並行世界編2 です。
今回はヒラルダ視点から始まります。
穂村克己に変身されたらやばい。
漠然とした、しかし確信ともいえる感覚でそう理解していた私は絶対にベルトとして変身しないと決めていた。
きっとカツミ君に変身されたら私は救いを求めてしまうだろう。
アルファとして、共にあることを望んでしまうだろう。
それが分かっていたから、彼に変身されないようにしていたはずだったけど———いざその時になったら普通に抗えなかった。
『~~~~ッ』
———催眠とか魅了とか、そんな安易なものじゃない。
むしろ私にとってはそうであった方がよかったくらいだ。
快楽とかそういうものであったらどれだけよかったか。そういうものであれば私も全力で抵抗して、抗おうと思えたのに。
彼と共に在ることに高揚し、勇気がひたすらに湧き上がるような……そんな感覚。
後ろ向きでひたすらに罰を求めていた私の心を温かく照らす力。
それが穂村克己の“変身”。
アルファである私達を従えるのではなく共に
バックルに【アンチヴェノムスコーピオ】のアバターカードが差し込まれたことで、変身フェーズが開始。
バックルから前方に投射された人間大のカードがカツミの身体を通過することで、カードに記された戦士へと姿を変えていく。
黒騎士に似たスーツの上に桃色のパーツが部分的に装着され、これまでの私の変身とは異なるすっきりとした姿に変身を終えた彼は調子を確かめるように軽く自身の手を振る。
「っし、これなら行けそうだ」
これが、変身される感覚。
“この人と一緒ならどこまでも強くなれる”
依存ではなく、共存。
変身を経た今でも際限なく心から勇気が湧き上がっていく。
これが、黒騎士と白騎士のコアが常に抱いている感覚だとすれば……ああ、そりゃああそこまで強くなれるんだろうなと納得できてしまう。
「やるぞ、ヒラルダ」
名を呼ばれるが、返事を返す余裕もない。
私にできることはこの感覚に流されないように抗いながら、目の前の怪人を倒すサポートをすることだ。
「ヘンナスガタ!!」
「オレガッオレガヤル!!」
カツミ君が鈴虫怪人と呼んだやつがとびかかってくる。
名の通り、鈴虫がそのまま人型へと変わったような醜悪な怪人は背中の翅を振動させている。
「シネェェ!!」
鋭利なかぎづめを生やした四本腕を余裕を以て躱し、顔面に拳を叩きこむ。
「うるせぇ」
「ウッ!?」
さらに追撃の回し蹴りを胴体に叩き込まれ大きく吹き飛ばされた鈴虫怪人は、青色の血を吐き出しながらこちらを睨みつけてくる。
「ナ、ナンダ、オマエェ」
「……ルプス……白い姿よりちょっと強いくらいか。なんとなく分かってきた」
「ッッ!! ビィィム!! フタリガカリダ!!」
一対一は無理と悟ったのかレーザー怪人……ビィムと呼ばれたそいつが挟み撃ちをするようにカツミの後ろへ移動する。
それに合わせ、鈴虫怪人の翅が異様な振動を見せる。
「リィィィィ!!」
超振動による物質破壊。
鈴虫怪人を中心に地面、建物が崩壊し粉みじんに姿を変える。
……。
え、なにあれやばくない?
「ビィィ!!」
後ろではなにかやばげにエネルギーチャージしているレーザー怪人!?
でも相対している彼は慌てた様子を微塵も見せずに、ベルト横のホルダーから一枚のカードを取り出す。
「……使ってみるか」
『
『
慣れた手つきでバックルにカードを装填、発動させる。
瞬間、カツミ君の隣に
「……。便利だな?」
「っし、俺はこっちの相手だ」
分裂? 分身? ……実体のある幻術?
私の能力と酷似した技を使うってことかな?
