追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。

今回は二日に分けて二話ほど更新いたします。


予想外の対談

 ジャスティスクルセイダー第二本部。

 元々はアカネ達が乗っている合体ロボット、レッド1から連なるビークルシリーズの実験と開発が行われていた場所をジャスティスクルセイダーの第二の本部として作られた場所がここである。

 俺が住んでいる居住区画……まあ、スタッフたちが寝泊まりしている区画とはまた別の場所にあるところで今のところ俺、ハクア、アルファ、コスモの4人ほどしか住んでいない。

 

「カツミ、ここでの暮らしは慣れた?」

「いや、やっぱり広い部屋には慣れないわ」

 

 早朝、本部内の通路をアルファとハクアと一緒に歩きながらそんな会話をする。

 アルファとハクアは違うが、俺はこれから本部と繋がっているサーサナスでアカネ達と合流することになっているわけだが、特になにかするわけでもない。

 俺が独房にいれられた時のように集まって話をしたりとかする感じらしい。

 

「基本、前に住んでたアパートくらいの広さの部屋で満足してたからな。あんなに広いと落ち着かない」

 

 扉開けて中に入ったら普通に4部屋くらいあってビビったからな。

 しかも普通に広いわ、外の景色とか森とか川とかが見えるようないいところだったし、正直今でも一つしか部屋を使っていないくらいに持て余している。

 

「え、じゃあ、一緒の部屋に住んでいい?」

「駄目に決まってんだろ」

「えーなんでーなんでさー」

「ええい鬱陶しいっ!」

 

 駄々をこねながらひっついてくるアルファを押しのける。

 昔からそうだが、断っても自然とついてこようとするからな。

 

「でも私は三歳児でハクアは一歳児だよ? こんな幼い私達を一人部屋に押し込むって酷な話だと思わない?」

「一時でも俺の姉を名乗ったんならちゃんとしろや」

「ね、姉さん、私を巻き込むのはやめてよ……」

 

 途端に声を震わせたハクアが涙目になる。

 もう許しているのに本当姉関連出すと弱くなるよな。

 

「安心しろ、赤ちゃん共め。レイマに頼んでお前たちのベビーシッターを雇うことを検討しているからな」

「恥ずかしいからやめて!?」

「かっつんから見てそんなに私達ポンコツなの!?」

「冗談だよ」

 

 ポンコツなことは事実だけれども。

 さすがに人に任せるほど酷くはない……はずだ。

 いざという時は俺が頑張ればいい……うん。

 

「で、ハクアはこれからスーツのデータ取りか?」

「うん。あとビークルの新装備の確認とかその他諸々」

「すげぇな。技術者とか向いているんじゃないか?」

「私は武闘派じゃないから別の方法でかっつん達の助けになれればなって。そういう意味でも姉さんもオペレーターのやり方とか大森さんにも教えてもらうんだよね」

 

 ハクアの言葉にアルファも頷く。

 

「私は本部からほとんど離れられないから、オペレーターの仕事くらいはできるようになろうかなって」

「大森さんに迷惑かけるなよ」

「分かってるって。すぐにカツミ達の役に立てるようになるから」

 

 ハクアもアルファも滅茶苦茶頭がいいからな。

 そこらへんは全然心配していないが、あまり無理をしすぎないように気にかけておくか。

 

「……ん、ここらへんで私とハクアは別行動だね」

「おう」

「じゃ、また夜ごはんにねー」

「アカネ達によろしくね、かっつん」

 

 アルファとハクアと別れた後、俺はワープ装置のある区画に通じる道を進んでいくのであった。

 

 


 

 喫茶店サーサナス。

 ニューサーサナスとして新しく造り直されたこの店はジャスティスクルセイダー本部との協力関係を結んでおり、店舗二階は戦闘員である俺とアカネ達の憩いの場として利用されることになっていた。

 壁に隠されたワームホールから二階の部屋に入り、まず目の前に飛び込んでくるのが白を基調にした大きな丸テーブルと椅子。

 壁には店長の趣味と思われるレトロな装飾とポスターが貼られており、雰囲気も以前星界戦隊に破壊された店にかなり近いものがある。

 

