平行世界編 20
今回はカツミ視点でお送りします。
あの姿で戦っていた時、怒りの中にいた。
意識はあったけれど目の前のザイン以外に意識を向ける余裕もなく、ひたすらに力を振るってしまっていた。
理解できてしまったからだ。
これだけの力を手に入れても、宇宙そのものを滅ぼす力を手にいれても———自分自身の命を投げ出す運命を選んでしまったプロトを蘇らせることができないことを。
どんな代償を払っても、時間を戻したとしても“そうあってしまった”運命が決定づけられた彼女の命は絶対に戻ることはない。
「———ん」
まず視界に映り込んだのは天井の明かりのついていない電灯と、窓から差し込む日の光。
なんだ? 眠っていたのか、俺は?
『カツミ! 目を覚ましたんだね!』
『ガウ!!』
額を抑えながら声のする方に目を向けると、ベッドの傍のテーブルにプロトとシロがいた。
良かった無事だったか……つーか、なんだ? 身体が重いんだけど。
「……怠いとかじゃないな。なんか物理的に重い……」
とりあえず身体を起こして改めて自分が寝ているベッドを見ると、端から俺の身体によりかかるように眠っているやつがいた。
「ヒラルダ、お前かよ……」
「ん、んぅ……」
声をかけると目をこすりながらヒラルダが目を覚ます。
寝ぼけながら身体を起こして俺を見ると、一瞬目を丸くさせてから……次第に目元を潤ませる。
「か、カツミ君……!」
「お、おい、泣くなよ」
「泣きたくもなるよ!! あれから何年経っていると思ってるの!?」
「何年!?」
え、あ、おい!? え、これ俺何年も昏睡状態だった感じか!?
それじゃああいつらはどうなった!? 無事なのか!?
『いや、嘘だよ』
「えっ」
テーブルの上に丁寧に置かれているプロトの声に我に返る。
嘘……嘘ってどの辺までが嘘なんだ?
『カツミがこの世界に戻ってきてからまだ三日しか経ってない』
「……ヒラルダ?」
自分でも声が低くなっているの自覚しながらヒラルダを見ると、奴は目元を拭った後ににくたらしい笑みを浮かべていた。
「はい、嘘でしたー!!」
「性質悪い嘘ついてんじゃねぇぞ!? ヒラルダァ!!」
「きゃー」
「おい待て逃げるなァ!!」
結構な勢いで部屋から飛び出していくヒラルダに俺は、肩を落とす。
……あぁ、もう起きたばかりなのに変なところで体力使っちまった。
「プロト、ここは……」
『カツミが飛ばされた別世界の地球。……この世界の変態から聞いたよ。カツミがなにをしていたのか』
『ガウ』
「そう、か」
あらかたの事情はレイマが説明してくれたのだろう。
「俺がいない間そっちはどれくらい経ってた?」
『大体一週間くらい』
微妙にズレがあるけど大体同じくらい日が過ぎていた感じか?
『カツミがいなくなって、荒れてた』
「聞くのが怖いけど、誰が?」
『みんな』
「……心配かけちまっただろうなぁ」
俺のせいじゃないとはいえ早く戻らねぇとな。
「あの力のことは……」
『誰にも話してないよ』
「助かる。アレは……元の世界でもレイマくらいにしか話せないからな」
あんな力まともじゃないのは自分でもよく理解できる。
ザインはいけすかねぇ野郎だったが、実力は確かだった。
それでも奴を倒すのにあそこまでの力は必要なかった。
『カツミ、本当に身体に異常はないの?』
「……信じられないかもしれないが……普通に元気だ」
『私を着けて。もう一回スキャンしてみるから』
ベッドから手を伸ばしてプロトを装着する。
すぐにチェンジャーから青色の光が放たれ、俺の身体を頭からつま先までスキャンする。
「ど、どうだ?」
『身体が変質しているわけでもないし、細胞異常もない。怪我も完治、異常もなにも……ない』
あんだけの力を使ってなんだが本当に異常という異常はない。
逆に身体がすこぶる調子がいい……なんてこともなく、以前と全く変わりない感じだ。
『大丈夫なら、それでいいんだけれど……』
『ガウ……』
プロトとシロの心配もよく分かる。
だけど痩せ我慢でも隠しているわけでもなく本当になんともないのだ。
「ま、別に腹を壊したわけでもねぇし大丈夫だろ」
「目を覚ましたんですね!! カツミさん!!」
「ん?」
ドタドタと勢いよく部屋に飛び込んできたのはアカネ、キララ、アオイの三人娘だ。
三人が無事なことに内心で安堵しつつ、苦笑した俺は頭に手を当てる。
「悪い。心配かけたぐぼぉ!?」
「じんばいしたんですがらぁぁ!!」
「ホント、もう目覚めないとッ」
「便乗ダイブ」
ま、待て!! 全然元気といえども三人でベッドに突っ込んでくるやつがあるか!?
