前半は主人公視点
後半からは別視点でお送りします。
此花の無事を知らせる動画を確認し、なんとか混乱から立ち直った俺は改めて彼女が無事なことに安心した。
此花はサニーが保護している。
一応は敵方の勢力ではあるが、奴はそういう手段を用いるとは思えないし、此花を保護したのもアズの野郎から彼女を守るためだと、俺は考えた。
ここで状況が一段落ついた———はずだったが、ここで並行して新たな問題が起きた。
『カツミ。私の力が、使えなくなった……』
呆然と自分の掌を見てそう口にしたアルファに、俺は『やられた』と思い頭を抱えた。
恐らく、これもアズの仕業なのだろう。
このままでは忘れられてしまった此花の記憶を戻すことができなくなる。
【なんとかするためには否が応でもアズをなんとかしなきゃならない】
伝えられるまでもなく俺たちは改めてアズに宣戦布告をされたというわけだ。
心配なのは認識改編という生来の能力を失ったアルファの様子だったが———その心配はすぐに杞憂だと分かった。
『能力なくなって気が楽だー!!』
悲壮感など微塵も感じさせないくらいに元気だったのだ。
明るすぎるアルファの様子にカラ元気かと思い心配になってしまうが、本人的には別にそんなことは全然ないらしい。
『最近、ほとんど能力使ってなかったし。別になくなっても不自由はしないよ』
『それにこの力を使うとカツミに嫌われちゃうかもしれないから、私の中での能力の価値はそれほど高くないんだ』
『でもハイルの認識を元に戻せないのは早くなんとかしなくちゃね』
検査室でそう語ったアルファにちょっと感動した。
最初に会った時はいきなり部屋に押しかけて我が物顔で居座るような非常識な奴だったのになぁ。
一応、小さな認識改編は健在らしいというところもアルファがそこまでショックを受けていない理由の一つなのだろうが……。
「あいつも成長しているんだな……」
「おい、穂村」
「ん?」
目の前の作業をしながら横を見ると、カウンターからジト目でこちらを見る緑髪の宇宙人、コスモの姿が。
彼女は俺と同じくサーサナスのエプロンを着ており、現在店の手伝い中である。
「どうした?」
「お前、普通に手伝っているけど大丈夫なのかよ?」
「……大丈夫って、なにが?」
心当たりがいくつかあるがどれなんだ?
「色々だよ! お前の知り合いが攫われたこととか、保護した女が変な力に目覚めたとか、お前が普通にここで働いていていいのかってこととか!!」
……こいつも変わったよな。
初めて会った時は俺を殺そうとしていたのに。
少し微笑ましい気持ちになりながら最後のお皿を拭いて棚に戻しながら順序だてて説明していく。
「此花のことはサニーに任せた。お前も会ったことがあるだろ?」
「あるというか……あいつには結果的に世話になった身だぞ。ボクは」
「なら、あいつが人質なんつー真似するやつじゃないことは分かってるだろ? 少なくともサニーのところにいれば此花は安全だ」
———すぐに此花をこちらに返さずに動画という回りくどい形で情報を知らせてきたのはなにかしら理由があると考えてもいい。
それがなんなのか分からないが、此花に関しては俺も慎重に行動しないとまずい気がする。
あの“駄目姉”が何者なのかが唯一気になるが、此花と仲良さそうだったし危険人物ではないのだろう。
「アルファに関してはあいつは能力を使えなくなったことも全然気にしてねぇし、今日は一応の検査を受けているだけだから心配しなくてもいい」
「そ、そうなのか……」
つーか、手伝いが終わった後、会いに来るように約束されているしな。
そして次に俺がサーサナスで手伝いをしている理由については……。
「手伝いをしている理由はなんだかんだで落ち着くからだよ。深い理由はない」
「えぇ……」
「記憶を取り戻す前もサーサナスでバイトしてたからな。その時の名残りが残ってんだよ」
人格は元に戻ったが白川克樹として生きてきた俺の記憶は消えていない。
正直、バイトというものをするのは新鮮だったし楽しかったからな。
「マスターも許可してる」
「おうよ、人手はいくらあってもいいからな」
カウンターの内側でコーヒーを淹れている新藤さんこと、マスターが俺の声に答えてくれる。
今は朝食の時間帯が終わった頃なので店にはちょうど人がいない。
なので、それなりの声で喋っても俺のことがバレる心配もない。
「でもお前の顔とか知られてるんだろ? そこは大丈夫なのか?」
「眼鏡とマスクかけて頭にバンダナまいときゃ分からないだろ」
「……それもそうか」
別に店内でマスクをしても不思議でもない。
そもそもただの喫茶店に俺がいるだなんて誰も想像できないだろうしな。
「はぁ、じゃあ、ボクの考えすぎってことか」
「心配してくれたのか?」
「はぁ!? んなわけないだろうがバカか!?」
かぁ、と擬音がつきそうな勢いで顔を真っ赤にさせるコスモをマスターが指をさして笑う。
「おいおい、そんな分かりやすいツンデレ初めて見たわ」
「うるさいぞ、シンドウ!!」
コスモの反応にさらに笑いながらマスターがおもむろに冷蔵庫を開ける。
食材の確認でもしているのだろうか?