「あ、おはよう。カツミ君!」

「お、来たんやね」

 

 背後のワームホールが閉じると、先についていたアカネときららが椅子に座りながら俺に手を振ってくる。

 とりあえず軽く手を振りつつ俺も席に座ると、立ち上がったアカネが一階へと続く階段に身を乗り出す。

 

「コスモちゃーん! いるー?」

 

 そう大きな声で呼ぶと、ばたばたとした足音と共にエプロンを来た緑髪の少女、コスモが顔を出してきた。

 

「開店前だぞ!! 何の用だァ!!」

「あ、コーヒー三つお願い」

「私は召使いじゃないぞ!」

「いや、コスモちゃんバイトじゃん」

「くっ、うぅ……コーヒー三つな!!」

 

 またばたばたと階段を降りていくコスモ。

 あいつも忙しい奴だなぁと思いながらも、うまく馴染んでいることに安心する。

 あの目立つ緑の髪も人前では隠しているようだし、そうそうバレることもないだろう。

 5分ほどして、不機嫌そうな面持ちのコスモがコーヒーを持ってきたところで、ようやく落ち着く。

 

「で、葵はまだ来てないのか?」

「まだ来てないよ。ハルちゃんと来るみたい」

「へぇ、晴も来るのか」

 

 葵の妹のあの子もここに来れるとは聞いていたけど、俺が思っていた以上に晴は重要な立場にいるようだ。

 広報担当っていうからには晴の……蒼花ナオという存在は世間的にはかなり名の知れているものなんだろうな。

 

「……で、今日はなんで呼ばれたんだ?」

「え、特にないけど」

 

 ……。

 

「さて、プロト、シロ。本部でトレーニングでもするか」

『そうだね』

『ガウ!!』

「待って待って!! 息抜き! ほらこうやって落ち着く機会なかったからね!!」

 

 立ち上がろうとする俺を止めてくるアカネにため息をつきつつ席に戻る。

 まあ、冗談だが。

 とりあえず葵と晴が来るまで動画でも見て時間を潰そう。

 

「なんだろう。カツミ君がスマホを弄っていると違和感がすごい……」

「自覚してるから言わんでいい」

 

 こんな小さい板切れでテレビみたいに見れること自体が驚きなのだ。

 みんなこれを普通に持てるとかマジでどうなってんだって思ったわ。

 

「カツミ君、何見てんの?」

 

 レイマによって支給されたスマホで動画を見ていると、後ろからアカネが画面をのぞき込んでくる。

 

「えぇ、なにこれ“駄目姉日記”?」

「たまたま見ていただけだ。よく分からんけど駄目な姉の観察日記らしいぞ」

「へぇ……投稿日も新しいけど結構人気なんだ」

 

 おすすめに出てきたので見ていただけなのだが、なんとなくこの駄目姉と呼ばれるこいつとはどこかで会ったような気がしてならないのだ。

 微妙に声も聞き覚えがあるような気もするし、なんでだろうか。

 

「……」

「なにか気になることでも?」

「いや、なんでもない。多分気のせいだろ」

 

 こんなアルファとハクアを遥かに下回るほどの生活力皆無な人物は会ったことがないし、できることならこれから会わないことを願う。

 個人的にはこの動画を投稿しているであろう弟の方にシンパシーを感じてしまうな。

 

「……レイマから聞いたんだけど、アカネときららは進学しないのか?」

 

 ふと思い出して椅子に座ったアカネときららにそう聞いてみる。

 二人は苦笑いしながら頷く。

 

「さすがにこの状況だしね。勉強はするけど進学はしないでここに就職って形になると思う」

「卒業したら企業戦士ってことになる感じやね」

 

 それはそれで世知辛いものがあるな。

 侵略者共のせいでアカネ達が進学できない、か。

 できることならそれよりも早く俺がルインをぶっ飛ばせればよかったんだが……。

 

