そしてお待たせしてしまい申し訳ありません。
平行世界編18です。
最初はサニーの視点
中盤からザインの視点でお送りします。
平行世界で戦うカツミちゃんが変身した新たな姿。
憎悪に怒り、普段のあの子なら絶対に呑み込まれるはずのない感情に支配された彼が変貌したその姿に、序列三位である私も薄ら寒いものを感じざるをえなかった。
「なによ、あれ」
見た目そのものには派手さはない。
プロト1のような見てわかるような力強さも、トゥルースフォームのような全能感もない。
ただそこに立っている彼は黒と白のシンプルな鎧を纏った……まるで原点に立ち返ったかのような姿をしていた。
「二つのコアを単純に合体させた……ってわけじゃなさそうね」
カツミちゃんはルインちゃんのいる領域へと足を踏み入れてしまった。
今、この空間に這いつくばり、切断された右腕を押さえ痛みに苦しむ二位の姿がその証拠だ。
「う、あぁ……僕の、僕の腕が……ッ!!」
アレは自業自得。面白半分で余計な茶々を入れようとするからああなった。
平行世界にいる同一個体の二位の腕が斬られた瞬間、意識を共有し偏在する他の二位の腕も同時に断ち切られた。
一つの世界に存在する二位ではなく、二位という
それは……カツミちゃんがルインちゃんと同じことができることを意味してしまうのだ。
「……でも」
先ほどの彼の覚醒の引き金となったエナジーコア、プロトの死を悼みながら目を閉じる。
あの状況でプロトXが出来る手段は限られていた。
カツミちゃんが命がけの勝負に出るか、自身を犠牲にして彼が生存する運命を作り出すか。
だから、ああするしかカツミちゃんが生き残る道はなかったのだろう。
実際、プロト1とトゥルースフォームならばルインちゃんの父、ザインとも互角以上に渡り合えただろう。
「だけど、カツミちゃんは憎悪と怒りに任せた覚醒を果たしてしまった」
それほどまでに彼の傷は深かった。
それほどまでに、プロトXの献身をザインに踏みにじられたことが許せなかった。
「ルインちゃん……」
これも貴女の想定通りなの?
こんな悲しい覚醒が貴女の望むものだったの?
ここまでして貴女はカツミちゃんと戦いたいの?
貴女の望むものは彼を苦しめてまで欲しいものなの?
同じ空間で彼の進化を目にしているであろう彼女を思考し、苦々しい感情を抱く。
きっと、今貴女は笑っているのだろう。
ようやく自分と対等な存在に成った彼に喜びを隠せていないのだろう。
分かりきっている光景を予想しながら、目を開けた私は意を決してルインちゃんへと視線を向ける。
「———え?」
彼女の横顔を見て、私は抱いていた傍観の感情もなにもかもが消し飛んだ。
笑っている訳でもなく、怒っているわけでもない。
彼女が渦に映し出されたカツミちゃんを見るその表情は、喜色でも興奮でもなく無表情……いえ、それどころかどこか呆気にとられたような顔のまま涙を流していたのだ。
「ルイン、様?」
予想外のことに傍に控えているヴァースまで驚きに目を丸くしている。
だけれど、ルインちゃんはそんな私とヴァースを意に介さずに、頬を伝う涙を拭わずに一心に彼だけを見つめていた。
死した宇宙に響く怒りと憎悪の雄たけび。
その雄たけびの主は白と黒の入り混じった仮面の怪物。
口元に開いた裂け目から真っ黒な闇を映し出した奴が尋常ではない憎悪をこちらに向ける。
「ッ」
それに対して私が咄嗟に身構えた瞬間、前触れもなく視界が真っ暗に染まる。
数舜して奴が私の頭を鷲掴みにしたと気づいた時には暗黒物質で透過する隙もなく、私の身体はどこぞの星の大地に背中から叩きつけられた。
「ハァァァ……」
「———ッ」
凄まじい力だ……!!
即座に暗黒物質により奴の手を透過させ、攻撃から逃れる。
振り下ろされた腕が私の身体を透過し、大地へ叩きつけられ爆発を引き起こす。
惑星の表層を弾き飛ばし、星そのものに亀裂を与えかねない威力に怖気が走るが逆を言えば今の奴は力だけが異様に上がった姿と推測できた。
「は、はは、驚いて損をした!!」
力一辺倒でこの私を倒そうなど甘いんだよ!!
暗黒物質化しているこの私に奴の攻撃が届くことはない。
今一度自身の無敵さを再認識させながら掌に暗黒物質を集め、一度奴に手傷を負わせた一撃を叩きこむ。
「そら、受けて見ろ!! さっきの10倍だ!!」
防御しようともこいつは防げない!!
