前話を見ていない方はまずはそちらをー。
閑話、レイマ視点でお送りします。
今回は特殊効果多めです。
カツミ君が無事に戻ったことで、レッド達だけではなくこの私自身も安心した。
彼という最大戦力が戻ってきたから、という意味ではなく私の数少ないかけがえのない友人の帰還だからだ。
だが並行世界へ飛ばされたという予想を遥かに超える体験をした彼には度肝を抜かされた。
そして、彼がレッド達やアルファに話すことのなかった———別世界のアンノウンの首魁ザインとの戦い。
プロトとシロに見せられた映像に映し出された彼の“究極”とも言える姿に私は言葉を発することもできなかった。
彼は、その一時だけまさしくルインと同じになった。
だがそれだけだ。
彼自身が変わったわけでもない。
穂村克己という心優しく、勇気ある人間性は揺るぎはしない。
私は、変わらず地球を守るために彼らと共に戦うまでだ。
————と、まあここまで真面目な思考で作業を進めていたわけだが。
私は今、第二本部の特設スタジオにいる。
対侵略者や怪人に用いるためではない、まんま撮影用のスタジオはジャスティスクルセイダー広報兼黒騎士イメージアップVtuber蒼花ナオのために造られた場所である。
一部の有象無象はこれを金の無駄と揶揄するだろうが、そんなものは情報戦を理解しない情弱の戯言ッ。
「世論! 一般受け! 若い世代に受け入れやすい流行りを取り入れることで、ジャスティスクルセイダーの活動を後押しすることができる……!!」
『口ではなく手を動かせ。ゴールディ』
『マスターが楽しそうで私も幸せです』
『レックス、お前まともだったんだな……』
傍で撮影準備を進めてくれているタリアとガルダに意識を向けつつ、今度はスタジオで私服姿でいるカツミ君を見る。
彼の頭、両手足首には特殊なセンサーが埋め込まれたバンドが巻かれており、彼の動きをリアルタイムで3D黒騎士君としてリンクさせている。
「フフフ、しかも彼がポーズをとれば白騎士、各フォームへと変更可能なプログラムを組み込んである」
『無駄な技術だろ』
「無駄を愛してこそ技術者だろうがこぉのたわけがァ! 私の思考をコピーしている癖に分からんのか!!」
遊び心なくして大作は作られん。
名画は意図して作られるものではない。
そうなるべくして名画となるのだ……多分。
『レイマ、これどうなってんだ?』
窓を挟んだスタジオからカツミ君の声が聞こえてくる。
私は手元のPCを動かし、今カツミ君がどのように映像に映っているのかを見せる。
「君の動きをリンクさせたものだ。3D衣装とでも言うのかな?」
『うぉ、なんじゃこりゃぁ……』
インターネット知識に関して3歳児同然なカツミ君にとって驚きの連続だろう。
しかし、日向くんはまだ来ないのだろうか? 別室で準備は済ませているはずだが、まだ来ないとは。
『マスター。日向晴様はカツミ様に合わせる顔がないということで、配信と同時に現れるということです』
「あー、例の件か」
先日、カツミ君ブロック事件。
日向くんを活動休止に追いやってしまったことを重く受け止めたカツミ君が、頑張ってツムッターアカウントをとり、そのアカウントを用いて日向君のVtuberとしてのアカウント『蒼花ナオ』にメッセージを送った時に起こった事件だ。
aa蒼花 aaナオ | 蒼花ナオ/Vtuber @AOHANA70_KC | X月X日 |
黒騎士さんが帰ってきたので活動復活しますいいい
メンタルどん底だったけど、一瞬で持ち直した
こ 672 | aaりa4478 | ♡ | aaき a 2,8万 |
あ | 黒騎士 @HOMURA‗KATUMI | X月X日 |
心配させてごめん<(_ _)>
こ | aaりa | ♡ | aaき a |
aa蒼花 aaナオ | 蒼花ナオ/Vtuber @AOHANA70_KC | X月X日 |
黒騎士さんはね。顔文字なんて使わないし、ツムッターもやらないの。
とりあえずブロックします。
最近多発してる黒騎士くん偽垢なんとかならないかなぁ。
こ | aaりa | ♡ | aaき a |
お | レッド@戦隊ヒーロー @@AKARED_JCAKR | X月X日 |
ナオちゃん!! その黒騎士くん本物!!!!
