前話を見ていない方はまずはそちらー。
並行世界編 15
カツミ視点でお送りします。
並行世界での最後の戦い。
因縁のあるオメガとナメクジ怪人を始末して、地球の平和を取り戻す。
その戦いの場所は怪人共の三つある最後の巣窟、第三コロニー。
「地球規模の電力を貯めこんだナメクジ怪人を
「そうさせないためにまずはナメクジ怪人から始末すればいいってことですね」
第三コロニーへ向かう装甲車。
その車体の屋根の上で俺とレックスは目的地までの索敵を行っていた。
車の中にはアカネ達と一人のスタッフと———レイマ自らが運転を行っている。
「……君がいれば私が警戒する必要もないな」
「そんなことないですよ。貴女がいてくれるから集中できるんです」
『私もいるけど?』
「分かってるよ。拗ねるなって」
『別に拗ねてないんですけど?』
今の姿はtype“X”の銀のスーツを纏い、その上にヒラルダのベルトを腰に巻いている状態だ。
その上で装甲車の屋根の端に腰かけた俺は、あやとりをするように五指で銀糸を操り、ひたすらに索敵を続ける。
『今更ですけど、司令も来てもよかったんですか?』
すると、耳元のインカムから装甲車内にいるアカネ達の会話が聞こえてくる。
『他の皆もついてこなくてもよかったのに……』
『最後の戦いになる。その戦いにお前たちを戦場に送り出した私が出なくていつ出る? 私の役目は、お前たちに自分にできる最大限のサポートを行い、五体満足で生きて帰ってもらうことだ。そのためならばどのようなリスクも負ってみせるさ』
装甲車を運転しながらはっきりと答えるレイマ。
彼に付き従うスタッフ……いや、大森さんも同じ気持ちのようだ。
『私も司令と同じ気持ちです。どっちにしろ負けたら終わりなんですから、できることを精一杯にやりたいんです』
『……そっか、なら生きて帰りましょう』
『死亡フラグっぽく聞こえてきて震える』
『コラ、縁起でもないこと言わないの』
戦いの前だが幾分か緊張が解けてきているようだ。
キララも大丈夫そうだし———、
「……」
索敵のために張り巡らした銀糸に怪人が
どれだけ移動してもどこかしらに怪人はいるな。
人間も全く見つけられないし、いよいよここらへんで生きている人間は第二拠点にいる人たちだけかもしれない。
「糸の有効範囲はどれくらいなんだ?」
「まだ慣れてないですが、半径500メートルほどです。車が走っていなければ2キロくらいまでいけると思います」
「君の存在がどれだけデタラメかが分かるな」
俺がその場から動かないことと、意識を集中しなければならないって考えたらそこまで便利でもない。
万が一、普通の人間に攻撃しないように怪人だと確信してからやらなくちゃならないし。
『そ、そういえばさ、カツミさん。聞こえてる?』
「ん、聞こえてるぞ。アカネ」
不意に声をかけてきたアカネに答える。
やけに上ずった声だが、なにかあったのか?
『あ、あのさ……』
「……どうした? なにか聞きたいことがあるなら遠慮しなくてもいいんだぞ?」
最後の戦いの前の遺言とかやめてくれよ?
それこそ前に葵に教えてもらった“しぼうふらぐ”というやつになっちまう。
思わず緊張してアカネの返答を待つと、彼女は声を震わせながら言葉を発する。
『私のこと、お、お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?』
「……」
あまりにも予想外すぎる言葉に思考がフリーズする。
静かに聞いていた装甲車内の面々も言葉を失い、傍で我関せずとしていたレックスが今まで見たことない焦った様子で通信越しにアカネに怒鳴る。
『おい貴様!! なにをバカなことを言っている!?』
「だ、だだだって、あんなこと聞かされてずっと悶々としてたんだよ!? 最後の戦いの前だからワンちゃんいいかなって、駄目だったかな!?」
『彼を困らせるな!! この馬鹿モンがッ!』
———いや、これは簡単に流していい話題じゃない。
一見ふざけているように思えるが、これは先日のキララの時と同じアカネが精神的な意味で無理をしていたせいで言動がおかしくなってしまっただけなんだろう。
ならば、キララの時と同じで俺が向き合ってやらなければならない……!!
