配信回です。
前半はアカネ視点。
後半からは別のキャラの視点となります。
星界戦隊との決着。
強化装備“ゴールドフォーム”による初めての実戦。
それら全てを片付けた後、私達は一旦山中の奥にあるという本部にビークルで戻った後にそれぞれの家に戻ることになった。
「……このまま進学するのは厳しそう」
部屋のベッドに横になりながらそんなことを呟く。
学力が足りないわけじゃない。
むしろ志望する大学への合格圏内には十分入っている。
だけれど、この先ルインや星将序列との戦いを考えると悠長に進学なんて考えていられないのが現状だ。
社長は『進学したいのならば、こちらでなんとかする』とは言ってくれていたものの、ルインたちはこちらの事情を理解してくれるはずがない。
「私に、できること……か」
私に与えられた二つの進路。
それはこのまま進学することと、KANEZAKIコーポレーションに就職という名目で“ジャスティスレッド”として活動すること。
表向きは世界的大企業に就職という華々しいものだけど……実態はもっとやばいものだけれども。
「ルインを倒して、終わりじゃない……かもしれないのがなー」
地球に住む人間以外にも生命体は存在する。
これまでの侵略者のようにこちらに害意のあるものが攻めてきたとき、それに対処しなきゃいけない人員が必要だ。
「カツミ君は、そっちなんだよね……」
彼はもう高校に通うことができない。
勉強こそはしているようだけど、彼はあまりにも存在を知られすぎているし、なにより政府にとっても野放しにしていい人員じゃない。
もちろんそれは悪い意味ではなく、彼自身を守るという意味でだ。
「……」
自分の役割を投げ出すわけにはいかない。
誰かに言われた訳でもなく、私自身が自分がなにをするべきかが一番よく分かっている。
「私は、ジャスティスレッドだ」
地球を守る。
カツミ君を一人で戦わせない。
それは戦う理由を彼に押し付けている訳じゃなくて、私がそうしたいからする。
この想いは誰であろうとも否定することはできない。
「……あ、そういえば、ハルちゃんの配信の時間だ」
唐突に思い出しながら枕もとで充電していたスマホを手に取る。
葵の妹、晴ちゃん。
社長の会社の広報担当Vtuberとして活動している子で、黒騎士、ジャスティスクルセイダー関連の広報やゲーム配信や雑談などやっている。
今の時間帯はそんなハルちゃんの配信の時間で、時間に余裕があるときは彼女の配信を見るようにしているのだ。
「葵と違ってめっちゃ素直だもんねあの子……」
葵の妹なのにまともな感性しているし、全然不思議な行動もしていないし。
カツミ君と過去に会っていた上に素顔まで知っていたという特大の秘密を抱えはしていたけど、私としては単純にハルちゃんの配信のファンであるので普通に配信は見ることにしている。
「……雑談枠? 特別ゲスト……?」
なんだろう、妙な嫌な予感を抱きながら配信を開く。
するとスマホの画面の右側にハルちゃんのアバターと……その反対側に、デフォルメ化された変身した社長のアバターが映り込んでいた。
雑談回:特別ゲストの日[蒼花ナオ]
XXXXX人が視聴中
い高評価 う 低評価 こチャット へ 共有ほ 保存 …
チャンネル登録者数XXXXX人
「なにやってんだあの社長!!」
ついさっきまでのアンニュイな気分が全部吹っ飛んだ。
まだ戦闘が終わって数時間しか経ってないんだよ!?
それがどうして今ハルちゃんの配信に意気揚々と登場しているの!?