「相変わらず近所迷惑な野郎だ」
「リィィ!! キサマガチカズケバ———」
「うるせぇ!!」
超振動は危険、という前提さえも無視した彼は猛烈な勢いで鈴虫怪人の顔面を蹴り飛ばした。
躊躇もなにもない一撃に鈴虫怪人が動揺している間に、彼はカードをバックルに装填し空に手を掲げる。
『
『
虚空から降ってきた黒と桃色の剣がカツミの手に収められ、すれ違いざまに背中の翅を切り裂く。
一瞬にして散らされた自身の翅を目にした鈴虫怪人は、ようやく自分が戦っている存在の
「ヒッ!?」
『
「まず一つ」
『
跳躍と同時に繰り出された紫炎を纏った蹴りは逃走を試みようとした鈴虫怪人の背中を直撃し、その身体を爆散させた。
跡形も残らず消えた怪人に目もくれずに彼はすぐに背後で戦っているレーザー怪人へ標的を変える。
戦っていた幻影も消え、レーザー怪人もこちらを見る。
「試してみるか」
ん? 今度のカードは色が違う。
! この映っている赤いシルエットは……!!
『
『
カードの装填と同時に最初の変身の時と同じように彼の前にカードが現れ、その身体を通過する。
黒と桃色の姿から、赤い———深紅の戦隊ヒーローへと変わる。
モータルレッド!!?
いや、でも呼び名が違うってことは、汚染される前の星界戦隊の姿に変身したってこと!?
曇りのない赤色へと変わると同時に続けて、音声が鳴り響く。
……いや、どうしたの突然?
絶妙にダサい音声に合わせていきなり決めポーズをとったカツミ君に普通に首を傾げる。
奇妙な沈黙が場を支配し、敵であるレーザー怪人もちょっと困ったように猫背になっている。
「……」
「エ、ナンダ?」
「……身体が勝手に動いただけだこの野郎!!」
「エエエ!?」
突然キレた彼は不意打ち気味にレーザー怪人を殴りつけた。
……もしかして変身の度にヒーローだった頃の星界戦隊の名乗りをやらされる感じ……?
「ビィィィィ!!?」
レーザー怪人が頭部に溜めたエネルギーを開放し、拡散する光線を放つ。
それらは意思を持つように一斉にホーミングし、こちらへ迫ってくる。
「しゃらくせぇ!!」
正真正銘の宇宙のヒーローだった頃のレッドになった彼は赤色の大剣を手にし、レーザー怪人へ一直線に突撃する。
彼が大剣を一薙ぎするだけで空間に歪みが生じ、光線が捻じ曲げられ後方に消えていく。
「さっさと終わらせてやる!!」
「ビィィッ!?」
これは、モータルレッドの重力操作……!?
光線を重力で捻じ曲げ、死に物狂いの一撃すらも大剣でたやすく薙ぎ払った彼は———その一撃でレーザー怪人の首を刎ね飛ばし、解放された重力波でその肉体を粉々に吹き飛ばした。
「……よし」
今の戦いでなんとなくこの姿の力が分かった。
この【アンチヴェノム】は不安定な星界エナジーと私自身の力を安定させるために、力を統合させずにカードとして分配し新たな力として姿を変えたもの。
星界エナジーに内包された戦士の記憶を使うこともでき、まさに変幻自在。
「敵はもういないな」
周囲を確認し、変身が解かれる。
バックル状態から解放され、人型に戻った私の中にあるのは喪失感と、胸の奥に残る温かな感情。
……飲み込まれちゃ駄目だ。
私はもう後戻りすることはできない。
どれだけ居心地がよくても、勇気をもらえても、私がそのようなものを得てはいけない存在だということを忘れちゃいけ———、
「ヒラルダ」
「んひぃ!?」
突然声をかけられて変な声が出てしまった。
さすがにバックルにはならないが、若干距離をとりながらカツミを見ると彼は怪訝な顔をする。
「なにやってんだ」
「い、一度変身を許したからって勘違いしないでよね!! 私そんな軽い女じゃないんだから!!」
「……はぁ?」
「ねえ、ガチな反応やめてくれない?」
ここは慌てふためいてほしかったんだけど、ガチ目の「はぁ?」にこっちがビビってしまう。
「ここを離れるぞ。騒ぎを聞きつけて怪人が集まってくるかもしれん」
「……そうだね」
確かにまずは休める場所を確保するべきだ。
変身できるといっても結構弱体化しているのでどれだけの怪人を相手にできるかさえ分からないのが現状だ。
「休める場所と、食い物と水だな。そっからアカネを探しに行こう」
「十位も探すんだ」
「当たり前だろ。まだ俺はあいつから話を聞いてねぇんだからな」
そう言葉にして歩き出すカツミ君。
迷いのない彼の後姿を見つめた後に、一度自分の手を見る。
「……耐えられるかなぁ」
彼の陽だまりのような心に、私は異常なままでいられるのか。
悪意の塊でいられ続けることができるのか、……っ!?