余程心配かけたのか泣きながら飛び込んできたアカネとキララ、そして便乗して突撃してきたアオイの衝撃に呻く。
「おい、お前たちいい加減にしろ」
「お、お姉ちゃん! なんてことしてるの!!」
と、グロッキーになりかける俺を見かねたのか、遅れて部屋に入ってきたレックスとハルがアカネ達を引きはがす。
「レックス……ハル……」
「カツミ、よく無事に戻ってきてくれた」
「無事でよかった……本当に……」
義手も外しているし、服装もスーツではなく普通のものを着ている。
ということは、今は平和ってことなのか?
アカネ達も落ち着いたところで、俺はザインに月に転移させられた後の話を聞くことになった。
「カツミさんがあいつと戦って消えた後……私たちは怪人の残党と戦ったの」
「あぁ、オメガが倒されてもそりゃあ怪人は残っているよな……」
俺らの時も、アースが海底で生きていたわけだしな。
じゃあ、まだ怪人の残党はいるってことか。
「カツミさんはザインを……倒したんだよね?」
「……。ああ、奴にはきっちりと引導を渡してやったよ。だけど……」
これは、言うべきか。
ザインと戦ってこの世界のプロトが死んでしまったことを。
いや、言うべきだな。
一人で抱え込んでいる姿っていうのは傍から見たら丸分かりだ。
あの凄まじい姿のことは言えないが、せめて彼女の死を隠さないでおいてあげたい。
「俺のために、プロトが命を落とした」
「え、でもプロトちゃんはここに……」
『私はカツミのいた世界のプロトだよ。こっちの犬っぽいのが妹のシロ』
『ガウ!!』
チェンジャーの画面を点滅しながら話したプロト。
そんなプロトの紹介に納得がいかなかったのか、シロが前足でプロトをテーブルから叩き落す。
『落とすなァー!?』
「こら、喧嘩するなって」
プロトをキャッチしテーブルに戻しながら、俺は精いっぱいの笑みを浮かべて彼女達へ向き直る。
「プロトは命を賭けて、俺の世界のプロトとシロをこの世界に引き寄せた。そのおかげでザインを倒せたんだ」
「そう、だったのか。君のチェンジャーとベルトがいたことに気づいていたが……いや、君の本来の力ならば倒せても不思議ではない」
レックスは実際に戦ったことがあるから驚きは少ないようだ。
「カツミさん、大丈夫?」
「心配いらねぇよ。いつまでも自分を責めるのはプロトも望んでねぇはずだろうしな」
「私のここ、空いてるよ」
「だから心配いらねぇって言ってんだろ。その開いた腕はなんだ」
右手を上げ、空いた空間を左手で指し示すアオイに普通に困惑する。
なんだろう、こっちのアオイも俺の知る葵みたいなことをするようになっちまったな。
「ねえねえ、カツミさんも目覚めたことだし美味しいものでも食べようよ」
「そうだねぇ。私たちも今日まで忙しかったこともあるし、ここは人類勝利記念にパーティでもやっちゃおうか」
「私は肉を所望する」
「お肉なんて缶詰しかないでしょお姉ちゃん」
———よかった。
アカネ達が、笑っている。
こんな救いのなかった世界で俺の知っているアカネ達のように笑ってくれる彼女達を見て、俺は心の底から安心した。
まだ怪人の脅威は残っている。
それでも、俺は彼女達が辿るであろう滅びの運命を止めることができたんだ。
「カツミさ……ハッ……お、お兄ちゃんはなにが食べたい?」
「オニイチャン? ……。……あ、あぁ、そうか、呼んでいいって言ったな」
突然の兄呼びにかつてないくらいに思考が止まった。
しかしなんだろうか、今シロの目が赤く光り、プロトのチェンジャーの画面にRECという赤文字が浮き上がったのだけど。
「アカネ、そういうのやめぇや。カツミさん、困ってるから」
「え、カツミさんは元から私のお兄ちゃんでは?」
「記憶改竄されてるようだし一度どついた方がいいかも」
「調子に乗るなよアカネ。———真の妹はこの私だ」
「お姉ちゃんまでおバカにならないで」
一人っ子だから分からねぇけど、上に兄とか姉とかいてほしいものなのか?
