追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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二日目、二話目の更新となります。

前半アカネ視点
後半からカツミ視点となります。


新坂家、本部へ

 私の正体が世間にバレてしまった。

 正直それは覚悟していたことだ。

 万が一のために正体がバレてしまった時の手順を社長が用意しておいてくれたおかげで、私の家族も無事に本部に匿うことができた。

 学校も卒業間近で、どちらにせよ長い休みに入っただろうから問題もない。

 しかし、しかしだ。

 

「いや、なんで私だけこんな個人情報流出してるの!!?」

 

 いくらなんでもやりすぎじゃない!?

 ジャスティスクルセイダー第二本部内に存在するランチスペース。

 主に職員などが利用するその場所で頭を抱えていた私に、きららと葵がスマホをいじりながら話しかけてきた。

 

「よかったね、ネットじゃ美少女扱いされてるよ」

「全然嬉しくないよ!!」

「あとアカネの夢女子がたくさん増えてて草」

 

 夢女子ってなんだ。

 でも聞くのが怖いので聞かないでおく。

 

「くっ、私だったら身バレ系ヒーローの気分を味わえたのに……!!」

「冗談でもそんなこと言わない」

「あでっ」

 

 ぽかっ、と葵の頭に手刀を落とすきらら。

 こういう時、きららの常識人さに助けられるけど、同時に変に重く受け止めず茶化してくれる葵の反応で心が軽くなる。

 

「きららと葵は家の方は大丈夫?」

「私らはすぐに社長が護衛を手配してくれたから大丈夫」

「うちもいまんところ問題なし」

 

 きららの家はななかとこうたという小さい子供たちがいるので、大丈夫そうでよかった。

 

「カツミはそこらへんバレても特にダメージ少なかったけど、アカネはそうじゃないだろうから大変だよねぇ」

「今になってアルファちゃんの認識改編能力が使えなくなったことを悔やむよ……」

「多分、こうするから私の認識改編を封じたんだろうね」

 

 そう言ってカフェオレを口にするアルファ。

 現在、私の家は立ち入り禁止となっており家の中のものもほぼ全て回収させてしまっているので、家にはなにもない状態だ。

 まさか自分の家がカツミ君の住んでいたアパートと同じ状態になるだなんて思いもしなかった。

 そう思ってうなだれていると、私たちの座っている席に料理を乗せたカートを押した女性がやってくる。

 

「はい、ご注文のナポリタン、焼き鯖定食、カレー、ガスパチョでーす」

「ありがとうございます。……ん? ガスパチョ……? え、誰、頼んだ人」

「私」

 

 聞きなれない料理に葵が手を上げ、冷製スープっぽいそれを目の前に出してもらう。

 なんでそんな特殊な名前の料理を……。

 

「スペイン料理。聞いたら『あるよ』って渋い声で返ってきたから頼んだ」

「なんでそんなのあるの……」

「ここの料理長、結構な強者(つわもの)。前はチョングッチャン頼んで普通に来た」

 

 分からない料理からさらに分からない料理出すのはやめて……。

 自分の前にナポリタンが差し出されると、料理を持ってきてくれた人が不意に私の肩をぽんぽんと叩く。

 

「はい?」

「まったく、辛気臭い顔をしてるわねぇ、アカネ」

「え、椿赤(ちせ)(ねぇ)!? ここで働いてたの!?」

 

 ごく自然にこの場にやってきて昼食のナポリタンを差し出してきた新坂家次女、チセ姉が呆れたように私を見下ろしていた。

 あ……そういえば、匿われてからここで働けるように交渉してたって言ってたな。

 この様子だと話通ったんだ。

 

「こんにちはー。きららちゃん、葵ちゃん、いつも妹がお世話になってるね」

「あ、こんにちは、椿赤さん……じゃなくて、どうして貴女が働いているんですか!?」

「ん、ここで手伝いしてるの」

 

 あっけらかんとそう言うチセ姉だが、ここはジャスティスクルセイダー第二本部にある食堂。

 あの自称食通な社長が雇った確かな腕を持つ料理人が仕切る場所なので、バイトでそう簡単に入れる場所ではないはずなのだ。

 だが、実際この姉は入ってしまっている。

 

