追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。
今回は社長視点でお送りします。


情報整理と姉妹喧嘩配信

 カツミ君が星界戦隊に与していた星将序列、ヒラルダと交戦した。

 黒騎士、並びに白騎士の性能ならば難なく倒せていたはずの敵だったはずが、ヒラルダは以前とは隔絶した戦闘力を備え彼の前へ立ちはだかった。

 星将序列40位代……レッドの証言によれば実力を隠し、二桁上位クラスの力を有していた厄介な敵だった奴がさらなるパワーアップを果たしたということになる。

 

「スーツの映像を確認する限り、奴は星界戦隊の能力を備えたとみるか」

 

 それもただ集約しただけではない。

 さらに大幅に力を増し、白騎士のフォームチェンジシステムにまで介入することまで可能にさせている。

 

「……ヒラルダ。いったい何者なのだ」

 

 奴がコアにされたアルファだということは知っている。

 それもコアにされた後で独自に行動する独自の進化を遂げている。

 

「重力加速にトゥルースドライバーへのジャミング……単純な戦闘力も白騎士と同程度。うぅむ、星界エナジーについては私もそれほど詳しくはないが……」

 

 星界エナジー。

 それは星界戦隊そのものを差すものではなく、この宇宙とは別の次元に満たされたエネルギーのこと。

 正直、このエネルギーについては解明されてはいない。

 星界戦隊とは星界エナジーに選ばれた、または見出された戦士というだけで出自自体に特別な点はない。

 

「調べようにも表れる場所、時間そのものに規則性がなかったからな。この地球の星界エナジーのサンプルを確保したとしても保存できる装置すらもなかった」

 

 エネルギーそのものに大本の意思がある。

 少なくとも私はそう見ている。

 ……グリーン曰く、星界戦隊を裏から操っていた危険な存在がいると報告されているわけだから、ほぼ確実なのだろうが———ヒラルダはどうだろうか?

 

「奴はそれとは別の思惑で動いているのか?」

 

 少なくとも奴には星界戦隊の面々に見られるような精神的な錯乱は見られなかった。

 カツミ君に対して破滅的な感情は抱いてはいたが、モータルレッドのように狂ってはいなかったし、モータルブルーのように心が死んでもいなかったからな。

 

『マスター』

「タリアか」

『私見をよろしいでしょうか?』

「構わん」

 

 私の助手でありゴールドスーツの補助を任せているエナジーコア、タリアの声に頷く。

 

『ヒラルダは星界戦隊のコアを取り込んだのではないのでしょうか?』

「……ふむ」

『星界剣機と呼ばれる五つの剣から成る兵器。あれらには我々エナジーコアに似た強力な反応が五つみられました』

「破壊されたはずでは?」

『それもヒラルダの計算通りだとしたら?』

 

 ……その可能性は大いにあるな。

 あの戦いでヒラルダはうまく立ち回っていた。

 多少は身体こそ張っていたが最終的にはほぼ無傷で生き残りいつの間にかその姿を消していた。

 

「つまりは奴は五つのエナジーコアを取り込んでいる状態、ということか」

『単純に五倍ということではないでしょう。コアの力を引き出すのは装着者の素養と相性。加えて星界エナジーそのものは固有の意思すらない、ただの力の塊です』

「だがそれでも強敵だ。プロトワンでジャミングを無効化できたが、ジャスティススーツでそれができるかは分からん」

 

 カツミ君とヒラルダの戦闘データを元にしてジャミングへの対策を行わなければ。

 レッド達ならばスーツの機能が妨害された程度、なんら支障はないと思うが、これは私の沽券にもかかわることだ。

 

「……。だがそれ以上に……」

 

 深紅の色に染まったプロトワン。

 ぶっちゃけ製作者の私でさえなにが起こっているのか全然分からない。

 過剰駆動によるオーバーヒート、と片付ければそれでいい。

 実際、それも一つの原因だろう。

 

「カツミ君のエナジーコア……プロトの力か」

『彼女はとても強力な存在ですが、それは分かりかねます』

「……同じエナジーコアの君が言うのか」

『彼女も、白騎士のコアも。我々はアンノウンで製造されたコアですが、彼女たちはそもそもの起源が異なっています』

 

 そもそも双子という点だけで異常なのだ。

 同じ星に同一のアルファもオメガも同時に存在することができない。

 いくら双子とはいえ共食いが始まってしまうからだ。

 

「……謎が尽きないというのは、科学者冥利に尽きるな」

 

 カツミ君と言う可能性の塊は、いつだって私の予想の遥か上を超えてくる。

 それにほんのちょっぴりの恐怖と———技術者故の高揚が沸き上がってくるほどだ。

 

「コアといえば、ジャスティススーツだ……」

『アサヒと呼ばれるエナジーコアですね』

「ああ……」

 

 アレ……いや、彼女か。

 彼女はいつから目覚めていた?

