前話『疑惑のレックス』を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
前半はカツミ視点。
後半からは別視点でお送りします。
怪人の出現頻度が増えた。
しかもその出現場所は都市を中心とするものではなく、全国規模にまで広がるものな上に複数出現するというものだ。
これまで戦ってきた怪人のような対応の仕方では間に合わないので、俺たちは各個撃破という形で日本全土をビークルで移動し、怪人の掃討を行うことになった。
「こりゃまた懐かしいやつが出てきたな……」
「チョーッス!!」
ルプスストライカーで現場に到着した俺の前にいたのは、現在進行中で湖の水を吸収しているドラム缶のような怪人の姿。
貯水怪人と呼ばれるそいつは俺の到着に気づかないまま、湖の水をすべて飲み干さんばかりに取り込み続けている。
かなりの水量を取り込んでいるのか、目に見えて減った湖の底には魚や捨てられたゴミなどがよく見えていた。
「飲みすぎだ」
「チョォ!?」
とりあえず俺はタイプワンの姿のまま、貯水怪人の背中を殴り飛ばし湖の中へと叩きこむ。
凹ませたが砕いた感触はない。
「前のままだったら砕けていたはずなんだが……妙に金色だったのが関係してんのかな?」
『カツミ君、接敵しましたね!!』
「大森さん。あの怪人について情報お願いします。一度戦ったことはありますが能力をあまり知らないので」
以前戦った時は水を吐き出す怪人だったよな? 妙に硬かったがぶっ壊れるまで殴って倒した覚えがある。
数秒ほどの沈黙の後、モニターをしてくれている大森さんが簡単なデータを教えてくれる。
『相手は貯水怪人!! 水をため込む単純な能力を有していますが、吸収する範囲が広く空気中から生物に及ぶまでの水分を奪い取ることさえ可能です!!』
「放っておいたらまずそうですね」
『それと倒す際は周囲に被害が出ない場所が望ましいです!! 恐らく、あの怪人は倒されると同時にため込んだ水を開放し自爆するので!!』
「ありがとうございます」
通信を繋げたまま貯水怪人を叩きこんだ湖をにらむ。
その直後に水面が膨れ上がり、ドラム缶型の身体の至る場所から水を噴出させて空中へ浮かび上がった貯水怪人が現れる。
「汚らしいドラム缶が随分と小奇麗になったじゃねぇか」
「チョッ!! チョォォォウ!!」
金色に輝く全身。
水を噴出する追加された金アーマー。
見てわかるほどの強化を得た貯水怪人は相変わらずの憎悪を込めた意思を向けると、その腹から超高圧の水を射出してきた。
「ふんっ」
湖面と地面をレーザーのように切り裂きながら迫る水流を拳で上方に弾き飛ばす。
……どうやら怪人が強化されて復活したことは本当のようだが———、
「オマエ、チリニス———」
「金メッキ張り付けたくれぇで調子にのんじゃねぇ!!』
少々強くなった程度でやられるほど、こっちは修羅場くぐってねぇ!!
瞬時に肉薄すると同時に拳を叩きこみ空へと打ち上げ、空中を蹴って追い抜き——、
「シロ!!」
『ガウッ!!』
———さらに上空でスーツを切り替え、トゥルースドライバーを腰に装着する。
『
『『『
トゥルースフォームへの変身を終えると同時にライトニングアックスを取り出し、下方から飛んでくる貯水怪人の胴体に叩き込み遥か遠くへ殴り飛ばす。
さらに吹き飛ばす先にワームホールを作り出し、その出口を俺の真正面に設置———ワームホールに入り込み俺の前に再びやってきた貯水怪人の————斧の一撃により生じた僅かな亀裂に、腕を突っ込み無理やりこじ開ける。
「チ”ョォ!?」
『
『
開いた手でバックルを叩きフォームチェンジと必殺技を発動。
赤色に染まったスーツは炎を噴き出して燃え上がる。
『カツミ君!? 貯水怪人を倒したらため込んだ水が———』
「テメェ余程水が大好きなんだよなァ」
隙間と金のアーマーから水を噴き出し、脱出しようともがく貯水怪人。
確かにこいつが自爆しようもんなら吸い上げた水が解放され大惨事が起きるだろうが、その程度ならどうとでもなる。
「なら根こそぎ燃やし尽くしてやるわァ!!」
『
『
「マタッ、チョ、マッァァァ!!?」
突っ込んだ腕から炎があふれ出し貯水怪人の内側からその体を、ため込んだ水ごと焼き尽くす。
生憎、ここは空中なので周囲への危険もないし思う存分に仕留められる……!!
