今回はレイマ視点でお送りします。
プロトゼロスーツは、旧拠点に置かれていた物資と合わせる形で移送させることになった。
輸送トラックを五台を用いての大掛かりな移動ではあるが、勿論怪人の襲撃も危惧してブルーを護衛として連れてきている。
レッド、イエローは襲撃された場合の防衛戦力として第一コロニーに留まってもらっている。
『こちらブルー、周囲に異常なしです』
「うむ、引き続き警戒を強めてくれ。異変を見つけ次第即時報告だ」
『りょ』
輸送トラックの上から索敵を行っているブルーの報告を耳にし、気を引き締める。
荷物の積み込みを終え、トラックの助手席で目的地である第二コロニーに到着するまで待っているのだが決して油断はできない。
第一コロニーを解放した影響で、ここら一帯で怪人が出現する頻度が大きく減少した。
放逐された木っ端怪人は現れるが、コロニーで見られるような強力な個体が現れなくなったことから我々も活動しやすくなったわけだ。
「嬉しそうっすね」
「……そう見えるか?」
私の隣、運転席でトラックを運転している照橋君の声に首を傾げる。
金髪碧眼に人当たりのいい性格、私に及ばないがイケメンな彼は前方を見つめながら爽やかに笑う。
「見えますよ。ようやく目に見えて怪人に反撃できたから、司令も嬉しいんでしょう?」
「そこまで単純ではないさ」
反撃はしたが、それを行ったのは我々ではない。
まだ怪人を倒した彼らがどのような存在なのか全く分かっていないのが問題なのだ。
「君はどう思う?」
「えー? そりゃあ、早く味方に来て欲しいですよ。そうすればこっちも色々と仕事に集中できますからね」
「世界の終わりに仕事か」
「上司には逆らえませんからね」
また爽やかに笑う。
もう本当に嫌味なくらいに爽やかだ。
私の身体が満足に動けば、一度どついていたかもしれない。
「それ、で。今回の輸送で例のやつをのせたんですか?」
「……。なんのことだ?」
「いやいや、ここまで来て知らばっくれないでくださいよ。もう皆、察してるんですから」
プロトゼロスーツのことか……。
確かに五台のうちの一つに積んだが……いやに興味を持ってくるな。
「察しているなら忠告するぞ。噂を聞いてアレを使おうと考えているならやめておけ。確実に死ぬぞ」
「おお、怖っ。別にそんなつもりはありませんよ。俺はただ、知りたがりなだけですよ」
ならばいい。
アレは最早人類に対して敵意すら抱いているといってもいいからな。
下手に手を出して惨事を引き起こすわけにもいかん。
「それにしてもようやく落ち着いた場所に行けそうで安心しましたよ」
「君たちには無茶をさせてしまったからな。あちらに到着次第、存分に身体を休めるといい」
「ええ。伊達川さんとのカードで負けが続いているので、今度こそ勝たないと」
「賭け事とはけしからんな」
「貴方も普通に参加してたでしょ。てか、貴方にも勝たなくちゃいけないんですからね」
他愛のない雑談を繰り返しながら、私は助手席から見える―――第一コロニーを見据える。
黄色く光るバリアに囲まれた新たな拠点。
これまでとは一線を画すほどのインフラが整えられたその場所をどう発展させていくべきか。
「……でもそっか、ここにあるんですねぇ」
食料の問題は当分は大丈夫……というより、なくなる気配がないのが逆に恐ろしい。
住処に関しては忌々しいが、怪人が人間を閉じ込めるために用いた部屋を再利用することができるので、それを活用する。
「それじゃあ」
プロトゼロスーツはどこに保管しようか。
……やはり保管場所は人の立ち入り難い場所がいいだろうな。
保管次第、厳重に封印し誰の目にも届かないようにしなくては。
「もういいか――」
『皆、止まってください!!!』
インカムからブルーの声が響き、ブレーキが踏まれる。
危うく玉突き事故になりかけたところで急停止したトラックの中で、体勢を崩した私はぶつけた額の痛みを堪えながら、声を張り上げる。
「ブルー、なにがあった!?」
『前方を、見てください』
「なんだと……?」
言葉に従いトラックの扉を開け、助手席に接続した車椅子ごと地面に降りる。
舞い上がった砂煙が風で流れ、視界が鮮明になると———先頭車両の前に、一つの人影があることに気づく。
「……なぜ、ここに?」
そこにいたのは、黒のスーツに桃色の装甲を纏った仮面の戦士であった。
第一コロニーの怪人を打倒した謎の戦士……ッ!?
