追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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三日目三話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします<(_ _)>

今回はカツミ視点から始まり、
後半から別視点でお送りします。


並行世界編 1

 十位の正体は公園で出会った女性であり、大人になったアカネであった。

 そのことに驚きはあったが心のどこかで妙に納得してしまった。

 アカネと同じ動きをしていることもそうだが、感情の機微や自分の命を投げ出しているようなそぶりでなにかしら(・・・・・)の問題を抱えた別のアカネだと推測してみたのだ。

 普通なら荒唐無稽な推測だと思われるが同じような境遇であるハクアがいるので可能性がないとは言えなかった。

 アカネのクローンか、記憶を持つ別人かどうかは分からない。

 だが、それでも目の前の人物がアカネであるのなら助けたいと思った。

 自分の死を望んで戦っていた俺を救ってくれたアカネ達のように。

 

 だがその時、俺たちは何者かが作り出した渦に飲み込まれた。

 浮遊感と共に宙に投げ出され、一瞬の明滅の次に俺がいたのは———廃墟に囲まれた街の中であった。

 

「……どこだよここ」

 

 半壊した建物に破壊されつくした道路。

 整備すらもされていないのか割れたコンクリートの隙間からは雑草が生え、荒れつくした有様だ。

 

「プロトとシロからも引き離されたか……」

 

 いったいどこなんだ? ここは?

 侵略者が暴れた場所の可能性があるが、こんな都会で暴れられたら俺たちがすぐに止めにいくし、そもそもここの有様は何か月もこのままだって感じがする。

 

「通信する手段もねぇし、とりあえず自分の足で調べるしかねぇのか……?」

 

 ため息をつきながら立ち上がり廃墟に囲まれた街を歩いていく。

 

「……」

 

 見れば見るほど奇妙な場所だ。

 残骸や看板の文字からしてここは日本で間違いないが、だからこそこんな破壊しつくされた場所があることを知らないので解せない。

 まさか、ここは何者かに作られた世界だとか?

 侵略者にはそれぐらいのことをできてもおかしくないし、ルインなら楽勝にできるだろう。

 

「変身できねぇからな……無茶もできない」

 

 プロトとシロと引き離されたのは痛いな。

 二人とも大丈夫だろうか。

 できることならすぐに戻してやりたい。

 

「カ、カツミくん!!」

「ん?」

 

 俺の名前を呼ぶ声。

 その声の方向を見ると、そこには斜めに崩壊した飲食店だった建物の影からこちらに手招きしてくる女性の姿。

 ウェーブのかかったダークブラウンの髪が特徴的な風浦桃子さんの姿をした彼女、ヒラルダに俺は嫌な顔をする。

 

「ヒラルダ……なんだお前かよ」

「はやくこっちに来て! ここガチで危ないのよ!?」

「え、嫌だよ」

「これまでの所業のせいで信じてもらえない!?」

 

 何度も襲ってきた奴のところにいくのも怖いし。

 しかしその瞬間、大きな地響きのようなものが地面を揺るがした。

 ッ、なんだ? なにかが近くに迫ってきてる?

 

「今回は私もピンチだから早く来て!!」

「くっ、仕方ねぇな……!」

 

 とりあえずヒラルダのいる建物まで移動すると、俺の腕を掴んでヒラルダが物陰まで引き寄せ、焦ったように外を警戒し始める。

 ……どうやら変身できない俺を襲うつもりはないようだ。

 

「おい、どういう状況だよ」

「多分……私たちはどこかの次元に飛ばされたのかもしれない」

 

 別の次元……?

 普通ならそんなの信じられないのだが、このヒラルダの焦り様を見るとあながち嘘をついているわけでもなさそうだ。

 だとすれば俺達を別の次元に送り込んだのはあの声の主か?

 

「カツミ君、今変身できる?」

「……いや、シロとプロトとは引き離された」

「うぇ、マジかぁ。これはかなりまずい状況だよ」

「お前は?」

 

 尋ねるとヒラルダが自身の腕を見せてくる。

 腕からは桃色のエネルギーを放出する彼女だが、それはどこかノイズがかかったように不安定だ。

 

「私もどういうわけか力が安定しない。まともに変身もできないしもう最悪」

「俺もお前も戦えねぇってことか……」

 

 ヒラルダの言う通りまずい状況だ。

 しかし、こいつがいるってことは十位……アカネもいるはずだが……。

 

「ヒラルダ、アカネ……十位を見たか?」

「ううん、見てない」

「そうか……」

 

 合流できるなら早めにしたいな。

 この街をここまで破壊した奴らがいる中で、一人にさせるのは危険すぎる。

 さっきの地響きからしてそいつらはまだここにいて、かなり近くまできている。

 

「! 見て」

 

 ヒラルダの声に外を伺う。

 さっきまで俺がいた場所にいくつもの影が見える。

 人型ではあるが人間とはかけ離れた姿だが、見覚えがあった。

 

『ハンノウ、ココでミタ』

『シュウイヲクマナクサガセ』

 

「鈴虫怪人にレーザー怪人、だと?」

 