無造作に腕を振るう奴の攻撃を透過させ、これ以上ない一撃を奴の胴体へ叩きこむ。
暗黒物質が解放され、星をも容易く貫く一撃が肉体を貫通する。
「ははは!! ……は?」
「……」
おい、なんで倒れない?
いや、それどころか奴は私の攻撃を受けてもなおのけぞりもしていない。
まさか、効いていないのか?
「ははっ、多少防御力も上がったということかぁ! ……思い上がるなよ人間がァ!!」
この力を前に砕かれなかった敵はいなかった。
私の能力は誰にも太刀打ちされることのない無敵の力なのだ。
それが、どこぞの矮小な星の原住民に耐えられるなんてことがありえていいはずがない。
「
宇宙へ手をかざし我が暗黒物質の力を行使する。
宇宙に満ちる暗黒物質に質量を与え、星を動かし引き寄せる。
見 え ざ る 流 星
「miezaru ryusei!」
空間に満ちるダークマターを操り不可視の物質を隕石のように降らせる。
一撃一撃が大地を容易く割る威力、こいつで奴の力を見極めてやろう!!
「———」
虚空から光と共に電撃を放つ黄色の斧が現れ、奴がそれを掴む。
それを無造作に、しかし迷いのない軌跡で横薙ぎに振るわれると奴に迫った不可視の隕石の一つが両断され、斧が発する電撃に当てられ爆発が引き起こされる。
「一つ防いだ程度で……なに!?」
片手で持てるほどの大きさの片刃の斧は突然、流体のように蠢き肥大化する。
持ち手の柄が異様に伸び、刃も身の丈の数倍以上にまで巨大化していく異様さに怪訝に思うが、すぐにその現象の根源を理解する。
「物質? 分子……操作か? 進化のアルファの力か!」
質量を無視した形状変化。
生き物のように蠢き、巨大な斧へと姿を変えたそれを大きく振りかぶった奴は、一振りで迫る暗黒物質を薙ぎ払うと、力を籠めこちら目掛け大きく振りかぶりぶん投げてきた。
「原始的だと言っているだろう!!」
殴る蹴るの次は投擲か! つくづく芸がないな地球人!!
大きく乱回転した斧は不可視の暗黒物質を叩き割りながら、こちらへ迫る。
しかし恐怖はない。
なぜならあらゆる攻撃は私にとって無意味なものだから。
「理解できていないようだなァ!! この暗黒物質の前ではどのような脅威も無意味だということを!!」
自身の肉体を暗黒物質へと変え、あらゆるものの干渉を阻む。
いくら力を上げたとしても、触れることすらできなければ無意味!!
回転しながら迫る斧は意思を持つようにこちらに迫るが、こんな攻撃最初から———、
「ッ!?」
———正体不明の悪寒。
間近に迫った斧に得体の知れない何かを抱いた私は、無意識に作り出したワームホールに飛び込み距離を取る。
奴からそう遠くない距離に移動した私は先ほどの高揚とは異なる得体の知れない直感に困惑してしまう。
「なぜ、今逃げたんだ……?」
しかもワームホールで逃げるなどという無様な逃げ方をしてしまった。
ただ斧が回転しながら飛んでくるだけの物理攻撃。
暗黒物質で透過し無視するのが一番楽だったはずなのだ。
自身も理解できない行動に得体の知れない危機感を抱いたその時、私の頬を伝うなにかに気づき手で触れる。
「……血?」
私の頬から、どうして血が? 逃げる寸前に僅かに斧の剣圧が触れたのか?
いいや、そのはずがない。
暗黒物質と化した私に傷を負わせることなど不可能だ。
きっとこれは最初顔を掴まれたときに生じた傷だろうな。
「依然として私が無敵なことには変わりない。だが!!」
万全を期す!!
周囲の暗黒物質に質量を与え、収束、圧縮させながら鎧へと形成させる。
宇宙の暗闇と星の煌めきを鎧の形に押し込め、それらを全身に装着させていく。
「私の奥の手だ。これまで使うこと自体なかった代物だが、これでお前が私に手傷を負わせる可能性すら消え失せた」
「……」
最後に頭部を覆い、装着を終えた私は暗黒物質で形成した刃を腕から伸ばしながら、微動だにせずにこちらを見る奴に冷笑を向ける。
これで運よく攻撃が当たったとしても通じることはない。
その上、この姿でも私は存在そのものを暗黒物質に変え、お前の攻撃を無視することができる。
「そして、さーらーに!!」
目の前の空間に干渉し、奴と私の間の重力を歪める。
瞬間移動ではなく、物理的に空間を折り曲げ敵との距離をゼロにすることで、私はその場から移動することなく奴の懐に潜り込める。
暗黒物質により一瞬で奴の目の前に距離を狭めると同時に、腕から伸ばした刃を突き出そうとした瞬間———奴が無造作に伸ばした左手が剣を伸ばす私の腕を掴んだ。
「……」
「ッ、なんだ。なに掴んでいるんだ。まあ、このぐらいは反応……する……か」
……待て。
なんで、こいつ暗黒物質状態の私を普通に掴んでいるんだ?