異常事態を察したレジスタンスの構成員たちが護衛のために装備した銃を構えながら集まってくる。
最後にトレーラーの上からパワードスーツを着たブルーが降り、装備を手に取る……が、彼が日向君を救ったためか武器を向けずにただただ困惑している。
「……」
桃色と黒のマスクの奥から我々を見据える黒騎士。
一人一人、確認するかのようなその視線に訝しみながら、私はレジスタンスのリーダーとして彼に接触を試みることにする。
「私はレジスタンスのリーダー。カネザキ・レイマ。我々は現在、重要な物資を運搬している最中だ。お前はどのような目的を以て、我々の前に現れた?」
断言しよう。
彼が殺す気ならば我々は既に死んでいる。
ブルーはある程度は戦えるかもしれんが、妹を救った恩人と戦える精神状態ではないはずだ。
この場にいる全員が緊張状態に苛まれていると、彼は声を発した私————ではなく、すぐ隣にいる構成員の一人、照橋君を指さす。
「テメェだな?」
「え?」
行動の意図が読めない。
なんのことだ、と追求しようとした瞬間、目の前にいたはずの黒騎士の姿が消え———私のすぐ隣から“ぐちゃり”という何かを貫く不快な音が発せられた。
「あ、が……ッ!?」
「て、照橋君……?」
黒騎士が人間を攻撃した。
混乱する頭でそれを理解するも、これまでの彼の行動からかけ離れた残虐な行為に思考が追い付かない。
『ッ!!』
誰よりも早く我に返ったブルーが展開した装備で襲い掛かる。
突風を巻き起こしながら黒騎士とパワードスーツが激突し、周囲にいた我々が飛ばされるが当の黒騎士はまるで分かっていたかのように剣で弾く。
その際に胸を貫いた照橋君の死体を乱暴に地面に投げ捨てる。
「あの重症では、もう……」
胴体に拳大の風穴があいてしまっている。
なぜ……なぜなんだ。
心のどこかでは黒騎士は我々の味方だと思っていたのに、なぜ……。
『なんで、信じようと思っていたのに……! ハルを救ってくれた君と戦いたく、ないのに……』
武器を震わせながら敵意を向けるブルー。
他の面々も黒騎士を完全に敵と見定めているが、なぜか黒騎士の視線は地面に打ち捨てられた死体から外れていなかった。
「葵、よそ見をするな。まだ終わってねぇぞ」
「……え?」
ブルーの名前を知っている……!?
それに、終わってないだと?
「レイマも、よく見ろ」
「な、なにを!! 今、お前は我々の仲間を———」
「あんたの言う仲間は、あんな奴のことを言っているのか?」
彼の視線の先を追うと、胸を貫かれ絶命したはずの照橋君の身体が不気味に躍動していることに……気付いてしまった。
まるで逆再生のように肉片が穴の開いた傷口に入り込み、一瞬で再生を済ませた彼は、大きな変貌を遂げながら立ち上がる。
「……まさ、か」
そういうこと、なのか?
だとすれば愚かだったのは我々の方だ。
既にレジスタンスに入り込まれていた上に、ここまで巧妙に人間を演じる個体がいるなんて……。
先ほどまで平気で隣り合って会話していた事実に薄ら寒い気分にさせられる。
「———ァ、おまえぇ……よく、も!!」
「おいおい、よりにもよってテメェかよ。“グリッター”」
傍目で見るなら、黒騎士と似た姿。
だが、細部で怪人と同じ異形の風格を見せる彼は、私の知る照橋光とは全く異なる邪悪な形相で黒騎士を睨んだ。
「なんで、ボクの名を……」
「テメェのような小物のやり口なんざ分かり切ってんだよ」
豹変した照橋君に嘲りの言葉を叩きつける黒騎士。
この場において、どちらが正しいかだなんて明白だ。
私はハンドサインで皆に黒騎士の後ろに下がるように指示を出しながら、彼へ声をかける。
「彼は怪人だったのか?」
「ああ、奴は光食怪人グリッター。光という概念を食う怪人だ。その気になれば日中の光、果ては視力すらも奪える」
概念的な光を食らうだと……?! 脅威値A並みの危険個体ではないか!!
彼の言葉に驚いたのは我々だけではない。
相対する照橋君……否、グリッターも狼狽えている。
「ありえない!! なんでボクの能力まで知ってる!!? 誰にも、オメガ様しか知らないはずなのに、どうして――」
「今から死ぬお前に教える必要があるのか?」
「……ヒッ」
凄まじい怒気を発しながら踏み出した黒騎士にグリッターが後ずさる。
そのあまりある怒気と殺気は我々にも伝わってくるが、不思議と恐ろしさは感じなかった。
「……チッ、最悪のタイミングだな」
彼の足が止まり、第一コロニーの方を見る。
なんだ、と思った瞬間、第一コロニーに張られたバリアに赤く輝く溶岩の塊がぶつけられ、黒煙をまき散らされた。
あの溶岩は……。
『———司令!! こちら新拠点!! マグマ怪人による襲撃を受けました!!』
「なに!?」
『アカネさんとキララさんが今出撃しました!! 指示をお願いします!!』
こんな時にマグマ怪人だと?!