「恥とかないのかあんたは」
「妹歴が違うんだよこの長女共め!! 言っておくけど私は元来妹!! 年上のカツミさんをお兄ちゃん呼びしても許されるんだよ!! ね、お兄ちゃん!!」
「あ、あぁ」
なんだろうか、アカネに何度も兄呼ばわりされるとものすごく恥ずかしくなってくる。
これ、元の世界に戻った時しばらくアカネに接することができなくなるかもしれん。
夜にささやかな祝勝会のようなものをするという計画を立てた後、俺は未だに指令室で忙しくしているレイマの元に足を運んでいた。
「む、カツミ君か。目を覚ましてくれて安心したよ」
「ええ。お互い無事に会えてなによりです」
彼は指令室で一人、事後処理を行っておりモニターを見れば周囲に怪人の残党がいないか探っているようだ。
「君には本当に感謝している。君のおかげで、この世界の脅威は取り除かれた」
「まだ、怪人は残っていますけれどね」
「ああ。その辺についても話したいが……まずは、君がこの地球に戻ってきたときのことを話しておこう」
すると、レイマは手元の使い古された端末を操作し、カメラの映像を映し出す。
「この映像は二日前、コロニー決戦後の広場の映像だ」
場所は第二拠点内の広場。
誰もいないその広場の中心に白い渦が発生し、それがゆっくりと横に動くと渦の中から気絶した俺が現れた。
「カツミ君。これはいったい……君はどうやってこちらに戻ってきたんだ?」
「……実は」
ルインのことは今更隠す必要もないので話してしまおう。
どちらにしろ、この世界にルインはいない。
———あいつは、一人しかいない。
どの世界、どの時間でも、奴は一人だ。
「なるほど。君は私が想像していた以上の大きな使命を背負っていたのだな」
「厄介なやつに目をつけられているだけだけどな……」
「だが、そうか。私のこの世界ではザインがそうだったように、君たちの世界の頂点がルインということなのか」
力そのものは明らかに違い過ぎるけどな……。
むしろ、ルインの方が異常すぎるまである。
「———まあ、このことについては考えてもあまり意味はないか。よし、話を切り替えよう」
「お、おう」
ぽん、と手を鳴らし映像を消したレイマが俺の方を見る。
「話そうと思っていたのは、我々のこれからのことだ」
「我々というと……俺も?」
「いや、これ以上君に頼るわけにはいかない。これ以上の助力を望めば、我々は君に依存してしまうことになってしまう」
———レイマも薄々感づいているんだな。
俺がもうすぐ元の世界に帰ってしまうことを。
思わず無言になってしまうと、彼は続けて口を開く。
「今後、我々がするのは怪人の掃討と、生存者の救出だ」
オメガによって作り出された怪人は放逐されたままだ。
オメガが死んで、連鎖して滅ぶわけでもない。
「人類は終わりに近づいている、それは変えようのない事実だ」
「オメガを倒してもか?」
「怪人の残党は残っていることに加え、地球の人類のほとんどが奴らの餌食になってしまった。我々は強化スーツで対抗できたが、それすらない場所では……人間は怪人に対して無力だ」
「……」
なら、今地球に残っている人類は……。
怪人の中にはもちろん海を越えたり、空を飛ぶ奴もいる。
一体でもいれば一つの都市を訳もなく破壊しつくせる危険な連中が世界中に散らばったとすれば……生存の望みは低いのかもしれない。
「だが地球のどこかに怪人の目を逃れて生き延びている人々がいる可能性もある。……その可能性も非常に低いが、当面の我々の目標は、生存者を探すことになる」
「その後は?」
「……非常に難しい決断になるが」
レイマが苦々しい表情で拳を作る。
力を込めているからか、血管が浮き上がり青白く染まる。
「残り少ない人類を集め、別の世界の地球———君の世界の私に助力を頼めないかと考えている」
「! それってつまり……」
「ああ、こちらの地球から君のいる……別世界の地球へ新天地を求めるというものだ。勿論、それなりの時間がかかるだろうがな」
俺のいた世界への移動!?
