追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

ようやく納得のいく展開が書けましたので更新いたします。
今回は三日に分けて三話ほ更新する予定です。



レックス視点から始まります。


疑惑のレックス

 大地が揺れ動き、海は荒れ、海面に渦巻きをつくりあらゆるものが崩壊していく。

 建造物としての役割を果たしていない半壊したビルが崩れ落ち、黒煙に覆いつくされた空を燃え上がった地表が赤く照らす。

 

『グギャァァァァァァァァァオオオオォォォ!!!!』

 

 タコのような触手、顎まで引き裂いた巨大な口、大量の複眼。

 常に形を変え、形容しがたい姿に変わり続ける怪物———オメガ。

 全長200メートルを優に超える怪人の王が、燃え盛る都市の中で宇宙(そら)に向かって雄たけびをあげる。

 

 私たちは怪人との最後の戦いに勝てなかった。

 

 肝心のオメガと呼ばれる怪人の首魁の目を潰し、追い詰めはしたがそれでも私たちは怪人共の計画を止めることができなかったのだ。

 そして、私たちの敗北はこの地球の終わりを意味していた。

 

 地球の大地から切り離され、宇宙空間へと昇っていく日本列島。

 昇っていった赤色の空には“なにか巨大な姿をした人影”と数えるのも億劫なほどの宇宙船が待ち受けるというまさにこの世の終わりのような光景が広がっていた。

 

『よかろう。地球のオメガよ。貴様を我が敵として認識しよう』

 

 しわがれた男の声に合わせ宇宙船が攻撃を始め、オメガも怪人を吐き出し迎撃をはじめた。

 終わりゆく世界。

 私は、その光景を宇宙船で呆然と目にすることしかできない。

 

 赤く染まり、滅びゆく地球も

 

 外宇宙からの侵略者も

 

 宇宙を渡る船と化した日本列島から湧き出す怪人の群れも

 

 全てがどうでもよくなってしまった。

 私にはもう守るべき存在も地球もなくなってしまったからだ。

 もう、なにを支えにして生きていいかすら分からなくなって、たった一人で絶望の底でうずくまることしかできない。

 

———お困りのようだね。

 

 全てを失い宇宙船の中で死を待つだけだったその時、声が聞こえた。

 幼い少女の声。

 私の心情とは真逆の跳ねるようなその声は、幻聴ではなかった。

 

———僕は星将序列2位……いや失敬、この世界の私は違っていたね。

 

 そう口にした声は、次にこう言葉にした。

 

———私の名はイリステオ

 

———終わりを迎える命、それならさ

 

 

———別の世界で使ってみる気はないかな?

 

 


 

『居眠りか、レックス』

「……」

 

 微睡みの中、かけられた声に目を開ける。

 視界に太陽に照らされた公園の景色と、足元に置いていた袋が映りこむ。

 

「最悪の気分だ……」

『珍しいな、お前が気を抜くなんてな』

「うるさい……」

 

 耳障りなガルドに悪態をつき、座っていた公園のベンチに背中を預け空を見上げる。

 本格的に気が滅入っているのかもしれない。

 久しぶりに目にする青い地球に、生前の親友の姿、自分とは全く異なる自分は思っていた以上にダメージがあったようだ。

 

「ここに来て、地球が青いってことを久しぶりに思い出した」

『だろうな。だがここはお前の知る地球とは異なる並行世界だ』

「何度も言われなくても分かっている」

 

 念を押して言われなくてもそんなこと最初から理解している。

 

『お前のいた地球の時間で言うなら、既に滅んでいるはずの星。だが事実、そうなっていない』

「……黒騎士か」

『アレがこの世界の特異点ともいえる存在だろう』

 

 黒騎士のことは調べている。

 私たちが活動する前に怪人を倒し続けた存在。

 黒騎士がいたことにより金崎令馬はプロトスーツを着ることなく、次世代のスーツを完成させることができた。

 大きな変化を起こした彼の名は穂村克己。

 この世界の私と同じ年頃の少年、らしい。

 

「私のいた宇宙には穂村克己はいるのか?」

『保存されたデータで確認する限りは同姓同名の者が存在していた』

「それで?」

『特筆すべき情報はない。怪人出現以前に既に死亡している。恐らく、別人だろう』

「随分と適当なことを言うんだな」

『いかに地球の記録を有する私でも限度というものがある』

 

