追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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書籍版「追加戦士になりたくない黒騎士くん」追加情報です。
こちらの方、発売日と表紙イラストが公開されました! 主人公カツミやアカネ達の初のお披露目となります!
ファミ通文庫様公式サイトにて公開されておりますので、こちらの方もどうぞよろしくお願いします!
https://famitsubunko.jp/product/322302000057.html



そして、お待たせしてしまい本当に申し訳ありません!
色々と忙しかったこともありましたが、それに加えて特殊効果の修行を積んでまいりました()
今回はアカネ視点でお送りします。







悶えるコスモ

 カツミ君が戻ってきた。

 アルファにも存在が感じられず、プロトとシロの感覚からも消え、司令の捜索も意味を成さない。

 完全な行方不明となった彼に私たちは己の無力さを痛感させながら、ボウフラのように湧いてくる怪人共を八つ当たりのように倒していくことしかできなかった。

 彼がいなくなるのはこれで三度目。

 一度目は彼が記憶を失うことになった最初の侵略時、二度目は彼が中途半端に記憶を取り戻した時だったけれどあの時とは何もかもが違う。

 今度こそ駄目かもしれない、という心の奥底の暗い感情を押し殺しながら生活していたこの十日間はまさしく地獄のようなものだったといってもよかった。

 

「ま、とどのつまりカツミ君は別世界。いわば並行宇宙に存在する地球に漂流していたということだな。いやはや、さすがに世界飛ばれると私もお手上げだな、はっはっはっ」

 

 珍しく社長室に呼ばれた私、きらら、葵、そしてコスモちゃんはデスクに腰かけて乾いた笑い声をあげている司令に困惑の視線を向ける。

 彼の傍には両肩にプロトとシロを載せているカツミ君もいるけど、彼の苦笑している様子からして司令の言っていることは冗談ではないようだ。

 

「どうして私達だけなんですか? アルファとハクアは?」

「うむ。二人はカツミ君が帰ってくるまで気を張り詰めていたから休むように言いつけておいた。お前らは多少気を張り詰めていても平気な図太いメンタルなのは分かり切っているので、普通に呼び出した」

「こいつらはともかくボクは図太くないだろ!!」

「私達も繊細なんですけど」

「ハァン!! 怪人スレイヤーと喫茶店のツンデレ看板娘がなにか言ってるわ!!」

 

 私とコスモちゃんの抗議の声を司令は鼻で笑う。

 司令の傍にいたカツミ君は、司令の言葉に不思議そうに首を傾げる。

 

「喫茶店のツンデレ看板娘……? 誰のことだ……?」

「グリーンのことだ。君が行方不明の間、新藤氏の喫茶店で君の欠員を埋めるために仕事に励んでいたらいつのまにか看板娘になっていたのさ」

「は!? 誰が看板娘だ! ホムラ、こいつの言っていることは嘘だかんな!! だぁれがお前なんかのためにかったるい喫茶店の仕事頑張るかってんだ!! 調子に乗んなよ!?」

 

 めっちゃ早口でまくし立てるコスモちゃん。

 その様子を見た司令は一つ頷くと無言でタブレッドを操作し、なにかの映像を映し出す。

 

「うむ。これは新藤氏に頼まれ広報用に作ったサーサナス広報アカウントに挙げたショート動画なんだが……」

「えっ、あれお前が……? ぁ、ひゃぁ!? ホムラ、見るな!!」

「ん? なにが? え?」

 

 慌ててカツミ君と映像を遮るように前に飛び出したコスモちゃんだが、それよりも早く映像が始まる。

 

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『喫茶店サーサナスですっ!』

 

『お客様のご来店っ』

 

『いつでもお待ちしておりますっ!』

 

『お休み中の友達のために頑張っちゃうぞ♪』

 

 

『きゅるるん!』

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喫茶店CIRCINUS

こいつ猫被ってます

あああああああああああああああああ

aaaaaa  aaaaaa

 

「ぴゃぁぁぁぁぁああああ!!?」

 

「え、これコスモちゃん? 可愛っ」

「ボクッ娘ぶりっこ猫かぶりツンデレメイド……!? な、なんて戦闘力だ……!?」

「ギャップすごいけど似合ってるなぁ」

 

 あまりの動画との変わりようにびっくりして私たちは映像とコスモちゃんの顔を交互に見る。

 顔を真っ赤にして涙目で絶叫したコスモちゃんは、カツミ君を見るが彼は無言のまま真面目な表情で映像に目を向けていた。

 

