前話、並行世界編 20を見ていない方はまずはそちらをー。
俺が目覚めてから三日が過ぎた。
その間、祝勝会やら拠点内の人々に滅茶苦茶感謝されたり、
アオイがベッドに潜り込む珍事に遭遇したり、
拠点内でレックス、アカネ、俺が兄妹と認識されたり、
ハルとキララと拠点内の放送のゲストとして呼ばれたり、
———色々と衝撃的なことがあったわけだが俺もいつまでもここにいるわけにもいかないので、改めてレイマに帰る旨を話した。
帰る方法は単純、ルインの名前を呼ぶだけ。
俺としては非常に……非ッッ常に複雑ではあるが、元の世界に帰るためにはあいつの力を借りるしかない。
多分、今の俺ならばあの姿になればできるかもしれないが、下手にあの姿になって大変なことになることも避けたい。
「ここらへんでいいか」
第二拠点の屋上。
なんだかんだで結構立ち寄ることの多かったこの場で俺たちは別れの挨拶を交わすことになった。
この場にいるのはアカネ、アオイ、キララの三人とレイマにハル。
そして俺とヒラルダとレックスの三人だ。
「カツミ君、本当に大丈夫?」
「あー、多分」
なにもない殺風景な屋上で、一歩前に歩み出た俺は軽く息を吸い彼女の名を呼ぶ。
「ルイン、頼む」
瞬間、俺たちの前に白い渦が現れる。
渦の先はレンズのように景色が歪んで見えるが、どこかの街中の雑踏———この世界で見ることのない人で溢れた景色が広がっていた。
「この先にあるのが、君の世界か」
「レイマ」
「ああ、分かっている。データは録っている」
ルインの技を科学で模倣することは不可能だが、次元と次元を繋ぐ糸口くらいは見つけ出せるかもしれない。
「……不思議な感覚だ」
ルインの作り出したゲートのデータを取りながらレイマは、感慨深そうに口を開いた。
「半月前までは絶望の中にいたはずなのに、今は溢れんばかりの希望が私たちの前に広がっている」
「レイマ……」
「君たちのおかげだ。君たちが我々の運命を変え、地球を救ったんだ」
「俺だけの力じゃない。貴方が諦めなかったから、間に合ったんです」
アカネ、アオイ、キララ、レイマ、そしてレジスタンスの人々。
誰もが絶望の中で戦い続けたからこそ、間に合ったんだ。
誰か一人でも欠けていたら、この状況はありえないものだったかもしれない。
「君の世界の私が、君を友と呼ぶ理由が分かった気がするよ」
「もう貴方とも友達ですよ」
「ああ」
手を差し出し、レイマと握手を交わす。
レイマにとってもこれからが大変だろうけど、彼がいるならばこの世界も大丈夫だろう。
「君たちもよく頑張ったな」
レイマからアカネ達へと移す。
俺の言葉に、アカネ達の瞳が潤んでいる。
ハルなんて既に泣いている。
「ハル」
「はいっ」
「これからは君のような誰かを笑顔にできる存在が必要になる。ここからが正念場だぞ」
オメガが死んだといっても脅威はまだそこらじゅうに残っている。
先の見えない戦いの日々を送らなくてはいけないこの世界の人々にとって、ハルの存在は勇気を与えてくれる代えがたいものになるだろう。
目元を拭いながら強く頷くハルに、微笑んだ俺は次にアオイへと視線を向ける。
「アオイ、あまりハルを困らせるなよ? まあ、なんだかんだで周りをよく見ているお前のことだ。いつだって変わらず、お前のままでいればいい」
「ありのままの私が好きって、こと?」
「ん? ああ好きだぞ」
「!!??!!」
「お、お姉ちゃんダイーン!!?」
一瞬で顔が真っ赤になったアオイが直立したまま後ろへ倒れ、ハルが支える。
「……大丈夫か?」
「平気です。お姉ちゃんは攻撃特化すぎて防御が紙すぎただけですから……」
どういうことだ?
