追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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二日目、二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。

前半がレックス視点。
中盤からカツミ視点でお送りします。


並行世界編 13

 記憶にはあるが記憶にない景色。

 我ながらそう表現して奇妙な心境になってしまうが、今の状況を考えるとその表現は間違いでもない。

 私の摩耗した記憶の中で目にした第二拠点と、カツミにより人間が生活する最適な場所へと変えられたこの世界の第二拠点は構造こそ同じだが、その景色はあまりにもかけ離れたものだ。

 

「……はぁ」

 

 先ほどはカツミの部屋を訪ね今後の方針を改めて話しておいた。

 元の世界に戻る手立てを考えるのはこの世界の怪人を排除してから、ということに最終的に決まった。

 

「そこまで不安がってはいなかったな」

 

 元の世界に帰る方法と言えば簡単だが、その実は次元を超えて世界そのものを超えることだ。

 間違いなく普通の方法では無理なはずなのだが、彼は微塵も不安を抱いている様子はなかった。

 

「……カネザキ・レイマのところに向かってみるか」

 

 聞けばカツミが奴の身体を癒したらしいので、一応確認しておこう。

 奴の身体が万全なものになれば、私の装備とこの世界のパワードスーツもマシなものになるからな。

 そう考えながら通路を進んでいくと、曲がり角から見慣れた人物が現れる。

 

「……」

「……」

 

 アラサカ・アカネ。

 この世界の私自身とも言ってもいい人物の登場に私は露骨に眉を顰める。

 奴も同じような顔をしているのを見てから私は無視して先へ歩き始めるがなにを思ったのか奴は私と同じ方向を歩き出した。

 

「なんでついてくる」

「向かう方向が同じだけだよ」

「ふん」

 

 こいつもカネザキ・レイマに用があるのか。

 

「装備の無理な強化を提案するつもりか?」

「ッ」

 

 図星のようだ。

 だが分かるさ。なにせお前は私なんだからな。

 

「そうやって自己を顧みずに命を使おうとするところを見ると虫唾が走る」

「……自分もそうだったから?」

「私はお前以上にロクでもないぞ」

 

 嫌味を返したようだが、置かれていた状況は私の方がもっと悪かった。

 

「私の実年齢は100を超えている」

「えっ!? で、でも見た目は……」

 

 私の身体的な年齢は20代半ばほどで止まった。

 恐らく細胞が全盛期の時点で止まったのだろう。

 まあ、それを調べようとは思わないが。

 

「私の世界で惑星怪人アースとの戦いを終えた後、キララが死に、アオイが命を擦り減らし限界の状態を迎えていた……というのは説明したな」

「……うん」

「そんな状況で私はカネザキ・レイマが培養したオメガの細胞を元にした薬物を取り込み人間をやめた」

「っ、なん……で」

「そうするしかなかったからだ」

 

 レジスタンスは崩壊し、アオイは余命いくばくもなく、敵勢力にはオメガという親玉が健在。

 最早人類に希望は残されていない中で私に残された手段は、怪人に屈し死を迎えるか、それでも戦って犬死にするかのどちらかだった。

 

「自分の命の使い方を間違えたおかげで私は無意味に生きすぎた。結果としてカツミの敵として地球に戻り、彼に殺されるつもりだった」

「意味、分かんないよ」

「だろうな。だが……それでいい。理解できないことが正しい」

 

 ここで共感しないことで、もうここにいる私と目の前にいるアラサカ・アカネは別の未来を生きている。

 この世界がどのような結末を迎えることになろうとも、私のような怪物にはならないだろう。

 

「あの、さ」

「なんだ」

「黒騎士……カツミさんの世界の私ってどんな感じなの? 私と貴女とも違うんだよね?」

「……ああ」

 

 カツミの世界の新坂アカネ。

 私の百年の研鑽に匹敵する技量と凄まじい殺意を叩きつける剣士。

 奴の強さはスーツの性能を抜きにしても脅威だ。

 

「生身で怪人を屠る技量は私を上回るだろうな。なにがどうしてか分からないが奴は私の知らない剣技を用いて敵を切り裂く」

「あんな変なポーズしてても……」

「見た目がチープでもカネザキ・レイマが完成させた正真正銘のスーツだ。お前たちのパワードスーツ以上の性能と出力を誇る」

 