まさかの予想外過ぎる考えに驚いてしまう。
「我々の世界と君のいる世界は隔絶したものだ。過去や未来のように相互に影響し合う繋がったものではなく、個々に独立しているものなので影響はない……はずだ」
「……でも、可能なのか? 俺たちはあっさりと送り込まれちまったが、それは能力を使った奴が厄介な能力を持っていただけだぞ」
「ああ、勿論理解しているとも。だが可能性もある」
「可能性?」
なにか方法があるのだろうか?
怪訝に思う俺にレイマは一瞬だけ迷う素振りを見せてから口を開いた。
「ヒラルダ。君の仲間が特殊なエネルギーを有するコア———星界核を我々に託してくれるからだ」
星界戦隊の根源。
今やヒラルダが保有する力は……あいつにとって重要なもののはずだ。
それを俺に黙って託すという彼女の行動に、呆気にとられてしまうのであった。
決戦の前、キララと話をした第二拠点の屋上。
そこにヒラルダはいた。
荒廃した建物が並ぶ景色を照らす夕日を眺めながら、こちらに背を向けている彼女に声をかける。
「……キララ達が飯、用意してるってよ」
「私も参加していいの? 一応貴方にとっての敵だよ、私は」
「……」
今更なにいってんだこいつ。
元の世界に戻る目途ができたからって変な意地でも張ってんのか?
しかしまあ……元の世界に戻ったら実際にヒラルダとは敵同士になる。
それは避けられないことなんだろうな。
『カツミ、あまり深く聞かなかったけど……』
「この世界で、俺はこいつに助けられた。お前も色々と思うところはあるかもしれねぇが、今は胸にしまっておいてくれ」
「しまう胸もないけどねー」
『格の違いを分からせてもいいかな?』
けらけらと笑うヒラルダにドスを利かせるプロト。
怪しい点滅をし始める彼女をなだめながら、俺は本題を切り出す。
「ヒラルダ、お前……どういう風の吹き回しだよ」
「ゴールディから聞いたんだ」
「ああ」
星界核の譲渡。
今の彼女の主力ともいえるそれをあっさりとレイマに託した理由が知りたかった。
「お前、俺と戦うために散々面倒くさい手回しして手に入れた力をなんであっさり手放すんだよ」
「いざ言われるとグサッと来るねー……」
実際そうだろ。
星界戦隊を倒させてまで手に入れた力だ。
俺から見ても厄介だし、元の世界に戻って俺と戦うつもりだったヒラルダにとっても重要なもののはずだ。
俺の問いかけにヒラルダは、欄干に背を預けながら苦笑いを浮かべた。
「理由の一つとしては星界核がそれを望んでいたから」
「……意思があるのか?」
「意思というより、そうあるべきであるって習性かな? とことん善玉エネルギーだよ。多分、今まで私や裏の存在に悪事に使われてきたから、その反動もあるんじゃない?」
その能力の本質が星の再生と維持というものだけあって、星界エナジーは善の性質を持っているのは分かる。
だが、ヒラルダ。
お前のその行動には他ならないお前の意思もあるはずだ。
「なーんでだろうなー。正直、私でもなんでこんな良いことしようとしたのか分かんないんだ」
「……」
「君のせいってのもある。七割くらいね。……やっぱり善行って気持ちがいいね!! 悪行してる時とは別の快感があるよ!!」
「お前は悪いことして気持ちよくなるような奴じゃねーだろ」
「……ホント、そういうところだよねー」
お前、気づいているか?