 肝心な時に役に立たなければ同じだろ。

 全ての始まりである怪人事変で、彼が戦っていれば私の宇宙でもなにか変わっていたのだろうか。

 

「……一度、接触してみるか」

『やめた方がいい。相手は規格外の戦士、いくらお前でも殺されかねないぞ』

「そんな戦い、何度だってしてきた。今更だ」

 

 例え殺されようとも会ってみなければならない気がした。

 できることなら、戦う前にいくつか言葉を交わしてみたいとも思った。

 どうせ、いつ死んでもいい命だ。

 

『残酷な現実を言うが、こちらの宇宙はお前の宇宙よりも状況が悪い』

「ああ、分かってる」

 

 少なくとも私の知る範囲では正体不明(アンノウン)の首領はルインではない。地球崩壊直前にやってきた宇宙艦隊を率いるしわがれた声の男がそうだった。

 アレと比べればルインの方が遥かに危険だ。

 だがいくらこちらの方が状況が悪くともこちらの方がマシだ。

 

「……」

 

 さきほど購入した酒をあけやけくそ気味に口に含む。

 口の中に慣れない苦みと酒特有の香りが広がり、思わず顔を顰めてしまう。

 ……まずい。

 

『やけ酒というやつか?』

「こんなに、変な味がしたのか……」

 

 駄目だこれ。

 ちょっと全部飲むのは無理そう。いきなり焼酎からいくのは厳しかったか……。

 若干後悔しながらさらに気分が落ち込む。

 

「わんっ!」

「ん?」

 

 側方から何かがやってくる。

 即座に反応し隣を見ようとして呆気にとられる。

 なにせ私の視界に移りこんだのは、中型犬より少し大きな白い犬が私へとびかかってこようとする光景だったからだ。

 

「むぐ!?」

 

 さすがにナイフで迎撃するわけにはいかないので受け止めたが、こいつは大型犬。

 まだ大人になっていないとはいえ中々の衝撃と質量に呻く。

 

「……なんなんだよ」

「はっ、はっ、はっ!」

 

 噛みついてくる様子はない。

 むしろじゃれついてきているようなそぶりすらある。

 なぜ、こんなに懐いてくるのか普通に困惑していると、この場にまた何者かがやってくる。

 

「きなこお前っ、いきなり野生を取り戻しやがっていったいどうしたんだ!?」

 

 どうやら飼い主がやってきたようだ。

 犬を横にずらし、文句の一つでも言ってやろうと思うと、そこには以前ここで会って話をした帽子と眼鏡をかけた黒髪の少年がいた。

 

「貴女は……」

「また、会ったな」

「わんっ!!」

 

 ついこの前遭遇した帽子に野暮ったい眼鏡をかけた少年。

 数少ない、どころか唯一の知り合いとの遭遇に私はため息をつきながら犬を地面に下ろす。

 

「すみません、怪我とかないですか?」

「いや、心配ない。犬の散歩か?」

「え、ええ。たまに外を歩かせるべきかなと思いまして。……今度はお酒ですか?」

「駄目な大人を見るような目を向けるのはやめろ」

 

 事実ではあるが。

 ちらりと足元の袋に入っている酒を見て怪訝な顔をする彼。

 前はタバコで今度は酒かよ、と思われているんだろうな……。

 

「……飼い主がきたんだから離れろ」

「くぅーん」

 

 なんだろうこの犬。

 私を見上げたまま離れようとしないんだが。

 特別動物に好かれるような経験はしていない……どころかむしろ嫌われていてもおかしくないんだが。

 

「こいつ結構人懐っこいんで」

「人懐っこいの域を超えているだろ」

 

 彼から視線を落とし、私を見上げる白い犬の頭を撫でる。

 

「名前を、教えてくれないか?」

 

 無意識に訪ねてしまってから我に返る。

 あまり関わるつもりはなかったのにどうしてこんなことを聞いてしまったのだろうか。

 

「きなこです」

「……きなこ?」

「この子の名前です」

「……あ、そう」

 

 一瞬呆気に取られてしまったが流れからすればそりゃそうだ。

 

「きなこ、か……」

「わんっ」

 

 そうだ。そういえば、私の家にいた犬もきなこって、名前だったな……。

 まだ子犬だったあの子も怪人が現れなければ、今頃このぐらい大きくなってもおかしくない。

 つくづく不思議な縁だ。

 

「君の名前はなんなんだ?」

「ああ、ほむ……っ」

 

 ……ほむ?

