追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

148 / 187
お待たせしました。

今回はレイマ視点でお送りします。


並行世界編 11

 マグマ怪人改め、惑星怪人アースは黒騎士によって討伐された。

 スマイリーに引き続き、人類にとって快挙となる出来事のはずだが、そんなことを喜ぶ暇もなく衝撃的なことが現在、レジスタンス本部を襲っていた。

 

 謎の戦士レックスは並行世界を生きたアラサカ・アカネである。

 

 普通ならば信じられないだろう。

 だが彼女の容姿、動き、そのすべてが現在のレッドに酷似していることから安易に否定することはできなくなった。

 

「つまりは、お前は並行世界。それもこの世界と似た歴史を持つ世界を生きたアラサカ・アカネということか?」

「ああ、その通りだ」

 

 指令室。

 司令であるこの私と、レッド達三人、大森くんを含む主要レジスタンス構成員が集う部屋に、並行世界からの来訪者であるレックス、ヒラルダ……そして、黒騎士であるホムラ・カツミがそれぞれ用意された席に座っている。

 

「未来のアカネってなんだか……へぇ、これがあれになるんだ……」

「なんか真っ当に美女になってて草」

「ねぇ、なにがおかしい……?」

 

 レッド達が声を潜めて何かを話しているのをスルーし、私はレックスに問いかける。

 

「単刀直入に聞くぞ。君の世界の歴史では我々はどうなった?」

「……」

 

 レッドを成長させたような見た目のレックスが顔を顰める。

 質問に気分を害したわけではなく、私が訪ねた内容を口にするのを躊躇したように見える。

 ……彼らが介入したということは今回の戦い、本来は多くの犠牲が出ていたということだろう。

 そういう運命を知っていたからこそ、彼らは動いたのだ。

 ならば、知らなくてはならない。

 本来の……正史の我々が辿る末路を。

 

「我々のことを気にせずに教えてくれ。知らなくてはいけないんだ」

「……分かった。覚悟しておけよ」

 

 重々しく頷いたレックスはやや躊躇しながらもこの場にいる面々を見回す。

 

「アオイは怪人にされた実の妹を手にかけ心を壊し、最期はスーツの性能を限界以上にまで引き出し肉体が耐え切れず死んだ」

「……はぇ?」

 

 ブルーの呆気にとられた声に構わず彼女は次にイエローを見る。

 

「マグマ怪人との決戦でキララが自爆して死亡」

「……ひぇっ」

「潜り込んだ怪人、グリッターにレジスタンス構成員の八割が虐殺」

「……」

「怪獣王オメガの覚醒を止められず、そのままオメガは宇宙からの侵略者との戦争を始め……地球は滅亡する」

 

 お通夜みたいな空気の中、それでもレックスは言葉を発する。

 

「これが十日以内に起こるかもしれない出来事だった」

「「「……」」」

 

 絶望的じゃない?

 もう詰んでいるとかそういう問題じゃないくらいに終わっているんだが。

 いや、分かっている。

 レックス達が現れなければそのような最期を送っていてもおかしくない。

 ……だが、改めて我々が辿っていたであろう最期を聞かされると、なんとも言えん気持ちになってしまうな。

 

「私は、どうなったの?」

 

 静まり返った室内でレッドがレックスにそう尋ねた。

 我々が死んだとしてなぜレックスだけが生き残ったのか。

 外ならぬレッド自身がそれを知りたいのだろう。

 

「ここにいる私になにがあったの?」

「……。私は一人だけ生き残った」

「地球は滅んだのに、どうやって……」

「カネザキ・レイマが秘密裏に開発していた宇宙船……いや、地球の記録を残すための箱舟に乗り、私だけが生き延びた」

「あれに、乗ったのか……!?」

 

 万が一の最悪の事態に備えて、私は地球の歴史・文明・遺伝子情報を残すための船を開発していた。

 だが、それはあくまで私が乗ってきたガラクタ同然の宇宙船を作り直したものであり、私の人格を模したAIも不完全なものだったので到底実用からかけ離れていたはずだが……。

 そうか、レックスの世界の私はそこまで追い詰められていたのか。

 

「……待って、おかしくない?」

 

 レックスの話を聞いたキララがそんなことを口にした。

 

「別世界のアカネがいた地球が滅んで、アカネしか生き残っていなかったなら……ここにいる彼はいったいなんなの?」

 