ま、まあ、心配はいらなさそうだし次に行くか。
「キララ。……もう大丈夫か?」
「うん。私はもう心配ないよ。今はここにいる皆が私の家族。ほ、本当は君もなってほしいけれどね」
「もう家族みてぇなもんだろ」
「!!??!!」
「い、イエロォォォ!? 傷は浅いぞォォ!!?」
アオイと同じく直立したまま後ろへ倒れたキララをレイマが支える。
ま、またか?
「えぇと……」
「気にするな。いや、気にしないでやってくれ」
「お、おう」
家族ってのは言い過ぎたか?
え、でも自分から家族って言ったから……。
「最後になっちまったけどアカネ、お前は……おっと」
口に出す前にアカネは俺の胸に飛び込んできた。
頭一つ分くらい身長差があるので、普通に受け止めるが彼女は顔を埋めたままなにも喋らない。
「……」
なんとなく察した俺は苦笑しながら、アカネの頭に手を置きされるがままになる。
「うん、もう十分!!」
「いいのか?」
一分ほどそうしていたアカネはパッ、と離れて照れくさそうに微笑む。
「堪能した!!」
「なにを……?」
「えへへへ!!」
……まあ、満足そうならそれでいいか。
『
『完璧。……でも、この世界のアカネって私の世界よりも積極的……』
なんだかんだで妹がいたらこんな感覚なんだろうなって思わされたな。
元の世界では同い年だが、年下になるとこんな感じなんだなって。
「本当はこのままカツミさんの世界に行ってみたいですけど、私は私の世界のためにまだまだ頑張ります」
「一人で背負い込むなよ。いざという時は仲間を頼れ……これは俺の世界にいるお前が教えてくれたことだ」
「私が……はいっ」
明るく頷いたアカネの頭に手を置く。
———なんか元の世界に戻ったらうっかりあっちの彼女にもこれをやりそうで怖いな。
……さて、一通りの別れの言葉を言えたし、後は———、
「カツミ」
「レックス?」
ゲートをくぐろう、と口にする前にレックスが声をかけてくる。
なんとなく彼女がなにを言うか予想できていると、レックスは俺たちから離れ、アカネ達のいる側へ移動する。
「私はこの世界に残ろうと思う」
「やっぱり、ですか」
「その様子じゃ気づかれていたようだな。……うん。正直、私の力は君の世界では意味を成さない。むしろいらない厄介事を引き寄せてもおかしくはないだろう」
薄々そうするかもしれないとは思っていた。
あっちに戻ってもレックスの立場は星将序列だもんな。
離反するといっても裏切者扱いされて襲われないとも限らないし、それならこっちの世界でアカネ達に協力したほうがいいと考えても不思議じゃない。
「なにより、星界核の管理をこのカネザキ・レイマにだけ任せるのは不安だからな」
「え、そんなに私信用ない……?」
「監視者としてなら不老のこの身体も役に立つ。……この未熟者共の助けにもなれるしな」
……レックスも自分の目的を見つけられたんだな。
「それなら俺から言えることはありません。……あ、でも、お酒も煙草もあまりやらないように」
「あ、あの時は……私も少し自棄になっていて……試したけどどっちもダメだったよ。……フッ、今、思い出してもあの時君と会えてよかった。心の底からそう思えるよ」
きなこが俺を貴女の元に導いた時から始まった。
まさかこんな平行世界くんだりまで来ることになるとは思わなかったけど、それでもいい結果に終われて本当によかった。
「ああ、そうだ」
「?」
なにかを思い出したのか、レックスがポケットから端末を取り出し片手で操作する。
「今から座標を送る。元の世界に戻ったら座標に隠している物を回収しておいてほしい」
「なにがあるんですか?」
そう尋ねると、レックスは苦笑しながら答える。