———社長がハルちゃんの配信に出ていることは実はそこまで珍しいことじゃない。
大体月に一回くらいのペースで彼は雑談枠としてやってきて、ジャスティスクルセイダーの活動や黒騎士の情報、侵略者についての見解などを配信を通じて一般の人に情報を開示している。
その理由は、ある程度の情報を開示することで一般の人たちが私達に不満を抱かないようにするためであること。
「だからといって戦った直後に出てくるとかどうなの……」
ネットでは既に社長が変身し戦ったという情報が流れている……というより既に社長が自ら公表している。
なので彼が普通にゲストで登場していることに戸惑っている人もちらほらと見える。
『騒ぎの後ですが、ここにいても大丈夫なのですか?』
『ハハハ、その心配は無用。既に現地での調査、回収、その他諸々行っている。むしろ私が出張る方が現場の邪魔になってしまうので空いた時間を有効活用すべくこの場を設けたわけさ』
無駄に精巧に作られたジャスティスゴールドのアバターが快活に笑う。
いつの間に作ったそれに口元が引き攣りながらハルちゃんと社長の雑談に耳を傾ける。
『今日は色々とあった日ではあるものの、ようやく黒騎士を本部に移動させることができたわけだ』
『……』
『あ、蒼花くん? 笑顔のまま無言で返すのやめてくれない……?』
・黒騎士くんの居候生活終了か
・笑顔の圧がすごい
・ジャスクルと蒼花としては永遠に居候生活してほしそうだ
笑顔のまま微動だにしないハルちゃんのアバター。
共感はできるのでなにも言えないけど……うん、やっぱり居候生活はもう少し長くても良かったと私も思っていたりする。
『黒騎士さんは今はなにを?』
『えっ? あ、彼は戦闘後とあってか自室で休んでいるところだ』
『そうなんですか。では、どのようなお部屋に?』
『その質問は今必要なの……?』
『……?』
・私らとなおなおは以心伝心
・聞きたいこと全部聞いてくれるやん
・草
・では の区切りに脈絡が全くなくて草
・無言で首を傾げるなwww
・もう威圧感がすごい
勢いがもう強い。
配信者ということを忘れているのかってくらいにぐいぐいカツミ君のことを尋ねるハルちゃんに戦慄する。
『……? ……!?』
チャットを綺麗に二度見したハルちゃんの目が見開かれる。
狼狽し、動揺を露わにさせた彼女は視線を左側に向けたまませわしなく動き始める。
『わ、わわわわ私の配信に……!? す、すす、スパナを……ッ、邪魔だリスナー!! コメントを流すなァ!!』
『蒼花くん! 君、配信者!!?』
先程のクールな様子からいきなりあらぶりながらアバターを振動させるハルちゃん。
そんな彼女を社長が冷静になだめようとする。
「に、偽物ではないか?」
「いえ、普通に本名でアカウントを登録しちゃっているところと、初めてコメントを書き込むから分かりやすく、かつ短く済ませようとする配慮の解釈一致。そしてなにより私の直感がこのコメントが黒騎士さんのものだと確信させています」
「君、よくブルーと似ているって言われない?」
まあ、本人っぽいよね。
偽物だとなんとなく分かるし。
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なんでカツミ君、LINEになると精神年齢が下がっているように見えるんだろう。
スマホ自体不慣れだから長文を送りたがらないっていうのは分かるけれども。
彼とLINEでやり取りすると不思議な気持ちが湧いてくる。
『失礼。少し取り乱しました』
『少しどころじゃなかったんだが……?』
瞬間、ハルちゃんのアバターがまたあらぶった。
直後にドンッッッ!! という机を叩く音、俗にいう台パンをかました彼女は声を荒らげた。
『黒騎士さんに安易なネットスラングを教えたのは誰だァ!! リスナァァ!!』
『蒼花くん!!?』
・草
・草
・草
・黒騎士くんを汚したな!! 法廷で会おう!!
・草
普段は物静かなのになぁ。
いやカツミ君も言った傍からだよ。
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私は即座にハルちゃんにLINEで下手人を密告する。
恐らく葵は就寝しているだろうから明日あたりには身内からの逆襲を受けることだろう。
『あ、蒼花くん? そこらへんで落ち着いてね? てか今日の主役私……』
『社長。安心してください。今後、リスナーにはお嬢様言葉以外を許さないようにさせます』
『え、えぇ……怖い……』
『外来語も許しません』
『コメント欄が武家屋敷みたいになってしまうのでは……?』
・草で候
・お草でございますわ
・いやぁー乱世乱世!