「料理修行に丁度良くてね。なんならこの騒動の後雇ってもらえるように頑張ってみようかなってまで考えてる」

「うわぁ、打算的ぃ……」

 

 わが姉ながら考え方が強かすぎる。

 たしか大学で資格とって卒業したら海外に料理修行に行くとかめっちゃアグレッシブなこと言ってたけど……。

 

「チセ姉、包丁振り回すの得意だもんね」

「ポン刀振り回すのが得意なあんたに言われたくないわ」

 

 そして長女である紅桃(くるみ)姉はハサミを振り回すのが得意である。

 意味不明なくらいに刃物に縁があるのが我ながら怖い。

 

「えーと、チセさんは大丈夫なんですか?」

 

 きららの困惑した声にチセ姉はあっけらかんとした顔で答える。

 

「全然平気だよ。噂のジャスティスクルセイダー本部に来るなんて夢にも思わなったから正直、マジかって感じ」

「大学の方は……?」

「講義はオンラインで受けられるし、単位は3年であらかた取っちゃったから平気。資格の勉強もここで十分できるし、そもそも春休みで二か月間休みだったしねー」

 

 大学の仕組みとかはよく分からないけど、チセ姉の反応を見る限り問題はないようだ。

 

「お父さんもお母さんもリモートワークで仕事こなせるし、紅桃(くるみ)姉もヘアカット系で動画出してるから収益に関しては問題ないらしいよ」

「え、あれ趣味程度って言ってなかったっけ?」

 

 お小遣い稼ぎと練習がてらにヘアカットの動画出すって半年くらい前に聞いてそれっきりだったんだけど。

 

「あー、紅桃姉も自分の動画見られるの恥ずかしいらしいから言ってなかったみたいだけど、結構人気らしいよ。最近はあんたの姉って明かされて動画視聴数も増えて登録者えぐいことになってたし」

 

 初耳なんですけど!!?

 だから昨日「感謝する妹よ」とか変な口調でお礼言われたのか!?

 

「うちの家族って結構おかしくない……?」

「「「「あんたが言うな」」」」

 

 チセ姉ならまだしも葵ときららとアルファちゃんから同時にツッコまれたんだけど!!

 

「あれ、そういえばカツミ君は? あんただけだと炭酸と糖分を抜いたコーラじゃない」

「それただの苦い水じゃん!!」

 

 考えうる限り、一番まずい飲み物じゃん!!

 素直に炭酸抜きの炭酸水って言えよ!! 妹相手に酷い言いようなんだけどっ!!

 

「カツミ君ならまだ来てないよ」

「ここにはいるの?」

「うん」

 

 彼は今、ハクアちゃんと風浦さんのいる部屋にいる。

 ……ついでに新坂家の飼い犬、きなこと一緒にいる。

 


 

 

 風浦さんの身に起こった異変から日が経ち、彼女の精神状態も大分落ち着いてきた。

 それに合わせ彼女が放出していた星界エナジーも安定したこともあり、俺はレイマに頼まれ彼女の元へたびたび足を運んでいた。

 ……アカネのこともあるが、この件に関しては俺にできることはない。

 ここはレイマとスタッフの皆さんに任せ、俺は俺のできることをしていくしかない。

 

「わんっ」

「しっ、静かに」

 

 俺の膝の上で寝転んでいる白い毛並みの犬『きなこ』に小声でそう語りかけながら、俺は病室のベッドで体を起こしている風浦さんと、傍で白衣を着て彼女と会話しているハクアを見る。

 

「風浦さん、気分はどう?」

「今のところは大丈夫、です」

 

 今までいろいろありすぎて忘れていたが、ハクアは元々カウンセラーとしてジャスティスクルセイダーに所属していた身だ。

 まあ、偽りの身分だったわけだがそれでも知識は確かなものだということは、カウンセリングを受けた俺自身が保証できる。

 

「敬語じゃなくてもいいよー。私、実年齢約一歳だからため口でも全然かまわないから」

「……」

 

 ……これ、保証できるか?