「チョォォォ……ォ……ォ」
三分ほどの放熱により灰となって消滅した貯水怪人を確認し、ワームホールを使って地上へ着地する。
「ふぅ……大森さん、貯水怪人の消滅を確認しました」
『お疲れ様です! こちらも確認いたしました!!』
「皆は大丈夫ですか?」
『はい。各地に出現した怪人も滞りなく掃討していますね』
まあ、一度は戦った怪人だ。
面倒な奴もいるが今更アレにやられる彼女達ではない。
「援護が必要なら言ってください。俺はまだ怪人がいないかここで警戒します」
『はいっ』
明るい大森さんの声を聴き、通信を切った俺は周囲を見回す。
貯水怪人が吸収した水は元には戻らない。
……本当なら元に戻したかったが、湖の中で貯水怪人を倒したとしてもあふれ出した水が湖近辺の街を飲み込みかねないと考え断念するしかなかった。
「プロト、シロ。周囲に怪人の反応はないな?」
『今のところはないよ。でも相手が相手だから油断しない方がいい』
「おう」
『ガウ!!』
怪人の狡猾さはよく知っている。
無意味に戦力を消費しているとしか思えねぇこの動きもなんらかの意味があるだろうが、人の命がかかっているとなれば動かないわけもいかない。
「……以前は意味分からねぇ原動力で戦ってたけどな」
『私はあの頃のカツミも好きだった』
「あまり褒められたもんじゃねぇけど。……ありがとな」
ワルモノの定義、か。
今になって思えば若気の至りどころじゃなかったぜ……。
『がぅ!!』
『カツミ……』
シロとプロトの声に無言で目の前の空間を見る。
瞬間、目の前に桃色の煙が現れ、そこから二つの人影が現れる。
「大森さん」
『カツミ、妨害されてる』
「チッ」
本部との連絡を妨害されたことに舌打ちをする。
こんな手のこんだことをする奴は決まっている。
「またかよお前」
「また来ちゃった♪」
スーツを纏っていない人型の姿のヒラルダと、重厚な黒ずんだ赤色の鎧を纏った———レックスと呼ばれる序列10位の侵略者。
どう考えても気軽に会いにきたわけではないメンツに大きくため息をつく。
「そろそろ面倒になってきたんだが」
「そんなこと言って、本当は会えて嬉しいんじゃないの~?」
「……」
「無言やめてね……?」
むしろなんで嫌がられてないと思ってんだこいつ。
普通に怖いんだが。
俺の反応に傷ついた演技をしたヒラルダは、おちゃらけたように肩を竦める。
「ま、今回私が手を出すわけじゃないんだよね」
「……そっちの10位か?」
「そそ。どうしても君と戦いたいっていうからやらせてあげようかなって」
「……」
無言のままヒラルダの前に出てくる十位。
その佇まいはどこか見覚えがあるもので……ああ、確かにアカネと重なるな。
「さあ、約束通り私は手を出さないよ? ジャミングのおかげで後十分は援軍も来ない。思う存分に戦えるけど……」
『ここで私が黒騎士に殺されかけようがお前は手を出さない、だろう?』
「……ふぅん。それじゃあ私は観戦してる」
本当に共闘はしないのかヒラルダは俺と十位がいる場所から離れ、干上がった湖の底にある突き出た石の上に腰掛けた。
……仲間じゃないのか?