こ | aaりa | ♡ | aaき a |
う | ブルー@戦隊ヒーロー @Rikei_JCBE | X月X日 |
解釈違いブロック草
こ | aaりa | ♡ | aaき a |
え | イエロー@戦隊ヒーロー @Huthu_JCYE | X月X日 |
アカァ———ン!?
こ | aaりa | ♡ | aaき a |
嫌な事件……だったな、うん。
メンタル回復したはずの日向くんはヘラってしまうし、カツミ君は「俺、そんなに顔文字使えないと思われてるの……?」と変なところでショックを受けたりしていた。
さすがに我が社の優秀な広報担当である彼女を放置するわけにはいかないので、カツミ君との和解のためにこの場を用意したわけだ。
私自身、彼の失踪騒ぎのことを情報として落としていかねばならんしな。
「———そろそろ時間だ。準備はいいか?」
『ああ、俺はいつでもいいぞー』
『日向晴様も大丈夫そうです』
カウントダウンを口にし、配信を開始する。
蒼花ナオの復活と黒騎士の登場と相まってとんでもない数の視聴者数だ。
待機画面から切り替わり、3D黒騎士くんの姿が鮮明に映し出されたその瞬間、別室にいた日向君が蒼花ナオとしてのアバターの姿で早足で飛び出し————滑るような綺麗な土下座を彼に繰り出した。
かこの度は、ツムッターの件、偽物と間違えてしまいっ
い!!!?
かも、ももも申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!
はじまった
草
俺らじゃなくて黒騎士くんwww
そっち!?
開幕謝罪www
ツムッターの件か笑
草
草
3D黒騎士くんだあああああああああああ
おかえりぃぃぃぃ!!
土下座するために3Dにしてんのかwww
綺麗なスライディング土下座してて草
黒騎士くん困惑しとるやん
草
草
スィィィー(土下座)
こんなナオナオみたくなかった……w
謝る相手そっちかよぉ!?
ドン引き黒騎士くん……
どっちもおかえりぃぃぃぃ!
あああああああ
Oh! Japanese DOGEZA!!
弟くん3D!!????
草
潔すぎて笑う
#蒼花ナオ#黒騎士くん#3Ⅾ配信
aa蒼花 aaナオ | 蒼花ナオCHANNEL チャンネル登録者数xxx万人 | aa✓ 登録済み aa |
い高評価❘う | へ共有 | きオフライン | ほクリップ |
黒騎士さんが帰ってきたので復活します。
その前に黒騎士さんに懺悔します。
もっと見る
とんでもない始まりからにチャット欄は驚愕に包まれ、同時にスパチャで赤く染まる。
本来はカツミ君の意思を汲んでスパチャなしにしたいところだが、多分……いや必ず炎上すると予測できたので、切らなかった。
というより、スパチャ切って炎上するということ自体おかしなことなのだが。
「……まあ、序盤は私も補助に回るだけだからな」
今回の配信の表向きの目的は蒼花ナオの謝罪案件と、カツミ君の安否を一般人に知らせること。
なぜ3Dにしたかというと、私の渾身の3D黒騎士くんと3D蒼花ナオver2を自慢したかったことと、話題性のためだ。
なので最初の一時間ほどは蒼花ナオからカツミ君への質問コーナー的なものとなる。
「ガルダ。危険なもの、スパム、視聴者に不快な印象を与えるコメントの削除を頼む。スパムは発信元を割り出しておいてくれ」
『いいのか?』
「構わん。私が許可する」
誰もが目にする場で見るに堪えない文面をのせる者は露出狂となんら変わらん。
悪意を以てやっているならなおさらわざわざ配慮する相手でもないし、そこに侵略者による悪意が挟み込まれている可能性もゼロではない。
例え、徒労に終わったとしても安全という証明が出ればそれは無駄にならない。
い『謝る必要はないぞ、ナオ』
か『で、でも私とんでもないことを……』
い『確かに俺は顔文字を使うような印象じゃない。正直、文面を送るために一時間くらい悩んだのも事実だ』
ああああああああああああああああ ・一時間悩むの解釈一致 ・たしかに顔文字あわなくて草 ・勇気出して送ったのにブロック……w ・草 ・機械音痴の黒騎士くん…… ・ほんまかわいそうで草 ・かわいい ああああああああああああああああ |
い『そしてあの後、延々とスマホから通知が鳴り続けて怖くもなった。壊しちまったと思ってすげぇ焦った』