「お。おおお、お前のためにやってるんじゃないぞ!! 勘違いすんなよ!?」

「フッ、さすがに鈍い俺でも分かるぞ。ツンデレだろ? 葵に教えてもらった」

「ふざけんなよお前……!! いらねぇ知識ばかり身に着けやがって……!?」

 

 横を見ると葵が満足そうにサムズアップしてやがる。

 あとで、またカツミ君に葵が悪いことを教えたってハルちゃんに密告してやる。

 

「お前、俺がいない間に頑張ってくれてたんだな……きゅるるん、完璧だったぞ」

「真面目に反応するなうるさいバカぁ!! あぁぁぁ、もうおしまいだぁ……」

 

 普通に感心した様子でサムズアップをするカツミ君でとどめをさされたのかコスモちゃんはその場で崩れ落ちる。

 ……うーん、私も褒められたいなぁ。

 カツミ君限定の承認欲求に、ちょっとモヤる。

 

「私も喫茶店の手伝いとかしようかな」

「調理担当? それとも用心棒?」

「おい。そこは接客でしょ? なぜ荒事をさせようとする?」

 

 どうして刃物を握らせようとするの……?

 私だって接客くらいできるよ? バイト経験は皆無だけれど。

 

「話が逸れたな」

「逸らしたのはあんたやけどな」

「まあ、軽くまとめるとカツミ君は序列二位の力によって序列十位とヒラルダとともに別世界の地球に飛ばされ、なんやかんやでこちらに帰ってきたわけだ」

「私達としてはそのなんやかんやが気になるんですけど」

 

 さらっと言っているけど別世界の地球って普通にやばいと思う。

 当然、私たちのいる地球とは同じなわけがないし、カツミ君の様子を見る限り相当な戦いを経験しているように見える。

 

「お前達には話しておくべきか……」

 

 ? 言いにくいことでもあるのだろうか?

 いつもの司令らしくない反応に疑問に思っていると、彼は再びタブレッドを操作し画面を切り替える。

 そこに映し出されたのは———荒廃する都市。

 それも、私たちがよく知っている場所であった。

 

「彼が飛ばされた世界は平行宇宙に存在する別の地球。怪人が地球を征服したIFの世界」

「「「ッ」」」

「それは、“穂村克己が飛行機事故で死亡した”世界線とも言える」

 

 ……カツミ君がいなかったら、プロトゼロを着て怪人と戦う存在がいない。

 それはつまり怪人事変を前にした人類がほぼ無抵抗のまま怪人に蹂躙されることを意味してしまう。 

 そんな終わりに向かう世界に飛ばされたカツミ君はまた怪人と戦っていた。

 画像は紙芝居のように切り替わっていき、瓦礫で溢れた都市、怪人と戦う人型のパワードスーツ、そして———私たちと同じ顔をした三人の少女たちの姿を映し出す。

 

「え、私?」

「まさか、別の宇宙でも……」

「ちょっと幼い……?」

「平行世界のアカネ達だ。俺は彼女達に協力して、怪人達と戦って……最終的にその世界の侵略者の親玉を倒した」

 

 驚く私たちにカツミ君がそう説明してくれる。

 

「俺が飛ばされた地球に生きている人間は別世界のレイマ達が率いるレジスタンス以外にほとんどいなかった。別世界のお前達も、大切な家族を失って……滅びる運命にあったんだ」

「……」

 

 想像はできない、けれどそうなってもおかしくない運命なのは理解できた。

 

「そんな世界に俺はヒラルダと……星将序列十位レックス……いや、また別の世界のアカネと飛ばされた」

「……。ちょ、ちょちょちょ……え、わ、私!?」

「ややこしいのは分かるが事実なんだ」

 

 んん!? えぇと、並行世界の地球にいた私と、星将序列十位の私もいたってこと!?

 ……駄目だ。冷静になっても意味が分からない!? そもそも序列十位の私はどこから湧いて出てきた!?

 

「レックスは、俺が飛ばされた地球と同じ運命を辿った世界のアカネだ。彼女は序列二位の力で俺たちの世界に飛ばされて、序列十位のレックスとして俺たちの前に敵として現れた」

「はー、戦い方が似てて当然ってわけなんやねぇ」

「やけくそになって私たちに倒されようとでもしたのかな? アカネだし、ありえそう」

「別世界の私のこととはいえ軽く受け止めすぎじゃない!?」

 

 敵だったとはいえ私だよ!?