「っと、いけねぇ。食材いくつか足りねぇな」
「はぁ? 杜撰すぎだろ。だからオカマに好かれんだよ」
「脈絡のない言いがかりはやめろや。あー、どうすっかなぁ……」
悩むそぶりを見せながら壁にかけた時計を見たマスター。
……まあ、足りない食材っつってもそこまでの量はないはずだろうし……。
「じゃ、俺が買い出しにいってきますが?」
「いいのか?」
今日はここの従業員なわけだからな。
外を出歩くにしても変装すれば全然問題ない。
「カツミだけに行かせるのも悪いな。じゃあ、コスモ、お前もついていってこい」
「なんでだよ!?」
「ぐだぐだ文句言うんじゃねぇよ。この居候が」
「もう居候じゃないだろ!!」
「飯はいつもここで食ってるから変わらねぇだろうが」
「ぐっ、うぅぅぅ……」
まあ、マスターの飯はうまいからな。
悔しそうに呻くコスモに苦笑しながらマスターから必要な食材のメモとお金を受け取った俺は、エプロンを外し外出用のコートとマフラーを巻き買い出しに向かう支度をする。
「シロ」
『ガウ!』
傍で置物のようにちょこんと座っていたシロを呼んでおく。
さて、準備もできたことだし行くか……。
「コスモ」
「あぁ、もう、分かったよ……」
寒さも本格的になり、刺すような空気の冷たさに晒されながらも俺たちは食材を求めて街へとくりだすのであった。
買い出しに向かったスーパーで無事に食材を買うことができた俺たちは普通に帰り道を歩いていた。
「まったく余計なもん買おうとすんなよ……」
「目についたんだからしょうがないだろ」
「子供かお前は」
コスモが目についた菓子をとりあえずカゴに放り込み、俺がそれを戻すというやり取りはあったものの買い物自体は特に何事もなく達成できたと言えるだろう。
……そのせいでコスモの機嫌はななめになってしまったけれども。
「変なところに入ったな」
「公園だろ。通ったことないのか?」
「うん」
街の中にある大きな公園、とでもいうべきか。
近隣にすむ人たちがウォーキングや子供の遊び場にしているような広い公園の中をコスモは不思議そうに見回している。
「……おいホムラ、なんだアレ」
「あん?」
おもむろにコスモが指を差した方を見ると、そこには黄色とピンクのコミカルな色合いのトラックが停車していた。
普通のトラックではなくいわゆるキッチンカーというやつで、そこではクレープが売られているのが見えた。
「甘いもんが売ってる車」
「は? なんだそれ」
「俺も買ったことないから分からん」
存在だけは知ってるが買ったことはない。
しかし、よくも平日の昼間からやっているもんだ。しかも結構人が並んでいるし、話題の店かなにかだろうか?