ああああああああああああああああ ・通知切ってなかったのか ・wwww ・草 ・草 ・めっちゃフォローされまくったのかw ・なんでこんな面白いの君www ・電気屋に放り込みたい ああああああああああああああああ |
い『だがその程度でへこたれる俺じゃない。顔文字使うと思われてねぇんならこれから使ってやればいいんだ』
か『黒騎士さん……』
い『だから今度使い方教えてくれよ』
か『えっ』
い『そういう印象を持たれてるなら俺が変わっていけばいいだけだからな。それが難しいことじゃないのは、俺自身が体験して分かってることだ』
か『……はいっ』
ああああああああああああああああ ・黒騎士くん……! ・私も鼻が高いよ ・成長したなぁ ・内容が絵文字覚えたいだけなのがwww ・イイハナシダナー ・感動した ・笑 ああああああああああああああああ |
カツミ君に差し出された手を取り立ち上がった日向君。
まず一段落終えたところで、彼らは次の話題に映るべくようやく近くに設置してあるテーブルにつく。
い『えぇと、今回呼ばれた理由についてだけど……ナオ?』
か『はいっ。黒騎士さんが行方不明の間どうしていたか、についてです』
い『……どこまで話していいか。まあ、レイマもいるし大丈夫か』
ああああああああああああああああ ・変態エイリアンいたんか ・おっ、名誉地球人だ! ・変態だ ・有能ムーブしかしない奴きたな ・変なことしろ ・社長!!! ・なんかコメント野太くなった?www ああああああああああああああああ |
なぜこの変態呼ばわりするコメントは非表示にならないのだガルダ?
する必要がない? つまりお前も私のことを変態だと思っているのか?
か『私も聞きたいです』
い『……まあ、正直信じられるかどうかは分からないが説明する。この配信の最後にレイマから情報が出されるからな。信じるかどうかはそれで判断してくれ』
こちらに視線を向けたカツミ君に頷く。
話してならないのは彼がザイン相手になってしまった姿のことだけ。
い『俺は敵の能力で別世界……平行世界に存在する地球に送り込まれちまったんだ』
か『マルチバース……!? 存在したんだ……!』
い『……ブルーも同じこと言ってたな。有名なのか? マルチなんちゃらって』
か『私が、姉と同じ……!?』
ああああああああああああああああ ・はぁぁぁぁぁ!? ・平行世界!!? ・嘘嘘嘘嘘嘘 ・姉と同じでショック受けてるの草 ・本当ならそりゃ見つからんわな ・色んな理論吹っ飛ぶわこれ ・さすがに嘘だろ ああああああああああああああああ |
か『でも地球だったんですよね? それなら大丈夫じゃ———』
い『いや、その地球は……怪人に支配された人類が滅びかけた地球だったんだよ』
か『……え?』
い『そこにプロトとシロもないままに降りちまったんだが、運よく敵として戦ってた……ああ、こっちに戻ってきたときに戦ったやつと飛ばされてな』
『俺もそいつも満足に戦えねぇから一時的に協力して戦うことになって、そいつの力を借りて変身して戦ってた』
『あの桃色の姿がそうだ』
『ひとまずスズムシ怪人とレーザー……いやビーム怪人を倒したが』
『そっから二度と顔も見たくねぇような怪人がわんさか出てきて面倒だった』
『そっからその世界で怪人と戦ってる組織……に潜り込んでいたグリッターを始末して』
『ついでに現れたアースを別世界のプロトと一緒に倒して……』
ああああああああああああああああ ・待て待て待て待てぇ!! ・じょ、情報が濁流のように!!? ・脳が壊れるるるる ・黒騎士くん一旦ストップゥゥ!! ・怪人惑星!!? ・人類終わってね? ・ぐあああああああ!!? ・やばばばばば! ・あの姿がそうなのかよ!! ああああああああああああああああ |
か『怪人って……』
い『ん? ああ、スマイリー、アース、ナメクジ野郎とかだよ。そいつらが地球で好き勝手に暴れまくった終わりに向かった世界、それが俺が飛ばされた地球だったんだよ』
軽く語っているように思えるが彼の眼は嫌悪感に満ちている。
それはすなわち、彼がそのような表情をするほどの悪辣な所業を働き彼の怒りを買ったことになる。
一部情報を伏せてはいるが、平行世界での出来事を話していくカツミ君。