 そういう意味でも恐ろしいのはカネザキ・レイマも同じだ。

 奴は時間さえあれば非力な人間が怪人とまともに戦えるスーツを開発することが可能なのだ。

 

「あとは……」

 

 カツミの世界の新坂アカネのことを話そうとして、ふとこの世界に来る前———公園のベンチでカツミから聞かされた衝撃的な事実を思い出して閉口する。

 

「え、なに?」

 

 黙り込んでしまった私にアカネが不安そうに尋ねてきた。

 

「……聞かない方がいい」

「な、なんで? ま、まさかあんな恥ずかしいポーズをしているから!?」

「いや、それとは別だ」

「なんでそんな苦虫嚙みつぶしたような顔して言うの!? ものすごい気になるんだけど!?」

 

 同族嫌悪じみた感情を抱いているとはいえ、この事実を話していいものか。

 割と少なくない衝撃を与えてしまうかもしれないが……。

 

「本当に聞きたいのか?」

「……聞く。私のことだから」

 

 ……そこまで言うのなら仕方ない。

 

「カツミ曰くあの世界の新坂アカネは……」

「うん……」

人斬りブラッドという異名で呼ばれ」

「……」

食いしん坊で」

「……」

わがままで」

「……」

一歳児のような女、だそうだ」

「待って苦しい。想像した別の意味でやばすぎて動悸がする」

 

 衝撃の事実過ぎて足を小鹿のように震わせるアカネ。

 あまりにも自分と似てもつかない惨状に思考が追い付かないようだ。

 

「あとはカツミの義理の姉という意味不明なことにもなっている」

「弟!? 義理!? う、ううう噓でしょ!?」

「本人がそう言っていた」

 

 間違いはないだろう。

 あまりにも自分たちとかけ離れて居る別世界の自分。

 若干、その差異と恵まれている感にイラっとはする。

 

「……そろそろだな」

「義理、カツミさんが義理の弟……」

 

 言うべきではなかったか……。

 カツミの世界の新坂アカネとこの世界のアラサカ・アカネは二歳ほど年齢差があるので、年上の義理の弟という奇妙な構図が成り立ってしまうので混乱してしまったのだろう。

 ———と、そこまで思考していると丁度カネザキ・レイマのいる研究室へとたどり着く。

 未だ思考に耽っているアカネを無視し、私が先に研究室の扉を開け———、

 

「ヴェェェェッハッハッ!! 完全無欠のパーフェクトマッドサイエンティスト!! カネザキ・レイマの復活だぁぁぁ!!」

 

 ———て、見えたのはこちらに背を向け高笑いをしているカネザキ・レイマの姿。

 普段の奴を見ればそのような奇行に走るとは思えないが、今の奴の姿はもう変態以外の何者でもない。

 

 なにせ、今の奴は全裸だったからだ。

 

 全身に巻いていた包帯が解かれそれが局部を隠しているが酷い光景だ。

 

「ふははは!! 肉体が十全に活動できるならば作業効率は跳ね上がる!! このまま開発スタァァトだビャッハァァァ!!」

 

 入ってきた私に気づかず、いまだにテンション振り切っているカネザキ・レイマに冷たい視線を向けた私はそのまま扉を閉め、声に驚いたアカネに振り返る。

 

「ど、どうしたの? すごい声が聞こえたけど……」

「入らない方がいい。目が汚れる」

「本当にどうしたの!?」

 

 本当にどうでもいいものを見てしまった。

 だが、カネザキ・レイマが万全な状態になったのなら状況はいい方向に向かっているのだろう。

 ……本当に大丈夫か不安にはなるが。

 


 

 レックスに続いてアオイとハルが部屋を訪ねてきた。

 怪人に囚われていたハルが元気になっていたことに安堵しつつ、二人と話をすることにした。

 

「……葵から話は聞いたんだな」

「はい。その、あの時助けてくれてありがとうございました」

「気にすんな。こっちも助けられてよかった」

 

 正直、ハルがいるとは思いもしなかったので逆に俺の方が驚いたくらいだ。

 ある意味でハルとの遭遇でここが並行世界だって再認識できた。

 

「しかし、どっちの世界でもスマイリーの事件に巻き込まれるなんてな」

「そちらの私も、スマイリーに?」

「ああ」

 