「……」

「カツミ君が責任を感じることなんて何一つないよ」

「お前、俺の心でも読んでんのか?」

「君の考えていることくらい分かるよ」

 

 俺って顔に出やすいのだろうか。

 それともアカネが鋭いだけか……。

 

「おいっす」

「皆さん、おはようございます!」

 

 すると葵と彼女の妹の晴もやってくる。

 フランク極まりない挨拶をする葵と、しっかりとした挨拶をする晴に見事に常識人の差が出来上がっている。

 

「おはよう、かつみん」

「かつみんって呼ぶんじゃねぇ」

「私のことはあおいんでいいよ」

「語呂悪すぎだろ」

 

 どういう愛称なんだ……?

 もっといい呼び方あるだろ……?

 

「お姉ちゃんがいつもすみません……」

「いつも苦労してんな」

「はい。あ、カツミさん」

 

 ふと思い出したように晴に声をかけられる。

 

「姉に教えられた言語は忘れても大丈夫ですよ?」

「草とかワロタとか?」

「ガハッ……」

「晴!?」

 

 突然胸を押さえて苦しみだした晴に困惑する。

 い、いいいったいどうしたんだ!? 

 

「分かったかバカ姉。あんたのした罪深さを……」

「カツミ君を私色に染めてしまったこの罪深さよ」

「アカネさん、きららさん。この人全然反省していないようです」

「二人を味方につけるのは違くない? ねえ、ハルちゃん知ってる? 私たちは驚くほど簡単にお互いの足を引っ張るんだよ? むしろそれが一番得意といっても過言ではない」

 

 葵のことだからふざけて俺に教えた言葉なのは分かっているので日常生活では絶対に使うことはない。

 ———とりあえず、一瞬で晴の味方に回ったアカネ達に脇を小突き回されている葵を静観する。

 

「葵は進路とかどうすんだ?」

「え、卒業後は巫女系企業戦士フーチューバーになる予定」

「おう、なにも考えてねぇんだな。……おい、真顔やめろよ。え、マジで言ってねぇよな?」

 

 本当にその気じゃないよな?

 お前、いくらジャスティスクルセイダーとして働いた貯金があるからといってそんな変なことするのやめろよ。

 

「お姉ちゃん。巫女巫女ほざいてるけど神社継ぐんだったらその道の大学とか行かないと駄目なんだよ?」

「……嘘だ。私を騙そうとしてる」

「お姉ちゃんって頭いいけどさバカだよね」

 

 え、神社とかそういうのの専門の大学とかあるんだ。

 

「そ、そうだったのか……? 知らなかった」

「カツミさん。誰にでも間違いはありますから気にしなくてもいいですよ」

「アカネ、私は自分の妹が怖い」

 

 さっきの葵への罵倒はいったい……?

 ……いや、身内と他人では扱いが違うのもある意味当然ってことか。

 

「ねえ、カツミ君」

「ん?」

 

 いつの間にか以前の独房にいた時のようなやり取りを交わしていると、ふときららが思い出したように俺に話しかけてきた。

 

此花灰瑠(このはなはいる)って子、知ってる?」

「!」

 

 きららからその名前が出てきて素直に驚いた。

 同じ学校に通っていたわけだから知っていてもおかしくない。

 此花灰瑠。

 偶然、隣の席になった女子で、たまに話したりしていた程度の友人。

 

「カツミ君……?」

「……。ああ、隣の席の奴だよ。まあ、数少ない友達ってやつだな」

「友達……」

「トモダチ……」

「ともだち……」

「フレンド……」

「どうしたお前ら」

 

 晴を含めた4人が神妙な様子で復唱している。

 あれか? 俺に友人がいることが珍しいってことか?