 でも納得はした。

 あれが別世界の私が辿った運命の一つというなら苛立って当然だ。

 だって、文字通りの私自身のことだったんだもの。

 

「ちょっと待って」

「葵?」

 

 ここで葵が珍しく強張った声を発した。

 

「同じ運命を辿ったって、別世界の地球は最終的にアカネしか生き残りがいなかったってこと?」

「……ああ」

 

 誰も助けられず、全てを失った私が死に場所を求めて地球に戻ってきた……ってことになるんだ。

 きっと私なんかじゃ想像できないくらいの喪失感と、一人だけ生き残ってしまった自分への激しい怒りに苛まれたはずだ。

 

「だけどな、オメガと侵略者の頭を倒したことで運命は変わった。……人類の滅びを先延ばしにする形にはなっちまったが、別の世界のレイマなら何とかする方法を見つけられるはずだからな」

「うむ、私は天才だからな。別世界でもそれは変わらん」

 

 カツミ君の言葉にはっきりと応える司令。

 というより、司令は先にカツミ君から別世界の地球のことを聞いていたんだ。

 

「……ここで平行世界の地球のことを一から十まで説明すると、どれだけ時間があっても足りん。お前達にはあとでデータとしてまとめて送っておこう」

「今ここで説明しきれんほどなの……?」

「私も情報として受け入れるにはかなりの時間を要したからな。それほどまでに彼が体験した約十日間の記録は濃密すぎた」

 

 子細はデータを確認すればいいってことか。

 色々と気になるところはあるけど、一番は平行世界の二人の私のことかなぁ。

 年上っぽい私と、年下っぽい私。

 

「さて、次だ。実はカツミ君が戻ってきたことで色々と要件が立て込んでてな」

「まだあるんですか?」

「うむ。レックス———別世界のアラサカ・アカネが、これまで行動を共にしてきた特殊なAI、それの回収をカツミ君が依頼されてな」

「特殊なAI?」

 

 首を傾げる私たちに司令が説明してくれるが……どうやら滅亡する地球人類の情報を保存するためのデータベースAIとかなんやら。

 自我もあるようで、別世界の私を助けていたものらしい。

 

「それを私たちが回収するということですか?」

「ん? いや、既に回収したので挨拶させようと思ってな」

「「「は?」」」

GRD(ガルダ)、自己紹介を頼む」

『了解』

 

 司令のその声に、彼と似た機械的な音声がどこからともなく発せられる。

 

『私はカネザキ・レイマの人格を元に作成されたAI。地球人類遺産の記憶を総括する人工頭脳GRD(ガルダ)である』

「うぇ、変態が増えた……!?」

『私をオリジナルと一緒にするな。分別は弁えている』

 

 嫌な顔をするコスモちゃんに平坦な声で毒を吐くガルダと呼ばれたAI。

 う、うぅん、司令と同じ声ってのが気になるけど、なんだか変な感じだ。

 

「こちらが接触を試みようとした矢先に、あちらからコンタクトがあってな」

『元より私の行動原理は地球に存在する生命のサポートにある。これまでは最優先補助対象である地球最後の生存者、アラサカ・アカネと行動を共にして助けてきたが、彼女がいない今次の対象であるこの地球の記録を守るために、君達につくことにした』

「……とまぁ、お喋りなAIなのだ。まったく、話が長い。全然私のデータ元にしておらんではないか」

 

 いや……話が長いあたりは結構似てると思う。

 だけど、少し前は敵だった存在をいきなり抱え込むのはちょっと危ない気がする。

 それはコスモちゃんとかも同じだけど、ガルダは今存在を知ったばかりだし。

 

「まあ、流石にこいつをすぐに信用するわけにはいかんので、しばらくはタリアの制御下で活動させることにさせる」

『フフ、お任せください』

『ぐっ、貴様……』

 

 司令のスーツのエナジーコアであり、第二本部の管理を行っているタリアの声にガルダは苦虫を嚙みつぶしたような声を漏らした。

 だけどなんだろう、心なしかタリアの声がうきうきしているように見える。

 

『私のことを母と呼んでもいいのですよ? ガルダ』

『呼ばん。お前は私の母でもない。そもそも私は肉体のない人工頭脳、そのような概念に囚われない』

『肉体の有無で家族の定義は測れません。マスターに作り出され、意思を持った貴方はマスターの息子。つまりはマスターの妻である私の息子ということになります』

『私は人間的な年齢に換算すれば100歳を超える。故に息子と表現するには不適切だ』

『……100歳程度でかわいい♪』

『カネザキ・レイマァ!!! 私よりこいつの頭をどうにかしろ!!!』

 

 と、ここでガルダが電子音声を器用に荒ぶらせながら司令に助けを求める。

 当の司令は挙動不審になりながら、視線を逸らす。

 

