前半がレックス視点
中盤からアカネ視点でお送りします。
私のいた地球で、奴らは突然現れた。
“怪人”
地の奥底から現れた異形の存在。
六つの腕を持つクモのような異形を未確認生物一号、通称『クモ怪人』と呼称されたそいつは約一か月の間に日本の4割と首都を壊滅させた。
これが始まり。
後に『怪人事変』と呼ばれる最悪の序章だ。
たった一体で人々を蹂躙していたクモ怪人の前に黒い鎧を纏った戦士が現れ、
最初の一度の出現ではあったが誰もが絶望していた中で怪人を倒す存在は、私達に希望を抱かせるに十分な事実だったことだろう。
だけどまた怪人が現れたときは、黒い戦士が現れることはなかった。
現れない救世主の存在に人類が再び絶望の底に落とされたその時、私は怪人達に見つからないように隠れていた。
生き残りが集まり怪人の猛威から逃げて、隠れる私達。
レジスタンス、と言えば聞こえがいいかもしれないけど所詮は非戦闘員が集まっただけの……それこそ老人や子供で主に構成されるような集団だ。
戦える力なんてないし、怪人に見つかれば死が決まっていたことだろう。
絶望の日々。
誰もが生きる希望を失い地下での生活を余儀なくされていた中で、転機が訪れる。
それは怪人に対抗する兵器が完成したという知らせであった。
『私の名は、カネザキ・レイマ』
『怪人に、対抗する力を、持つ資格あるものを、探している』
『まだ、希望を捨てていない、ならば、私の元に来て、ほしい』
古びたラジオから聞こえてくる“声”。
最早、希望なんて抱くことはできるはずなんてなかったけれど、賭けてもいいと思った。
どうせ、このまま死んだように生きているよりマシだ。
そんな考えで、私は謎の声の人物の元へ尋ねてみることにした。
『私と同じバカがいるなんて、ね』
『バカはバカでも私は頭のいいバカだ』
危険を冒して目的地に集まってきたのは私を含めて3人だけであった。
アマツカ・キララ。
ヒナタ・アオイ。
たった三人だけ集まったメンバーに困惑してしまっていた私だけど、廃墟に隠された謎の施設にいた人物にもっと困惑させられた。
『集まったのは、三人、だけか』
そこにいたのはカネザキ・レイマと呼ばれる全身に包帯を巻いたとてつもなく怪しい人。
怪人との戦いで半死半生の身になってしまった彼は、私達に怪人と戦う力を見せてくれた。
それは、武骨で黒一色の三機のパワードスーツ。
色付けすらされていないむき出しの装甲、未完成の武装を伴って、なにもかもが未完成のソレだったが、私達にとってはそれでも構わなかった。
私たち三人に共通していたのは、家族も友達も失っていたことだ。
両親も姉妹も、兄弟も、なにもかもを怪人に奪われた。
だから、迷いはなかった。
私たちは怪人に復讐するため、怪人との終わりの見えない戦いに身を投じることになった。
いつかやってくるんだろうなとは思っていた。
怪人が私の日常を壊しにきたこと。
よりにもよってクラスメートの前で正体を晒してしまったわけだけど、長くもったほうだと思う。
私もカツミ君と同じように日常を捨てる時かもしれない。
こういう時の対処はもう決まっている。
社長が私の家族を保護し、私自身はカツミ君と同じ———世間に隠れる存在になること。
「本当に面倒なことになった!!」
襲撃してきた怪人を始末し終えた後に現れた赤黒い装甲に身を包んだ戦士。
序列10位、レックスと名乗ったそいつと私は剣戟を交わしていた。
「……ッ!」
『……ッ!』
さっきの怪人なんて比じゃないくらいに強い。
武器に特別なものはない。
黄色く光る刃が特徴的な片刃の黒い剣。無骨とも言えるそれで私の武器と互角に打ち合えている時点で油断ならない相手だ。
「ふん!」
かぃぃん! と甲高い音を鳴らし、互いの得物が弾かれ一歩分後ろへのけぞり———ながら、手元に引き寄せたジャスティビットを匕首へと変える。
一瞬で逆手に持ったそれを握り、剣の間合いより奥へ踏み込み斬りかかる。
———手傷を負わせて動きを鈍らせる。
しかし私の視界に飛び込んできたのは第十位の左手に握りしめられた銃。
先ほどまで持っていなかったソレの銃口から閃光が走り、至近距離からのエネルギー弾が私へと叩き込まれる。
「くぅっ」
『……チッ』
なんとか匕首でエネルギー弾を切り払いつつ、後ろへ下がる。
続けて正確に放たれるエネルギー弾をジャスティビットに撃ち落とす。
「手癖が悪い」
『手癖が悪い』
奇しくも相手と同じことを口にしながら一旦呼吸を整えていると、私の耳にきららと葵からの通信が入る。
十位を警戒しつつ通信に応じる。
『アカネ!! そっちは大丈夫!?』
「こっちはまだ大丈夫。序列10位が現れたけど」
『全然大丈夫じゃないやん!!』
声を潜めてツッコミをいれてくるきらら。
「そっちは避難できた?」
『怪人がいなくなって皆逃げられるようになったよ』
「まだ怪人がいるかもしれないから、まだそこにいて」
怪人の狡猾さはよく知っている。
油断させておいて襲撃してくるだなんて姑息な手を使ってくる可能性も考えておかなきゃならない。
『ブラッド。授業中に襲撃を受けて隠していた力を解放するという中高生男子の誰もが妄想するシチュを実現させて高揚するのは分かるけど、一人で無茶するのはダメだよ』
「長いし意味不明なんだけど……!」
それ葵の願望だよね……?
