追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。

前半はきらら視点。
後半からはカツミ視点となります。

今回は外伝で登場したキャラが新たに登場しますが、ゲスト出演のようなものなのでご安心をー。


毒になりたい彼女

 ジャスティスクルセイダーにとって学校は大切な日常の一つだ。

 侵略者という驚異から地球を守る使命を背負っている私達もここではただの学生だ。

 アカネと同じように進学はしないと決めた私も、勉強こそはしているけど三年の……残り少ない学校生活を過ごしている。

 でも、最近私には気になることが……ある。

 

「きらら。食欲ないの?」

「え、いや、そういうわけじゃないけど」

 

 お弁当を手にしたまま思考に耽ってしまった私に同じクラスの友達、香織が話しかけてくる。

 

「まさかダイエット……? 食べた栄養が胸に吸収されるきららが?」

「英子。同性相手でもセクハラになるって知ってる!?」

 

 そしてもう一人、いきなりセクハラ発言をかましてきたもう一人の友人、英子に頬を引きつらせる。

 私が考えに耽っていた理由は机をくっつけたこの場にいるもう一人———此花灰瑠にある。

 3年生になってから同じクラスになった面々だが、特にハイルに関しては聞きたいことで一杯だった。

 

「どしたのきらら? そんなに私のこと見て」

「ハイルってさ。穂村克己くんと隣の席だったって言ってたよね?」

「うん、そうだよー」

 

 いや、軽っ。

 驚くほどあっさりと頷かれてしまったことに驚く。

 

「黒騎士くんの中の人ね。実は私って穂村君が黒騎士って妄想して夢小説書いていたから個人的にはジャストヒットして嬉しかったわ」

「どうしよう、きらら、香織。友達の業が深すぎる秘密をカミングアウトさせられたんだけど」

「もう手遅れすぎるから放っておきなさい」

 

 そういえば英子も香織もカツミ君と同じクラスだったんだ。

 二人もなにか知っているのだろうか?

 

「二人はかつ……穂村君となにか関わりはあったの?」

「いいや、全然。妄想ではキャラ付けしてたけど。暗い過去を持つ心の傷を抱えたまま孤独に生きる系男子とか」

「英子、笑えないからそれ」

 

 英子をハイルが窘める。

 心なしかその声は強張っているように見えるが、当の英子は気まずげな様子で視線を逸らす。

 

「いや、だって本当だとは思わなかったじゃん……」

 

 ある意味でカツミ君が学校に通っていた時点でそう考えていたならもの凄く勘がいいな。

 葵もそうだが、オタクというのは何かしらの直感に優れているのだろうか。

 

「私もあまり関わってないかなー。ハイルもそうでしょ?」

 

 話を戻すように口を開いた香織の言葉に一瞬だけ動揺を露にさせた彼女はぎこちない笑みを浮かべる。

 

「私は結構話してたよ」

「……えっ、初耳なんだけど」

「へぇ、意外ねぇ。ハイルってあまり男子に興味ないと思ってたのに」

 

 あれ? でもカツミ君はハイルの記憶を認識改編で変えたって……。

 でもどのレベルで変えたとは聞いてないしなぁ。

 

「ハイルが穂村君と話していたのって隣の席だったから?」

「それもあるけれど……」

 

 一旦言葉を区切ったハイルは懐かしむように笑みを浮かべた。

 

「友達、だったから」

 

 私達よりもずっと早く彼と“友達”だった存在。

 この子には何かある。

 そんな予感をしながら彼女の言葉を頭の中で反芻させていると、ふと思い出したようにハイルは握りこぶしを作る。

 

「でも次会ったら一度ど突いてやりたいね!」

「な、なにかあったの……?」

 

 ちょっと引きながらそう質問するとハイルは苦笑しながら口に立てた人差し指を添えた。

 

「秘密!」

 

 もしかしてだけど、この反応からしてアルファの認識改編が解けている?

 いや、彼女の能力はそれこそ“自然には直らない”ものだからそんなことがありえるはずがないけど……いったいどういうことなんだろう?

 これは社長に伝えた方がいいのか?

 カツミ君をハイルに会わせた方がいいのか?