ぼーっと、そんなことを想っていると隣を歩いているコスモがチラチラとキッチンカーを見ていることに気づく。
「……もしかして食いたいのか?」
「は? 思ってないんだが?」
「いや、お前チラチラ見すぎだろ」
「見てないんだがぁ!?」
そういう割には目線が誤魔化せていないんだが。
なんつーか、コスモを見ているとなんか弟とか妹がいるってこんな感じなんだろうなぁって思わされるな。
一つため息をついた俺は千円札を二枚取り出してそれをコスモに渡す。
「ほら、買ってきていいぞ」
「え、でもシンドウが……」
「内緒にしてやるから」
「……。し、仕方ないなぁ」
一気に上機嫌になったコスモはそのままクレープを選びに向かう。
その後ろ姿を見送った俺は、少し離れたベンチで食材の入った袋を下ろして彼女を待っていることにした。
「こうしていると、平和に見えちまうんだよな」
『そうだね』
俺の呟きにプロトが返してくれる。
街並みを見ているととても地球が侵略されているなんて思えない。
だが、確実に地球は危機に陥っているし、今この時もそうしようとしている輩が紛れ込んでいるわけだ。
『地球はいい意味でも悪い意味でも変わろうとしているのかもしれないね』
「だといいけどなぁ」
世界がどうだかとか全然分からないしな。
だけど、侵略者が現れる前の地球に戻ることはないことは分かる。
『! カツミ、誰か来る』
「……ん?」
黙り込んだプロトから顔を上げると、俺の座っているベンチに誰かが近づいてくることに気づく。
「隣、いいかな?」
「あ、はい」
一人でベンチを占領するつもりはないので座っている場所を少しずらす。
気だるげに隣に座った女性は懐から煙草の箱のようなものを取り出し———なぜか数秒ほどじっと見つめる。
「あー、えーっと、どうすんだこれ……」
「……?」
煙草でも吸うつもりなんだろうか? なんか箱を開けようと四苦八苦しているんだけど。
そもそもここ公共の場なんだが、駄目なんじゃないだろうか。
「……あー、こほんっ。そこな少年」
「え、ええ? なんでしょうか?」
声をかけられてしまった。
ようやく開けた煙草を指でつまんだその女性は続けて俺に話しかけてくる。
「火、持ってない?」
……これは、あれかな? 俺が草を吸っている年齢と思われたのか?
改めて女性を見ると、年齢は……20代前半くらいだろうか?
ファーのついたコートとジーンズ、ブーツを履いた女性。
赤みがかかった長い髪、疲れ切った表情をしており片目を隠すように分けられた髪から覗く赤銅色の瞳はどこか淀んでいるように見える。
いわゆるかっこいい系に分類されるであろう彼女は、どことなくアカネの母親に近い雰囲気をしていた。
「火……」
「すみません。俺、未成年なので持っていません」
俺の言葉に女性は意外そうな顔をする。
「嘘、本当? ……あれ? 今日って平日だよな?」
「訳あって学校にいってなくてですね……」
「お、おう……なんか悪いこと聞いたな」
箱から出していた煙草を戻し、コートのポケットにいれた彼女に若干申し訳ない気持ちになる。
「せっかく買ったの勿体なかったな」
「はじめて買ったんですか?」
「センチメンタルな気分になったから吸ってみようと思っただけ」
どういうことだ……?
なんだこの人、葵みたいなことを言ってきたぞ。
独特な感性を持つ女性にちょっとだけ引く。
「学校にいけない理由があるのか?」
「えーと、はい」
「まあ、深くは訊かない。君とは今話したばかりだしな」
妙な切っ掛けで会話することになってしまったな。
コスモの方は……あいつ、まだ、メニュー選んでいるからまだまだ時間がかかりそうだ……。
「なにかあったんですか?」
「……。久しぶりにここに帰ってきてな」
「海外にいたんですか?」
「そんなところだ」
久しぶりに地元に帰ったら思い出の場所とかが変わっていたりしたのかな。
なんか旅の後みたいな雰囲気と服装しているし、きっと久しぶりに日本に帰ってきた人なんだろ
「そういえば、今って何年だ?」
「映画の台詞っぽいっすね。それ」
「……確かにそうだ」
とりあえず今の年を教える。
別に西暦をど忘れすることくらいおかしな話でもないしな。
……。
「今は2322年です」
「いやなんでやねん」
「えっ」
ボケたのは俺だが唐突な関西弁のツッコミに逆にびっくりしてしまった。
きららみたいなイントネーションにびっくりしてると、真顔のまま女性が俺を見る。
「絶対2300年とかありえないだろ」
「すみません。冗談です」
「君、冗談とか言うタイプじゃないでしょ」
知り合いにボケのデパートみたいなやつがいるから結構感化されてしまったのかもしれない……。
改めて、俺から今が何年かを聞いた女性は、妙に神妙な表情で椅子の背もたれに身体を預けた。
「なにもかもが違うんだな」