・お草生えます
・おハーブ生えますわ
チャット欄がみんなお嬢様と家臣になってしまったところで社長もハルちゃんも落ち着きを取り戻したようだ。
コホン、と咳払いした社長は今回の配信の本題へと移ろうとする。
真剣な様子の社長に先ほどの浮かれたような雰囲気はない。
『今回、我々は宇宙からの侵略者。星界戦隊との戦いに勝利し、決着をつけたと言ってもいいだろう』
『今後はこの私も戦場に立ち、ジャスティスクルセイダー、黒騎士と肩を並べて戦っていくつもりだ』
『厳しい戦いになるだろう』
『少なくとも相手は一瞬にして星を滅ぼせる力を持つ超越存在だ』
それが、私達が戦わなくちゃならない相手。
ルインの底知れない強さは相対した私も良く知っているけど、それで諦めるほど潔くはない。
絶対に折れずに、勝つ。
それが地球の怪人を相手に戦ってきた彼の背中を見て学んできたことだから。
『断言しよう』
『ジャスティスクルセイダーと黒騎士は、地球のみならずこの宇宙においての唯一の希望なのだ』
『だからこそ、間違わないで欲しい』
言葉を切り、一呼吸を置いて力強く声を発した。
『我々は、地球のために戦う戦士だということを』
そう断言した社長は脱力するように呼吸を吐き出す。
『少し水分を取る。暫しミュートするが構わないか?』
『ええ、どうぞ』
『うむ』
許可をもらい音声を切る素振りをみせる社長。
でも、肝心の音声は切れておらず、社長が椅子のようなものを動かす音が聞こえる。
『———慣れないことを言ってしまったな。ふぅ、タリア、どうだった?』
『素晴らしいお言葉でした』
『フッ、世辞はよせ。私のような宇宙人が何をいっても胡散臭いに決まっているだろう。私ができることは、この身を粉にして彼らのために働くことしかない』
多分、ミュートをし忘れたのかな?
思いっきり普段の会話っぽい声が配信に流れちゃっている。
自虐的に言い放った社長のコメントにチャット欄のお嬢様化が加速している。
『夫を立てるのは妻として当然のことですから』
『……え、どうしたの突然』
『はいそうです。私が伴侶であるタリアです』
『な、なにが? 怖いんだが!? いきなりどうしたんだ!?』
エナジーコアがここぞとばかりにアピールしだした!?
タリアさん多分、ミュートできていないことに気づいている!?
ミュートができていないことにまだ気づいていない社長を見かねて、ハルちゃんが声をかける。
『あの、社長、ミュートできてないですよ』
『……エッ』
・泣きましたわ
・名誉地球人ですわ
・地球人より地球のこと考えてますわね
・タリアってどこの女なのかしら!?
・くさ
・既婚者だったのね!? わたくしを裏切ったのね!!
・この人もなんか変なのに好かれてそうで草
未だにチャットの大多数がお嬢様言葉なのが残念すぎるけど、いつまで続けるんだろう。
てか、またさらっとカツミ君コメントしているし……!!
