追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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書籍版「追加戦士になりたくない黒騎士くん」について追加報告

公開の許可がいただけましたので、表紙、口絵、挿絵などの一部をTwitterにて公開いたしました!!
こちらで公開していいか少し判断しづらかったので、私のTwitterのURLの方を貼らせていただきます。
興味がある方は是非ご覧になってください!
https://twitter.com/koxHhDrnIZIMYJZ


そして、お待たせしました!
今回は閑話、モータルイエローの視点でお送りします。




閑話 モータルイエローの決断 前編

 ヒラルダの野郎、敵に寝返りやがった!!!

 散々破滅願望ひけらかした癖に黒騎士と十位と一緒に十日間行方不明になっている間に、どういうわけか絆されて帰ってきた。

 それを映像越しで見た私は開いた口が塞がらなかった。

 

「あ、あの破滅願望持ち地雷女即落ちして帰ってきやがった!?」

 

 思わずド汚い罵倒が出てしまったがこれに関しては許されるだろう。

 十日前、なんかドヤ顔で十位と一緒に黒騎士へ襲撃しにいったら行方不明になって、それでまた姿を見つけたら丸くなった上にほだされて光堕ちしているのだ。

 こちらとしては全く事情が分からないだけに、ヒラルダが即落ちして帰ってきたようにしかみえなかった。

 状況は最悪だ。

 なんだかんだで義理堅いヒラルダが私のことを売るとは思ってはいないが、今の状況で私ができることはなにもない。

 地球からの脱出? 星界剣機がない今、速攻でゴールディに探知されるので不可能。

 暴れまわる? 普通にジャスティスクルセイダーか黒騎士に殺されるし、そもそも暴れまわる理由もないので無理。

 いっそのこと身分を偽って地球で暮らす? 多分これがベター。

 文明レベルは低いが地球は他の惑星と異なり、比較的温和な生命体が多い星だ。

 侵略者と怪人という厄ネタがそこらへんに湧き出すという特大の懸念事項こそあるが、ある程度の自衛ができる私ならアリだ。

 

「オカシも美味しいし……」

 

 チョコという見た目が黒くて美味しそうに見えないものを口にした時は衝撃的だった。

 ヒラルダが失踪し、宇宙船から持ち出した食料が底をついたことで仕方なく地球で食料を確保するために「コンビニ」なる場所に向かった時が始まりだった。

 そこで見つけたのが黒い固形物「チョコ」なる物質である。

 私は特に疑問に思わず、惑星間で流通するクソマズ栄養食が地球にもあるんだなーと思いながら適当に大量購入した。

 

 隠れ家に戻った私が我ながら死んだ目で包装された「板チョコ」と呼ばれる硬質な、とても食べ物とは思えない硬度を持った食べ物の銀色の包装を破き、雑に口に含めた瞬間

 

———私の頭の中に宇宙が生まれた。

 

 舌に感じる未知の刺激。

 脳を溶かすと錯覚させるなにか。

 味のしない石のような触感の栄養食を食べると思い込んでいた私の脳へ襲い掛かる衝撃と、生成される幸福物質。

 心臓が止まった……いや、もしかして急な衝撃で本当に死んでいたかもしれない。

 小一時間身動き一つすらできなかった。

 そして、改めてこのチョコと呼ばれる黒い物質は低いクレジットで買える上に、そこらの店で大量に売買している光景を思い出し「地球やばくね……?」と思ったりしていた。

 

「……アリね」

 

 兄さんもここから移動させるのも無理だし、ここに滞在するのもいいかもしれない。

 もう私は戦わないし、もしルインの手でこの星が終わる日が来るというなら……私はそれを潔く受け入れようと思った。

 私はレッド達と一緒に死ぬことができなかった。

 なら、今度こそは兄さんと一緒に死のう。

 そう考えて、私はチョコレートを口に放り込んだ。

 

 

 ———が、そんなことを許されるはずもなく、ヒラルダの野郎が戻ってきて数日が過ぎたところで潜伏しているアジトに“カネザキ・レイマ”からの映像データが届いてしまったところで、この潜伏生活がついに終わりを迎えたことを悟った。

 

「ハロゥ、モータルイエロー。私はカネザキ・レイマ、知っての通り天才だ。今回は暫定侵略者である君に二つの選択肢を提示しにこのメッセージを送らせてもらった」

 