 確かにそうだ。

 ここで、レックスの話に矛盾が生じてしまう。

 だがその疑問も予測していたのか、レックスはさほど動揺することなく口を開いた。

 

「一人生き残った私はある存在によりまた別の宇宙に送りこまれた。そこが、彼とヒラルダのいる宇宙だ」

「ある存在だと……?」

「星将序列第二位だ」

 

 第二位だと……!? ここで星将序列の名が出てくるとは……。

 

「その宇宙には、私の知らない地球が存在していた」

「また別の世界の地球ということか……」

 

 ということは、彼女たちがこの世界に来る前にいたのはその地球ということなのか。

 次元すら超えて生命体を送りこんでくるなんて、やはり星将序列上位陣は格が違うな……。

 だが地球が滅んだあとでまた別の地球にやってきたということは、その時の状況は我々と似ているな。

 すると、レックスが取ろうとした行動は予想できる。

 

「その時代でお前はここと同じように怪人を倒し、歴史を変えたというわけか」

「……いいや、違う」

 

 違ってた。

 ならば怪人が現れていない地球……と、考えたが穂村克己は怪人の存在をよく知っていたことから怪人自体は存在していたはずだ。

 

「私がなにをする必要もなく、怪人勢力は滅ぼされた。ここにいる彼と、こことは別の世界の私達にな」

「滅ぼされた……? あの怪人が?」

 

 いや待て、するとあれか?

 レックスがなにも介入していないのにも関わらず地球は怪人の脅威を乗り越えたということか!?

 驚愕の目で黒騎士———穂村克己を見ると、彼は少し困ったように頭に手を当てる。

 そんな彼を見かねたのか隣にいるヒラルダと名乗った女性が、意気揚々と口を開いた。

 

「彼が最初にプロトゼロを装着し、次世代スーツが完成するまでの間、たった一人で怪人を倒し続けたのよ。クモ怪人もナメクジ怪人も惑星怪人も」

「「「……」」」

 

 あれらを、たった一人で倒した……?

 しかも碌に装備もないはずのプロトゼロで?

 ……いや、先ほどの彼の戦いを見ればそれが嘘でも冗談でもないのは分かる。それほどまでに完全適合したプロトゼロスーツは常軌を逸した強さを持っていた。

 指令室内が穂村克己を見て唖然とする中、なにを思ったのかヒラルダは手首に巻いたデバイスのようなものか小さなメモリーカードのようなものを抜きだし、それを我々に見せた。

 

「信じられない? なら映像もあるわよ」

「なんだと!?」

「いや、なんであるんだよ……?」

 

 穂村克己本人もレックスも知らなかったのか驚きの目でヒラルダを見るが、当の彼女はなぜか自慢気だ。

 

「今でこそ馴れ合っているけどいずれは決着をつける敵同士。なら、貴方の情報を集めるのは当然でしょ?」

「敵同士だったの君たち……?」

「私とレックスは星将序列持ちよ。元の世界でカツミ君と戦っている間にこっちに飛ばされてきちゃったの」

 

 いやいやいや!? ものすっごい軽い感じで衝撃の情報が明かされたんだが?!

 星将序列を知らない私以外の面々は不思議そうに首を傾げているが、元43位の私からしてみれば敵勢力の存在が味方にいるという不思議な事態だ。

 

「お前たちは、彼の敵だったのか……!?」

「私はもう争うつもりはない。ヒラルダ。お前はどうだ?」

「フッ、今は一時休戦でカツミ君の味方よ。でも元の世界に戻ったらまた敵同士よ」

「望むところだぶっ飛ばしてやる」

「……」

 

 即座に返事を返した穂村克己に、ちょっとしゅんとするヒラルダ。

 よく分からんがそっちにも事情があるようだが、一つ気になったことがある。

 

「怪人勢力を倒した後でも戦いは続いているのか」

「彼の世界の地球の状況はここよりも深刻だ。星将序列が地球に送りこまれていることもそうだが、彼はよりにもよってルインに目をつけられている」

「……? ルイン?」

 

 ルイン、という名に首を傾げる。

 星将序列の関係者か? 少なくともそのような名は私は知らん。

 

「……単純に知らされていないか、この世界にいないのか……とにかく、だ。彼は元の世界に帰るためにお前たちへの協力は惜しまないつもりだ」

「元の世界に戻る方法があるのか?」

「あるでしょうね」

 

