで放った一撃———だが、それらは寸前で何もない空間で弾かれる。
「星界装衣は能力の解釈を広げる。すなわち、今の俺は星そのものの力を持っていると同義だ。この意味が分かるかな?」
「……」
背後から飛んできた葵の援護射撃すらもあっさりと身に纏う斥力で散らしたモータルレッドが揚々と語る。
つまらない問答を交わすつもりもない。
奴の言葉を無視し、今度はモータルレッドの脳天をたたっ斬ろうとするが、それも奴が虚空から出現させた大剣により防がれる。
刃にすら接触せず、何もない空間で私の剣が止められてしまっているあたり、大剣そのものにもモータルレッドの重力操作能力が適用されているようだ。
「いいのか? 俺だけを相手にしていて」
「ハッハァ!!」
横から二つの斧を掲げたモータルグリーン。
「相手はレッド一人だけやないで!」
やや遅れて背後からやってきたイエローがモータルグリーンの斧に、自身の斧を叩きつけ弾き返す。
武器を弾かれ大きくのけぞったグリーンを確認した私はモータルレッドとつばぜり合いをしている剣を手放す。
「……」
振り返りと同時にチェンジャ―から柄のない短刀———
……強化装備をつけていない箇所は別に防御力が上がったわけじゃないね。
攻撃が通ったあたりレッドの斥力とイエローのバリアは、細かな防御も向いていない。
そう観察しながら、続けて三度ほど匕首を突き刺しておく。
「がッ!?」
「イエロー!」
「あいよ!」
私の声に腕に電撃を纏わせたイエローが、強烈な掌底をグリーンの胴体に叩きつけその体を吹き飛ばした。
次はモータルレッドだ。
そう思い、吹き飛ばされるグリーンを見送ることもなく私ときららはモータルレッドへと目標を変更させた瞬間———モータルレッドの持つ大剣が赤い輝きを放っていることに気づく。
「嘗めるな!」
「「!」」
直撃はマズい。
直感的にそう思い回避行動をとろうとした直後に、葵が放ったエネルギー弾がモータルレッドの顔面へと殺到した。
斥力により弾かれはしたものの目晦ましとなったエネルギー弾により、奴の大剣による攻撃は大きくズレ、私ときららのギリギリ横を通り過ぎていく。
「一旦下がるよ」
「うん!」
この前のように簡単な相手ではないことはよく分かった。
深入りせずに葵のいる後ろにまで下がった私ときららは警戒を解かないようにしながら武器を構える。
「ブルー、助かった」
「気にしないで。リーダーが部下を守るのは当然のことだから」
「そんな青ざめた色でリーダーが務まるわけないじゃん」
「おいレッド顔が真っ赤だぞ」
「喧嘩はやめーや」
軽口を叩きながら改めて星界戦隊の連中を見る。
ヒラルダはカツミ君との最初の接敵でエネルギーを使い果たしたのか、まだ憑りついた人間の姿のまま。
主戦闘はモータルレッドとグリーン。
防御はモータルイエロー。
一見してなにもしていないように見えるモータルブルーだけど……。
「ブルー! 早く癒せ!!」
「———」
ただそこに佇んでいるだけのモータルブルーから青色の粒子が放出され、それが傷ついたグリーンの身体を癒している。
……なるほど、あれの役割は仲間の回復……いや、修理か。
彼を先に潰しておきたいけど、その彼を守るように立っているモータルイエローがいるから攻撃が通りにくい。
「……さすがに面倒だね」
こちらの攻撃を対策されている、ということは織り込み済みだ。
それならいくらでも対応できるけど厄介なのはあのイエローだろう。
この戦いに消極的なのかそうじゃないかは分からないけど、彼女は一切攻撃に回らず回復役のブルーを守ろうとしているように見える。
『レッド! そちらの状況はどうだ!?』
「少し時間がかかりそうです。強化装備というだけあって中々に厄介ですね」
『ならば、こちらも奥の手を出すしかないだろうな』
……ということは、ついにアレを出すということ?
社長の言葉に察しながら、頷く。
『もう少し時間を稼いでくれ。一般人の避難が終わり次第、この私自らがそちらに向かう!!』
「……え、どういうことですか?」
私の返答を待たずに切れる通信。
奥の手を出すのは分かっているけど、どうして社長までこちらに来ようとしているのかちょっとよく理解できなかった。
会話が好きで、実は寂しがり屋なヒラルダに一番効くのが無視という……。
実際カツミに無視されたヒラルダは過去のトラウマも含めて結構な精神的ダメージを受けました。
今回の更新は以上となります。
これからも『追加戦士になりたくない黒騎士くん』をよろしくお願いします<(_ _)>