まるで示し合わせたような襲撃に、グリッターが笑い出した。
「は、はは!! どちらにしろ君たちは終わりだ!!」
「……ッ」
「本当はあの惑星野郎に構っている間に、お前らをバラバラにするつもりだったけど、もういい!! ここで暴れ――」
『
『
「——がばぁ!!?」
少女然とした音声が流れると同時に、グリッターの首を黒騎士が掴み取る。
捕まれた首を押さえてもだえ苦しむグリッターを無視した彼は、耳元に手を当てる。
「レックス。アースの足止めを頼めますか? こっちの目的を済ませたら、向かいます。———レイマ」
「な、なんだ!?」
あまりにも自然に名前を呼ばれ肩が跳ねる。
「今、仲間の一人がアースの足止めに向かった。戦っている二人にそのことを伝えておいてほしい」
「エ!? あ、ああ。分かった……」
お、思っていた以上に理性的だ。
怪人を相手に鬼神の如き動きをしていた彼のギャップにちょっとビビりながら通信を繋ぎ、彼の仲間を攻撃しないように指示する。
『司令ェ!! なんかでっかい剣が飛んできたんですけど!!?』
『アカネ!! 誰かここに来てるで!! あれやばいんちゃいますの!!?』
「待て待て攻撃するな!! あれは援軍だ!!」
なぜかテンションが上がっているレッドと関西弁になっているイエローに急いでやってきた存在が味方だと伝えておく。
それを確認した黒騎士は、未だに首を掴まれたまま悶えるグリッターへと意識を向ける。
「あとはお前だな」
「がっ、がぁ、あああ!!?」
「思い通りにいかなくて残念だったなァ」
『
「あ、悪魔……」
「テメェがこれからやろうとしたことに比べれば些細なもんだろ」
彼のベルトから右足に桃色の光が流れ込み、光を放ち始める。
そのまま発動と共に、雑に上に放り投げられたグリッターは手を必死に振り回しながら何かをしようとして、絶望の声を上げた。
「光を、光が奪えな―――」
「テメェじゃこの光は奪えねぇよ」
『
真っ逆さまに落下するグリッターの顔面に黒騎士の回し蹴りが直撃し、その場で小規模の爆発を引き起こした。
グリッターは跡形もなく吹き飛び、黒騎士は白煙を払いながら軽く吐息をつく。
「さて、次だ」
次……!? まだ怪人が潜り込んでいるのか、と身構えるが彼はこちらへ振り返る。
今度はまっすぐに私を見ている。
「単刀直入に言うぞ。プロトゼロスーツを俺に渡してくれ」
「……な、なんだと!?」
予想だにしない要求に声が荒ぶってしまう。
プロトゼロは死のスーツだ。
それを求めるなんて、普通ではない。
「いったい、なんのためにアレを求める……!」
「マグマ怪人を倒すためだ」
「ならやめておけ! お前が誰だか知らないが、あのスーツは着用者を殺すものだ」
「……」
目の前の彼が後ろを見る。
その視線の先は———プロトゼロスーツを載せているコンテナがあった。
「どこの世界でもお前は俺を呼んでいるんだな、プロト」
「……は?」
その意味深な発言に思わず追及しそうになるが、それよりも早く彼が腰のバックルを取り外した。
光と共に変身が解除され、黒髪の少年がその場に現れ、同時に外されたバックルがまた光と同時に少女へと変身する。
怪人でも、宇宙人でもない、まさかの人間の姿に銃を構えていた全員が動揺する。
「に、人間!?」
「まだ子供だぞ!!」
「もう一人出てきた!?」
混乱状態に陥る周囲に構わず、彼の視線はコンテナから離れない。
彼の行動は現れた女性にとっても予想外だったのだろう。
ものすごく慌てながら、彼の肩をゆすっている。
「ちょ、ちょちょカツミ君!? いきなり顔出すのは違くない!? 正体現すのは戦闘後って言ってたじゃん!?」
「ちょっと行ってくる」
「ねぇぇぇ!?」
我々の驚愕を無視して、彼がまっすぐプロトゼロスーツのあるコンテナへと進んでいく。
……っ、い、いかん!! 衝撃的すぎて脳がフリーズしていた!! 彼が敵か味方のどっちでもあの封印を解かれると大変なことになる!!