 俺が倒したことのある怪人だ。

 そいつらがわが物顔で街を歩き、何かを探すように目を光らせている。

 

「なるほどね、ここはそういう世界なのね?」

「……どういうことだよ」

「怪人が我が物顔でここを歩いている時点で察しがつかない?」

「……」

 

 ……この状況になって怪人が倒されていないことは、そうなのかもしれない。

 日本が……地球そのものが怪人に支配された世界。

 だとすれば絶望的だ。

 こんな怪人が徘徊する場所でほぼ生身の俺とポンコツ状態のヒラルダでは、木っ端怪人が相手でさえもきつい。

 アカネのように武器があればまだなんとかなりそうなものではあるが、それは今はない。

 

「っ、やばい。こっちを見ているわよ!」

「顔を出しすぎだバカ!!」

「ひーん、ごめんなさーい!」

 

 ヒラルダが身を乗り出しすぎたせいか、道にいる怪人共に気取られた。

 まだ完全には見つけられていないが、こっちに来るのも時間の問題だ。

 

「仕方ねぇ。お前ベルトになれるか?」

「できるかできないかでいえばできるけど……」

 

 こいつに体を乗っ取られるかもしれねぇって不安があるが。

 背に腹は代えられねぇ。どちらにしろ死んだら終わりなら多少のリスクを冒しても生き延びた方がいい。

 

「共同戦線だ」

「あ、え、いや、そ、それはちょっと……」

「ここで死んだら元も子もねぇだろ」

「……う、うぅ」

 

 なんで初邂逅で俺を乗っ取ろうとした奴が顔を真っ赤にして渋ってんだよ。

 もうまどろっこしいのでヒラルダの肩に手を置き頼み込もうとしたが、どういうわけか光に包まれたヒラルダが風浦さんの姿からバックルへと変わる。

 

SCREAM(スクリーム) DRIV(ドライバ)……ジジッ

 

「ん?」

 

 以前見た刺々しい見た目のバックルだが、全体にモザイクのようなものが包み込むとまた別の形へと姿を変える。

 

JINVERSION(インバージョン)!!』K

RE:(リバース) SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)!!』

G『!!NOISREVNII(ンョジーバンイ)H

 

 今度はえらく近未来的なデザインになったな……。

 黒を中心とした配色に緑色と濃い桃色によって彩られた機械的なバックルを眺めていると、頭になにかが流れ込んでくる。

 ———ッ、変身の仕方も分かった。

 

「嫌がっていた割になんか親切だな……さっきから無言だけど」

 

 変身の仕方を理解した俺はバックルを腰に装着。バックルの両端からベルトが腰に巻き付き、ベルト側面にカードケースのようなものが出現する。

 それを確認した俺は物陰から出て、怪人達の前に姿を見せる。

 

「ニンゲン ハッケン!!」

「ツカマエル!! ツカマエル!!」

 

「覚悟決めろよ、ヒラルダ」

 

 ベルトの側面に装着されたケースから一枚のカードを取り出す。

 サソリの紋章を背にした濃い桃色の鎧を身に着けた戦士が描かれたソレをバックルの上から差し込むと、軽快なジャズ調の音楽が周囲に流れ始める。

 

「ナ、ナンダ!?」

「ヘンナオトガスル!!?」

 

「変身」

 

 バックル上方のアタッチメントを手で傾け、装填することでカードを読み込む。

 

CHANGE(チェンジ)SCORPIO(スコーピオ)

BANTI(アンチ) VENOM(ヴェノム)!!』N

 

 右も左も分からねぇ世界に放り込まれちまったが、それでも前に進み続けるしかねぇ。

 そのためなら何度だって怪人共と戦ってやる。

 


 

 穂村克己の消失、地球でその状況を把握した瞬間、私はルインちゃんによって彼女の元へと強制的に招集されていた。

 その場にいるのは座に腰掛けるルインちゃんと傍に控える一位の姿と、宙に浮かぶ鏡に映し出された子供の姿をした第二位。

 状況から見て序列上位の私たちを強制招集したとみてもいいわね。

 

「おっと、すまないなサニー。強制召集をかけてしまったせいかお前まで巻き込んでしまった」

「全然かまわないわ。この事態については私も知りたいもの」

 

 ———やだ、ルインちゃんめっちゃ苛立っているわ。

 表面上はにこやかに見えても雰囲気がもうえぐい。

 溢れ出る威圧で空間が歪んでいるように錯覚できるほどの怒気を彼女は放っていた。

 

「やらかしたのはイリステオだも……っ」

 

 ッ、本当に面倒ねぇ。

 二位の名前を口にしようとするだけで声が不可思議な言語に書き換えられる。

 星将序列二位次元超越イリステオ

 私が唯一絶対仲良くなれないと思った人でなしだ。

 

「ま、あれだけ怒るのも無理ないわね」

 

 戦いの最中、それも面白そうな十位の秘密に迫ったときに二位は無粋すぎる横やりをいれてしまったのだから。

 しかも本当に最悪なのがカツミちゃんが無防備な状態で別の世界に放逐されることになってしまったことだ。

 

「さて、早速だがいったいどういうつもりだ?」

 

 私から視線を外したルインちゃんが鏡に映し出された子供を見る。

 彼女に見つめられても尚、二位は飄飄とした態度を崩さない。

 

「面白いものが見れると思ったから。理由はそれに尽きるよ」

「ほう?」

「序列十位。別世界のアラサカ・アカネを連れてきたのは僕だ」

 

 ……え”、あの全然話してくれない十位の子ってレッドだったの!?