いったいどういうつもりなんだこいつらは。
「プロト」
『うん!』
黒の姿“タイプワン”へと変身を切り替え、十位と相対する。
『戦う前に聞きたいことがある』
「あん?」
十位から発せられた加工された声に怪訝になる。
戦い方からして言葉で攻撃してくるタイプの敵ではないことは分かっているので、興味本位がてら声に耳を傾けることにする。
俺の様子を数秒ほど確認した十位は口元に手をあてがい、仮面の口にあたる部分を外し顔の下半分を露わにさせる。
「……黒騎士」
加工されたわけではない生の声。
その声が怪人が出現する前、公園で話していた女性のソレと似通っていたが、すぐにそれはないと判断する。
公園で偶然行き会った人が実は十位だったとかそんな偶然があってたまるか。
つーか、アカネと似た声の人物が三人もいるとか笑えねぇ。
「クモ怪人が現れたとき、お前はなぜ戦った?」
「「?」」
投げかけられた疑問に俺も、離れた場所で観戦していたヒラルダも首を傾げる。
俺が目の前にいるにも関わらず武器すらも構えない。それどころか戦意すらも感じさせずに佇んでいる十位は、仮面の奥からただ俺を見ていた。
「どうしてお前がクモ怪人の時のことを気にするんだよ?」
「……興味本位だ」
「答えるつもりがねぇってことか……はぁ」
侵略者からすれば過去の怪人関連の事件は既に終わったことだ。
クモ怪人自体、はじまりの怪人なだけであり、俺が戦った理由も特に大きな意味はないはず。
それなのに、なぜ地球人でもない十位はそれを気にするんだ?
……律儀に話す理由もない。
だが、なぜか俺の口は自然と開いた。
「怪人が現れる前。俺が自由だと思える時間はスーツを着ているときだけだった」
「……」
「今でこそ違うが。誰も信じていなかったし、生きる目的もなにもあったもんじゃなかったからな」
プロトを、スーツを初めて身に着けたときに抱いた感情は“自由だ”というものだ。
夜の街を駆け、空を見上げる。
ただそれだけで満足できたし、その延長であるワルモノとしての活動も本気でやっていた。
だからこそ、俺にとっての夜の時間を脅かす異物の存在は邪魔としか思えなかった。
「クモ怪人を倒した理由? そんなの単純だ。俺の自由を脅かす邪魔者を排除するためだよ」
「自由……」
俺の言葉を反芻するように呟いた十位。
唯一見える口元がなにか言いたげに震えているが、奴はそれ以上口にすることなくマスクを仮面にはめ込む。
『感謝する。これで憂いはない』
「……そうか」
お前はそうでもこっちはモヤっとしたもんが残っちまったんだけどなぁ。
改めて見てもアカネと戦っていた時のような冷徹な雰囲気を感じさせないが、こいつが敵であることには変わりない。
話し合いが終わった後は、戦うしかない。
プロトワンの首元からマフラーのように赤いエネルギーが放射され戦闘態勢に入り、あちらも虚空から両刃の剣を転送しソレを構えた。
「……っ」
やはりアカネの姿と重なる。
いったいこいつは何者なのだろうか。
心のどこかで引っ掛かりを覚えながらも即座に戦闘へと意識を切り替えた俺は、十位へと攻撃を仕掛けるのであった。
自由のために戦った。
理由こそ違えどもその根本は私
本当に興味本位だった。
望んでいた答えもないし、理由すらもないことを想定していたが、情報で聞いていた以上に黒騎士という人間は成るべくして成ったヒーローなんだと理解させられてしまった。
「ふんッ!!!」
『ッ……!!』
防御に構えた二つの剣が黒騎士が繰り出した拳により半ばから粉砕される。
殺し切れなかった衝撃が胴体のアーマーをあっさりと粉砕し、私の身体は何度も湖面を跳ねながら水しぶきと共に水中へと叩きつけられた。
『強いな』