「よーし、次の話だ。タリア、連れていけ」

『カネザキ・レイマ!? 貴様、まさかこいつへのスケープゴートに私を!?』

『さあ、息子よ。行きましょう』

『息子ではない!? ぬおおおお!? 抗えん!?』

 

「一瞬でギャグ堕ちした……」

「そういう運命だったということやね……」

 

 徐々に遠くなっていくガルダの声。

 なんだかかわいそうに思えていると、カツミ君の肩にいる黒いメカオオカミになったプロトが呆れたように頭を振る。

 

『タリアも思い込みがすごい』

『ガウ』

『ガーオ』

 

 シロ、そしてコスモちゃんの肩にいたレオが頷くけど、君達も相当だと思う。

 

「レイマ」

「うむ。次だが、こちらに関しても我々が直接動く必要はない」

「今度はなんですか?」

 

 直接動く必要はないってどういうことだろう。

 すると、また映像が切り替わり、そこに見覚えのある黄色のスーツに身を纏った侵略者の姿が映り込む。

 私たちと似た戦隊スーツに、拳銃型の武器を持った強固なシールドを操る星界戦隊の戦士。

 

「こいつは……モータルイエロー? どうして今これを?」

「彼女はヒラルダの協力者だ」

「……なるほど」

 

 今現在、ヒラルダがこちらに来てしまっているという意味不明なことになっているので、協力者のモータルイエローは野放しになっているってこと?

 

「実際、戦った身としては……私はそこまで彼女に脅威を感じません」

「ほう?」

「戦闘力的な意味じゃなくて、彼女からは星界戦隊から感じられた悪意がなかったから……」

 

 嫌々戦っていた、というには少し違う。

 彼女と相対して伝わったのは諦めと、自嘲という侵略者としては思えない後ろ向きな感情。

 

「ヒラルダから聞いた話……いや、この件に関してはヒラルダは最低限の情報しか話さなかった」

「なんでなん?」

「ヒラルダにとって仲間を売るような真似をしたくなかったというのもあるのだろうな。———だが、渡された情報によると、現在モータルイエローは“星界剣機”我々が戦った星界戦隊が用いるビークルの生体部品として取り込まれた兄と共にいるという」

「生体部品……?」

「そのままの意味だ」

 

 ……モータルブルー。

 私が戦った時に彼女を庇った彼が、モータルイエローのお兄ちゃんだったってことか。

 それなら私の剣で貫かれた時の反応も分かるし、彼女が戦っていた理由も分かる。

 

「彼女の兄は生きているんですか?」

「精神汚染によって自我を破壊され、一種の脳死状態にあることは分かっている。……ヒラルダによれば、本来は精神を汚染されたことにより、モータルレッド、グリーン、ピンクのように悪の戦士へと変わってしまうが、モータルブルーは妹のイエローの汚染を肩代わりし、心を壊されたという」

「……」

 

 それじゃあもしかしたらモータルレッド達も本来は私たちと同じように戦っていたかもしれない、のか。

 彼らを悪に堕とした何者かがいたってことは、覚えておこう。

 

「それで、結局どうするんですか?」

「こちらとしては放置という選択肢はない。無害ということは分かっているが、別勢力に利用される可能性があるからにはこちらの監視下に置きたい。———もしくは、可能ならば、協力を仰ぎたい」

「協力って……」

「風浦氏のこともある。星界エナジーは未知のエネルギーだ。彼女の身に起こった現象を調べるために、情報が欲しいからな」

 

 あの人のこともなんとかしてあげないとね。

 カツミ君が戻ってきて落ち着きを取り戻したって聞いたけれど、いつまでもあんな狭い病室に籠りきりのままじゃかわいそうだ。

 

「まずはヒラルダから通信を送らせ、あちらに選択を委ねた。こちらに協力するか、管理下に置かれるか……彼女からしてみれば、理不尽なものに思えるかもしれないが、何度も地球に害をなそうとした手前、こちらができる最大限の譲歩がこれだ」

 

 星界戦隊との因縁は、妙な形で残ってしまっている。

 多分、イエローをなんとかしたとしても、その後は星界戦隊の運命を狂わせた何者かの存在に気をつけなきゃいけないのかもしれない。

 




片手間で作った作者フォント。



そして、次回お披露目予定の一部。



と、いうことで自作フォントで色々作れるようになりました。
今回は控え目ですが、次回で本格的なお披露目ができたらなと思います。

次回『蒼花ナオ:3D謝罪配信回』
次の更新は明日の18時を予定しております。

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