 自信に満ち溢れた言葉にイラッとしながら、奴の次の言葉を待つ。

 

『まず一つ。君がこの隠れ家からの逃亡を選ぶ場合、我々は君を捕縛する』

「……」

『そして二つ目は、君が我々に投降すること。そうなれば我々は君たちを保護しよう。身の安全も保障する』

 

 随分とお優しいことね。

 だけれど、嘘ではないのだろう。

 

『そして一つ補足させてもらうが、ヒラルダは君のことをほとんど何も明かしてはいない。その潜伏しているアジトも私自らが見つけ出したものだ』

「……なに、それ」

 

 知ってたけど、あいつ本当に私のことほとんど喋ってないんだ。

 光堕ちした地雷女という面倒くさいの権化みたいなやつだけれど、少しだけ安心してしまった。

 

「……兄さん」

 

 その後、投降に指定された場所と日時が伝えられたところでメッセージが終わる。

 私は兄が眠るポッドに手を添え、小さくため息をつく。

 このまま逃げるという選択肢はある。

 だけど、多分もうこの隠れ家はカネザキ・レイマに見張られている。

 逃げようとすればすぐに捕まって、敵意があると判断されて閉じ込められてしまうかもしれない。

 そうしたら、兄さんがどうなるか……。

 

「選択肢なんて、ないよね」

 

 私の命なんてどうでもいい。

 だって、私はレッド達を戻すのを諦めて、それでも離れられなくて悪事を重ねてしまったクズだからだ。

 でも、兄さんはなにも悪いことなんてしてない。

 心を壊してまで私を守ってくれた。

 それなら、せめて私は兄さんのために行動する。

 

 

 

「……ここが、指定された場所」

 

 指定されたのは人気のない路地裏。

 近くを行けば人の出るとこに行けるが、それを除けば誰も通らないようなそんな場所に私は立っていた。

 

「いったい、どこに……」

 

 周囲を確認するために前に歩み出ようとした瞬間、前触れもなく首に冷たいなにかが触れる。

 それを鋭利な刃物と認識した直後に、全く感じることのなかった気配が背後にあることに気づいてしまう。

 

「動かないで」

「ヒッ!?」

 

 れ、れれれれれレッドだ殺される!?

 忘れられるはずもないこの殺気。

 殺意が鋭利な刃物のように実体を伴って襲い掛かるような感覚をさせてくるような奴は彼女しかいない。

 

「モータルイエローだね?」

「は、はははははいぃ……」

 

 地球人ってこんな気配もなく後ろに立てるものなの!?

 それともこの声の主がおかしいだけ!? 抵抗する意思がないことを示すために両手を挙げると、何かをスキャンするような音が聞こえる。

 

「装備も装置もなし、司令。大丈夫です」

『う、うむ……しかし、レッド。お前はうちの社員として雇うことになっているが、うちには戦闘チームはあるが暗殺チームはないからな? ねえ、本当に分かってる? 手慣れ過ぎてびっくりしているのだが?』

「ご心配なく。カツミ君の護衛は任せてください」

『欲望だだ漏れすぎでは? いや、適任ではあるが』

 

 暢気な通信が聞こえるけど、私は死ぬの!?

 それとも確保されるの!? せめてそれだけは教えて欲しいのだけど!?

 こっちの方が年上のはずなのに泣きそうになっていると、私の頭に袋のようなものを被せられ、いつのまにか両手もヒモのようなもので縛られた。

 

「抵抗しないように。今から貴女を別の場所に移動させます」

『なぁ、だからどうして手慣れてる? なんか無性にカツミ君への護衛を任せたくなくなったんだが?』

 

 視界が真っ黒に覆われ、どこかに移動させられる。

 突然押されたり暴力をされるような扱いはされていないのだが、常に傍で刃物のような気配を持つレッドがいることで生きた心地がまったくしなかった。 

 


 

 一時間か、それ以上かどこかへ移動させられ、最後に椅子の上に座らされた私がしばらくそのままにしていると、前触れもなく頭に被せられた袋を外される。

 急な明るい光景に慣れず、眼を瞬かせながら見ると、私の目の前には椅子に座った金髪の男、ゴールディがいた。

 

「会うのは二度目だな。モータルイエロー……いや、ここはリリーフイエローと言うべきか」

「ッッ、どうしてその名を……」

 

 リリーフイエロー。

 それは悪に堕ちる前に名乗っていた私の正義の戦士としての名前だ。

 今の私にそんな名を名乗る資格はない。

 