『分かりきっていた状況だろう』
サポートに回っているガルドの小言を耳にしながら青い空と太陽の光が差し込む水中の景色を見上げる。
すぐに追撃に来るのは分かっている。
ベルトから小型ビーコンを引き抜き、水中へ放り投げる。
『出し惜しみはなしだ。重武装でやる』
『ARMOR・PURGE【BOX:Ⅳ】を転送する』
破損した全身のアーマーが解除されると同時に目の前にボックス型の装備が光と共に転送。
機械音と同時に真っ二つに割れたボックスは変形しながら私の身体を覆う新たなアーマーへと姿を変える。
小回りは利かないが機動力、防御、攻撃面に優れた重装備形態。
これなら黒騎士の動きに対応できるはずだ。
装着が完了した瞬間、前方から凄まじい衝撃が襲い掛かり周囲の水が吹き飛ばされる。
『ここまで出鱈目とは……』
能力もなにもない蹴りだけで湖を割る、その荒業に乾いた笑いを漏らしながらバーニアを噴出させ、水中を飛び出しながら両腕から展開した剣で黒騎士へと斬りかかる。
「何度でもぶっ壊してやらぁ!!」
———本当に凄まじい戦士だ。
これまで始末してきた異星人とも星将序列とも隔絶した力を有している。
この世界の私たちが信頼しているのも無理はない。
ただの一撃だけでこちらを粉砕してしまう拳は受けるので精いっぱい。少しでも集中が途切れれば次の瞬間には私の胴体に風穴ができていてもおかしくはない。
「ふんっ!!」
三度目の打撃。
それを受けた左腕のアーマーがバラバラに砕け散る。
十秒にも満たない攻防で虎の子の重装備が見る影もなくボロボロにされ舌打ちをするが、既に黒騎士はこちらにとどめを刺そうとしている。
だが———、
「ッ!!」
———とどめを刺そうとした拳を私は左腕で受け止め、そのまま捨てる。
肘から先が砕け部品をまき散らしながら無事な方の右腕の装備を変形させ、光球を黒騎士へと放った。
「ッ、お前……!!」
炸裂すれば半径10メートルを蒸発させるほどの熱量を込めた光弾をあっさりと拳で消し去った黒騎士は、僅かに動揺しながら後ろへ下がる。
……なぜ後ろに下がった? 今、黒騎士は私を殺せたはずだ。
「テメェはなんだ。本気で俺を殺す気があるのか?」
『なに、を』
「それになんだ、そのふざけた動きは」
防戦一方の私に黒騎士はなぜか怒った。
拳を震わせ、見てわかるほどの激怒を露わにさせた理由は……分かっている。
「私が、お前の仲間と同じ動きをしているからか?」
同じ人物なのだから当然だ。
だが黒騎士からすれば気分のいい話ではないはずだ。
「違ぇよ」
……違う?
予想していた別の答えに困惑する。
「お前とレッドは全く違う」
『どういう意図だ? 私の分析でもほぼ一致しているはずだ』
ガルドも黒騎士の言葉に不思議に思っているようだ。
同一人物のはずなのに、なにが違うのか。
「レッドのコピーじゃねぇな。模倣するだけなら木っ端怪人にだってできる」
「……」
「テメェはレッドとは違う。テメェの命をいつ捨ててもいいと考えている。見た目こそ似ているが根本的に間違っているんだよ」
そういう、ことか。
本当にこの世界の私のことをよく見ているんだな。
「皮肉にも、似てたのは俺の方ってことか……ああ、傑作だ」
自嘲気味な笑みを零した黒騎士が仮面に手を添え、複眼の奥からこちらを睨みつける。
「だが俄然テメェの正体に興味が湧いた」
「……っ」
「テメェ、ただの侵略者じゃねぇな? 何者だ?」
「何度も言わせるな。私は星将序列———」
「肩書きが知りてぇわけじゃねぇ。だが、言うつもりがねぇなら———」
ガチン、と拳を打ち鳴らした黒騎士が獰猛な気配を纏わせる。
「その仮面をはぎ取ってその面を拝んでやるよ」
……正義の味方のセリフかソレ……?