「とにかく、ここはもう少し私がもたせる。黒騎士くんは——」
『レッド!!』
突然社長の声が割って入ってきてびっくりする。
『そちらに向かっていたカツミ君だが、先ほどヒラルダに襲撃された!!』
「またあいつか……」
カツミ君に付き纏っている傍迷惑な奴。
風浦さんの身に起こっている不可解な現象にも関わっていそうな存在だからカツミ君も無視できないのだろう。
……カツミ君がここに来るのは難しそうだな。
『話は終わったか?』
「待ってくれるなんて親切だね。いつでも攻撃してくれてもよかったのに」
悪態をつきつつ、太刀を構える。
相手は手練れ、それもさっきの強化された怪人よりも格上。
意識を乱して簡単に勝てるような奴じゃない。
もっと意識を落とし込んで集中しなきゃ。
「『———!』」
動いたのは同時。
ほぼ同じタイミングで繰り出した太刀と片刃の剣が激突し、火花が散る。
かん高い金属音が鳴り響く間もなく次の攻防に移り、刃を叩きつける。
「あぁ、もう!!」
攻撃を交わす度に妙な違和感が付き纏う。
スーツの性能が落ちている訳でもないし、私の調子が悪いわけでもない。
だけど、相手が私の動きをこれでもかってくらいに先読みしてくるし、変な話、私自身もこいつの動きが分かってしまう。
あまりにも不可思議な感覚に混乱してしまう。
「鏡を相手しているみたいに同じ過ぎて気持ち悪い!!」
『……』
なんらかの方法で私の動きを予知している……?
それとも単純なモノマネか? どっちにしろやりにくい……!!
ここはこのまま技を使って攻め切るか!
「アサヒ様、技借ります!!」
相手は星界戦隊よりも強い!! こちらも出し惜しみする理由はない!!
右手に握りしめた太刀を後ろへ流すように構え、一瞬の溜めと共に前への踏み込み超高速の斬撃を繰り出す。
『———ッ』
太刀を振り切った瞬間、奴へ
それらをどこからともなく構築させた大盾で防ぐ十位だが、こちらはそれに構わず次の連撃で大盾をかちあげる。
ゴォン!! という鈍い音共に跳ね上げられたところにさらに速度を上げた七連撃を繰り出す。
『……!』
斬撃に耐え切れず奴の剣が砕け散る。
防御手段を失い、晒される首。
———今なら刈り取れるッ!!
曝け出された首までの軌跡。
瞬時に最短距離をなぞるように太刀で薙ぎ払いその首を刎ね飛ばす———その寸前に十位が黒い装甲に包まれた腕を首と太刀の間に差し込んだ。
「なッ!?」
刃が左腕に半ばまで食い込み勢いが止まる。
腕を差し込んで斬撃を止めた!?
それにこの感触……義手か!! 攻撃を誘われた!!
『そんなに私の首が欲しいか?』
第十位の嘲りの声と共に奴は背中のバインダーから機械仕掛けの大斧を取り出し力任せに薙ぎ払ってきた。
太刀を手離し後ろへ下がり避けると、奴は太刀が半ばまで食い込んだ左腕を、がしゃん、と外し新たな腕を転送と同時に装着する。
新たな義手、藍色の光沢を帯びたその掌をこちらへ向けられ、光が収束しビームが連続で放たれる。
「っまず!!」
咄嗟にジャスティビットで刀を二つ構築し、迫るレーザーを刀で切り裂きながら後ろへ下がる。
続けてレーザーを放とうとする第十位に対応しようとするが、不意に奴の動きが一瞬だけ止まる。
『……チッ』
「?」
なんだ? 今、奴は後ろを見ていた? 私の後ろには校舎しかないけど奴が攻撃を止める理由があったのか?
疑問が浮かぶが、それは銃撃から近接戦に切り替えた十位が繰り出してきた斧の一撃に思考が阻害されてしまう。
「重い武器も使ってくる!!」
斧の一撃一撃がまるできららみたいな力任せだ。
さっきの銃撃の手癖の悪さも葵みたいだし、こいつは私たちの戦闘データを再現した敵かなにかなのかな……!
