今回はあえてフォント少な目。
主人公視点でお送りします。
今回の話は『【外伝】となりの黒騎士くん』
第10話『となりのホムラくん 3』
第11話『となりのホムラくん 4』
の要素を含みます。
ヒラルダの襲撃から約二週間が過ぎた。
その間、本部に搬送した風浦桃子さんは本部に所属する医療スタッフにより検査を受けることになった。
地球外の存在であるヒラルダに数か月もの間憑依されていたのだ。むしろ何かしら影響がある可能性が高いとすら思われていた。
しかし結果は異状なし。
ヒラルダのいう通りただ眠っているだけという状態にあった彼女は、その後都内の病院へと搬送され厳重な警備に守られその目覚めを待っていた。
「かっつん、異常がないっていうならもう大丈夫なんじゃないの?」
「そうなんだけどな……」
現在、俺は風浦さんが入院している病院にいた。
その場には暇を持て余していたアルファとハクアも同行しており、俺を含めて正体がバレないように軽い変装をしている。
「なにか心配なことでも?」
「なぜか胸騒ぎがしてな……」
大きな病院とあってか平日でもそれなりに人が多い。
幸い、完璧な変装をしていた俺の正体がバレるようなことはないが怪しまれる前にレイマに事前に教えてもらった風浦さんの病室に向かおう。
足を止めずにそのまま受付へと足を運び、声をかける。
「すみません。風浦桃子さんのお見舞いに来た者ですが」
「! も、申し訳ありませんが身分を証明できるものを提示してください」
職員の女性が驚きながら机の下からメタリックカラーのバインダー型の端末を俺の前に差し出す。
手首のXプロトチェンジャーをバインダーにかざすと端末が緑の光を放ち、チェンジャーをスキャンする。
「か、確認いたしました。……ほ、本物だ」
物珍しい視線を向けられむず痒くなりながら説明された場所へと進む。
「驚かれてたね」
「そりゃそうだろ。いろいろ暴露されちまってんだから」
ここはジャスティスクルセイダーと繋がりのある病院らしく、必然的にそこに所属している職員と医師もジャスティスクルセイダーのことを知っているといってもいい。
「かっつんの場合、別の意味でも名前が知られてると思う」
「別の意味って?」
「晴ちゃんの配信」
「あの話はするな……」
自分でもちょっとはっちゃけすぎたと後悔しているくらいだ。
「……病院にくるのも久しぶりだな」
「カツミってほとんど風邪とか引かなかったもんね」
アルファの言葉に苦笑する。
俺の場合、風邪をひいたとしても病院の世話になるほどでもなかっただけだけどな。
少し前に俺が白川克樹だった時期に風邪を引いたがあれは地味に珍しかったりする。
「ハクアは少し前までは看護師だったんだっけ?」
「仕事していたのはここじゃなくてもっと小さいところだったよ」
俺が記憶を失っている時期だったが実年齢一歳未満で仕事をしていたという時点でなかなかに壮絶だと思うわ。
「で、でも私、帰ったらかっつんがいると思ったらそれほど辛くなかったよ」
「俺をヒモみたいにいうんじゃない」
「……」
「無言になるのやめろよおい」
満更でもなかったような感じ出すのやばいだろ。
記憶喪失の時のことはちゃんと覚えているんだからな……?