 でもでも、そんなことしたらカツミ君がド突かれちゃうし……。

 

 そうこう思い悩んでいるうちに昼休みが終わりを迎えた。

 そのまま普通に授業を終えた私は、家には帰らずサーサナスへと向かう。

 

「来たよー」

「うぃっす」

「こんにちは! きららさん!」

 

 サーサナスの二階には既に葵とハルちゃんがおり、いつもの如く姉妹の個性が分かる挨拶を返してくれる。

 

「アカネは?」

「本部でジャスティビットの調整があるからそっちに」

「ふーん、あ、カツミ君も本部?」

 

 だったらハイルのことをもう一度聞きたいんだけど。

 だけど葵は首を横に振った。

 

「え、いないの?」

「うん。今、お出かけ中」

「一人で?」

「アルファと一緒に」

 

 お出かけ中、か。

 意外だな、葵なら例え妹がいようともついていきそうなものだけど。

 

「葵はついていかなかったの?」

「流石に私も空気くらいは読める」

「「!?」」

 

 今年一番驚いたかもしれない。

 思わず晴ちゃんと顔を見合わせてしまった私たちに葵はため息を零した。

 

「お墓参り」

「え?」

 

 呆気にとられる私に葵ははっきりと口にする。

 

「今、両親のお墓参りだって」

 


 

 両親の墓は都会から離れた霊園にある。

 自然も多く、今の時期はそれほど人気のない場所。

 これまで怪人やら異星人の侵略やらで数年単位で墓参りをできていなかったので、改めて自分の折り合いをつけるべく墓参りをしようと考えたのだ。

 レイマにも許可をもらってきたわけだが、一人だけでは向かうべきではないということで今回はアルファに一緒についてきてもらっている。

 

「……」

 

 綺麗に掃除した墓の前で手を合わせ目を瞑る。

 ここ三年間、怪人やら侵略者のこともあってここに来ることもできなくなっていたのだ。

 

「カツミはもう許してるの?」

「ん?」

「両親のこと」

 

 隣で俺の真似をするように手を合わせていたアルファがそんなことを聞いてきた。

 

「少なくともさ……あの事故が起こる前までは、いい両親だったんだよ」

「……そっか」

「そういうことだ」

 

 俺の中ではもう結論が出ていることなので恨むとかそういう時期はもう過ぎているんだ。

 アカネ達のおかげでもう夢にうなされることもないしな。

 墓を離れ、手拭いがかけられたバケツを持ってその場を離れる。

 

「いつまで戦いが続くんだろうね」

「分からん。もしかしたら、戦いそのものは終わらないかもしれないな」

 

 もしも、ルインとの戦いが終わったとしてもそれで一件落着……と楽観視しているわけじゃない。

 俺たちは……いや、地球は外にいる宇宙人の存在を知ってしまったんだ。

 同時にそれは宇宙にいる奴らも地球の存在を知ったということになる。

 もう地球はこれまで通りに宇宙人というあやふやな存在に空想していたような時代に戻れない。

 

「……私はどっちでもいいかな」

「ん?」

「私はカツミがいればそれでいいし。それ以外なにもいらない」

 

 会った時からこいつはずっとそうだったからな。

 

「私は生まれた時から一人でずっと彷徨っていた。母親がいたって認識は一応あるけれど会ったこともないし、今更興味もない」

「……」

「でもそれから当てもなく進んで、導かれるようにカツミに出会った」

「ついでにアカネともな」

 

 ぽん、とアルファの頭に手を乗せる。

 それだけで機嫌をよくする彼女に苦笑しながら、最近アカネから聞いた話を思い出す。

 俺としてはアルファと初めて遭遇した時に助けた奴がアカネだったとは思いもしなかった。

 

「もしかしたらそれも導かれた可能性の一つかもしれないね。アカネもカツミと同じように普通とはちょっと違うから」

「……家は一般家庭だったけどな」

「正直、私はまだ疑ってるよ」

 

 いや、信じられねぇけど家はマジで一般家庭だった。

 姉二人の押しの強さとか、飼い犬のきなこの懐き具合とか普通ではなかったけれども。

 

「そういえばさ、お前此花の記憶になにかしたか?」

 

 昔のことを思い出したのでついでとばかりにアルファに尋ねてみる。

 俺の質問にアルファは露骨に視線を斜めに逸らした。

 

「……な、なにもしてないよぉ」

 

 嘘つくの下手くそかおい。

 じろりと隣のアルファを見ると露骨に目を逸らして挙動不審になる。

 

「……はぁ、お前にも嫌なことをやらせちまったからな。怒ってないから安心しろよ」

「カツミ……!」

 

 今思えば俺もあまりにも自分本位だった。

 此花の気持ちもなにも考えずに記憶を消してしまったからとてつもなく申し訳ない気持ちだ。

 