 と、ここで穂村克己が口を開く。

 彼はどこか煩わしそうに視線を横に動かすそぶりを見せながら言葉を発していく。

 

「第二位の野郎は、俺たちに何かをさせるためにここに送りこんだ。おあつらえ向きに地球が危機に陥った状況に送ってきたってことは奴は俺たちに地球を救わせようとしているんでしょう」

「……なるほど。だが、なぜそんなことを……」

「理由なんてこの際どうでもいいです。俺もこんな状況を見過ごすなんてできないですし。……あいつの思惑通りに動いていることだけは気に入らねぇけどな……

 

 ……なんというべきか、普通にいい子だな。

 惑星怪人にドギツイ悪口を言っていた姿から想像もできないくらいに理知的だ。

 

「君たちのことはよく分かった。まずは、映像を確認させてくれ。こちらの機器で使えるか?」

「規格は地球のものに合わせてあるから大丈夫」

 

 ヒラルダからデバイスを受け取り、指令室に備え付けている㍶に差し込み映像を再生させる。

 指令室のモニターに一瞬の暗転の後に映像が映し出された。

 

「あれは、クモ怪人……?」

 

 最初に現れたのははじまりの怪人。

 日本人口の4割を虐殺した最悪、クモ怪人。

 伸びる糸で建造物を切り刻み、人々を恐怖に陥れたやつの前にプロトゼロが立ちはだかる。

 この世界では私が装着し、四肢を砕き血反吐を吐きながら死闘の末勝利したが、今映像に映し出された黒騎士は嵐のように迫るクモ怪人の糸を拳で捌き——繰り出したその拳で胴体に風穴を開け、そのまま絶命させた。

 

「……なんという、ことだ」

 

 私が死の淵に瀕してまで始末したクモ怪人があんなにも呆気なく。

 完全適合したプロトゼロはここまで理不尽な強さを誇るものなのか。

 さらに映像が切り替わっていき、ダイジェストのように怪人が蹂躙されていく様がモニターに広がっていく。

 

さっきからリンリンうっせぇんだよ! 近所迷惑かッ!!

 

 真上から虫のように押しつぶされるスズムシ怪人。

 

治るんなら、電気なくなるまで殴り続ければ勝つじゃねーか!!

 

 電蝕王と呼ばれる怪人の幼体を一方的に殴り圧倒するプロトゼロ。

 頭がはてなマークの形をした怪人を投石で打ち抜く姿。

 ドラム缶の姿をした怪人を拳でぶっ飛ばし爆散させる姿。

 多くの怪人を装備もない、ただの拳で打ち砕いていく彼の姿が映し出していく中、最後に燃え盛る赤色の怪人がモニターに映る。

 

その出来損ないの心臓はいらねぇよなぁ!!

 

 そして、惑星怪人アースの心臓を抉り出す光景。

 ただただ怪人が黒騎士に殲滅されていく。

 あまりにもこの世界の絶望とはかけ離れた状況に我々も声を発することさえできなくなってしまう。

 

「……やっぱ自分で見るとなんとも言えない気持ちになるな……」

 

 これが、穂村克己。

 ……怪人の絶対的な天敵と評されることに納得がいってしまう。

 彼がいれば私はスーツを着て再起不能になることなく、クモ怪人の人類虐殺も起こらなかったということか。

 

「ここにいる彼のおかげでお前は半年の猶予を得た」

「……半年? なんの猶予だ?」

「プロトゼロの次世代型スーツ。通称『ジャスティススーツ』の開発だ」

 

 ッ、そうか! この世界では私がプロトゼロを着用したが、彼の世界では完全適合者である穂村克己が怪人を倒す役割を担ったことから私がプロトゼロの次世代スーツを開発することに成功していたのか!!

 だとすれば彼の存在の有無で地球の運命が変わっているようなものではないか……!!

