追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしてしまい申し訳ありません。

平行世界編 6
今回はレイマ視点でお送りします。


並行世界編 6

 第一コロニーの制圧。

 それは、崖っぷちに立たされていた人類にとって初めて怪人に打撃を与えたことだった。

 だが、それを成し遂げたのはレッド達ではなく、鎧に身を包んだ正体不明の戦士。

 彼女たちが命を捨てる覚悟で挑むはずだった怪人を圧倒的な力で蹂躙したその存在は、新たに現れた何者かと共にどこかへ消えてしまった。

 

「……信じられん、状況だ」

 

 アジトから第一コロニーだった怪人の巣へやってきた私は、この作り変えられた場所を調査して震えた声を漏らした。

 共に調査しているスタッフ達も私と同じ心境なのか、困惑した様子だ。

 

「怪人による汚染も検知されず、それどころかこの空間は一切の穢れのない。信じられません、まるでこの場所だけ創り直されたってくらいにクリーンな場所です」

「実っている植物も見た目こそはトマトや我々にとって見慣れたものですが、その栄養価は既存のものを大きく上回っています……。しかも、摘み取った傍から次が実り始めている……」

「この空間だけファンタジーみたいなもんですよ。科学的観点から見てもお手上げすぎます」

 

 全てが異常事態。

 怪人の巣窟であり、汚染されたコロニーが今や食料、水、住処が完備された一級のアジトへと早変わりだ。

 なんだこれは、この空間だけ奇跡が起こったとでもいうのか?

 これまで、怪人に囚われてきた人々は既に解放され、久方ぶりの自由を噛み締めているが、その様子もある意味で異様だ。

 

「……囚われていた人間たちの様子は?」

「バイタル、怪人から受けた精神汚染の影響もありません。健康そのものです」

「怪人にされた人々のメンタルケアは?」

「怪人にされている間の記憶はなかったらしいです。しかし、怪人化されて時間が過ぎてしまった人々は……戻らずに消失してしまったようです」

 

 ……手遅れだった人間以外を救ってみせたか。

 だが、怪人化という手遅れな状態から元の人間に戻すという力技を行ったのだ。元に戻れなかった人々はもう人間だった部分がなくなってしまっていた……からなのだろう。

 

「司令、彼の力はエナジーコアに由来するものなのでしょうか?」

「……それに近いものがあることは分かっているが、それ以外は不明だ」

 

 謎の戦士、レッドの呟きを借りるならば黒騎士と呼ばれる存在からはエナジーコアと同一のエネルギー反応が出た。

 だがそれだけではなく、別の異なる反応も出たことから、さらに分からなくなった。

 

「あの力の根源はなんなんだ……?」

 

 怪人に汚染された環境の浄化。

 衰弱、傷ついた捕らわれた人々の手当て。

 とんでもない栄養価の果実を実らせる力。

 怪人のみを阻むシールド。

 ……一つ一つの能力だけでとんでもないものだ。

 

「……」

 

 目撃者によると彼は怪人と敵対していた。

 怪人に虐げられ、異形に変えられた人間を見て激怒し、その溢れださん怒りのままに怪人を蹂躙してみせた。

 なにより彼はここに囚われた人々のためにこの環境を作った。

 

「そして、もう一体」

 

 第一コロニー内で彼が怪人共を蹂躙している一方で、襲撃されたことを察知した第二コロニーが送り込んだ怪人の群れを排除した別の存在がいる。

 赤黒い鎧に身を包んだ女性。

 左腕がなく、鉄塊のような剣と技量のみで怪人を切り裂いたその存在もまた、怪人に仇なす存在とみてもいいかもしれない。

 

「信じて、いいのか?」

 

 ここまで怪人と敵対しているのならば信じていい、と考えてしまうかもしれないが、私の中ではある一つの予測が浮かんでいた。

 それは、彼らは宇宙を統べる侵略者が差し向けた者達という可能性だ。

 この星のアルファを確保するために怪人を掃討しているのか、はたまた人間というサンプルを得るために動いているということだってありえてしまう。

 

「私だけでも疑っておかなければ……」

 

 もう私には戦える力はない。

 五体は砕け、今では車椅子なしで満足に動けないほどに壊されつくしている。

 

「……拠点を移すなら、諸々の設備も移送するべきだな」

 

 封印しているアレも持ってこなければ。

 本来ならば我々の福音になるはずだったものだが、今では使用者を死に至らせる危険物だ。だが、それがもし怪人の手に渡りでもすれば、どうなるか予想もつかない。

 だからこそ、アレは私の管理下に置いておかなければならない。

 