「あの子。もう記憶が戻っているよ」

「幽霊怪人の影響はないのか?」

「あれは一時的なものだから影響はないよ」

 

 此花灰瑠は幽霊怪人の被害者だ。

 

 俺があのクソッタレな怪人を嫌う理由の一つがこれだ。

 俺と関わっていたからあいつは幽霊怪人の標的にされ、その精神に大きな傷を負った。

 もし少しでも俺が助けに入るのが遅かったらあいつは廃人になっていたかもしれなかった。

 

「あの時のカツミ、正しくないよ」

「……分かってる」

 

 幽霊怪人の記憶だけを消せば此花は廃人にならずに済んだのだ。

 だが、巻き込んでしまったあいつを見て……俺は、これ以上あいつと関わるべきじゃないと思い込んだ。

 だから俺はアルファに頼んで“これまで俺と関わってきた記憶”を変えさせた。

 学校では話もしたこともなく、ただ挨拶を交わす程度に顔を知っているだけの他人ということになった。

 

「あの時はごめんな」

「謝るならあの子にね」

「……そうだな」

 

 アルファにも嫌な思いをさせた。

 こいつだって好き好んで俺の友達の記憶を弄んだわけじゃなかった。

 俺が頼んでやらせたようなものだから、アルファに責任はない。

 

「……待て。どのタイミングで記憶が戻った?」

「カツミの過去が暴露された時」

 

 ……はい?

 

「考え得る最悪のタイミングじゃねぇかよォ!! 時間何時頃!? まさか夕ご飯の時じゃねぇだろうな!?」

「えぇと、うん! 夕食時くらい!!」

世の家族団欒の中で俺の過去暴露とか罪深いにも程があるだろ!! お茶の間の食欲をなくすわ!!」

 

 深く考えてなかったがとんでもねぇ時間帯に俺の正体暴きやがったなガウスの野郎。

 だとしたら、俺の正体と過去のアレを此花の両親は……、ッ!

 いや、記憶云々抜きにしても完全に俺のことに思い至っただろう。

 

「一度、会っておくべきか……?」

 

 あれこれ他人に吹聴するような奴じゃねぇのは分かってる。

 だが記憶が戻っているというなら一度、レイマに保護してもらって話だけでもちゃんとしておいたほうがいいかもしれない。

 溜息をつきながらバイク———ルプスストライカーへと到着した俺は、シロに出してもらったヘルメットをアルファに渡す。

 

「ほれ、行くぞ」

「うん」

 

 さて、サーサナスに戻って———ッ!!

 覚えのある異質な気配。

 どろりとしたそれを即座に感じ取った俺は無理やりにアルファをヘルメットをかぶせ、バイクに乗せる。

 

「わぷっ!? ちょっとカツミ! いくら私でも自分でも乗れるって!!」

「プロト。ルプスストライカーでアルファをサーサナスに」

『分かった!』

 

 ルプスストライカーから伸びた光のベルトがアルファを固定し、そのまま一人でに走り出す。

 乗っているアルファは困惑の悲鳴を上げているが、今はあいつをこの場から逃がす方が先決だ。

 

「近くにいるのは分かってんだよ。出てこい」

「なぁんで分かっちゃうんだろう」

 

 空を飛んだルプスストライカーが見えなくなったところで一人の女性が姿を現す。

 風浦桃子……に憑依している侵略者、ヒラルダ。

 妙な気配を纏わせた奴は変身もしないまま笑顔で俺の前に出てきた。

 

「タイミングを見て出てこようと思ったのになぁ」

「要件を言え」

 

 ここまでわざわざ追ってきたのか?

 下手に風浦さんの身体を傷つけるわけにもいかず警戒していると笑みを浮かべたまま、奴は俺の目の前で立ち止まる。

 

「桃子を返してあげる。」

「……は?」

 

 そう言葉にするやいなやヒラルダの身体が分裂する。

 光と共に二人に分かれたもう一人は、脱力するように地面へ倒れようとしていたので慌てて支える。

 

「っ、大丈夫ですか!?」

「……」

「ヒラルダ!! どういうことだ!!」

 

 風浦桃子をヒラルダから解放するのは俺達の目的のはずだった。

 だが、ここで解放する意味が分からない。

 

「別になにも仕込んでないよ? ちゃーんと地球人基準で規則正しい生活を送っていたからむしろ健康体だよ?」

『ガウ!!』

 

 彼女のスキャンを行ってくれたシロも問題ないと言ってくれているがいまいち信用できない。

 でも病院に連れて行かないと……!!