 今度こそ彼の方を見て尋ねると、なぜか硬直する。

 さすがに無遠慮すぎたか?

 客観的に見れば私は不審者に見えるかもしれないのでこれはやってしまったのかもしれない。

 

しらか……いやこれも駄目だ……あ、新坂です。新坂克樹」

「アラサカ……?」

 

 さすがに自分の名前は憶えている。

 目の前の少年は私と同じ苗字で、元の世界で飼っていた犬と同じ犬種で“きなこ”という名前。

 先日、暴かれた情報にはなかった。

 だがここは並行世界。

 もしもの可能性に冷や汗が止まらない。

 

「き」

「き?」

「君に姉はいるのか?」

 

 その問いかけに彼は呆気にとられた後に、小さく微笑んだ。

 

「いますよ。義理ですけどね」

「義理の弟……!?」

 

 まさかのこの世界の私の義理の弟……!?

 

「ハッ!?」

 

 まさか先日の恋人がいるという発言もまさか……!? いや、義理とはいえ弟だぞ? この世界の私はどうなっているんだ!?

 だが怪人共に知られていないということは秘密裏にそうなったとも判断できるが……。

 

「かなり手がかかる姉で大変ですよ」

「興味本位で聞くが……どんな風に?」

 

 本当の本当に興味本位だが一応聞いておこうと思った。

 彼を知り己を知ればなんとやらという諺があるように、まずは私のことを知らねばならないからな。

 

「食いしん坊で」

「食いしん坊……」

「結構わがままで」

「わがまま……」

「一歳児みたいな姉ですね」

「一歳児……」

 

 これほど辛い現実が他にあるだろうか。

 並行世界の私がプライベートでは食い意地が張っててわがままで赤ちゃんみたいなやつだなんて。

 聞かなければよかった……。

 次に戦うことがあったら本気でぶったぎってやろう。

 静かにそう決意していると、少年———カツキの手首に巻かれている時計がピピピ、という音を鳴らす。

 

「……! すみません、急用ができたので帰ります」

「あ、ああ。き、気を付けて帰るんだぞ」

「ありがとうございます。きなこ、行くぞ!」

「わんっ!」

 

 内心で混乱している間にカツキはきなこと共にこの場を離れてしまう。

 

『おい、レックス。今の少年は』

「皆まで言うな、ガルド。……彼は私の義理の弟の可能性が高い」

『……』

 

 深刻さを知ってかさすがの嫌味も出ないか。

 ……本当に私の世界とは違うんだな。

 その事実を再三に渡って突きつけられなんとも言えない気分だ。

 

「そういえば、こちらから名乗ってなかったな」

 

 いや、名乗らない方が正解か。

 今の私には名乗る名前はないからな。

 

『レックス。ヒラルダからの通信だ』

「繋げ」

 

『はぁいレックスゥ~!』

 

 ため息をつきながら耳に通信機をつけると、途端にやかましい声が響いてくる。

 音声を絞っているのにもかからず響くキンキン声に顔をしかめる。

 

「何の用だ」

『さっき怪人がわらわら出現しててさ~。首都だけじゃなくていろんな場所で暴れているらしいから、この機に乗じてまた仕掛けにいこうかな……って、思って!!』

 

 怪人勢力の方はなにをするかは分からないが、この機に乗じて黒騎士と接触するのもありだ。

 場合によってはその場で殺されるかもしれないが……いや、別にそれでも構わないか。

 

「分かった。だが黒騎士と戦いたい」

『えぇ、貴女の獲物はジャスクルなんじゃ?』

「興味がある」

 

 地球を救った戦士。

 その男が持つ意思が本物かどうかを見極めてみたい。




レックスの世界の日本は船としたて地球から射出されました。

そして、カツミが最初に思いついた苗字を偽名に使ったせいでレックス側でとんでもない勘違いが起こってしまいました。


次回の更新は明日の18時を予定しております。
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