追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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本日二話目の更新となります。

第十二話 『戦いから一か月後 前編」についてですが記者会見の部分をまるごと書き直しました。
表現をマイルドかつ、個人的にはよりちゃんとした描写ができたかなと思いますので、見ていただければと思います。


※恐らくですが、フォントが機能していないかもしれません。



黒騎士、いつもの日常

「オメガはね。そこまで特別な意味を持たないってことは、前にも言ったよね? カツミ」

 

 耳元で声がささやく。

 目を覚ますことができない。

 

「私が見つけて、選ぶ。それが君だった」

 

 目を開ける気力がない。

 ただ、微睡みと現実の曖昧な境界を行ったり来たりしながら、囁かれる言葉を認識していく。

 

「別に選ばれた人が強くなるわけじゃないのに……ただ、その人の意思で私の能力を受け付けなくなるだけなのに……」

 

 頭をなにかが包み込む。

 

「私を、守るためなんだよね? でも、君と話せないのは……とても寂しい」

 

 彼女が俺を抱き寄せたと気づいたときには、彼女は耳元で囁いた。

 

「私はアルファ。君は、私のオメガ。この短い、ほんの少しだけ許されたこの時間は、私のもの」

 

 意識が深海に沈み込むように落ちる。

 深く、暗い海底に背中が着くような感覚と共に―――一気に現実へ引き戻されるかのように俺の意識は引き上げられる。

 

「———ッ!!」

 

 途端に目が覚めた俺がベッドから起き上がると、そこは暗い独房の中であった。

 いつのまにか物で溢れた、最早閉じ込めるための部屋には思えない、そんなおかしな場所。

 

「アルファ……」

「いつも、君のそばにいるよ」

 

 彼女の名を呟く。

 彼女の声が聞こえたような気がした。

 俺が殺したのに。

 彼女は人に仇なし、俺が殺した。

 そのはずだ。

 記憶の齟齬を無理やり納得させ、額を手で押さえる。

 

「……最近は、あまり悪夢を見なくなったな」

 

 悪夢も見ることが少なくなったし、あまり吐かなくもなった。

 これは、いい兆候なのだろうか。

 

「……寝よ」

 

 大きな欠伸をしながら俺はもう一度ベッドに横になり瞳を閉じる。

 惑星怪人アースとの戦闘から約一か月が過ぎた。

 その間に、なぜか俺はパソコンの使用できるサイトなどが制限されたりしたが、まあ、その分映画を見る時間もできたので個人的にはそれほど不自由はなかった。

 

 


 

「お前らって友達いるの?」

「いるけど……なんで?」

「なら、どうして休日の午前からこんなところにいるんだよ」

 

 今日は土日で休日。

 なので、昼間っからここに来ているレッドとブルーに呆れながらそう言い放つ。

 

「君が死んでいないかを見に来てる。一人にしておくと死んじゃいそうだから」

「俺はウサギかなにかなの……?」

 

 そこまで精神的に虚弱に思われてんのかな……。

 

「そういえばイエローはどうしたんだよ」

「きららなら、ここに来る途中に厨房によって、昨日作って冷やしたお菓子持ってくるって」

「あいつ、なんなの……?」

 

 イエローの料理の腕は認める。

 が、なぜここにお菓子を作りにくる……!

 あの妹と弟、否、クソガキ共に作ってやればいいものを……!

 

「あ、そうだ! 外出許可だよ! 聞いた?」

「はあ? 外出許可?」

「うんうんうん!」

 

 すごいこくこくと頷くレッドに胡乱な目を向ける。

 外出許可……ああ、昨日、レイマが言ってたやつか。

 

「カツミ君、外出できるんだよ!」

「……そっか、いってらっしゃい。土産、頼んだぞ」

「ちーがーうーのー!」

 

