並行世界編10です。
最初はレイマ視点。
途中からアカネ視点となります。
地響きが第二拠点を揺るがす。
マグマ怪人の巨大な姿を窓から横目に見ながら私は指令室へ続く通路を車いすで爆走していた。
「オオオォォォ!!」
限られた物資をやりくりして作製した高性能車椅子のバッテリーをフルに使い通路を爆走して指令室にまでたどり着いた私は、すぐさま代理の指揮を行ってくれている大森君に声をかける。
「大森君、状況!!」
「マグマ怪人が周囲の建造物を吸収し巨大化!! とてつもないエネルギーを発しながら動き出そうとしています!!」
「生物の範疇を超えてるだろ!!」
「は、ははは……意味わかんない……あれが生き物……?」
周囲の瓦礫を取り込むことで高層ビルと同等の大きさにまで巨大化したマグマ怪人。
赤く煮えたぎる表皮から黒煙を立ち昇らせた溶岩の巨人は、その双眸に憎悪と怒りを籠めて彼———黒騎士を睨みつけていた。
「ヴァァァァァァ!!!」
熱をのせた風圧が周囲へ吹き荒れる。
ただそこに在るだけで自然そのものに害を与える存在になり果てたマグマ怪人をドローン越しに目にした私は掠れた声が零れてしまう。
「あんなもの、どうやって倒すんだ……」
あれは最早災害そのものだ。
自然の猛威が形となって人類を脅かしている。
「惑星怪人アースよ」
私が爆走してきた通路から黒騎士と共にいた20代前後の女性———自身をヒラルダと名乗った女性が歩いてくる。
彼女の後ろにはブルーが見張っているが、それを全く意に介さずに指令室の空いた椅子に腰かける。
「今、なんと?」
「あれはマグマ怪人じゃなくて、惑星怪人アースって名前らしいわよ? 能力は地に接触している限り大地のエネルギーを吸収する……いわば地上にいる限り無敵って能力ね」
なんだそのデタラメすぎる能力は……!! いや、驚くところはそこだけではない!!
怪人が化けていた照橋くんの時のように怪人の能力と名前を知っている。
それを今問いただしたい……問いただしたいが、それ以上に目の前の得体の知れない女性が“なぜ勝ちを確信している”かのような余裕を持っていことが気になった。
「彼は、勝てるのか?」
「勝つわ。だって彼は私の———ハッ!?」
そこまで口にして突然ヒラルダは自身の頬を軽く叩いた。
突然の奇行にこちらが唖然とすると、若干息を乱した彼女が顔を上げる。
「わ、私の好敵手なんだもの」
なにやら無理やり感がすごいが全然説明になっていないぞ!
すると、再び地響きで拠点が揺れたことで、モニターへ視線を戻す。
ドローンの映像と、レッド達の視界を通しての映像が映し出しており、そこには雄たけびを上げる溶岩の巨人を前にする黒騎士の姿が映りこんだ。
「———それで終わりか?」
冷たく、嘲るような声で彼が呟いた。
赤く輝く溶岩の身体を持つ巨人へと変貌したマグマ怪人を前に彼は微塵も恐怖していない。
それどころかあれだけの変化を見ても、冷徹な反応を返していた。
「アァァァ!!」
その声が聞こえたのか分からないが、マグマ怪人が怒りの咆哮を上げその口を大きく開いた。
四つに割れた口の先から見える火山の噴出孔のような穴から、赤く煮えたぎる岩塊が吐き出されとてつもない勢いでこちらへ落ちてくる。
「い、いいい隕石!?」
「溶岩だろ」
「どっちでも変わらないでしょ!?」
「アカン」
なんでお前はそんな冷静なんだよ!!? ちょっとは命の危険感じろよ!?