私は今、透過を解いていない。
そう当たり前の疑問を抱いた瞬間、奴の右拳が私の胴体に突き刺さった。
「が、っぁ!?」
暗黒物質の鎧を薄氷のように砕いた拳が内臓を抉りながら胴体を貫通する。
肉体ではなく、私という存在の枠組みを直接揺るがされるような一撃に意識が吹っ飛びかける。
「ヴァァァァ……」
「ヒッ!?」
空いた左腕が私の頭部を破壊しようと振るわれたことで、咄嗟に両腕を顔の前に置く。
バギャン!! という爆ぜる音と共に暗黒物質の手甲を纏った両腕が弾き飛び、僅かに直撃をずらした拳が私の下あごを粉々に吹き飛ばした。
「ばぁぁぁ!!?」
殴られた衝撃で貫かれた胴体から右腕が引き抜かれ、私の身体は宙へ投げ出される。
「な、なぁ、あんでぇ……!?」
暗黒物質は確かに発動している。
だが、やつは当たり前のように私に攻撃を通した。
殴り砕かれた下あごと胴体を再生させながらふらふらと立ち上がるも、間髪いれずに再生されかけの胴体に奴の蹴りが叩きこまれる。
「がばぁ!? がっ、あぁぁ!?」
下から上へ掬い上げるような蹴りにより、強制的に足場のある大地から宇宙へと吹き飛ばされる。
なんとか宇宙を漂うデブリにしがみつこうとするが、伸ばした手はデブリに触れられずに透過してしまう。
「っ、あああ!!」
先ほどから絶えず暗黒物質化していた現実を叩きつけられながら、能力を解きデブリにしがみつく。
再生した下顎もカチカチと音を鳴らすように震え、無敵と信じた鎧も今や両腕は壊され、胴体の部分も粉々に消え失せてしまっていた。
「どうして、触れられるんだ!!」
私の能力は確かに発動していた。
だが、奴はまるで無意味とでも言うかのように容易く掴み、蹂躙してきた。
まるで、奴に掴まれることが当たり前で、それ以外が不自然と感じさせるような……。
「ま、まさか……」
奴が変身した時と同じだ。
まるで、私に攻撃が当たることが決まっていたかのような、確定された運命に引き寄せられた感覚だった。
だとすれば奴は———、
「因果律に手をかけて……」
『ヴァァァァァァ!!!』
地表からの跳躍でこちらに上がってきた奴を見据えながら暗黒物質の鎧を纏い、能力を発動させる。
「来るな!! 近付くなぁ!!」
不可視の隕石を降らせ、見えない檻に捕えようとしても奴は容易くそれを砕き、こちらへ迫ってくる。
———私が繰り出す、あらゆる攻撃が効いていない。
そして奴は本来触れることのできない私に、拳を向ける。
「がっ、あぁ……!!」
暗黒物質の力は無敵だ。
誰にも触れられることのない、簡単に全宇宙を支配することだってできる。
だが!!
だがこいつは!! この地球というカスみたいな惑星からやってきた劣等種族は……!
目に見えず、されど見える、だが触れることすら敵わない我が暗黒物質の力を———因果律を弄ぶことで、“攻撃を当てる”というありえない事象を引き寄せている!!
「いや!! そもそも
また奴の攻撃が私の胴体を砕く。
———ッ、最早疑う余地はない。
奴は暗黒物質の透過を無視し、私に攻撃を当ててきている。
当たり前のように、そう決まっているかのように。
だが、いくら因果律を操ったとしても、ありえない可能性を操ることなどできない。
そんなもの存在しないものをゼロから作り出すような……も……の……。
「可能性を、生み出して……いる……?」
まさか、私に攻撃を当てるというありえない可能性を“運命のアルファ”の力で無理やり生み出し、その上で因果律を操ることでその可能性を確定させているとでも……?
「そんなバカげた話があってたまるかァ!!」
それはエナジーコアの力でできる領分を明らかに超えている!!
認めたくない結論に憤慨しながら、なりふり構わず奴の周囲に質量化させた暗黒物質を作り出し、周囲から圧し潰すように奴に殺到させる。
この程度では足止めにしかならないが!!