「いいえ、私にはその名を名乗る資格はないわ。……ゴールディ、私はメッセージで送った通りよ。投降するわ」

「うむ。しかし、手荒い歓迎ですまなかった。こちらとしても用心だけはしておきたかったからな」

 

 その点に関しては分かっている。

 私は投降したとはいえ星界戦隊という敵組織の生き残りだ。

 むしろ、投降した私を保護するという提案をした彼らがおかしいだけで本来ならあの場で殺されていてもおかしくはなかった。

 

「でも、次はレッドじゃない奴にしてちょうだい」

「……あれは私も想定外だったのだ。本当にすまん」

 

 ゴールディですら予想外とか、本当に地球人なのだろうかレッドは。

 黒騎士は純粋な戦闘力で地球人かで疑うけど、レッドは殺傷性能とかの分野で疑ってしまう。

 

「それで、私はどうなるの?」

「正確には君達だな」

「……っ」

 

 兄さんのことも当然把握されているってことね。

 話すつもりではあったけれど、本当にこの男は厄介極まりない。

 

「そこまで警戒するな。伝えた通り、君と君の兄は我々で保護する。多少の監視はつくだろうが安全を約束しよう」

「それに対する対価は?」

「我々への協力、と言われてもピンとこないだろう。端的に説明すると、星界エナジーの解析に協力してほしい」

「星界エナジーを……?」

 

 あのとんでもエネルギーを解析でもしようというのだろうか?

 だが、星界エナジーはエナジーコアのソレと起源そのものが異なる文字通りの未知のエネルギーなのだ。

 私程度が協力したとしても解明できるものじゃないはず。

 

「星界エナジーそのものを悪用しようなどと考えたわけではない。……我々が保護した者が星界エナジーに深く関わってしまっていてな。その問題を解決するために君の協力が必要というわけだ」

「……私が役に立つかどうか分からないけど、兄さんの安全を保障してくれるなら……」

「では契約成立……いや、君の兄も調べても構わないだろうか?」

 

 当然の申し出だ。

 少しばかり抵抗感はあるけど、どちらにせよ兄さんはもう目覚めない。

 なら勝手になにかされるより、こちらから許可を出した方がいいだろう。

 

「いいわ。でも、兄さんを標本とか身体を切るという申し出なら絶対に許さないわ」

「勘違いするな。可能なら君の兄の治療が可能かどうか調べておきたかっただけだ」

「……え」

 

 意外な言葉に私は呆気にとられる。

 

「なんらかの意思によって心を歪められてしまったが、お前たちは元は正義の心を持った戦士達だ。リリーフブルーは君を守るために悪に屈さなかった高潔な人格の持ち主———救おうと思うには十分な理由だろう」

「……っ」

「そもそもそのような外道なことをすれば私は……否、我々はジャスティスクルセイダーではなくなってしまうからな。我々はヒーローだ。そう在らねばならない」

 

 ここにきてようやくなぜ多くの地球人からジャスティスクルセイダーが支持を得ているのか理解できた。

 正義の味方。

 その言葉通りに、目の前の男を含めた彼らは正しいことを行ってきたのだ。

 

「ありがとう。ゴールディ」

「フッ、惚れるなよ?」

「いや、それはないから。なんか生理的に無理だし」

「失礼が過ぎるのでは?」

 

 惚れるなんてことはありえないが、感謝はする。

 ばっさりと切り捨てた私に頬を引きつらせたゴールディだが、気を取り直してすぐに立ち上がると扉を開きこちらを振り向いた。

 

「で、では、ついてきたまえ」

「どこに連れていくの?」

「君の兄のところだ」

 

 ゴールディについていき部屋から出ると、そこは私がレッドに連行された場所とは異なる空間であった。

 ここはまさか、ジャスティスクルセイダーの新基地?