まるで悪役のような雰囲気で黒騎士がやってくる。
その姿をどこか他人事のように眺めながら、私はなぜかこの世界にやってきたときのことを思い出していた。
最早、百年以上も前の摩耗し忘れかけた記憶のことだ。
だが、オメガ決戦用に体内に取り込んだナノマシン———金崎令馬が死の間際に作り出した怪人王オメガの細胞と科学技術を融合させた切り札が私の自死を許さなかった。
命を絶とうとしても宿主の危機を察知し、妨害してくるソレは私の意志とは関係なしに私を生かし続けたのだ。
『これを作り出してしまったことは我が生涯での二度目の過ちだ』
『レッド……いや、新坂アカネ。こいつを使おうとするな』
『人間をやめることになるぞ』
金崎令馬の最期の忠告を聞かず、オメガとの決戦のために薬を取り込んでしまった私は気づいたときには怪人と同じ———化け物になっていた。
傷ついた肉体は再生し、老化のスピードも遅くなり、あらゆる環境で生きていくことが可能になった人外と化した肉体。
おまけに無理やり連れてこられた宇宙に存在していた地球の年代は1900年初期。
私が知る時代が来るまで100年もの猶予が与えられた中、それでも私は自分の目的を見出そうとしていた。
『———今度こそ、地球を守らなくちゃ』
この世界が元居た地球の過去か、そもそもが別世界か分からないまま途方に暮れた末に今の自分にできることをやろうと決めた。
地球が怪人によって滅ぶ未来にあるならそれを防ぐ。
そのために力を求めた。
宇宙船に積まれていた金崎令馬の人格を元にした地球の記録を司る人工知能
もう、今となってはいくつ殺したかも分からない。
相手が理性のない異星人、他の星を襲うような悪い異星人だから許されるだなんて思っていない。
地球にいた頃の記憶が薄れていくほどの殺伐とした環境の中で戦って戦って戦い続けて……いつしか無数の異星人を従える組織に勧誘され、その一員となっていた。
———だが、現実は想像以上に理不尽であった。
全ての始まり、日本の人口の4割を殺しつくすはずのクモ怪人を倒す黒騎士。
彼は私ときららと、あおいが、たくさんの犠牲を払って倒してきた怪人をたった一人だけで倒しつくしてしまった。
そして現れる“ジャスティスクルセイダー”
武骨なパワードスーツではなく、正真正銘の完成された戦闘服に身を包んだ“私たち”は黒騎士と共に次々と怪人たちを倒し———地球を救ってしまったのだ。
『———は?』
その光景を目にして、最初現実を受け入れられなかった。
黒騎士って誰だよ。
ジャスティスクルセイダーってなんだよ。
あんなの、私のいた地球にはいなかった。
なんで、どうして……これじゃあ、私、なんのために……。
『は、はは。道化かよ……』
つまり、私がやろうとしてきたことはすべて空回りで、私がなにもしなくてもこの世界の地球は救われていたのだ。
私達と同じはずなのに、“私達”とは似ても似つかないソレに吐き気がした。
私がこれまでこの宇宙でやってきたことはなんだったんだ?
強くなるために殺して、殺して殺して殺して……殺しつくして、怨敵の組織の上位に連なる位置に上り詰めた私は、なんのために存在しているんだ?