 衝撃の事実すぎて思わず声が漏れそうになっちゃうけど、それでもルインちゃんは無反応だ。

 

「そんな彼女が自らの生の意味を求めて戦う姿を観察してきた。全てを失った彼女が手にすることのなかった可能性の世界でどのように進んでいくのか、穂村克己と関わりどのような道を選ぶのか非常に興味があったんだ」

「相変わらず反吐が出る性格してるわねぇ……」

 

 命を自分の娯楽のためのものとしてしか見ていない。

 それが二位の本質なのだろう。

 しかも、常に自分に被害が及ばない二次元から見ているのも性根が悪い。

 

「しかしこれでは救いがない。我ながらそう思ってしまってねぇ。だから今回の行動に出たわけさ」

「それがカツミを別世界———怪人が跋扈する地球に送り込んだ理由か?」

「あそこは別世界のアラサカ・アカネのいた世界に限りなく近い(・・)世界。微妙な違いで分かれた世界ともいえるだろう」

 

 ……救いがない、ね。

 傲慢さが隠しきれていないわね。

 

「貴方様にとって悪い話でもないはず」

「……」

「あちらの世界には地球のオメガが率いる怪人がいる。あれらの群れは非常に強力だ。穂村克己を成長させる機会としてはあの世界以上に適した場所はないはずだ。それにあの世界には貴女様のお父上もいるはず、現状勝てはしないだろうが戦わせるだけ戦わせて……が!?」

 

 揚々と言葉を並べていた二位が自身の首を抑えもだえ苦しみ始める。

 私たちのいる次元から決して手を出すことのできない二次元の世界を自由に生きる無敵の存在、それが二位の力……なのだが、そんな二位を苦しめさせるなんて芸当ができる存在は限られた者しかいない。

 一人は星将序列第一位であるヴァースと———組織の頂点に立つ絶対的な存在、ルインちゃんだ。

 

「お前の話は退屈すぎる。欠伸が出そうだ」

「が、あ、ぁっぁ……」

 

 つまらないものを見るように鏡の中で苦しむ二位に視線を向けたルインちゃんは右手の指を軽く振るう。

 それに合わせ、鏡の中にいる二位が私達と同じ三次元へと引きずりだされる(・・・・・・・)

 そのまま床に落とされた二位は、ルインちゃんの“圧”にあらがえず地面に這いつくばる。

 

「あまり理解していないようだが———」

「あっ、がっ……!?」

「誰がお前にそのような勝手を許した? 私のカツミを利用していいと命じた?」

 

 起き上がることもできず、全身の骨を軋ませながら地面に沈み込んでいく二位にルインちゃんは冷笑を向ける。

 あーらら、調子に乗り過ぎて逆鱗に触れちゃった。

 自分が安全圏にいると思い上がっちゃった罰ね。

 

「星将序列二位 イリステオ(・・・・・)

 

 ルインちゃんがあまりにも雑に二位の名前を呼ぶ。

 ノイズも意味不明な言語化もしないその澄んだ声に、二位の目が驚愕に見開かれる。

 

「万物の観測者を気取るのは勝手だが、多重次元に遍在するお前を滅ぼすことなど私にとっては造作もないことだ」

 

 別世界の二位との意識の共有。

 次元という壁そのものを超越し、絶対的な不死と化した二位でさえルインちゃんの前では限られた命でしかない。

 見ていて笑えてしまうくらいに出鱈目すぎるわ……。

 

「そもそも、お前程度にできることがこの私にできないはずがないだろう?」

 

 ルインちゃんが掌をかざすと背後に現れたワームホールに似た穴に、今まさに変身しようとしているカツミちゃんの姿が映りこむ。

 あれが別世界に飛ばされたカツミちゃんだとすれば、本当にルインちゃんは二位と同じ能力を有しているといってもいいのだろう。

 

「その気になればカツミを連れ戻す程度造作もない。その逆も然りだ」

「っ!」

「さて、どうするか」

 

 ふっ、と圧を弱めたルインちゃんはまた玉座に腰掛け優雅に足を組み、別次元を映し出す窓からカツミちゃんを眺める。

 二位は息を乱しながら起き上がることすらできていないが、ルインちゃんの視界には既に二位の姿は映ってはいなかった。

 

「いくつか段階を飛び越えてしまうが丁度いい機会だ。あの子ならば必ず私の期待に応えてくれるだろう」

 

 最早、ルインちゃんは二位を視界にすらいれていないようだ。

 ……カツミちゃんも本当に大変な目にあっているわね……。

 ハイルちゃんも心配しちゃうから、このことはちゃんとあの子に伝えておこうかしら。

 




問答無用でベルト化してしまったヒラルダと、軽くキレてたルイン様でした。

今回の更新は以上となります。

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