その笑顔はこれまで見せた表情の中で、一番柔らかい笑みであった。
「口煩い、お節介な……私の友人だ。できることなら君達のところに置いて欲しい」
「はい。必ず」
座標を受け取って確認した俺は、その場から一歩後ろへ下がり、改めてその場にいる全員を見回す。
「これで最後の別れになるとは思わない。いつかまた、世界が繋がった時にまた会おう」
「うん! いつか、また会おうね!! カツミさん!!」
「ああ、約束だ」
今一度別れの言葉を口にした俺は、ヒラルダに目配せして——ゲートへと向き直る。
振り返ったら足を止めてしまいそうなので、後ろ髪を引かれるような思いを振り切り、俺はゲートへと足を踏み入れるのであった。
ゲートを渡った瞬間、瞬時に世界を渡ることになった。
踏み出した先にあるのは、見覚えのある都会の交差点。
白い渦でできたゲート自体は一般人にも見えていたようで、交差点の遠巻きから一般人がスマホなどで写真を撮っている光景が視界に映り込む。
「ここは、俺の知っている世界か?」
ルインを疑うわけじゃねぇが、不安もある。
とりあえずプロトに連絡をとってもらおうと手元に触れようとすると、ヒラルダがなにかに気づく。
「カツミ君、どうやらちゃんと元の世界みたいだよ。ほら」
「ん?」
交差点の中心でヒラルダがどこかを指さす。
彼女が指さした方向にはビルに備え付けられた大型モニターに、俺の映像が映し出されていた。
『黒騎士、行方不明から10日経過!! 彼はどこへ!?』
え、いや、なんか俺普通に行方不明になっちゃってますけど。
と、当然か……。
でも俺が行方不明になっていたってことは間違いなく、ここは俺のいた世界だな。
「よし、なら早速レイマに連絡を———」
「カツミ君」
「ん? どうした?」
ヒラルダが俺からゆっくりと距離を取る。
彼女の手には緑色のバックルが握られており、その様子からして———彼女がなにを考えているのかすぐに分かってしまった。
「もうやるのか?」
「あれだけ大胆な口説き文句を言われたら、もう待ちきれないよ」
「だから口説いてねーって言ってんだろ」
「私にとってはそうだよ。———ここにはギャラリーもたくさんいるし、戦いの場としては十分」
いいわけねぇだろ。
一般人を巻き込むようなところで戦いたいはずねぇだろ。
だが、そんなことを言って聞くような表情をヒラルダはしていない。
『
濃い桃色のドライバーが腰に巻かれ、彼女の姿が変わる。
『
『
『
星界核を失った彼女が変身した桃色の姿。
元に戻った彼女を見て、一度目を伏せた俺は———シロを掌に載せ、ルプスドライバーへと変形させる。
「シロ、やるぞ」
『ガウ!!』
『
———ドライバーから流れる音声にノイズが走る。
「……なんだ?」
明らかな違和感を抱いた瞬間、ルプスドライバーから金色の光があふれ出す。
いや、ドライバーだけじゃないッ、手首のチェンジャーからも赤色の光が出ている!!?
『ガウ!?』
『これは、まさか!! きゃっ』
変身に用いようとしたシロが手から弾かれ、右手から外れたプロトと合体する。
バックルとチェンジャーが変形し、見覚えのある赤と黒に彩られた異質なドライバーを形作り、俺の目の前に浮き上がる。
「やめろ、この姿になるつもりはッ!!」
「ッ、カツミ君!?」
「がっ、がぁぁあ!?」
駄目だ、抵抗できねぇ!
バックルが強制的に腰に装着され、俺の周囲に赤い暗黒模様の宇宙が広がる。
まさか、これがあの姿になった代償……!?
【ジェミニX:変身デメリット】
カツミとの相性が良すぎることから“プロト”、“シロ”の各形態への変身が不可となり、強制的にジェミニXへの変身に移ってしまう。
今回の更新は以上となります。