この世界に来る前までのお前は悪ぶって、年不相応に振舞って……それが今じゃあなんだ?
精神年齢幼く……いや、多分本来のものに戻ってんだぞ。
そんなの俺じゃなくても分かるわ。
「いい加減自分に言い聞かせるのはやめろ。お前、どこから始まったかは知らねぇが引くに引けなくなって、自分で後戻りできねぇように悪いことしてるんだろ」
「……カツミ君は私のことなにも知らないでしょ」
「自分のことを話さねぇ奴が他人に理解されようと思うんじゃねぇ……って前にも言ったけどな」
あの時と今では辿ってきた状況が違う。
呆れながら頭を掻いた俺はヒラルダの隣に移動し、欄干に腕を置く。
「少なくとも俺はこの世界に来てからのお前を知ってるぞ」
「……っ、あーあ、もう。本当にそういうとこがもう!! あぁ———!!」
「いきなりどうした」
両手で髪をくしゃくしゃに乱し、口元を押さえ何かを主張するようにくぐもった声をあげたヒラルダ。
数十秒ほどでようやく落ち着いた彼女は、肩で息をしながら身体の向きを変え、俺と同じ夕日が浮かぶ方向を見る。
「……私さ、初めて手にかけたのが家族……だったんだよね」
「……」
「お母さん、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん……の四人。みんな、私が殺した」
「理由を、聞いてもいいか?」
「アルファとして目覚めた私を生贄にしようとしていたから。暴力も振るわれたし、ありったけの罵詈雑言も叩きつけられた。———私が、アルファだったから」
ヒラルダの横顔からはなにも読み取れない。
遥か遠くを見て、自嘲気味に話すだけだ。
「私を裏切って、殺そうとしたやつら……だったけどさ。それでも、記憶はあるんだよ。大事な家族だった時のこととか、他愛のないことで笑った記憶とか……どこまで酷い目に遭わされても、私が家族を愛していたって事実は変えられなかった」
そこまで語ったヒラルダは自嘲気味に笑いながら、俺を見る。
彼女は笑みを浮かべていた、その内心は心を引き裂くようなどうしようもない悲しみと、胸の奥底から湧き上がる煮えたぎるような———自分自身に対しての怒り。
「だから、私が私を許さない。どれだけ絆されようが、貴方に心を許していようが……私自身がヒラルダという悪人を絶対に許さないの」
「いいぜ、それでも」
「———え?」
こいつは俺と同じだ。
いつまで経っても“あの日”の呪縛から抜け出せず、夢を見る度に吐いていた俺と。
俺とは違って誰もこいつにはいなかった。
だから、こいつは自分を責め続けて———後戻りできないようにした。
ヒラルダの本心をようやく聞き出した今、俺のするべきことが分かった。
「俺がお前をぶっ倒してやるよ」
俺はジャスティスクルセイダー、アカネ達に捕まって人の優しさに触れた。
なら俺も同じことをしてやろうじゃねぇか。
まずはこの分からず屋をとっ捕まえてやる。
俺の宣言にヒラルダは、眼を瞬かせた後に———ここで初めて純粋な笑みを浮かべた。
「最高の口説き文句だね」
「は? 口説いてねぇよ、何言ってんだお前……変な勘違いすんなよな……」
「カツミ君。ねえ? カツミ君。君はもっと場の雰囲気とかそういうの学んだ方がいいと思う」
今のどこが口説いてんだよ。
ぶっ倒してやるっていってんだろ、バイオレンスすぎるだろ。
アカネのお兄ちゃん呼びに一番違和感を抱いているのは他ならない私自身という……。
平行世界編はあと一話くらいで終わりですね。
次回の更新は明日の18時を予定しております。