 

「それにもう他人に取り付く必要もなくなったんだよね。もう私は自分の身体を作って動けるってわけ」

「じゃあ、なんで風浦さんの姿のままなんだ……!!」

「え、可愛いし気にいっているから? だって私の生身の姿を再現するの昔のこと思い出して嫌になっちゃうしぃ、貴方にとって印象深い姿の方がいいでしょ?」

 

 ……笑っているが、こいつは自分自身を嫌っている?

 少なくとも俺にはそう伝わった。

 

「これで貴方も手加減せずに私と戦えるよね?」

 

 そう言葉にした奴が虚空から何かを出現させる。

 それは、俺のグラビティグリップやミックスグリップに似たアタッチメント。

 五色の注射器のような装飾が施された長方形型のそれを手にした奴は、そのまま自身の本体であるバックルを出現させる。

 

SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)!!』

 

「ついに、待ち望んだこの時がきた……!」

 

 ヒラルダが手に持ったアイテムを自身の本体であるバックルに重ねるように装着させる。

 瞬間、奴からとてつもない感情のようなものが俺へ伝わってくる。

 

Let's(一緒に) go down together(どこまでも堕ちていこう)……(……)

 

 絶望に染まったヒラルダの機械的な声が発せられた直後に、接続されたアタッチメントから五つのアンプルのようなものがバックルに突き刺さり、なにかを注入する。

 それらは混ざり合い、混沌とした色へと変わり煙となってバックルから溢れだした。

 

『愛して!』——l
l——『見捨てないで』

『どうかわたしを許さないで』 

VENOM(ヴェノム) SCORPIO(スコーピオ)

l——『忘れないで』
『私を見て』——l

 

 背後に煙となって現れる巨大なサソリの怪物。

 サソリの怪物は、その煙でできた尾で自身の身体を抱きしめるように苦しみだしたヒラルダの胴体を後ろから貫いた。

 

「うっ、ぁ……あは……!!」

 

 煙の中で苦しみながらヒラルダは笑う。

 ピンクと緑の入り混じった毒々しい煙の中にいる奴の身体を鎧が纏っていく。

 黒い複眼の中で星のような転々とした輝きを放つマスク。

 丸みを帯びたアーマーに鋭利な指先が目立つ両腕に、サソリの尾を思わせる両肩の鎧。

 腰には毒々しい桃色のマントが出現し、奴がマントを翻した瞬間———纏っていた煙を払いその姿を現した。

 

MODE(モード)VENOM(ヴェノム) SCORPIO(スコーピオ)

I can't turn back now(元には戻れない)……(……)

 

「ヴェノムスコーピオ。星界エナジーは反転しアンチ星界エナジーとして私の手中に堕ちた。ふっ、ふふ、あぁ、すごくいい気分」

「……いいのかよ、それで!! そんな様で……!!」

 

 強くはなった。

 それこそ俺達とまともに戦えるほどに。

 だがその姿は、あまりにも痛々しすぎた。

 

「ようやく見てくれた」

「ッ」

「こんな様でいいの私は。こんな様で、救いようのない末路を望んでいるの!!」

「ああ、そうかよ!!」

 

 風浦さんを駐車場の日陰に横にさせた俺はベルトから飛び出したシロを掴み取る。

 出現させた金色のグリップをドライバー装着し、変身したヒラルダを睨みつける。

 野郎、好き勝手に人に願望押し付けやがって……!!

 ルインもそうだが、こいつもこいつでよォ!!

 

TRUTH(トゥルース) DRIVER(ドライバー)!!】

 

「その面倒な破滅願望ごとテメェをぶっ飛ばしてやるわ!! やるぞ、シロ!!」

 

ARE YOU READY?(いつでもいいよっ!)

 

NO ONE CAN STOP ME!!(誰にも君の邪魔はさせないから!!)

 

 シロを変形させたトゥルースドライバーを装着し変身を行う。

 こいつは死にてぇのか救われてぇのかどっちか分からない。

 ただ一つ言えることは、こいつがとんでもなく面倒で厄介極まりねぇ奴だってことだ!!

 




ちゃんと空気も読めるブルーでした。

地味にヒラルダの変身のフォント選びに苦労しました。
もし特殊タグなどがズレていたら申し訳ありません。

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