 俺は自分が一つも犯罪を犯していなかった事実に打ちひしがれていたのだ。

 ここはジャスティスクルセイダーの本拠地、すなわちスーツが作られたところだが、彼らに好意的に見られている俺の訴えは取り消すよなぁ。

 それに加えて、あのなめくじ怪人の大停電も実はおとがめなしだとか、最初に変身した時から色々吹っ切れて活動していたのに……。

 

「どうせ俺は、真っ白白すけの白騎士くんだ……」

 

 しかし、騒ぎを起こしたことに加え、精神的に未だに不安定と言われたのでまだここにいるようだ。

 まあ、レイマも俺の住んでいるところを知っていたのだろう。

 あのオンボロアパートよりもこっちに住んだ方が、俺としても気持ちが楽だ。

 

「監視付きだけど、外に出れるんだよ? 嬉しくないの?」

「いや、ぶっちゃけここにいる方が楽だし……ここ映画見れるし」

「おいしいスイーツが食べに行けるんだよ!?」

「スタッフさんが差し入れてくれるし」

「く、ぬぬぬ……!」

 

 するとなにを思ったのかスポーツバッグから雑誌のようなものを取り出すレッド。

 ぱらぱらとソレをめくった彼女は、なんか菓子らしきものを俺に見せてくる。

 

「そうだ! ここ! お店限定の三色わらび餅!」

「それ私も食べたい……」

 

 レッドの見せた雑誌にブルーも食いつく。

 ……あっ。

 

「あ、それもスタッフさんからもらったぞ」

「君、スタッフさんから餌付けされてない!?」

「それ一時間待ちの有名店のだよ!?」

 

 マジかよ。

 なら後でちゃんとお礼を言っておかないと。

 

「あ、そうだ。今日は暇つぶしの為のゲームを持って来たんだよ」

「なんだよ、ゲームボーイアドバンスか? それともDSか?」

「いつの時代のゲーム……? これこれ、じゃーん!」

 

 なにを持って来たのかスポーツバッグからレッドが取り出した長方形の物体を取り出し、何かを並べていく。

 お、これはもしや噂のPF3かと思い目を輝かせた俺がテーブルを見ると―――、

 

      

        

        

         

      

 

 ……。

 

「もっと古いところじゃねーか! アナログの極致じゃん!?」

「うん。カツミ君、こういうのが好きかなって」

「いや、一応ルールは分かるけどさぁ。分かるけどさぁ!! もっとPF3とかそういう最新式のものがよかったんだけど!?」

「!?」

 

 大体、なんで将棋!?

 もっとトランプとか花札とか色々あるじゃん!

 

「……カツミ君」

「なんだブルー、今俺は大事な話を―――、」

 

 くいくいと俺の服の裾を引っ張ったブルーが、なにやら強張った顔のまま話しかけてくる。

 

「PF3は大分前」

「えっ?」

「今はもうPF5の発売が決まってる……!」

 

 え、PF3は時代遅れ?

 しかもPF4を飛ばしてもうPF5まで出るのか?

 

「う、嘘だ。は、ははは、ブルー、俺をからかうのはよしてくれよ……」

「もういい、やすめ! カツミくん……!」

「いや、将棋しようよー」

 

 そ、そそそそ、そうだ。

 今は将棋をやって心を落ち着けよう。

 すぐさま椅子に座り将棋の盤面を見てから、ふとある可能性を考える。

 

「お前ら、グルじゃないよな?」

「「はい?」」

 

 そう、こいつらは前のクイズ勝負で不正ギリギリのとんでもないことをしてくれたのだ。

 あの後、肉寿司とかいうこの世のものとは思えないほどの美味しさの飯を食べなければ、こいつらを許さなかったくらいには根に持っている。

 

「いやいや、しないよ。将棋でどうやってするの?」

「お前達が……」

「私達が?」

「俺に目潰しをする」

「物理!?」

 

 驚きに目を丸くするレッドだが、すぐにいつものように明るい笑みを浮かべる。

 

「私も将棋は一、二回くらいしかやったことないよ? 今度は純粋に勝負できればいいかなって思って持って来たんだよ」

「……ほ、本当に俺を騙さないか?」

「……いや、あの、本当にごめんね? 今回は大丈夫だから、ほら、巣穴から出ておいで」

 

 軽くトラウマな俺に苦笑しながら手招きするレッド。

 本当に正々堂々でやるんだよな?