「司令、どこに向かわれるのですか?」

「彼女たちの様子を確認してくる。戦いを行わなかったとはいえ、事態が事態だからな」

「それならお連れしますよ」

 

 車いすを進めようとすると、一人のスタッフが後ろから押してくれる。

 見上げると、そこには怪人出現以前から私の部下であった女性がいた。

 

「いつもすまないな。大森くん」

「それは言わない約束でしょう。貴方の頭脳が皆の頼りな上に、身体ボロボロのぼろ雑巾なんですから周りを頼ってください」

「そこまで言わなくてもよくないか……?」

 

 事実だが、そこまで言うのは酷いと思うぞ大森君。

 と、ここで通信が入ってきたので、かろうじて動く右腕で通信を行う。

 

『もしもし、こちらレジスタンス本部です。光です』

「むっ、どうした? そちらでなにか不備があったか?」

 

 レジスタンス構成員の照橋(てるはし)(ひかる)

 怪人災害の生き残りであり、レッド達の後方支援を行う構成員の一人からの通信に耳を傾ける。

 

『いえ、確認なのですが、そちらに本部を移すということで全ての機材及び物資を運ぶということでよろしいですか?』

「……まだ確定はしていないが食料などはまだ運ばなくてもいいかもしれん」

 

 ここに実る食料はかなりの栄養価に加えて、すさまじい生産力を誇っている可能性がある。

 それこそ乾パンや缶詰などより比較にならないほどに多く、それでいて味も上だ。

 ならば、道中の怪人たちに襲撃されるリスクを軽減する方を優先させるべきだ。

 

「詳しいリストはデータで送る。君たちはアジトの解体を頼む」

『了解です。……あ、それと……』

「む? どうした?」

『あの、アジトの奥にある“扉”の奥のものはどうするんですか? 中になにがあるかは分かりませんけど』

「……」

 

 “アレ”か。

 レジスタンスの隠れ家、アジトともいっていい場所の地下には開かずの扉が存在する。

 そこにはかつて私の身体を破壊したコアが封印されている。

 戦力に利用することもできず、かといって怪人に奪われる事態を防ぐために封印という手段をとったが……アレを放置してアジトを移すという判断には至れん。

 

「近いうちにアレはこちらに移動させる」

『……。中にはなにが?』

「極秘だ。知らない方がいい。あの扉の奥にあるのは危険極まりない“力”だからな」

 

 これまで働いてきたとはいえ、あのコアのことは誰にも教えるつもりはない。

 扉の奥でさえも幾重にも重ねたコンテナを溶接し、外に持ち出せないようにしているくらいに徹底している。

 そもそもそんなことをしなくともあのコアはあらゆる存在を拒絶しているようなものだがな……。

 

「運び出す際にはこの私自身と、護衛となる人員を用意する。それまでそちらで頼むぞ」

『……はい。了解しましたー!!』

 

 威勢のいい返事に頷き通信を切る。

 

「司令、あれは……廃棄したほうがいいのでは?」

プロトゼロ(・・・・・)は必要だ」

 

 最初に作り出されたスーツ。

 地球人のために作ったはずが、あらゆる存在を拒絶し死に至らせる恐ろしいスーツ。

 それがプロトゼロ。

 

「ですが、それが貴方をこんな身体にしたんですよ?」

「無理やり装着した私の自業自得だ」

 

 覚悟して行動した結果なので後悔自体はしていない。

 ……エナジーコアには意思が存在する。

 プロトゼロスーツを装着した時、エナジーコアから伝わってきた思念は怒り、憎悪、行き場のない悲しみだった。

 

「……クモ怪人との戦闘後は、プロトゼロは繭のような物質を形成し、スーツごと閉じこもってしまった。それだけ、我々に失望していたということだろう」

「あれは閉じこもるなんてかわいいものじゃないですよ」

 

 溜息と共に後ろから車椅子を押す大森君が片手で端末を操作し、私に見えせてくる。

 映し出された映像はクモ怪人を討伐した直後の映像であり、エナジーコアがプロトスーツごと変容(・・)したものだ。

 その姿はまるで繭。

 プロトスーツを構成する物質を繊維のように分解・再構築した繭は、悪意、害意、それと私が近づこうとすれば―――、

 

『————ッ!!』

 

 迎撃行動を行う。

 少女を思わせる叫び声と共に繭から溢れだした銀糸が幾重もの刃を作り出し、コアにとっての敵対者を切り刻む。

 その迎撃の速さはパワードスーツで底上げされたはずの反応速度すらも容易く上回るほどだ。

 

「脅威値測定不能(・・・・)。怪人以上に危険なものを抱え込んでどうするんですか」

「……分かっている。分かっているのだが……」

 