 まさかの場所に驚いていると、すぐに別の扉の前に辿り着く。

 

「君の兄は既に隠れ家から運び出している」

「っ、もう!?」

「場所は把握していると言っただろう?」

 

 どれだけ仕事が早いんだこの男は。

 そのまま扉を開くと、兄が眠っている見慣れたポッドと———黒騎士の中身、穂村克己と彼の隣にいる女性、そして兄さんのポッドの前で何かを操作している小さな女の子がいることに気づく。

 

「ヒラルダ……?」

 

 少し癖のある肩ほどまでの髪の女性、ついこの前仲間として協力していた人物である黒騎士に即落ちしたヒラルダに私は目を丸くする。

 

「えーと、あの、私、ヒラルダじゃ……」

「色々いいたいことがあるけど、とりあえず文句の一つくらい———」

「あー、イエロー! ヒラルダは私の方だよ」

「……は?」

 

 ヒラルダに文句を言おうとしたら傍にいた桃色の髪の角の生えた褐色の少女が、見覚えのある生意気な笑顔で自分を指さしそう言ってきた。

 

「あ、あんたがヒラルダ?」

「うん。そうだよイエロー。いや、いきなり姿を消してごめんねー。……あ、もしかして私の正体が思いのほか可愛くてびっくりしてる? いやー、私ってこんなにかわいだだだだだ!?」

 

 とりあえずイラっとしたのでヒラルダの両頬を掴みひっぱる。

 そして納得する。

 こいつがどうしてクソ生意気で、素振りが大人とも思えなかったのは文字通り子供だったから。

 

「そこまでにしておけ」

 

 見かねたゴールディが止めに入ったことでヒラルダを解放する。

 というより、こいつが兄さんのポッドを設置していたのか。

 

「しかし、どうしてカツミ君と風浦氏がここに? 設置はヒラルダが行うと聞いていたのだが」

「俺は風浦さんの付き添いだ。風浦さんがここから誰かの声を聞いたらしいから」

「……誰かの声だと?」

 

 ゴールディの視線にヒラルダと同じ顔の……いいえ、ヒラルダが乗っ取っていたであろう人間が頷く。

 でもなんだろう、このカゼウラと呼ばれた女性から、馴染みのある雰囲気がする。

 

「分かりません。でも男の声でなにかが聞こえてきたんです」

「……その声は今も?」

「今は何も。でも最後に“彼に掌をかざせ”とだけ」

「彼? ……この場合の彼とすると」

 

 ゴールディの視線がポッドで眠る兄へと向けられる。

 そして、確認するように彼の視線が私へ向けられ———私も頷く。

 

「では風浦氏。このポッドに掌を向けてもらってもいいだろうか?」

「は、はい」

「カツミ君。君はなにが起こっても対処できるように構えていてくれ」

「分かった」

『いつでも変身できるようにするよ』

『ガァウ!!』

 

 穂村克己の両肩に変身用のデバイスが乗る。

 それに合わせて、カゼウラがポッドへ掌を向けた———その瞬間、彼女の手から五色の光が浮かび上がった。

 

「これは、星界エナジー!? どういうこと、ヒラルダ!?」

「あー、えー、桃子はね。私のせいで星界エナジーを自分で作り出せるようになっちゃったの」

「はぁぁぁ!?」

 

 そんなことありえるの!?

 星界エナジーは星界核からしか生成されないものだ。

 断じて、それ以外の手段で手に入るものではないし、なにより生物が生成できるほど簡単なものじゃない。

 驚きに目を丸くしていると、兄の身体を包み込んだ星界エナジーが大きな輝きを見せる。

 

「っ、兄さん!?」

 

 そう叫んだ瞬間、兄さんの身体からなにかが飛び出した。

 それは、勢いよくカゼウラへ向かって飛んでいき———瞬時に間に入った穂村克己が変身しながら、突っ込んできた何かを掴み取った。

 

「何だ、お前?」

『失礼をした。ようやく飛び出した手前、止まることができなかった。感謝する』

 

 掴み取られたのは黒い星模様をしたぬいぐるみ、のような生き物。

 丸みを帯びた白い装飾が施された人型のそれは、彼の手から離れるとふよふよと浮きながら私たちが見える位置に停止する。

 そこでようやく私は、このぬいぐるみのような生命体の正体に気づく。

 あまりにも最初に会った時とかけ離れた姿をしているが、その声、口調は紛れもなく私が知っている奴だ。

 

『我が名はゼグアル。星界を守る黒き巨人なり』

 

 私たちを星界戦隊に選んだ星界エナジーを分け与える者。

 そして、私たちが悪に堕ちた時から姿を現さなくなった裏切りものだ。

 

 

 

 




長くなってしまったので前後編に分けました。
一般家庭出身のレッドがどうしてこんなことに……?

次回は明日の18時更新予定。
追加の挿絵の方も、明日Twitterにて投稿する予定です。
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