なんかもう規模がやばすぎる技を放つマグマ怪人に対して、彼は糸で斬るでも防ぐでもなく―――、
「ふんっ!!」
ただ虚空に拳を突き出した。
数舜遅れて音が鳴り響いた直後に拳を中心に突風が吹き荒れ、衝撃波となって———空から迫る溶岩弾を打ち砕いた。
突風と共に赤い電撃が迸り粉砕される溶岩弾。
その奥で溶岩を放ったマグマ怪人は、「信じられない」といった感じでその怪人顔を大きく歪ませた。
「……」
落ちてくる残骸を糸で切り刻みながら、自身の拳を一瞥した彼はもう一度マグマ怪人を見据える。
「プロト、少し無理をするぞ……一緒にいけるか?」
『LA……♪』
「よし」
『アァァァス!!!』
彼が立っていた地面が爆ぜ、その直後に遠く離れた場所にいるマグマ怪人の巨体が大きくのけぞる。
取り込んだ瓦礫を飛び散らせながら苦悶の雄たけびを上げるマグマ怪人の姿に、一瞬にしてあそこまで移動した彼が攻撃を繰り出したことを理解させられる。
「司令!!」
『ドローンの映像を送る!!』
目視じゃ限界があるので、待機させてあるドローンに映像を寄越してもらう。
ここよりも近くの距離から映し出された映像には、とらえ切れないほどの速さで動いた黒騎士がマグマ怪人の巨大な腕を両断する光景が映りこむ。
「すごい……」
相手がどれだけ大きくてもまるで関係ない。
ただただ強い。
『アァァァァァァ!!』
『うるせぇんだよ』
苦し紛れに溶岩をまき散らそうとしたマグマ怪人の下顎が粉々に打ち砕かれる。
腕を振り回そうとすれば即座に断ち切られる。
再生してもその場で削り続けられる。
「まだ、速くなるの……?」
最早、動きそのものが銀の軌跡としてしか認識できなくなるほどの動きで攻撃し続けた彼だが、次第にその色が赤い輝きを帯びてきていることに気づく。
黒煙で覆われた空の下で赤い軌跡が空中に描かれ、それがまるで蜘蛛の巣のように形作っていく。
『ガ、ァァァ!!?』
気づけば、マグマ怪人の巨躯を縛り付けるように赤い光を帯びた糸が四方八方に張り巡らされていた。
赤い光を帯びた糸は周囲の建物、ビル、地面へと伸び、どれだけマグマ怪人がその巨躯を動かそうとも少しも解ける様子はない。
『……よし』
空中に張った糸に彼が着地する。
再び露わにさせた彼の姿は、先ほどの銀と黒の姿からマグマ怪人よりもより赤い———深紅へと染め上げられていた。
『ふんっ!!』
糸の足場を跳躍し、固く握りしめた拳を巨人の胴体へと繰り出す。
アッパー気味に放たれた一撃は、ただの一撃で巨人の身体を粉々に打ち砕く。
火山が噴火するように空へとマグマ怪人の残骸が飛び散り、上半身から崩壊していく光景を目にした私とキララはただただ茫然とするしかない。
「やった、の?」
「信じられない……」
「……いや、まだのようだ」
レックスの声に、マグマ怪人から黒騎士へと視線を戻す。
! 確かに、まだ黒騎士がなにかしようとしている。
上半身を粉々に砕かれ完全に沈黙するマグマ怪人だが、彼はそんな残骸に目もくれずにその視線を地面へと向けていた。
『テメェの魂胆は分かりきってんだよォ!!』
その怒声と共に彼の首元のマフラーが変形し———クモを思わせる四本の銀の鋭利な脚へと変形する。
『ふんっ!!』
そのまま地面へ四本の足を突き刺すと、彼からそう遠く離れていない地面から四肢を伸びた脚に貫かれたマグマ怪人が宙へ打ち上げられた。
巨大だったその姿とは違って、本体は上半身がえぐれるように傷つきその奥に脈動する心臓のようなものが露わとなっていた。
『アァァァァァ!!?』
『臆病者らしいなァ!! オイ!!』
彼が手の指を軽く曲げると、キンッ、と甲高い音が響き、マグマ怪人の身体が空中で釣り上げられる。
……ッ、地下から巨人を操っていたの……?