 もしかすると最初から? だとしたらレッド達という素質のある適正者を選んだ理由にも納得がいくが。

 

「こちらから接触しようにも全く応じてくれないのはな」

『気難しい、というよりその必要性を全く感じていないようです。ですが星将序列一位と面識、ないしは好敵手と思える関係性がある時点でコア製造前はとてつもない戦闘力を持つアルファだったかと』

「先生……あの一位が敵として見据える時点で普通ではない。それにアサヒという名……」

 

 安直ではあるが地球由来のコアの可能性が高い。

 もしや白紙化された以前の地球のアルファが彼女だったのだろうか。

 それを調べる術はないが……。

 

「肝心のレッド達も皆一様に彼女を恐れていて、師として教えを受けていたということしか分からなかった」

 

 だが戦闘経験が足りないジャスティスクルセイダーが短期間であれだけ戦闘力が向上した理由には合点がいった。

 

『アサヒ様は鬼です。人の首を跳ね飛ばして、首から下を嬉々として蹴り上げるやばい人です』

 

『愉悦主義者。罠にかけた獲物をいたぶるのが好き。矢で跳弾させるやばい人』

 

『怪力お姉さんです。おしとやかに見えてセクハラもしてくる上に結構な脳筋なやばい人です』

 

 一度そう証言した三人に鏡を見せてやりたい衝動に駆られた。

 もしやそういう素養込みでレッド達三人が選ばれたんだなと確信してしまった。

 

「アサヒについてはこれ以上の追及は難しいか」

『そのようですね。それはそうと……マスター』

「む? どうした?」

『そろそろ休憩なさってはどうですか?』

 

 ふむ。

 確かに少し疲れているな。

 まだまだしなければならない案件が山ほどあるが、タリアの言う通り休憩するか。

 

「ああ、少し休息をとるとするよ」

『少し、ではなくしっかりと休憩なさってください。前回の睡眠から87時間32分35秒経過しております』

「私は宇宙人だから大丈夫なのだよ」

『……』

 

 タリアの無言の後に壁から飛び出したアームが私の周囲を取り囲む。

 アームの先端には対怪人用のショックガンや捕獲用マニュピレーターが装備されており、その先端が私へ向けられている。

 

「あの、タリア? む、無言で壁から電気ショックガンを装備させたアームを出さないでくれますか? ちゃ、ちゃんと休む! 三時間ほど睡眠をとる!!」

『六時間以上の睡眠を推奨します』

「そんな贅沢が私に許されていいはずがないだろう!? アッ、タリア!? そのウィィィンってチャージされてるショックガンはあれかね!? 最大出力かな!? わ、分かった分かった!!」

 

 くっ、健康体にされてしまう……!!

 ガシャガシャーン、と音を立てて壁に折りたたまれていくアームを見てため息をついた私は、ひとまず画面を整理しつつ―――ふと、あることを思い出す。

 

「今日はカツミ君が日向君の配信に招待された日では?」

『はい。現在、基地内の配信スタジオにて配信中です。この私とプロト様、そしてグラト様などのスタッフがついているので万が一の心配はないかと』

 

 ……まあ、よほどのことが起こらなければ事故にはならんだろう。

 それにジャスティスクルセイダー、並びにカツミ君のイメージアップのためだ。

 彼らも一人の人間と認識されるように民衆に親しまれやすい一面をどんどん見せていかなければな。

 

『あ、ですが今回は途中から葵様が乱入なされました』

「もう事件起こってるではないかぁ!」

 

 あの超絶自由人が乱入するとかもう事故が決定したようなものだぞ!?

 それに日向君は平常時はクール系配信者だが、姉が絡むと大声になるしなにより負けん気が強くなってもう大変なことになる!

 

「とりあえず配信を確認しなくては……!!」

『睡眠は?』

「この後すぐに寝るから今は許して!!」

 

 急いで動画サイトを開き、日向君のチャンネルを開くとその配信のサムネが出てくる。

 

第壱話あああああああああああ

士、襲来ああああライブ

 

「……果たしてこのサムネは大丈夫なのだろうか?」

 

 ものすっっっごい既視感。

 日向くんのテンションの高さぶりが伺えるが、なんだろうか。

 こちらもノリ良く許可こそしたが心配になってきた。

 

 

「でもお姉ちゃんって

 

「ナオも意外とズボラ」

 

基本的に駄目人間」

 

プロレスきちゃ

バチバチに殴り合ってて草

バッサリ斬られたwww

やb

黒騎士くん置いてけぼり

空気悪くない?

黒騎士くんを無視するな

おもろすぎるだろ

ズボラVS駄目人間VSダークライ

い つ も の

姉妹でお互いを蹴り落すの草

□    ライブ
 
     

♯雑談

雑談回:特別ゲストの日[黒騎士さん]

XXXXX人が視聴中

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蒼花ナオCHANNEL 
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 チャンネル登録者数XXXXX人

 

 始まったとたんにバチバチに殴り合っているのだが。

 バッサリと日向君の発言を切り裂いたブルー。

 そんな二人の間で借りてきた猫のようにおとなしくなっているカツミ君。

 確実にもう一波乱やらかしている空気だァ……。

 

『あのさ、私はお姉ちゃんと違ってイメージがあるんだから適当なことを言わないで』

『まるで私が駄目人間みたいなイメージあるのやめてくれる?』

『えっ』

『……。黒騎士くん? ねえ、なんで私と目を合わせてくれないの?』

 

・これは駄目人間

・多分、種別の違う駄目さや……

・普段の言動がスピリチュアルすぎる……

 

 姉妹なんだから似ているのはある意味当然なのでは? と思うが、それは当人にしか分からないのだろう。

 というよりブルーが駄目な方向で突出している事実は変わらないのでは?