そんな会話をしている間に、風浦桃子さんの病室の近くへと到着する。
他の患者の病室から離れたその病室の前には黒いスーツを着たガードマンのような者が立っており、彼らは俺たちの姿を見ると、無言のまま小さく頭を下げてくる。
俺たちも軽く頭を下げながら病室の扉をノックしようとして——不意に扉が開かれ、中から白衣姿の男性が出てくる。
「! 君は……」
「っ」
この人は……。
間近で視線が合い動揺してしまう。
「そうか、君ならばここに来てもおかしくはないな」
納得するようにそう呟いた彼は肩の力を抜くと優しく微笑む。
「風浦桃子さんはまだ眠っているけど、お見舞いはしても大丈夫。彼女のご両親もつい先ほどここに来ていたよ」
「……はい」
そこで道を開けた彼に頷き、病室へと足を踏み入れる。
事情を知らないアルファとハクアは不思議そうに首を傾げながら俺へ話しかけてくる。
「かっつん、今の人は知り合いなの?」
「私も知らないけど……」
「少し前に世話になってな。まさかあの人が風浦さんの担当医だったなんて思いもしなかった」
世の中本当に何が起こるか分からないもんだな。
だが、逆を言えば信頼できる人物がここにいてくれたよかったとも言える。
「さっきの人の苗字は
「え、それって……」
「ああ」
アルファも気づいたのか驚いた表情を浮かべた。
こいつは此花のことを知っているからな。その父親が今すれ違った人とくれば驚くのも無理はない。
「……後で此花の様子でも聞いておくか」
アルファの認識改編で幽霊怪人にあった日のことは忘れているが、それでも彼女と俺が同じ学校に通っていたことは知っていたはずだ。
あまり深く聞かずに元気にしているかどうかさえ聞ければ十分だ。
「まずは風浦さんだな」
先に彼女の様子を確認しなければ。
そう思い扉から病室へと入ると、ベッドで眠っている彼女の姿が視界に入り込む。
別に重傷を負っているとかそういうこともなく、ただただ昏睡状態にあった彼女は穏やかな表情のまま眠っていた。
そんな彼女の顔をハクアとアルファがのぞき込む。
「特に異常はないと思うけど……」
「カツミ、私はなにも感じない。そっちは?」
「……」
なんだこの感覚。
目の前で眠っているのは間違いなく風浦……風浦桃子さん本人だ。
だがその一方であいつの……ヒラルダと同じ気配を感じる。
「でも奴じゃない……?」
ヒラルダに憑依されていた名残? が残っているのか?
それともヒラルダが風浦さんになにか……いや、あの場に限っては奴は彼女のことを気遣っていたし、いい方は悪いがこんな回りくどいことをするほど奴は風浦さんに利用価値を見出していない。
「カツミ?」
「変に誤魔化さずにはっきりと言うぞ。風浦さんには確実になにかが起こっている」
「気のせい……ってわけじゃなさそうだね」
明確な根拠はないが確信してしまっている。
「でも本部で検査を受けているときはなにも感じなかったんだよね?」
「ああ」
それは確かだ。
だが、現に今眠っている彼女は妙な気配を放っている。
ヒラルダから分離した直後はなにも起きていなかったのかもしれない。
奴から離れるか、それとも単純な時間経過で彼女の中で何かが起きた……その可能性も高い。
「風浦さんが目覚めたとき、彼女本人なのかはたまたヒラルダなのかそれは俺にも分からない」
だが、目覚めなくては分からない。
助けたからには中途半端に家族の元に帰していいわけがない。
きっちりと問題全部ひっくるめて解決して、彼女を元の生活に戻さなくちゃならない。
「改めてレイマに伝えとくべきだな。アルファ、ハクア。ちょっと連絡してくる」
「ん、分かった」
「私たちはここにいるね」
そう断りを入れながら俺は病室を出る。
チェンジャー越しの通信とはいえ病院内で連絡するのは憚られるので一旦外に出ようとエレベーターのある方へと向かうと———風浦さんの病室の近くで先ほどすれ違った白衣姿の男性が待っていることに気づく。
……多分、俺が出てくるのは待っていたのだろう。
俺にとってもこの人は知らない人じゃない。
「あー、えーと。はじめましてかな。穂村克己くん」
「……お久しぶりです。先生」
「! 覚えていて、くれたのかい?」
「当時は色々と気にかけてくださってありがとうございました」
名前を知ったのは一年ほど前だが、この人とは子供の頃に会っていた。
10年前の事故———両親を失い搬送された病院で俺の担当医をしてくれた人が彼だ。
まさかそんな人が此花の父親だとは思いもしなかったわけだが……世の中本当に分からないもんだ。
「あれから10年も経ったんだね」
「ええ……」
両親を失った直後はただただ無気力だった。
生きる気力もなく、どんな言葉をかけられようとも反応すらしないし、泣きもしない。