その後、色々な意味でやらかしてしまった社長が錯乱するという珍事が起こったわけだが……配信後の社長の印象が「残念イケメン」「名誉地球人」「有能ポンコツ宇宙人」などなどに定着してしまったようだ。
はじめて黒騎士の存在を確認した時。
それは第一の脅威“クモ怪人”を日本という地球の島国をオメガ率いる怪人の拠点にするために送り込んだ時だった。
『怪人事変』
クモ怪人出現からの三ヵ月の惨憺たる破壊を世間はそう呼び、怪人という恐怖に世間は大いに恐怖した。
このままクモ怪人のみで首都を掌握、そのままオメガから続々と生み出される怪人で日本そのものを乗っ取り、最終的な目標であるルインのいる宇宙へと進軍する———、
それが当初の、私の計画のはずだった。
『ジャァァ!!』
『———』
今でも目を瞑れば鮮明に思い出せる。
あらゆるものを切断する糸を幾重にも張り巡らせながら襲い掛かるクモ怪人の攻撃を、その両腕で全ていなし———ただの拳の一撃で打ち倒した彼の姿を。
胴体を穿たれ、自らの青い血に沈むクモ怪人。
命の危機に瀕した地球人の少女を守ってみせた黒騎士と呼ばれる彼。
黒い仮面の奥に怪しく輝く赤い目。
青い血を滴らせる拳に、全身を覆う漆黒の鎧。
一見して怪人のような外見を持つ彼の出現は、私にとってはまるで予期しないもの。
『———』
困惑と高揚。
これまでの徒労を見事に打ち砕いて見せたその存在に対してまず最初に抱いたのは怒りでも憎悪でもなんでもなかった。
なり損ないの私を突き動かすなにか。
彼が“そう”だと突き動かす確信めいたなにか。
それから、私の目的は“地球を材料として戦力の増強”ではなく、黒騎士と呼ばれる戦士を知ることへと変わった。
「……こういうのを奇跡っていうのかしらねぇ」
星界戦隊との激しい戦いが繰り広げられた都市。
一際背の高いビルの屋上から、戦いの跡を見下ろしながら私は気分を良くする。
彼らの強さは本物だ。
ジャスティスクルセイダーは今日で序列一桁の領域に足を踏み入れた。
「素晴らしい……」
彼が出てきてから事態は全て私の想い通りにならなかった。
凶悪な力を持つ怪人は悉く打倒され、
地球のみならず日本すらも崩壊することもなく、
その果てに無敵の力を持つはずのオメガでさえ彼らは打倒してしまった。
まさしくそれは、私の
「私が、貴方達を祝福するわ」
ジャスティスクルセイダーに、黒騎士。
彼らの存在こそが私にとっての福音に他ならない。
彼らに強くなってもらうために、どのような方法も辞さない。
地球のためじゃなく、私自身のために。
「だから、ちゃんと、ルインを殺してね」
一人、そう呟き私はビルの屋上に横になり空を見上げる。
「いつまでも見下ろせると思うなよ」
奴の父親のようにただ宇宙を支配する覇者というだけならこうはならなかった。
覇者の娘、ルインというただ一人の異常種。
存在してはならない絶対的な強者。
奴という存在がいることが私には不条理だ。
だから私は憎悪する。
そのために奴を滅ぼす。
「私の名は
自分に言い聞かせるように言葉にする。
胸の奥底からヘドロのように沸き上がる行き場のない憎悪を押さえつけ、私は口の端を歪ませる。
「彼にはまだまだ強くなってもらわなくちゃならない」
足りない。
奴と渡り合うには力が足りない。
だからこそ、策を練る。
「そのために切っ掛けが必要だね」
空を見上げたまま懐から取り出した端末を開き、ホログラムを展開させる。
そこに映るのは一人の地球人の女の子。
一見すれば黒騎士とも関係のあるはずもない、どこにでもいるような平凡な生まれのはずの彼女は———黒騎士、穂村克己にとっての重要な存在。
「彼の最後の日常の拠り所……利用しない手はない」
怒りを買い、殺されても構わない。
むしろ本望だ。
私は自らの感情のままに振り回されても、成したい本懐があるのだから。
それは黒騎士くんにとっての守るべき日常であり、逆鱗。
『【外伝】となりの黒騎士くん』の過去編が少しずつ関わってきます。
その辺については本編でもある程度描写するつもりです。
次回は掲示板回になるかもしれません。