『ふんっ!!』
斧の一撃で舞い上がった砂煙から、十位が跳躍———電撃を纏わせながら大斧を叩きつけようと落下してくる。
「迎え撃つ!!」
両手の日本刀の柄を連結し、両刃の薙刀を作り出す。
私は最大火力を纏わせたソレを回転させながら掬い上げるように迎え撃った。
「ッ!!」
『ッ!!』
互いの武器が激突した瞬間、強烈な衝撃波が引き起こされ周囲の建物の窓ガラスが砕け散る。
私たちも互いの攻撃の衝撃で後ろへ吹き飛ばされるが、壁に当たる前に地面に着地しにらみ合う。
『レッド!! 無事か!?』
「とりあえずは。……想定以上に強いです。そっちでなにか分かりますか?」
『なんにも分からん!! お前の動きをコピーした輩かと思ったがそうでもない!!』
「どういうことですか?」
『コピーではない!! まるでお前そのものだということだ!!』
ますます意味が分からないんですけど。
そういう能力か? 相手の能力を反映させる力と考えれば想像がつくけど……もしカツミ君の力が反映されたら怖いな。
『……強いな。さすがは地球を守り切っただけのことはある』
「お喋りをする余裕もあるようだね」
こっちもバリバリ余力を残しているけど相手も同じなはず。
ここまで戦っても全然底が見えないあたり、本当に厄介な敵かもしれない。
「地球を守ったのは私達だけじゃない。黒騎士くんがいたから私たちはここにいるんだ」
『……奴はなんなんだ』
「黒騎士くんのこと?」
彼を知らないのか? 敵組織の幹部クラスの癖して?
「黒騎士くんは黒騎士くんだ」
『怪人事変で戦った黒騎士はカネザキ・レイマではないのか』
『私がプロトスーツ着たら大変なことになるわバカめが!?』
社長の驚愕の罵声を耳にするけど、十位の質問の意図が分からなくなる。
怪人事変でクモ怪人という最初の怪人を倒したのはカツミくんのはずだ。
断じて社長ではない。
『お前は、なんのために戦っている?』
「さっきからなに? 時間稼ぎ?」
あっちの援軍でも来るのか?
でもこっちも待てば待つだけ黒騎士くんの到着が早くなるだけだけど。
私の言葉に十位は静かに返答してくる。
『興味本位だ。このまま殺し合うならそれでいい』
……情報を聞き出すがてら答えてみるか。
最初は怪人に怖い目に遭わせられる人がいなくなるようにって思いで戦っていた。
でも、今は……。
「私にとって大事な人がもう戦わなくてもいいように、戦うこと」
「……」
「ん?」
私の言葉になぜか黙り込む十位。
その様子を不思議に思っていると奴は先ほどよりも小さいトーンで声を発した。
『こ』
「こ?」
『恋人が、いるのか?』
……。
……、……。
「……そうだよ」
これは相手を動揺させるための演技。
だから私は確固たる意志で言葉は曲げない。
我ながら声を震わせてしまっていると、私の背後から———生徒の避難を終えたきららと葵がやってくる。
二人して着地した彼女たちは十位ではなく、なぜか私に威圧をかけてくる。
「レッドお前転がされたいようやなぁ」
「ブラッド無限月読食らっちゃってる?」
「この世には言い出しっぺの法則というものがあってね」
使う場面全然違うけど。
とにかく、二人が来てくれたのなら心強い。
「レッドへのお仕置きは後にして……さあ、覚悟しいや!! 十位!」
「私たちのいる、地球で好き勝手させない」
『……』
きららと葵に武器を向けられた十位は武器を下ろしたまま反応を示さない。
不自然な間に怪訝に思う私たちだが、十秒ほどしてから奴は武器をしまった。
『……今日のところは退く』
「させるとでも?」
『できるから言っている』
そう言い放った十位の姿が空間に溶けるように消えていく。
即座に攻撃を仕掛けるが、そのどれもが十位のいた場所を素通りし、奴の姿も気配も完全に消えてしまった。
「……社長」
『反応が完全に消えた、な。単純な光学迷彩ではこうもいかない。あちらもなにかしらの移動手段を利用しているのかもしれないな』
逃げられた、か。
なんというか戦っていて奇妙な感覚ばかりが付き纏う敵だった。
———面白い奴と戦ったな
「……アサヒ様?」
普段まったく私とコミュニケーションをとろうとしないアサヒ様の声に耳を傾ける。
この首狩りドS師匠のことだから絶対ろくなことじゃないだろうけど。
———あれがあり得た可能性、か
———戦士の末路としては哀れなものよなぁ
「どういう意味ですか……?」
そう質問するとアサヒ様は答えることなく引っ込んでいってしまった。
無性に悪態をつきたくなるが、そうすれば絶対夢の中でボコボコにされるので言わないでおく。
「それよりも問題なのが……」
「レッド、これから大丈夫?」
「身バレはヒーローが通る道だから安心して?」
全然安心できないんだけど……!!
別に正体がバレることについては私の責任だから別に文句はないけどこの後の展開を想像をするのが怖い。
戦いとは別のところで精神攻撃されまくったレックスさんでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。