 まあ、柄じゃないのは分かるけれども。

 

「それじゃあさ。会ってみる? カツミ君が望めば会うようにできると思うけど……あっ、勿論、社長にも話を通してね」

「いや、いいよ。俺達と関わって危険な目に遭うかもしれないからな」

 

 俺は厄介な奴らに狙われている。

 それこそ怪人がいた時代よりも。

 それに……。

 

「あいつは俺のことを覚えていないんだよ」

「……え?」

「カツミ君、それはどういうこと?」

 

 不穏な空気を感じ取ったのか不安そうな様子で尋ねてくるアカネに苦笑する。

 

「事情があってアルファの認識改編を使った。だから俺のことを覚えているはずがないってこと」

「え、でも……ハイルは……君のこと」

「隣の席だったから他よりも関わりがあったってことだろ」

 

 俺のことを覚えているはずがないのだ。

 アルファの認識改編は普通に作用した。

 ……仮に、いや、此花の記憶の改変に否定的だったアルファが此花の記憶が戻るような仕掛けをしていたとしても、俺は会うつもりはない。

 怪人が暴れていた時と同じように、今は侵略者の脅威と俺たちは戦わなければならないからだ。

 

「でもありがとな、きらら」

「……本当に会わなくてもいいの? ハイルは……」

「いいんだよ」

 

 そう言う俺にきららは心配そうに尋ねてくる。

 もう終わった話だ。

 だから———、

 

「ッ!!?」

 

 対面の席に座る()に気づき戦慄する。

 アカネ達は気づいていない。

 いや、俺だけが見えているのか……!?

 焦燥に駆られていると、一階からまたコスモが駆けあがってくる音が聞こえてくる。

 

「お、おい、お前らちょっと来い……!!」

「ん? どうしたのコスモちゃん」

「た、たた大変なんだ!!」

 

 一階でもなにかあったようだがそれどころじゃない。

 異変を悟ったアカネ達が下へ向かっていくのを見送っていると、未だに席から立ち上がらない俺にコスモが近寄ってくる。

 

「ほ、穂村!! お前も来い!!」

「後で行く」

「は!? いや、今一階にボクの父上が……序列一位が来ているんだよ!!」

「コスモ」

 

 俺は目の前の空間から目を逸らさずに言葉を口にする。

 

「今、それどころじゃない。お前は下に行け」

「ガオッ!! グルル……!!」

「レオ!?」

 

 コスモに付き従っているレオが威嚇し始めたところでコスモも異変に気付く。

 

「な、なにが……、ッ!」

「俺は大丈夫だから、早く行くんだ」

「……わ、分かった。お前も気をつけろよなっ」

「ああ」

 

 俺に誰が(・・)見えているのか察したコスモがその顔をさらに青くさせながら下の階へと降りていく。

 

「お前に噛みついていた頃とは随分な変わりようだな」

 

 彼女がいなくなり二階に俺一人だけになったところで、ようやく俺は奴に話しかける。

 

「……どうしてテメェが俺の前にいる、ルイン」

「会いたかったから。理由はそれ以外に必要か? カツミ」

 

 実体ではない。

 しかし、明らかに意思を以て俺の視界に映り込んでいる奴———ルインは、テーブルに肘をつきながら愉快そうに微笑んだ。

 今、俺の向かいの席で我が物顔で座っている奴は地球から遥か遠く離れた場所にいるはずだ。

 その程度の距離こいつには訳ねぇのは分かっているが……このルインは実体ではない。

 

「回りくどい方法でお前の視界に映り込んでいるだけだ。そろそろお前と話したいと思っていたからな」

「俺にはねぇ」

「山ほどあるくせにへそを曲げる、そういうところも愛い奴だ」

「……」

 

 こっちを見透かしたようにしているのが気にいらねぇ。

 本心を言えば確かにこいつに聞きたいことは山ほどある。

 

「一位がここに来てんのはどういうことだ? お前の指し金か?」

「いいや、私が命じたことではない。大方、義理の娘にでも会いに来たのだろうな」

「……義理の娘? コスモが?」

 

 そういえば父上がとか言っていたような……。

 マジかよ、あのやべぇ奴の娘なのかあいつ?