止めようと声を張り上げようとした———瞬間、プロトゼロスーツがいれられたコンテナが
「なっ!?」
現れたのはいくつもの三日月状の刃を作り出した銀糸。
それらはとてつもない速さで動き出し———この場で彼へ向けられた銃を全て切り裂いた。
真っ二つに切り裂かれ、地面に落ちる銃にさらなる衝撃が走る。
『司令、これは!?』
「全員動くんじゃない!! 彼に武器を向けるな!!」
下手に動かないように指示を出すが、これが正解かどうかは分からん。
同じく装備を真っ二つに切り裂かれたブルーが困惑の声を発しているが、それ以上に私も混乱している。
「そんなことが、本当にあるのか……」
今、エナジーコアが彼を守った?
人類を憎悪しているといってもいいほどの敵意を向けるエナジーコアが、一人の少年を優先させた。
その事実はあまりにも私のこれまでの常識を覆すほどのもの。
「待たせて悪かったな」
コンテナに足を踏み入れた少年を迎え入れるように、銀糸が集まっていく。
破壊されたコンテナから銀糸にくるまれたエナジーコアが飛び出し、少年が差し出した左腕を包み込み―――変身デバイス、チェンジャーへと姿を変える。
少年が手慣れた手つきでチェンジャーを起動させ、変身を行う。
チェンジャーから溢れだした光が彼の全身を覆い、幾万もの銀糸が出現と共に繭のように取り囲んでいく。
音声が鳴り響き、繭が切り裂かれその姿が露になる。
それは、私の知るプロトゼロスーツとは明らかに異なる姿であった。
黒のスーツに鋭利な銀の装甲。
赤い輝きを帯びる複眼。
両腕の刺々しい籠手に爪。
首元から伸びる銀色のマフラー。
プロトゼロの面影は残しているが未完成の部分は完全になくなっており、最早完全な別の姿としてプロトクロスは誕生した。
「……よし、いける」
変身時に感じるはずの痛みを感じている様子もない。
もう、疑う余地すらない。
彼はプロトゼロスーツの完全適合者だ。
「ヒラルダ、あとの説明頼めるか?」
「……はぁっ。しょうがない。後は任せてさっさといきなさいな」
「ありがとう」
その言葉と同時に彼はその場を飛んだ。
地面が陥没し、砂嵐が吹き荒れるほどの力で跳躍した彼は、流星のような速さでマグマ怪人が戦っている場所へ突き進んでいった。
「……彼は、何者なんだ」
「あの人、私のことを知ってた」
パワードスーツから顔を出したブルーが私と同じ方向を見て呟く。
こんな暢気にしている場合ではない。
現場ではレッド達が戦っている……はずなのに、彼が向かうのを見て、得体の知れない安心感が奥底から湧き上がっていた。
「さて、カツミ君も行ったことだし私たちも早く行きましょ!」
「う、うむ……って、いや待てーい!! お前達は何者だァー!!」
ごく自然にトラックに乗り込もうとした謎の女性に思わずツッコミをいれる。
至極真っ当な私の疑問に彼女は面倒くさそうに肩を竦める。
「私は貴方のよく知るエナジーコアよ。人の形をしているけどね」
「ッ、ならば彼は」
「いいえ、純粋な地球人よ」
彼が向かっていった方向を指で示し、不敵な笑みを浮かべる。
「でもとんでもない人よ。少なくとも銀河で一番怖い存在に目をつけられてるくらいには、ね」
自信に溢れた言葉。
その言葉を聞いた私はもう一度彼が跳躍した方向を見る。
純粋な地球人。
いや、そうでなくてはプロトゼロスーツは装着できない。
しかし、だからこそ疑問を抱いてしまう、彼の知識とその戦闘経験はいったいどこからやってきたのだろうか。
平行世界設定。
・平行世界のグリッターはレジスタンをほぼ皆殺しにした後にプロトゼロスーツを略奪するべく接触。プロトゼロスーツの迎撃機能に触れることすらできずにバラバラにされ死亡。
・平行世界のプロトは自身の適合者が現れないことを悟り、グリッター殺害後に自己崩壊という形での消滅を選んだ。
【新形態】TYPE“X”
平行世界のプロトがクモ怪人との戦闘経験を経て自己進化した銀色の戦士。
初期のプロトゼロよりも高性能且つ攻撃的ではあるが、あくまでプロトの力のみで作られた形態なので、カツミ専用に作られたプロト1には及ばない。
今回の更新は以上となります。