傍から見れば本当に不気味な子供だったんだと我ながら思う。
でも、そんな俺にこの人は励ましの言葉をかけてくれていた。
「君のことはずっと気がかりだった。あんな辛い体験をした君が今どうしているのか、普通の……幸せな日常を生きているのか心配だった」
「……」
「奇しくも、あの事件で君のこれまでのことを知ってしまったけれどね」
ガウスが俺の過去を世間にバラしたせいでこの人にも知られちまったんだよな。
そしてこの人の娘である此花にも。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
先生も俺も何から話せばいいか分からない。
それくらいの時間が経っているし、二年前と違ってこの場には此花がいないから余計に会話がぎくしゃくしているようにすら感じる。
「穂村君」
「はい」
ようやく口を開いた先生に返事をする。
「君は今、幸せか?」
先生の言葉に少しだけ考え込む。
自分が幸せかだなんて考えたこともなかった。
改めてここ数年のことを振り返ってみると、思いの他すんなりと答えは出た。
「幸せかどうかは自分でもよく分かりません。なにせ、地球がこんなことになってますから」
「……はは、それはそうだ」
「でも、少なくとも人の縁には恵まれていると思います」
良くも悪くも、ではあるが。
だがいい意味で俺は縁に恵まれすぎているくらいだ。
「そうか。なんというべきか、大きくなったね」
「まだ十代ですけどね」
「それでもだ。当時の君を知る身としては、君がそう言葉にしてくれることはとても嬉しいことなんだ」
そういうものなのか。
少しだけむず痒くなってしまったな。
こんなことアカネ達の前では絶対に言えんな。
……そろそろ此花がどうしているか尋ねてみるか。
「そういえばですね」
「うん?」
できるだけ怪しまれず自然に聞こう。
まかり間違って俺が此花のストーカーみたいに思われたらやばいどころの話ではないからな。
「多分ですけど、俺が学校に通っていた頃に先生の娘さんと会ったことがあるんです」
「え、どういうことだい?」
首を傾げる彼に続きを説明する。
「いえ、此花という苗字も珍しいですしもしかしたらなって。彼女にも父親が医者だって―――」
「私に、娘?」
……待て。
なんだ、この反応。
まるで俺が此花のことを知っていることに驚いているわけじゃない。
嫌な予感がする。
ここ最近の胸騒ぎが胸の中でどんどん大きくなってくるのを感じる。
先生は困惑した……いや、無意識に青ざめたままその口を開いた。
「私に、娘はいないのだが……?」
その言葉を最初、認識できなかった。
数秒ほどしてようやくその異常を理解し、彼の目を見る。
嘘をついていない、むしろいきなり黙り込んでしまった俺を気遣う彼の瞳に事態の深刻さを理解させられてしまう。
「先生、いったいどういう――。―ッ」
『きゃあああああぁぁ!?』
背後、風浦さんのいる病室から強い思念のようなものが伝わってきた。
気持ち悪く、どんよりとしたそれに思考を遮られながら即座に後ろを振り向くと風浦さんの悲鳴が聞こえてくる。
それと同時に病室を開けたハクアが血相を変えて通路にいる俺を呼んでくる。
「ッ、カツミ!! いますぐ来て!!」
「ああ!!」
此花のことも急いで調べなきゃならないがまずはこっちが先だ!!
先生と共にすぐに走り出し、風浦さんの病室へと駆けこんだ俺の視界に映り込んだのは———、
「なんだ、これ」
病室に置かれていた戸棚、医療機器、そして彼女自身が横になっていたベッドがフワフワと宙を浮いている光景だった。
「!」
その真ん中で空中に浮いている自分と周りを見た風浦さんが、俺に気づき———空中で急加速し俺の胴体目掛けて頭から突っ込んできた。
「おぼぉ!?」
「黒騎士……くんっ、私、なにが……どうなってっ」
飛び込んできた風浦さんを庇いながら後ろに倒れた俺に、彼女は混乱しながら嗚咽を漏らす。
その開かれた彼女の双眸には、ヒラルダと似たような桃色の光が帯びていた。
「いったい、なにが起こっているんだよ……」
此花のことを覚えていない父親。
異様な力に目覚めてしまった風浦桃子。
あまりにも立て続けに起こる事態に、俺はそう呟かずにはいられなかった。
【次回予告】
記憶を取り戻し悶々とした日々を送る少女、此花灰瑠。
そんな彼女に第六位アズの卑劣な魔の手が迫る。
悪意に晒されながらも必死に逃げるハイル。
しかし、なんの力のない無力な彼女に抗える術などあるはずがなかった。
次回、追加戦士になりたくない黒騎士くん
第125話
『
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