「滑稽、だったな」
自嘲気味に呟き、へし折れた木に背中を預ける。
切り札の重装備は既に全部破壊され今や丸裸の状態。
再装填した左腕の義手も握りつぶされ、無事な部分が生身しかないほどに今の私は満身創痍であった。
「……」
使命も失い、これまでしてきたことが無意味だった事実を叩きつけられ、それでも自分の役目を見つけようとした。
だが思いついたそれらは私じゃなくてもできるものばかりで……最後に自分が“この世界の地球の敵”に成り下がっていたことに気づいてしまった。
本当に滑稽だ。
地球を救うために力を求めてきたはずが、気づいたら地球に仇なす存在になっていただなんて。
だから、せめてこの世界の私たちを強くするための“敵”になろうと考えた。
「きらら、あおい……」
自分自身と戦うのはいい。
だが、きららとあおいは駄目だ。
どれだけ戦う覚悟をしていたとしても、私の目の前で死んだ二人の姿を見て、そんな二人に敵意を向けられたら……戦うことなんてできるはずがない。
どれだけ力を磨いても、結局のところ私は中身が成長していなかった。
「……」
力なく地面に座り込んだ私の前に、黒騎士が降りてきた。
彼は拳を構えることなく、あろうことかその場で変身を解いた。
『カツミ!?』
「薄々そうだろうなって思ったら……」
手首から聞こえる驚きの声を半ば無視しながら、黒騎士———穂村克己は私の元に近づき、しゃがみこむ。
彼の手がマスクへと触れ、ゆっくりそれを外した。
「こんなところで何やってんだよ。アカネ」
苦笑しながらそう語りかけた彼。
身長も、年齢もこの世界の私と違うのに、彼は当たり前のように私の名を呼んだ。
「……違う」
私とこの世界の新坂アカネは違う。
穂村克己と友情を育んだわけではないし、今が初対面だ。
それなのに、どうして彼はそんな目で私を見て、話しかけられるのだろうか。
「……私は違う」
「なんで十位になってんのかも知らねぇし、一人寂しく公園で無理にタバコ吸おうとしたり、自棄になってヤケ酒していた理由も知らねぇけどさ」
「なん、で……」
決して知るはずのない情報に唖然とする私に、彼はどこからともなく取り出した眼鏡と帽子をかぶる。
その姿は公園であった新坂克樹と名乗った少年であった。
「道理でシオンさんに似てるはずだよな。大人になるとあの人にそっくりだ」
「お願いだ、やめてくれ……私は、君の知るアカネじゃない」
「貴女はアカネだ。少なくとも俺にとってはそうだ」
そう断言した彼は立ち上がって私に手を差し伸べた。
「とりあえず事情を聞かせてください」
公園の時のように敬語に変わった彼を見上げ、言葉にならない感情が占める。
私はこの手をとっていいのだろうか。
救われても、いいのだろうか。
震える右手をゆっくりとあげて彼の手へと伸ばす。
———いいことを思いついた
「誰だ?」
伸ばされた手を止め、カツミが近くの水面をにらみつける。
ただ青空しか映していない水面、それでも彼が警戒を露わにさせた瞬間———気持ち悪い感覚が私の身体を包み込んだ。
「「っ」」
それは目の前の彼も同じようで不快感に顔を顰めながら変身を行おうとするが、それよりも速く彼の手首とベルトからチェンジャーとバックルが弾き飛ばされる。
———それはちょっと必要ないかな
『カツミ!?』
『ガオ!?』
虚空がねじ曲がり穴へと変化していく。
この感覚は覚えがある。
遠い過去に経験した
「なんのつもりだ……!! 二位!!」
水面に映る人影。
青と白が混ぜあった髪色の不気味な見た目の少年———星将序列第二位。
次元を渡り歩く不明の存在は、悪意を感じさせない笑みを浮かべ手を振る。
———なんのつもりだって?
———救済だよ。
「なにを勝手なことを……!!」
「っ、吸い込まれる……!」
「あ、やばっ、早く離れればよかった!!?」
その声が響いた瞬間、私とカツミ、そしてさりげなく近くで見ていたヒラルダもろとも穴に吸い込まれてしまうのだった。
次回から並行世界編が始まります。
そもそもメンタルがこれ以上にないくらいボロボロだったレックスさんでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。