 

『つまりは私が変人という点も合わせて世間で受け入れられているということでは?』

『無敵かお前』

『かつみん、私は駄目でか弱いから養って』

『俺の迷惑を考えろ』

『そうだよね。これからは私たちの問題だね』

『無敵かよお前ぇ……』

 

・人の心がないんか?(恐怖)

・無敵すぎる

・調子に乗るなよブルー

・今からスタジオ乗り込むぞコラ

・ブルーはクール枠、そう思っていた頃がありました

・この変人なんとかできるのは君だけや

・チャット欄に怖い人湧いてるよぉ

 

『それに引き換え我が妹は……』

 

 そこで日向君を見るブルー。

 首を傾げる彼女にブルーは笑みを零す。

 

『フッ』

 

 奇妙な沈黙が場を支配する。

 その空気の中、意外と空気が読めるカツミ君が場を賑わせようとした瞬間———、

 

 

『可な

 

 笑に

 

 しが

 

 い

 

 !! 』

 

『蒼花!?』

 

・声やば

・とんでもない音圧www

・い つ も の

・なんもきこえんなった……

・鼓膜いかれるで

・草

 

 えげつない音圧を発した日向くんにびっくりするカツミ君。

 私が作り出した黒騎士くんアバターも肩を跳ねるほどの彼の驚きを正確に再現している。

 

「もう堪忍袋の緒が切れた。バカ姉、黒騎士さんの前でボロ雑巾にしてやるから覚悟しておけ」

「やってみせろよ、ナオティー」

「私が大抵のネタに乗ると思ったら大間違いだァ!!」

 

 これもう事故では?

 ……いや、いつものことか。

 こういうのをプロレスと言うのだろう。

 蒼花ナオの配信は大抵ブルーが関わると事故になるので私にとっても見慣れたものだ。

 カツミ君に気を遣いつつ、まずは事態を見守ろう。

 

「妹よ。コントローラーを取れ。ゲームで決着をつけよう」

「上等……!!」

「え、え、今からゲームすんの? どうするんだ?」

 

・ごく自然な流れだァ……

・草

・黒騎士くん完全置いてけぼりで草

・あわあわしててかわいい

・まさかの黒騎士が常識人枠www

 

「お前ら落ち着けよ! スタッフの人達困ってるし」

「え? 黒騎士君、まさか負けるのが怖いの?」

「……。やってやろうじゃねぇかこの野郎!!」

 

・草

・草

・草

・イエローとレッドも投入しよう

・乗せられやすい:弟ポイント+5

・熱しやすいキャラしかいないwww

・草

・解釈一致

 

 ……。

 案外大丈夫そうだな。

 後はスタッフのグラトとタリアに任せてモニターから視線を外した私は暫しの睡眠をとるべく椅子から立ち上がる。

 その際に腰やら背中の骨がバキバキと音を鳴らす。

 

「うぅむ、自覚はしてないが結構疲労が溜まっているかもしれんな」

 

 ここはシャワーでも浴びておこう。

 そう思い移動しようとすると背後の扉が開き、大森くんが入ってくる。

 

「失礼します。おや、お休みするところでしたか?」

「む、出直さなくてもいいぞ。……風浦桃子の診断結果が出たか?」

「ええ」

 

 大森君からカルテを受け取り中身を確認する。

 風浦桃子、19歳。

 数か月の間、ヒラルダという寄生型エナジーコアに憑りつかれていた人間。

 都内の大学二年生。

 キャンパスからの帰り道にヒラルダに憑りつかれ、そのまま失踪。

 現在は解放され、この本部で後遺症がないか検査を受けている。

 

「特殊なエナジーコアに憑りつかれていただけに念入りに検査こそしたが……見たところ異常はなさそうだな」

「まだ目覚めていない、という点で心配にはなりますけど」

「軽い昏睡状態だろう。あと数日以内には目が覚めるはずだ。……あとはもう少し検査を重ねてそれでも異常がなかった場合は、都内の病院に移動させよう」

「了解です。……ご両親への連絡は……」

「当然、伝えるべきだろう」

 

 大事な家族が数か月も行方不明だったのだ。

 事情が事情だけあって彼女の周囲のサポートもこちらが負担しておかなければな。

 

「……本当に異常がなくてよかったですね」

「ああ。だがまだ楽観視はするなよ? 引き続き風浦桃子には護衛をつける」

「分かってますってー」

 

 ヒラルダに憑りつかれた地球人、か。

 奴が見出す時点でそれなりの素養はあるはずなので、それを狙った輩が出ないとも限らない。

 だからこそ一先ずは様子を見ていくしかない。




またもや荒ぶるブルー妹でした。

今回の更新は以上となります。

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