 白川克樹としての記憶で遭遇した序列一位ヴァース。

 会ったのは一度っきりではあるが、あいつはサニーと同じく得体が知れない。

 

「安心するといい。奴は今お前達とことを構える気はない」

「それじゃあ、あれか? お前の一番強い配下は娘の様子を見るためだけにここにやってきたってことか?」

「そういうことだ」

 

 嘘をついてはいなさそうだが、それはそれでどうなんだ。 

 あのコスモの慌てようには納得はしたが。

 

「記憶を完全に取り戻した気分はどうだ?」

「最悪に決まってんだろ。二つの記憶が別々に存在するんだぞ」

「だが、幸せだっただろう?」

 

 幸せ?

 本当になんのことだ。

 

「幼い頃に失い、体験することのなかった家族との思い出。偽物の姉とはいえシグマはお前にいい影響を与えたことだろうな」

「保護者面すんな。お前は俺の記憶を奪った張本人だろうが」

「私も正直、素直で未熟だったお前を見ているのはとても楽しかったぞ」

「マジでやめろよそういうこと言うの……!!」

 

 怖気が走るわ!!

 こいつ含めてどいつもこいつも俺の記憶喪失している間好き勝手しやがって。

 記憶が戻ってダメージを受けてんのは姉を名乗っていた奴らだけだと思うなよ!? 俺にも結構なダメージあるんだからな!?

 なにせ全部しっかり覚えているからな!!

 

「そんなことを言うために来たんならさっさと消えろ」

「今となってはお前は完全な復活を遂げ、さらなる強さを手に入れたわけだ」

 

 聞けよ。

 

「存在するはずのない双子のアルファにより作られたコア。その適合者たるお前。その奇跡とも言える可能性に巡り合えたのは私にとっては何にも代えがたい幸運とも言えるだろうな」

 

 プロトとシロのことか。

 こいつらのことはともかく俺は地球人だ。

 宇宙人の両親を持った記憶もねぇし、スーツに完全適合している点以外はなにも異様な体質もないはずだ。

 

「地球という小さな惑星に価値はない。……極論を言えば、アルファもジャスティスクルセイダーも、ゴールディもお前たちの言う名もなき組織(アンノウン)も星将序列も、お前という存在を天秤にかければ全てどうでもいい」

「巻き込むなら俺だけにしろ。回りくどいことしてんじゃねぇよ」

「ふふ、必死だな。それほどまでに地球が大事か」

 

 愉快そうに微笑むルインに苛立ちが募る。

 奴はテーブルに肘をつき顎を手に乗せ、俺と目を合わせる。

 

「お前は自分が犠牲になればそれでいいと思っているようだが、それでは意味がないんだ」

「どういう意味だ?」

「全てを捨てたとしてお前は強くなるのか? 少なくとも私にはそうは思わないがな」

「お前は俺のなにを知ってんだよ」

「知っているに決まっているだろう? 私はお前以上にお前のことをよく知っているぞ、カツミ」

「……ッ」

 

 嘘だと思えればどれだけよかったか。

 多分、こいつは白川克樹として俺と対話していた時点で俺の記憶を把握している。

 そしてこんなこと思いたくもないが、こいつは俺を本気で“理解”しようとしている。いずれ殺し合いをするであろうこの俺をだ。

 

「アルファと呼ばれる(・・・・)六位の分裂体。シグマと称されたオメガが作り出した成功作(・・・)。偶然隣の席にいたただの人間の娘。地球由来のエナジーコアの適正者達。お前は守る者がいればどんどん強くなる」

「……今度は地球そのものが人質っつーわけか」

 

 性質が悪い。

 俺が戦わなけちゃいけない理由をこいつはちゃんと理解している。

 業腹ではあるが、確かにこいつは俺のことをよく分かっているようだ。

 

「お前が俺に失望した時は諸共に地球を滅ぼすつもりか?」

「……?」

 

 きょとん、とした様子でルインが首を傾げる。

 数秒ほどして奴はおかしそうに笑いだした。

 

「ははは! 私がお前に失望だと? カツミ、そんなありえない疑問を抱く必要はないぞ?」

「ありえないだと?」

「お前が今、この私と意識を保ったまま会話している時点でありえないということに気づいて欲しいなぁ」

 