 保管しておくには確かにデメリットしかない。

 だが、それでも私はプロトゼロスーツを放棄する選択をとれなかった。

 理由はない。

 だが、漠然としたなにかが私をそうさせなかったのだ。

 

「……ここです」

「感謝する」

 

 そこまで会話してレッド達が休息をとっているという部屋に到着する。

 扉越しから、明るい声が聞こえてくる。

 その声に少しばかり安堵しながら、大森君にノックをしてもらい返事をもらってから、中に進む。

 

「私だ」

 

 レッド、ブルー、イエロー……そして、ブルー、日向葵の妹である日向晴。

 最も近くで彼の戦いを目撃した少女は、コアラのようにしがみつくブルーにされるがままにされている。

 ……気持ちは一応分かるが、なにをやっているんだこいつは。

 呆れる私に、椅子に腰かけていたレッドとイエローが苦笑交じりに声を発する。

 

「死んだと思っていた家族が生きてたらこうなりますよ」

「まあ、仕方ありません」

「だからといってなぁ……」

 

 なんでこいつスライムみたいに軟体動物化しているんだ。

 いや、分かっている。

 死んでいたと思っていた妹に再会できたことは確かに喜ばしいことだ。

 ブルーにとってはまさしく奇跡のような出来事に違いない。

 

「日向晴、日向君と呼ばせてもらってもいいかな?」

「は、はい。……ちょっとお姉ちゃん、いい加減離れて」

「むぐぇぅ」

 

 日向君に押しのけられるブルー。

 さすがに話ができないと思ったのかレッドとイエローにようやく引き剥がさせてもらった彼女は、椅子に座り直しながら私と向き直る。

 しかし、私を見ても怖くないのだろうか?

 見た目、完全に包帯グルグル巻きの不審者なのだが。

 

「私の見た目を怖がったりしないのか?」

「怪人に囲まれて生活していましたから……」

「すまない。配慮が足りていなかった」

 

 怪人に囚われていた間の出来事については事前に報告で目を通していた。

 まさしく腸が煮えくり返るほどの悪辣な所業。

 そして何より反吐が出たのが、スマイリーの所業に意味なんてなかったことだ。

 人間を怪人にするための下準備としての行動でなく、奴は自身の歪んだ欲求を満たすために数か月にも及んであのような所業を繰り返していたのだ。

 そもそも、人間を怪人にするだけならばコロニー内で採取した―――怪人オメガの細胞の一部と思われるものを人体に埋め込むだけで済むはずだった。

 

「……だが、その遊びで生存者が多かったのは、なんともいえんな……」

 

 スマイリーが遊んでいたからこそ不用意に怪人が増えることもなかった。

 小声で呟きながら、思考を切り替え日向君へと意識を向ける。

 

「君は唯一近くで“彼”を見た人間だ。何度も話したと思うが、質問をさせてもらってもいいだろうか?」

 

 彼女からは既にスタッフに話を聞かせているし、報告書も呼んだ。

 だが、一度実際に話を聞いてみたいと思った。

 

「分かり、ました」

「感謝する」

 

 戸惑いながらも頷いてくれた彼女に礼を言い、早速質問を投げかける。

 

「まずは……形式上、“彼”と呼んでいるが性別的にはどうなんだ?」

「声は男性でした。多分、若い人だと思います」

「ふむ」

 

 ボイスチェンジャーなどで声を変えている可能性もあるが、体つきからして男の可能性が高いな。

 

「ハルちゃん、私からもいい?」

「おい、レッド。まだ私が……」

「いいじゃないですか。私たちも聞こうと思ってたところですし」

「……はぁ、仕方ない」

 

 前線で戦うレッドとイエローは私以上に気になっているはずだからな。

 むしろ違う視点からの質問が見れるだろうから、別にいいか。

 

「黒騎士……あ、私は印象で彼のことをこう呼んでいるんだけど、彼はどんな戦い方をしていたの?」

「私もよく目で追えませんでしたけど……剣とかカードを使って能力を使っていたりして、特撮みたいにかっこよくて、本当にヒーローみたいでした」

 

 ドローンの映像で確認したが、能力が内包された特殊なカードを用いて戦うタイプ、というのが分析した結果だ。

 だが、それと同時にもう一つ恐ろしい可能性があったのが———、

 

「でも、あの人はどれだけ怪人が襲ってきても、圧倒できるくらいの暴力を持っている人だと、思います」

「暴力?」

「怪人にとってはそれくらい理不尽な存在だったんです」

 

 ———能力を使わなくともただの拳で怪人を屠っていたことだ。

 いや、むしろ私の分析では剣以上に手慣れているようにも見えた。

 ……日向君のいう通り、黒騎士は怪人相手に暴力で圧倒できるほどに強い存在。

 