「違うとは?」
「いや、こっちの話。知っているものが全然違っているだけ」
それはかなり衝撃的だろうな。
「久しぶりの日本はどうですか?」
「……平和だなぁって」
「なんか感想おかしくないですか?」
俺もさっき同じようなことを言っていたけどこの人はなんかニュアンスが違うような気がする。
「ホムラ、しょうがいないからお前の分も選んでやったぞ……って、おい誰だ?」
と、ここでクレープを選び終えたコスモが戻ってくる。
てかなぜか俺の分まで買ってきているけど、それ絶対どっちか選べないから買ってきたやつだろ。
やってきたコスモを見て少し首を傾げた女性はなにやら納得したように人差し指を立てる。
「もしかしてこの子、彼女?」
「え、いや違———」
「ち、違うわぁ! バカなこというとぶっ飛ばすぞ!!」
初対面の人になんてこというんだお前は。
慌てふためくコスモに頬を緩ませた女性はそのまま立ち上がると、俺へ振り返る。
「話し相手になってくれてありがとう」
「いえ、いい暇つぶしになりましたから」
それ以上言葉を交わすこともなく俺の座っているベンチから離れていく女性。
なんとなく後姿が気になって見送っていると、俺の視界にコスモが割って入ってくる。
「今の誰だ?」
「知らない人。特に面白い話はしてないぞ?」
「ふーん」
ジト目で俺を見ながらクレープを差し出してくる。
心なしかコスモが挙動不審気味なので俺は小さなため息をつきながら、差し出されたクレープを軽く押し返す。
「……いや、俺のことは気にせず食っていいぞ」
「え……そ、そうか? まあ、お前が食わないならしょうがないなぁ」
そんな笑顔見せられたら、なにも食ってねぇのにお腹いっぱいになるわ。
嬉しそうなコスモを見て苦笑した俺は食材をいれた袋を手に取り再び帰路を歩き始めるのであった。
不思議な子だった。
誰も知り合いなどいないはずのこの宇宙で、久しぶりにまともな会話というものができたような気がした。
戯れに買った煙草をゴミ箱に放り込みながら私は近くの路地へと足を進める。
「……来るんじゃなかったかも」
久しぶりの地球。
壊されていない建物、大地、海。
色鮮やかな全てが私にとって違うものに見えてしまっていた。
精神的に疲れてしまい、思わず路地の壁に背中を預けてしまっているとコートにいれておいた通信機に連絡が入る。
来る連絡先は一つしかないので私はさらに不機嫌になりながら通信を出る。
「なんだ、
『どうだ、久しぶりの地球は』
「私たちの知る地球じゃない」
私の言葉に端末越しに愉快気な笑い声が聞こえてくる。
それを心底不快に思いながらこのクソッたれな“AI”に悪態をつく。
『それは分かっていたことだろう?』
「……ああ」
だけどここまで違うだなんて思いもしなかった。
少なくとも
なぜ、どうして、ここまで違うのか。
無情な現実にどうしようもない疑問を抱きたくなるが、その答えは誰にも出せない。
『そもそもお前はほとんど覚えていないじゃないか』
「朧気には覚えている」
『摩耗しきった記憶は覚えているというよりこびりついているといった方が正しい』
「データがほざくな、鬱陶しい」
『元になった人物の人格は完璧にトレースしている。私の声に苛立つのなら、それはお前の問題だ』
癪に障る物言いだ。
だけど、こいつがこんな喋り方なのは長年の付き合いで分かっているので大きく空気を吐いて落ち着きを取り戻す。
『今のお前は地球の“敵”だ』
「……分かってる」
『分かっているならそれでいい』
今更どうでもいい。
罪悪感なんてとうになくなったし、“命を懸けて守る”なんて行いがどれだけ無責任で———愚かな行為かということを嫌と言うほど思い知っている。
『星将序列第10位【
沈黙する私に言い聞かせるように私の今の肩書を口にするガルダ。
忌々しいその声と口調に苛立ちを抱きながらも私は言葉を返すことはない。
『救済のためと自ら道を踏み外し、悪に堕ちた戦士、それが今のお前の名だ』
端末に移したデータを空間に投影させる。
ホログラムで空中に浮かんだ画像データを見て、私は心がざわつくような感覚に苛まれる。
これから、地球で私が戦う……相手。
「あおい……きらら……」
声は言葉にならずただ吐息として寒空に溶けていく。
もう呼ぶことすらおこがましいほどに悪に堕ちた自分を嘲笑いたくなりながら、私は意識を切り替える。
「準備しろ。ジャスティスクルセイダーを叩く」
ここは私の知っている場所じゃない。
だから、ここにいる奴らがどうなろうが私の知ったことじゃない。
私は、私のやりたいように生きて、戦うだけだ。
地球の生活をなんだかんだで楽しむコスモと、ついに登場した第十位ことレックスさんでした。
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