なんて奴、下手をすれば延々と戦い続けられた可能性すらあったのか。
だが、黒騎士には通じず完全に動きを封じられたマグマ怪人は、憎悪の感情を黒騎士へ向け、言葉を吐き出している。
『我は、惑星……地球の……代弁者ァ……』
『寄生虫の間違いだろ』
虫のようにもがくマグマ怪人に一切の憐憫すら抱かずに罵倒する。
罵倒に怒ったのか、マグマ怪人の身体から炎が吹き上がる。
その抵抗を彼がギリギリと音を鳴らす掌を無理やり閉じ、マグマ怪人の身体をさらに締め上げる。
「ぎ、アァァ!!?」
「地球に寄生しなきゃ何もできねぇ野郎が———」
全身を赤く染め上げた彼が固く握りしめた拳を引き絞る。
彼の真紅の姿がさらに輝きを増し、溢れだした熱とエネルギーが赤雷となって溢れだす。
「一丁前に代弁者を気取ってんじゃッねぇ!!」
突き出した拳から放たれたのは先ほどの衝撃波———ではなく、赤い閃光。
赤い電撃と竜巻を引き起こしながら突き進んだ光線は、糸で身動きのできないマグマ怪人を飲み込み、勢いを止めることなく黒雲に覆われた空を貫く。
「空が……」
赤い閃光に黒雲は吹き飛ばされ、太陽の光が差し込む。
街に差し込んだ光の中心には、拳を空に突き出した黒騎士だけが立っていた。
『惑星怪人アース、完全消滅……です』
『なに、今の……』
『エネルギー反応なし。は、はは……ただの拳でプラズマに近い現象を引き起こしたのか……』
指令室の面々の唖然とした呟きがいやに響いてくる。
あまりにも別次元すぎる戦いを見せる黒騎士に私もキララも声を発することができない。
映像の中では、煙を噴き出しながら深紅から元の色へ戻ろうとする黒騎士が映りこんでいるが、これからどんな展開になるのか想像するのすら怖くなってきてしまう。
「えぇと、私たちなにもしてないけど……これで、終わったの?」
「みたい、だね」
ここで終わると思ってた。
だけれど、こんな形で助かるなんて……ちょっとどう言葉で表していいか分からない。
「おい、無事か?」
「どひょぉ!?」
すぐ隣から聞こえてきた声に猫のように飛び上がってしまう。
我ながらギャグキャラみたいな驚き方をしてしまい顔に熱を感じながら隣を見る。
そこには先ほどまで遠く離れた場所にいたはずの黒騎士の姿。
真っ赤な装甲は元の銀色のものへと戻っており、その刺々しい外見とは裏腹に彼のそぶりはどこかこちらを気遣うようなものだ。
「その様子なら大丈夫なようだな」
「う、うん……」
キララも同じでぎょっとした顔で、いつの間にか傍に移動してきている黒騎士を見ているが当の彼は自然体のまま、周囲を見回している。
「……敵はもういねぇみたいだな」
「あの、君は……」
何者、と言葉が続く前に彼が右手を左手首に添える。その次の瞬間には彼の身体が光に包まれる。
光が収まると、黒騎士がいた場所には黒髪の鋭い目をした男の子がいた。
「「……」」
に、人間だぁ……!?
あんな常識はずれな力を振るう黒騎士が見た目完全な人間なことに言葉も発せずに驚く私とキララを他所に、レックスが彼へ声をかける。
「いいのか?」
「ええ。内通者も始末しましたし、ここから合流します」
「……そう、だな」
彼は味方なのか。
ここでまた別行動なのか。
そんな思考がぐるぐると回っていく中で、私たちの傍にいたレックスがおもむろに立ち上がったことに気づく。
「では、私も覚悟を決めなくては」
「……無理しなくてもいいんですよ?」
「いいや、これも私なりのけじめだ」
黒騎士だった少年と言葉を交わしたレックスは、そのまま自身の頭を覆う仮面に手を伸ばす。
カシュ、という軽い音の後に仮面が外れ赤みがかかった黒い長髪が広がり、奴の素顔が露わになる。
「……え?」
『なッ!!?』
まるで、鏡を見ているようだった。
年もある程度とっているし、目に隈があるし、完全に同じわけじゃない。
だけど、レックスの素顔は……。
「わた、し?」
私と、同じ顔。
毎朝鏡で見てきた自分自身。
それも成長したような姿を見せられ、困惑する私に素顔を晒したレックスがゆっくりと口を開いた。
「私の名はアラサカ・アカネ。こことは別の次元を生きたアラサカ・アカネの成れの果てだ」
プロトXでも赤くならなくちゃ撃てない拳ビーム。
これをさらに収束した上で通常技でぽんぽん撃ってくるのがプロト1です。
今回の更新は以上となります。
次話はなるべく早く更新したいと思います。