 俺のいた世界でもハルはスマイリーの事件の被害にあっていた。

 そういう運命にあった、とでもいえば聞こえがいいが怪人の脅威に晒される運命なんて反吐が出るな。

 

「そしたら……そちらの私は……どうなったんですか?」

 

 葵も聞いてきたけどまあ気になるよな。

 特に答えられない質問ではないので普通に話す。

 

「俺が助けた……っていってもいいのかな? 今、俺のいた世界のハルは……レイマの会社専属のぶいちゅーばー? ってやつをやっているな。俺たちや葵たちのことを広めたりしてくれている」

「ぶ、ぶぶぶ、Vtuber!?」

 

 頼れる広報担当ってやつだな。

 ハルがどのようなことをしているのかはまだまだ理解しきれていないが、彼女も楽しんでやっているみたいだ。

 

「で、でも、意外でもないかもしれません。怪人が現れる前はちょっと興味ありましたから」

「え、そうなの?」

「うん」

 

 言っていなかったのか葵が驚きの目でハルを見る。

 

「……私、これからどうしたらいいかずっと考えていたんです。お姉ちゃんが命がけで戦っているのに私だけのうのうと過ごしていいのかって」

「気にすることないのに……」

「ううん。気にするよ。私には戦う力もないし、スタッフの皆さんみたいにお姉ちゃんの戦いを助けられるような専門的な知識もない……でも、今カツミさんの話を聞いて少しだけ自分にできることが分かってきたかもしれないんです」

 

 彼女の言葉に俺は頷く。

 

「なら応援する」

「き、聞かないんですか?」

「お前がすごい奴なことは知っているからな。そこらへんは心配してない」

 

 呆気にとられた後に嬉しそうに笑みを浮かべるハル。

 “自分のできることをやろうとする”……か、こういうところも別世界とも同じってことか。

 スマイリーと関わる因果よりもこっちの因果の方が断然いいな。

 


 

 葵とハルが帰った後、一人残された部屋の中で俺はベッドに横になり天井を見上げる。

 今この場には俺一人と……チェンジャーにいるプロトしかいない。

 

「———別世界、か」

 

 改めてそう考えるとおかしな話だ。

 この世界の俺はあの日の飛行機事故で死ねて、ここにはいない。

 今の俺は飛行機事故を生き延びて今ここにいる。

 なぜ、そんなことになったのか。

 どっちの世界が正しいのか。

 そんな、答えの出ない疑問が頭の中で延々と浮かんでは消えていく。

 

「そうか、こっちの俺は……一緒に死ねたんだな……」

 

 それでも、きっと不幸なことなんだと思う。

 こんなことを考えている俺に、アカネ達なら悲しんで怒ってくれるかもしれないが、俺はレイマからその話を聞いたとき思わず安堵してしまった。

 ……。

 

「はぁぁ」

 

 溜息をついて体を起こす。

 ここに来てから何度も(・・・)感じる煩わしい視線にいら立ちを隠さずに頭に手を当てる。

 

「……見てて楽しいかよ。なあ、おい」

 

 一人になった部屋で呟く。

 返事は返ってこないがこの呟きは確実にやつに聞こえている。

 奴はずっと見ている。

 世界を、次元を隔てても。

 

「俺もこの世界の奴らもテメェの暇つぶしの玩具じゃねぇんだぞ。ルイン」

 

 手段が回りくどいから俺たちをこの世界に飛ばしたのはルイン本人じゃねぇのは分かっている。

 奴は面倒な手順を踏まず、わざわざ声をかけて送りこもうとするだろうからな。

 だが、今見て面白がっているのはこいつの意思によるものだ。

 

「……テメェの思い通りに動くのは気に入らねぇが、今回は乗ってやる」

 

 この世界のアカネ達を見捨てる選択なんてとるつもりはねぇ。

 乱暴にそう言い放った俺はベッドに再び横になり目を閉じる。

 

「あと鬱陶しいから常に監視すんのはやめろ」

 

 そう言葉にすると、これまで感じていた視線が消える。

 大人しく従ったことに驚きながらも俺は、身体を休めるべく就寝に努めるのであった。

 

 

———あぁ、そうだ

 

———それでいい

 

———カツミ、お前ならばきっと……




完全復活を遂げた社長と、どんな反応をされても楽しいルイン様でした。

今回の更新は以上となります。

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