 それなら俺も安心して、勝負に挑めるぜ……!

 

「卑怯な手を使わなければこっちの勝ちは決まったようなものだぜ!! 覚悟しろレッド! お前が駒を握れる日は今日限りだァ!!」

「(なんか威勢のいい小型犬を相手してるみたい……)」

「(かわいい……)」

 

 威勢を飛ばしつつ、対局開始。

 ぱち、ぱち、ぱち、と淀みなく駒を動かしていきながら静かに時間が過ぎていく。

 この盤面を見れば分かる。

 奴は素人だ……!

 とりあえず進める駒を適当に動かしているのがその証拠……!

 勝てる。

 この勝負、俺の勝ちだ! ジャスティスクルセイダー!!

 

 

「おまたせー。お菓子持って来たよ」

 

 部屋に場違いなほど明るい声の少女が入ってくる。

 茶ぱつの髪を三つ編みにさせた彼女、イエローは項垂れたまま反応しない俺を見て首を傾げる。

 

「って、あれ? どうしたん? カツミ君、そんなうなだれて……」

「……」

 

 今はこの甘い菓子の匂いですら分からない。

 俺の眼下には将棋の盤面。

 

「お前の番だ」

「ま、待ったアリにする?」

「情けは無用だ。やってくれ」

 

アカネ持ち駒:歩歩歩歩歩銀銀角飛金桂

       

       

      

   

   

      

      

      

       

カツミ持ち駒:歩歩歩歩桂

 

「え、えと、王手」

 

 レッドが竜馬を摘まみ、銀を取る。

 ただでさえ多い持ち駒が増え、王手を刺される。

 

アカネ持ち駒:歩歩歩歩歩銀銀角飛金桂銀

       

       

      

   

   

      

      

      

        

カツミ持ち駒:歩歩歩歩桂

 

 逃げ場なし、頼れる配下は一人を除いて皆捕虜にされる。

 こっちにゃ歩と桂馬しかねぇ。

 せめて、お前らだけでも敗残の兵として生き延びてくれ……。

 虚ろな目で手元の歩と桂を見つめる。

 

「ど、どうする? カツミ君……?」

 

 マジかよ、こいつナチュラルに強いんだけど!?

 初心者なのは疑わない。

 だが、意味のない一手が最善手に昇華して、油断していたボディに直撃させてくるんだけど!!

 俺、結構こういうゲームとか自信あったんだけど、どういうことなの!?

 

「お、おおお、俺の、負けです……!」

 

 屈辱の敗北宣言。

 しかし、ここで負けを認めない方がみじめなので大人しく負けを認める。

 

「あれ。なんだろう、すごいいけない気持ちになってくるんだけど……」

「アカネ、なんか人前で見せちゃいけない顔になってるんやけど、大丈夫?」

 

 普通に負けた。

 ……負けはしたが、普通に楽しかったな。

 思えば、こういう遊びをしたのは久し―――ッ。

 

「……」

 

 久しぶりの、はずだ。

 一瞬、ぼやけた視界を押さえながら顔を上げる。

 ものの見事に追い詰められた。

 さすがは、ジャスティスクルセイダーのリーダーとでもいうべきか……。

 

「私、ちょうどリバーシ持ってるんだけど、みんなやる?」

「なにがちょうどなのか全く分からないんやけど……」

「やるやるー」

 

 なんだかいつも通りに騒がしくなってきたな。

 煩わしいくらいの、いつもの光景。

 いつしか、そんな状況にいることに慣れてしまってきているわけだが……俺は、ここにいてなにか変わってきているのだろうか。




折角、将棋盤の再現を作ってはみたものの、滅茶苦茶つらかったので二度とやらないと思います(白目)
リバーシの盤面も作ってました(小声)

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