 随分と高く俺を買っているようだな。

 俺にしてみれば傍迷惑すぎるが。

 

「私の威圧に全く影響を受けないのはお前くらいだ」

「宇宙中探せば他にもいるだろ」

「フフ、誰に向かって言っている?」

 

 そういえば宇宙規模の極悪連中の親玉だもんな。

 

「なあ、カツミ。それほどまでに地球が大事か?」

「……」

「塵芥に等しい地球の生命を守りたいか?」

 

 テーブルに肘をついたルインは憎たらしい笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んだ。

 俺は無言のまま睨みつける。

 ここでキレても意味がない。

 ルインは遠隔で俺に見えるようにしているだけだし、そもそもこいつ相手にキレても喜ばせるだけなのは分かっている。

 ここは我慢してやり過ごすしかねぇ。

 

「それほどまでに地球が大事なら私を殺せるほどまでに強くなれ。お前は私の期待を裏切らないと信じているからな」

「は?」

 

 ふざけてんのか嘗めてんのかこいつ。

 瞬間湯沸かし器並みに怒りが沸騰してしまったが、もう我慢ならねぇ。

 この野郎、ここまで人を虚仮にしやがって。

 誰のせいで地球がピンチに陥っていると思ってんだ。

 半分は俺のせいとはいえ、もう半分はお前のせいじゃねぇかこの野郎。

 

「上等だテメェ……」

 

 いつまでも自分が上だと思ってんじゃねぇぞ……! 超越存在だか宇宙最強だかなんだか知らねぇが絶対に目に物見せてやるからな……!!

 ムキになっていることを自覚しながら俺は、未だに笑みを浮かべているルインを血走った目で睨みつける。

 

「その人を舐め腐ったにやついた面を二度と浮かべないようにしてやる……!!」

 

 俺の啖呵にルインはなぜか機嫌を良くする。

 

「……お前は本当に愛い奴だな」

「あ?」

「お前との対話は心地がいい。こんなにも私の感情をかき乱してくれる」

 

 椅子の背もたれに背中を預けた奴は満足した様子で俺を見る。

 散々人を煽っておいてなにを勝手に上機嫌になっているんだこいつ。

 

「駄目だな。これ以上話せば我慢ができなくなりそうだ」

「……」

 

 僅かに漏れる殺気に左手のプロトに触れる。

 すぐに殺気を収めたルインは再び俺を見る。

 

「そろそろ話を終えるとするか」

「二度とこんなまどろっこしい手を使ってくんじゃねぇ」

「ならば次は別の方法で話に来るとしよう」

「そういう問題じゃ———って、もういねぇ……」

 

 あいつ何か言われる前に消えやがった。

 肩を落とした俺はそのまま冷えてしまったコーヒーで喉を潤す。

 

「ふざけやがって」

 

 俺だって現状の力の差が分からないほど馬鹿じゃない。

 だが、戦うなら勝つつもりでいくだけだがあっちから俺を対等扱いしてくるのはなんとも納得できない。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息をついていると、背後のワームホールの扉が開く。

 そこからかなり慌てた様子のレイマが飛び出し、どんがらがっしゃーん、という音と共に近くのテーブルに突っ込んできた。

 

「レイマ!?」

「か、カツミ君!! い、今下に第一位が来ているという情報があってだな……!!」

「……そういえばそうだったな。衝撃的なことがあって忘れてたわ」

一位が来る以上の衝撃的なこととは!?? い、いや、とにかく下の階に行こう!! カツミ君!!」

「あ、ああ」

 

 ルインのインパクトが強すぎたが、一階でも同じことが起きているのを忘れていた。

 俺はレイマと共にアカネ達のいる一階へと向かうのであった。

 




もう普通に会話するだけで嬉しいルイン様でした。
主人公の悪態が微塵も効いていないどころかそれすらも楽しんでいます。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

※※※

並行して『外伝 となりの黒騎士くん』の方も更新いたしました。

第十四話『ジャスティスクルセイダーとは(掲示板)』
ジャスティスクルセイダーの初の実戦後の掲示板回となります。
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