 

「そして、その装着者がお前たちだ」

「え、私たち?」

「運命、とでも言うのだろうな。適合者として三人が集められることもあれば、目的も目標もなく偶然パワードスーツの着用者として集まってしまう。……これも、一種の呪いのようなものだ」

 

 アラサカ・アカネ。

 ヒナタ・アオイ。

 アマツカ・キララ。

 この三人がジャスティススーツの装着者だったとは……。

 いや、彼女たちがパワードスーツに用いているコアの適合者であったのなら納得ができる。

 

「……ねえ、穂村くん。だったよね?」

「なんだ?」

「君は、私たちのことを知っているの?」

「……」

 

 レッドの問いかけに穂村克己は無言を返す。

 その無言が否定ではなく、返答に困っているだけのものだと察したのかレッドは続けて質問を投げかける。

 

「アオイの名前も知っていたみたいだし、多分私たちのことも知っているんだよね?」

 

 確かに、穂村克己のレッド達への接し方はどこか距離が近いものがある。

 ……いや、それを言うなら私に対しても信頼のようなものが見え隠れしているので、私自身も彼にとっては見知った人物なのだろう。

 レッドの質問を聞いた彼は一度頷いた。

 

「そうだな。俺の世界にいるお前たちは……なんだ……その、友達だ」

「ともだち……」

「俺みてぇなバカ野郎を見捨てないお節介焼きだよ」

 

 これは、彼の世界ではレッド達と彼は共に戦う仲間というやつだったのかもしれないな。

 私が見ている限りでも彼がレッド達に対する言動は穏やかで親しみのあるものだ。

 

「そっちの私はどんな感じ?」

「ん?」

 

 と、ここで興味津々なブルーがそう質問する。

 彼は少し思い悩んだ様子で困ったように微笑む。

 

「変なことばかりするやつだけど面白い奴だよ」

「……」

「ん? どうした?」

 

 彼の言葉に少しフリーズしたブルーが隣のレッドとイエローを見る。

 

「ねえ、これやっぱり私のこと好きで———」

「はい、ちょっと黙ろうか葵」

「むごご」

 

 おかしい、ブルーってこんな奴だったか?

 いつもは静かで突飛な言動が少ない印象だったんだが。

 ……怪人が現れなければこういう性格だった、ということならばなんらおかしくはないが……。

 

「あ、そういえばジャスティススーツの映像データもあるよ」

「なにっ!?」

 

 ブルーの奇行を見てそんなことを考えていると、端末をいじっていたヒラルダの言葉に食いつく。

 プロトゼロの次世代型……!! その映像データを解析すれば今のパワードスーツを強化できる!! 少々どころかかなりの反則技ではあるが、人類、ひいては地球のためには見ておかねば!!

 

「再生してくれ!!」

「はいはーい」

 

 新たなメモリーカードを端末に差し込み映像が再生される。

 別世界の自分たち、ということでブルーも騒ぐのをやめレッド達とともに食い入るように画面を見つめている。

 

「……あっ」

「どうしたカツミ」

「いや、初期のあいつらの姿を見せていいのかなって……」

 

 ん? どういう意味だ?

 疑問を口にする前にモニターに赤、青、黄の三つの派手な色をした三人組が映し出される。

 

「燃える炎は勇気の証! ジャスティスレッド!」

「流れる水は奇跡の印! ジャスティスブルー!」

「轟く稲妻は希望の光! ジャスティスイエロー!」

 

「「「三人合わせて! 三色戦隊ジャスティスクルセイダー!!!」」」

 

 映し出されたのは赤、青、黄のスーツに身を包んだ三人の少女たち。

 その声からしてレッド達なのは分かるが……これはまさしく私が思い描いたプロトゼロの次世代型だ。

 なるほど、分かっているじゃないか並行世界の私。

 やはりヒーローには変身ポーズが必要だな、うんうん。

 

「あ、あぁぁぁ……」

「並行世界の私なにしとんの!?」

「こんなのってないよ……」

 

 私の感想を他所に別世界の自分たちの姿を直視できずに顔を手で覆い悶えるレッド達。

 

「あ、やっばい。ジャスクルの変身ポーズ入ってたんだった。てへっ」

「てへっ、じゃねーだろ。お前わざとだろ」

「……なかなかにクるな、これは。これが別の私の姿か……」

 

 一瞬にて混沌とした場となってしまったが、改めて理解できた。

 新たに仲間になるであろう彼らの存在は我々にとっての希望であり、切り札であるということを。

 




唐突に元の世界のジャスクルにとっての黒歴史を見せられるアカネ達でした。

プロトXとプロト1の違いについて、

【プロトX】
 限界駆動によりスーツが赤熱、ある程度は動けるが長時間は無理。
【プロト1】
 OLKS(オーバーリミットクロキシシステム)により余剰出力を赤いマフラーとして放出・推進力に変えているため赤熱化せず、常に最大出力で動き続けることが可能。

今回の更新は以上となります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。