 風浦さんがものすごく助けを求めるような視線をこちらへ向けてきているんだけど。

 

「まだ不安?」

「……うん。私の身体になにが起こっているのか分からないし、これからどうなるかって考えたら……不安で不安でたまらないの」

 

 うつむいたまま自分の手首のブレスレット型の抑制装置に触れ、風浦さんが声を震わせる。

 ハクアはそんな風浦さんの手に自らの手を重ね、ゆっくりと語りかける。

 

「君の不安を解決する手段はまだ私たちにはない。だけど、不安を和らげることはできる」

「どう、やって……?」

「話をしよう」

 

 風浦さんの目を見て彼女は優しく静かな声で語りかけていく。

 

「これからしたいことでも、なんの関係のない他愛のない話でもいい。君の抱える不安、抑え込んでいる感情も全部吐き出したっていい。私たちはそれを受け入れる」

 

 ……やっぱりちゃんとカウンセラーやってるな。

 俺が記憶喪失の時も最初は同じようにやっていた覚えがあるので、そういう意味でも俺はハクアに助けられていたということになるんだな。

 

「かっつん」

「おう」

 

 名前を呼ばれ、膝にいるきなこを抱えるように持ち上げ、ハクアの隣の椅子に座る。

 アレルギーとかは事前にレイマに聞いたので問題ないはずだ。

 

「その子、かわいいぬいぐるみだ……ね?」

「くぅーん」

「……。え、本物の犬!? ぬいぐるみかと思った!?」

 

 驚くほどされるがままにしているきなこに風浦さんが驚く。

 そのまま風浦さんにきなこを渡すと、驚くほどの抵抗の無さで彼女の腕の中で落ち着いてしまった。

 

「アカネ……じゃなくて、レッドから預かってる犬なんです。名前はきなこ」

「きなこ? わたあめじゃないんだね」

「普通にそう思うでしょう? でもきなこって名前なんですよ」

「わんっ」

「……ふふっ」

 

 ようやく笑顔を見せた風浦さんがきなこを撫でる。

 それから俺も交えて他愛のない話をしたりして時間を過ごした。

 

「風浦さん、大丈夫そうか?」

 

 風浦さんのいる部屋から出て廊下を歩きながらハクアに話しかける。

 まだ不安な気持ちもあるのは分かるが、今日話した感じは良くなっているように見えた。

 

「まだまだカウンセリングが必要だよ。彼女に宿った力以前に何か月も異星人に体を乗っ取られていた時点で相当な心の傷を負っていてもおかしくないんだから」

「……そうだよな」

 

 しかも性質の悪いことに意識はちゃんとあったらしいからな。

 意識はあれど体が動かない。

 そんな状態が長く続くなんてどれだけの恐怖か想像つかない。

 

「だからこれからも話していくことが大事だよ」

「俺もできる限り協力するつもりだ」

 

 アカネ達も力を貸してくれるだろう。

 

「わんっ」

「お前もいたな」

 

 足元で一声ないたきなこに見下ろして苦笑する。

 こいつもこいつでちゃんと働いてくれたからな。

 

「アニマルセラピーもしっかり効果が出てるみたいだしね」

「正直、思っていた以上だ」

 

 言葉自体は聞いたことあるが、実際に目で見て普通に驚いた。

 

「ま、こいつがいるのは偶然みたいなもんだけどな」

 

 ここに来るなり真っ先に俺のところにやってくるもんだからアカネの母、シオンさんに昼間の世話を頼まれてしまったのだ。

 

「散歩にもいってやらなきゃな」

「本部内を歩くの?」

「いや、さすがにスタッフさんに迷惑かかるだろ。普通に外で散歩すりゃいい」

 

 俺はいつもの変装すればいいし、正体が割れているのはアカネと彼女の家族だけで犬であるきなこには関係ないからな。

 

「それにしてもお腹すいた!! お昼過ぎてるけど食べにいこっか」

「あまり食い過ぎんなよ?」

「成長期だから大丈夫!!」

 

 一歳児の食欲じゃねぇと思うんだけどなぁ。

 でもまあ、記憶喪失の頃はその食い気なところを微笑ましく思っていた身でもあることは事実。

 俺は特に咎めずにそのまま食堂へと向かうのであった。




刃物の扱いに長ける新坂姉妹でした。



今回の更新は以上となります。

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