「でもスーツとかボロボロだったけど、あれはどうなの?」

「彼は一度も、怪人の攻撃を食らってなかったと思います。少なくとも、私が見ていた間は」

「え、それじゃあなんで……」

「スーツのアーマーが超過駆動に耐えられず自壊したと、みるべきだな」

 

 元は黒騎士ではなく桃色の装甲を全身に纏った戦士だったのだろう。

 仮に、あれがエナジーコアを用いたスーツと仮定したとして……あのパクリ野郎の作品ではないだろう。

 粗悪品のスーツとは違い、完成度が高すぎる。

 パッと見、私の作ったスーツと遜色のない性能をしている……はずなのだが、装着者の挙動に耐え切れずアーマーが崩れ落ちている。

 挙句の果てに、振るった拳がオーバーヒートしているなんてバカげている。

 

「……人間なの?」

「人間です」

 

 やや困惑と疑いの呟きをしたレッドに日向君がそう返す。

 

「もし人間じゃなくても彼は私たちの味方だと、思います」

「ハル……」

 

 ……実際に彼を目にした彼女がこれを言うか。

 洗脳、ではないだろうな。

 悪い方で考えるのなら危機的状況を救ってもらったことで判断能力が鈍っている可能性があることくらいか……。

 もっと深く踏み込んでみるべきか。

 

「君の感覚でいい。彼からは人間味、もしくは感情のようなものが感じられたか?」

「はい。感じました」

 

 即答、か。

 やや食い気味に彼女は頷く。

 

「あの人はすごく怒ってました」

「怪人に?」

「はい。あの怪人が恐怖で震えあがるくらいに怒っていて、だけどなんて言うんでしょう……同じ空間にいた私は、全然怖くなかったんです」

 

 続きを促すと、彼女は手元を見つめながらその時の状況を思い出すように言葉を発していく。

 

「むしろ安心して、さっきまでの怖さも全然感じなくなって……出てきたときは、怪人の首根っこを引きずってきてもうホラーも真っ青な感じでしたけどね……」

 

 すごい光景そうだな……。

 そんな登場で怖さを感じさせなかったとは。

 恐らく、これまで自分を虐げてきた怪人を倒す存在が現れたことで、恐怖ではなく安堵感が勝ったと見るべきか。

 

「それに、あの人は怪人にされた人を戻せなかったことにも怒ってました。それだけじゃなくて、戦いの最中なのに悲しんでくれて……」

「……」

「だから、私はあの人が悪い存在だなんて思えないんです」

 

 彼が良き存在であってほしい。

 私もそう信じたい。

 レッド達は、どこか困惑しているような、現実味を帯びないような顔をして反応に困っている。

 無理もない。

 彼女たちは自分たちの他に怪人と戦える存在がいないと考え、戦ってきたのだ。それがこうも衝撃的なことが起これば困惑するのもしょうがない。

 

「あとは……」

 

 む? なにかを口にしようとした日向君が、閉口する。

 言い淀む彼女を心配したのか、ブルーが声をかける。

 

「ハル?」

「……ううん、なんでもない。私からは以上です」

「なにか気になることでもあったのか?」

 

 私の問いに彼女は首を横に振る。

 ……無理に聞き出すべきではないし、もう少ししてから尋ねてみるか。

 

「うむ、では次の話だ」

「なにか任務ですか?」

「察しがいいな。なに、任務といっても戦闘が関わるものではない。強いて言うなら護衛任務だ」

 

 拠点をこちらに完全に移すべく、旧拠点の物資をこちらに運び出すこと。

 そのためにレッド達の誰か一人をこちらの護衛に任せることにした。

 

「怪人が新拠点を襲撃する可能性も考え、ここには二人残す。一人が物資を運び出す際の護衛を担当することになる」

「じゃあ、私が行く」

「え、いいのアオイ?」

「今の私はやる気に満ちている」

 

 むんっ、と意気込んだブルーは数日前と比べて生気に満ちている。

 陰鬱な気配もなく、まさしくこの日常に希望を見いだしたようだ。

 

「運び出す際は私も同行することになっている」

「……え、なんで司令も?」

「私が立ち会わなければならないものもあるからな。足手纏いになるつもりはないさ」

 

 私以外の人員がプロトゼロを扱うのは危険すぎるからな。

 溶接したコンテナごと運び出す予定とはいえ、不測の事態がないとは限らん。

 ……一応、怪人共の動きが鈍っているという状況を踏まえて、何事もなく終わってくれればいいが……。




完全に人間を拒絶するようになったプロトでした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。
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