彼の話にチャット欄は大混乱に陥っているが、それでも彼の声は止まらない。
い『で、その地球のジャスティスクルセイダーと呼べる存在、レジスタンスに協力して最終的にその世界の大本の怪人、オメガを倒して一先ずの平和を勝ち取れたわけだ』
5分ほどで簡単にまとめ、彼は言葉を切る。
改めて聞いてもとんでもない話だ。
その世界の地球には悲しいほどに救いはなかった。
カツミ君が飛ばされていなければ十日で滅びを迎えた地球。
そして、オメガとザインを倒したとしても、世界中に散らばった怪人の残党が跋扈し人間を襲い続けている。それに対して、生き残り反抗を続けるレジスタンスの人員は千にも満たない。
地球最後の数百人の人類に、平和が訪れるにはあまりにも遅すぎた。
い『俺の口から言えるのはここまでだ』
うむ、これ以上の説明はいらぬ不信を抱かせることになる。
情報の開示はやりすぎと思われるくらいが丁度いいのだ。
い『この話を信じてもらえるかは、正直どうでもいい。もう終わったことだし……酷な言い方をすれば、この世界を生きている人たちには関係のない出来事だからな』
と、ここで彼は言葉を切った。
長く話して疲れたのか軽く息を吐いた彼は手元に置かれた水を口にする。
い『それで、次はなんだ?』
か『はい。次は質問の時間ですね』
空気を変えるように声色を柔らかなものに変えた彼が頷く。
質問コーナーか。
以前と同じように事前に質問内容を募集してその中からこちらで厳選したものを選んでいくので、今の間はこの後に出す
か『では最初の質問。敵だった方と共に行動していたと聞きましたが、なにもなかったんですよね?』
い『ん?』
「日向くぅん!?」
脱力した次の瞬間にボディブローを食らった錯覚に陥りながらスタジオを見る。
あ、あれ、なんか質問違くない!?
たしかこれヒラルダのことについて説明する的なやつだったはずだよね!?
その質問に対してカツミ君は、特に焦る様子もなく腕を組み数秒ほど考えて……ハッと思い出したように口を開いた。
い『普通にあったぞ』
か『へぇ?』
い『てかたくさんあったな』
か『!!!????』
「カツミくぅん!!?」
ああああああああああああああああ ・は? ・は? ・私のだぞ!? ・は? ・汚したな! 黒騎士くんを! ・許さん……許さんぞ ・汚したな 黒騎士くんをッ ・やべぇやつらワラワラで草 ・多分黒騎士くんそこまで考えてないと思う ああああああああああああああああ |
日向君が聞きたいこととは別のことを指しているのは分かるけれども、君の発言で今一つの命が危機に晒されることになるんだぞ!?
というより、運が悪いことに現在ヒラルダは別室で、レッド達+αがいるモニタールームでこの配信を見学しているから今頃とんでもないことに……!?
『ち、違うの!! なにも起こってない!! 確かにふざけてからかったり悪戯しようとしたけど、全部普通に防がれて……アッ、ね、ねえ、今味方同士じゃん!? 仲間じゃん!! あっ、ちょ? 笑いながら近づくのやめて? 今私子供モード! こんなにいたいけで可愛い女の子だよ? えへへっ、私って、こんなに可愛いっ♪ …………桃子助けッッ———』
そして、ヒラルダが早速洗礼を受けてから一時間が経過し、蒼花ナオとカツミ君の対談も終わりを迎える時がやってきた。
こちらの出した質問内容を自己解釈したアウトギリギリな日向君の質問になんでも答えてくれるカツミ君に、私も視聴者もドキドキハラハラとさせられてしまったが、その時間も終わる。
『では、今回の謝罪配信はこれで終わりとなります』
『謝罪といっても最初だけだったけどな』
「あはは……この後は、社長さんから情報が告知されるそうです。では社長、よろしくお願いします」
日向君の声に頷き配信画面を切り替え、動画を流す。
———それは、彼が平行世界に向かった一つの証拠。
荒廃した都市での惑星怪人アースと、別世界のプロトスーツ“プロトX”を装着したカツミ君の戦いの記録だ。
暢気してたら思わぬところから飛び火したヒラルダでした。
今回は実験的な意味で自作フォントを使ってみました。
・蒼花ナオアイコン差分
かか
・黒騎士くんアイコン
い
イラストに関しては練習一週間未満なのであまり期待しないでください<(_ _)>
次回は多分、掲示板回。
今回の更新は以上となります。