「なあ、アカネ。お前がこの世界で色々あったのも分かる」
『へっ、あ、確かに色々あったけれど……』
「お前は元の世界でも結構図太くて、抜身の刀みたいな強さを持っていたから大丈夫とばっかり思ってたんだが……俺が間違っていた」
『君の世界の私の認識ちょっとおかしくない……?』
この限られた時間で俺ができることは限られている。
俺は、身を削るような思いで声を震わせ、恥辱に耐える覚悟を口にする。
「お前の……心の傷が癒えるなら、お前のことを姉と……呼んでやる……!!」
『……ねえ!? 思っていた以上に気を遣われているんだけど!? ごめん!! そこまでしなくていいか———』
「なんだったら俺を兄と思ってくれてもいいんだぞ?」
『———お兄ちゃんって呼んでいい?』
「怪人より先に始末するやつが出たね」
「戦いの前でおかしくなっているようだねぇ」
キララとアオイのドスの利いた声にちょっとビビるが、それでアカネが若干正気に戻る。
『え、だってカツミさんって別世界の私の義弟なんじゃないの?』
「……んんん?」
待って、理解が追い付かない。
アカネはいったい何を言っているんだ……?
「いつ俺はアカネの義理の弟になったんだ? え、誰からそれを?」
『レックスから』
「レックス……? どういうことぉ?」
なぜそんな嘘を……?
待て、なんかレックスにそんなことを聞かれた覚えがあるぞ? まさかその時俺がアカネの義理の弟だと勘違いしたのか?
……いや、なんでそうなる?
俺の困惑した様子に腕を組んだレックスが顔を逸らしながら———声を震わせる。
「……。まさか、違うのか?」
「いや、義理の姉はいますけど。……実年齢二歳児の」
「……と、いうことだ。儚い夢だったなアラサカ・アカネ」
『生きて帰ったら一発殴らせろぉ!! うわぁぁぁ!?』
なんだかよく分からないが、レックスの勘違いから始まり、今アカネが恥ずかしい思いをしたようだ。
俺としては戦いの前に重苦しいことにならなくて安堵したいところだが……アカネが姉とかないだろ。
あっても妹とかそのへんだろ、変に面倒見ようとしてから回るところとか。
『レッドが赤っ恥をかいたところだが』
『うるさぁい……』
『到着したぞ』
装甲車が止まり、俺も銀糸を引き戻し車の屋根の上で立ち上がる。
荒廃した街中に作り出された巨大コロニー。
元は大型の球場だったそこは今や怪人共の巣へと変わり、その様相も既存の建物とはかけ離れた禍々しいものへと作り変えられている。
「あれが第三コロニーか」
『最後の怪人の巣。第一、第二を大きく上回る鉄壁の要塞だが、ここを攻略できれば怪人勢力は大きく削れるはずだ』
『アカネ、スーツ装着するよ。いつまでもしょぼくれてない』
『リーダーでしょっ』
『うぅ、分かったよ!!』
がこんっ、と装甲車の上部が開き、そこから新たな力、ジャスティスアーマーを纏った三人の戦士が現れる。
全身を覆う金属に近い光沢を帯びた装甲。
パワードスーツよりも小さく、それでいて丸みを帯びたメタリックな姿をした彼女たちはそれぞれの武器を手にしながら俺とレックスの隣に並び立つ。
「さて、こっちはプロト“X”は温存する。ヒラルダ、行けるよな?」
『当たり前じゃない。やっと出番ね』
銀の姿から桃色の姿へと変身し、さらに剣を召喚する。
こっからは全力の戦闘だからな、本丸のナメクジ野郎とオメガまでにプロト“X”の力を限界にまで引き出すわけにはいかねぇ。
「レイマ、バリアを張っておく」
『感謝する!! こちらも全力でバックアップする!!』
リリーフイエローの力で周りにバリアを張っていると、装甲車の側面からいくつものドローンが飛び出し、周囲へ散っていく。
それらを見送ってから俺は改めてジャスティスアーマーを纏った三人を見る。
「覚悟はできているか?」
「もちろん!!」
「目障りな怪人みんな倒して!」
「生きて帰る!!」
いい調子だ。
ならこれ以上俺からなにも言うことはない。
「行くぞ!! ジャスティスクルセイダー!!」
「「「うん!!」」」
声と共に一斉に飛び出し、怪人の巣窟へと向かっていく。
俺たちの接近に気づいた怪人共がアリの巣をつついたアリのようにわらわらと出てくるが、どれだけいようが関係ねぇ。
一切合切始末して、平和な地球を取り戻してやろうじゃねぇか!!
どうあがいても妹っぽいレッドでした。
次回から怪人勢力との最終決戦に移ります。
今回の更新は以上となります。