「おおおおおおお!!」
ワームホールを最大出力で発生させ、渦の先に存在する惑星に暗黒物質の力で干渉する。
この宙域に満ちる暗黒物質を全て操り、この星系で最も巨大な惑星を
「どちらにしろここは死の宇宙!! 重力、星の均衡が乱れたところで関係ない!!」
「……」
「木星規模の質量ならば貴様もただでは済まないだろう!!」
こちらも相応の消耗はするが貴様を殺せるなら十分すぎる!! どちらにしろ暗黒物質化すれば私には影響はないしなァ!!
暗黒物質に囲まれ、身動き一つしない奴に私はワームホールから引き寄せた惑星を叩きこむ。
「くたばれ!! 死ね!! 地球人!!」
奴の頭上からワームホールを通って落ちた惑星が激突す―――、
「……は?」
———激突するはずの惑星が
あれほどの質量が瞬きもせずに一瞬にして消えた事実を呑み込めないまま、私は変わらず宇宙に浮かんでいる奴に声を荒げる。
「なんだ、なにをした……? 私がぶつけた星は、どこにいった?」
ワームホールで飛ばしたのか? だがそんな様子はなかったはずだ。
突如として消えた惑星に困惑する私だったが、すぐに奴の右手の中に握られている
ソレは球体。
掌大ほどの大きさにまで圧縮された———、
「……は、ははは、なんだ、ソレは……」
奴は宇宙の摂理すらも無視し、星を掌ほどの大きさにまで
「ヴァァァァ……!!」
意味不明な光景に唖然としていると、奴の纏う鎧に変化が起こる。
奴の声に合わせ装甲が変色する。
黒は赤に。
白は金に。
極彩色の輝きを周囲に放った奴の背部に日輪を思わせる円盤が作り出され、奴を中心に宇宙を、空間を塗りつぶしていく。
「さらに、進化するとでもいうのか……?」
因果律を弄び、可能性を創造し、他になにをしようというんだ?
バカげている。
こんなものが存在していいのか?
「ふざ、けるな」
ただそこに在るだけで空間そのものがやつの力に塗り替えられていく異様な光景を目にし———この世に生を受けてから初めて、自身が捕食される立場だということを無理やり理解させられてしまう。
これではまるで、暗黒物質程度で最強と思い込んでいた私はいったい———、
「この……」
———認められるか。
あのような不自然な存在、あっていいはずがない。
私は恐怖と怒りで半狂乱になりながら、衝動のままに奴へと飛びかかった。
「化け物がああああああああ!!」
動かない奴に、腕の剣が迫る。
奴は動かない!
動けないのか!?
動くことができないのか!?
なら、このまま無防備な心臓を貫くことができれば!!
狂気の笑みを浮かべた私が奴へと剣を突き出し、刺し貫いた———と認識するも刺し貫いた剣は、私の身体は、そのまま奴を身体を
「え……」
今のは……私の、能力?
奴が用いたのは暗黒物質———私だけが用いる力。
まさかこの短い時間で学習したとでも?
声が震え、心がへし折れる音を聞きながら、背後を振り向く。
「———」
極彩色の円環を背に浮かばせ、赤と金の姿というさらなる進化を果たした絶望がそこにいた。
「ァ、あ、あぁぁ……」
奴もゆっくりとこちらへ振り返り、こちらに掌をこちらに向ける。
その瞬間、怯えた声を漏らしていた私の身体を不可視の重圧が襲い掛かる。
間違えるはずがない。
この重圧は、それは私が支配下に置いていた暗黒物質の能力によるもの。
「が、あああああ!?」
私の力のはずなのに!! 私が支配していた最強の力が!!
たった今、身に着けたばかりのはずの奴に凌駕されて
自身の力である暗黒物質に完全に動きを封じられた私を見下ろした奴は背中の極彩色の円環をゆっくりと二重、三重に展開させながら浮き上がる。
そして———、
「な、なにをするつもりだ!!?」
———その手に掌握した“惑星”を掌から零すように落とした。
奴の手を離れても惑星は元の大きさに戻らず、しかしこちらに落ちていくと共に亀裂が走り、自壊していく。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
圧縮された惑星はその質量に耐え切れず、自壊、全てを呑み込む黒い渦を作り出した。
暗黒物質すらも呑み込む極小の黒い渦が作り出した重力の奔流が空間に吹き荒れ、私の身体は成す術もなく虚無へ吸い込まれていくのであった。
今回主人公が使ったおおまかな能力
・因果律操作
・可能性の創造
・分子(?)操作
・コピー(上位互換)
現状、上澄みの上澄みなのに相手が悪すぎて蹂躙されまくるルインパパでした。
次回の更新は次話が出来次第なるべく早く更新いたします。