「「ッ」」
なにかが近づいてくる。
カツミ君も気づいたのか、顔を顰める。
「さっさとここを離れるぞ」
「そうした方がよさそうだね」
まだどれくらい怪人が徘徊しているか分からない以上、無駄な戦闘をするべきじゃないだろうね。
「———どうやらここで戦闘があったみたいだね」
身に纏うパワードスーツで地上に降り立ち、少し前まで戦闘があったであろう場所を見る。
周囲に反応はなし。
安全を確認しながら、パワードスーツのカバーを展開する。
放熱と共に自身の戦闘服に接続されたプラグを外し地面に降り立つ。
「はぁ、
「だけど見ておかなきゃ駄目でしょ」
思わず出てしまったため息に、私と同じくパワードスーツから降りたアオイは取り出した機器で周囲をスキャンし始める。
パワードスーツの右肩部分に刻まれた“3”という青色の数字を一瞥しつつ、解析結果を待つ。
「戦闘痕解析……一致した。ここにいたのは光線怪人と音響怪人みたい」
『脅威値Bの怪人じゃん? なんでこんなところで戦ってたんだろ』
パワードスーツから降りずに周囲を警戒していたキララがそんな疑問を口にする。
いずれも簡単に人間を肉塊にすることができる怪人だ。
そんな怪人が戦っていた?
しかもこの残骸は……。
「どう見ても、怪人の死体……だよね?」
「ん。どっちもここで死んでる。しかもすごいエネルギーをぶつけられて爆散してる。ウケる」
『いやウケないから』
ここで、怪人と
粛清、仲間割れ、共食い、それかこちらをおびき出すための罠かのどれかだとは思うけど……。
「まあ、怪人の考えなんて分かりたくもないよ」
「言えてる」
『見つけ次第殺すだけだしね』
そうだ。
怪人なんてその程度の認識でいい。
私たちの家族を、日常を奪い去った奴らにかける温情なんてない。
「もしかしたら……」
「アオイ?」
「私達以外に怪人を倒す人が出てきたり———」
「いるわけないじゃん。そんなの」
どこか期待するような声色のアオイに思わず冷え切った声で返してしまう。
だけどこれでいい。
余計な希望は私たちの足かせになるし、私たちの他に怪人と戦える存在なんているはずがない。
「怪人は殺す。それが私たちの使命なんだから」
「……うん、大丈夫。分かってる」
落ち込んだ様子で頷くアオイ。
もうここで調べることはない。
あとは拠点に戻って、報告を済ませなきゃ。
『ねえ、アカネ』
「ん?」
『第一コロニー。私達で制圧できるのかな……』
「できなくても、やるしかないよ」
都市の三ヵ所に存在する怪人共の巣———コロニー。
そこに存在する怪人たちを率いる幹部、脅威値A以上の危険な怪人と私たちは戦わなければならない。
死ぬ確率が高い、無謀な作戦だからキララも不安なんだろう。
だけど———、
「私たちに残された道はこれしかないんだから」
『……そうだね。……ごめん』
どんなに絶望的な作戦でもやるしかない。
そうじゃなきゃ文字通りの人類にとっての終わりだからだ。
「……」
そこまで口にして私は自身のパワードスーツを見上げる。
三メートルに届くほどの機械仕掛けのアーマーに塗装すらされていない漆黒の外観。私、アオイ、キララのそれぞれに与えられた三機のソレは右肩部分に判別用のナンバーが振られている。
赤の“1”と右肩に記されたソレを見た私は、今一度怪人への憎悪を胸の中で溢れさせ、自身の心を冷たく———冷酷に保とうとする。
そうしなければこんな希望のない世界では、心が圧し潰されてしまうからだ。
変身すると勝手にポーズ取っちゃう星界戦隊系の姿でした。