追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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書籍版「追加戦士になりたくない黒騎士くん」が6月30日、本日発売されました!!
発売に際して、また活動報告を書かせていただきました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=299292&uid=45172


そして、最後の閑話。
前半後半で視点が変わります。
最初はアカネの視点、
後半からアズの視点でお送りいたします。


閑話 本能と理性の狭間で

 記録というものは面白いものだと思う。

 家族の記念写真とか、友達と一緒に遊んで時に並んで撮ったときのものとか、大事な思い出を一つの媒体に記録し、残してもらえるって考えると本当にすごいって感じてしまう。

 私は、もう新坂朱音という一般人として普通の友達と会うことすらできなくなっちゃったけど、やっぱり昔の写真とかそういうものを見てじーん、と来ちゃうときもある。

 だけど。

 その逆でどうにかして消さねばならない記録というものがある。

 あえて言葉にするならば黒歴史というものだろう。

 正直、恥ずべき過去など何一つもないと自負する私だが、まさか並行世界の自分があのような暴挙に出ていたとは思いもしなかった。

 

「ね、ねえ、お願い話を聞いて!?」

 

 第二本部内のミーティングルーム。

 普段は作戦内容とか色々と話し合いをしたりするその部屋の真ん中で、私は椅子に縛り付けられ身動きをとれずにいた。

 

「裁判長。判決を」

 

 腕を組み、仁王像のような威圧感を放ち立っているきららが、普段司令が座っている椅子に座っているアオイに声をかける。

 伊達眼鏡をかけた似非後輩はどこからか取り出した裁判で使うハンマーみたいなものでテーブルを叩く。

 

「判決。アカネ、死刑」

「重ぉ!?」

 

 一切の弁論も許さず死刑宣告!?

 ど、独裁だァー!! 認められるかこんな裁判!!

 

「どうやら納得いってないようだね。この卑しいレッドが。では証拠を見せてあげよう」

「え、あ、やめ———」

 

 葵がぴっ、と端末を操作するとプロジェクターから映像が映し出される。

 そこには私よりも少し幼い、並行世界の私がカツミ君を前になにかをしようとしているのが見える。

 

『お兄ちゃんって呼んでいい?』

 

『カツミさ……ハッ……お、お兄ちゃんはなにが食べたい?』

 

『妹歴が違うんだよこの長女共め!! 言っておくけど私は元来妹!! 年上のカツミさんをお兄ちゃん呼びしても許されるんだよ!! ね、お兄ちゃん!!』

 

 そこには私がカツミ君をお兄ちゃんと呼んでいる映像が流れていた。

 

「え、これのなにに問題が? カツミ君は私のお兄ちゃんでしょ?」

「アカン!? 別世界の自分を同一視して、カツミ君の妹になろうとしとる!!」

「厚かましいなこのレッド……」

 

 いや、正気だよ。

 確かに私はカツミ君をお兄ちゃんと呼んだ覚えはない。

 なんだったら同い年だ。

 

「よく考えて。並行世界の私がお兄ちゃんと呼ぶのをカツミ君は許したんだよ? なら、ここにいる私が彼をお兄ちゃんと呼んでも平気なのが自然では?」

「自然の法則を捻じ曲げるなや」

 

 ぶっちゃけると私は上に姉二人がいる三人姉妹なので、兄という存在に憧れてもいた。

 なにせ姉二人が私生活ダメダメすぎるし、非常に私に対して大人げない外面完璧な駄目人間だからだ。

 

「なら後輩で最強で年下な私の方が相応しいのでは?」

「身の程をわきまえろ。それが許されるのはハルちゃんくらいだよ」

「寝言は寝て言え」

「久しぶりにキレちまった。だせよ、テメーのデッキを」

 

 どこからともなくポケカのデッキを取り出すアオイを無視して話を続けようとしていると、ミーティングルームの扉が開き、そこからカツミ君が入ってくる。

 

「あ、ああああれ!? カツミ君、どうしたの!?」

「ん? いや、昼時だから誰かいねーかなって思って。ここで何してるんだ?」

 

 時間を見てみれば確かにお昼時だ。

 いや、待てよ。

 ここで彼が来てくれたのはある意味で都合がいいのでは?

 

「カツミ君!」

「ん?」

「お、おお……」

「お?」

 

 並行世界の私にだってできた。

 ならば、私にできない道理はない……!

 頬に熱が入るのを感じながら私は勇気を出して声を振り絞る。

 

「お兄ちゃんって呼んでもいい!?」

「え、俺達同い年だろ」

 

 正論で殴りかえされて、思考が吹き飛ぶ。

 普通に困惑されてるところもショック。

 

「しかも妹ってお前。別の世界のお前を見たからそう呼びたかったのか?」

「ぁ、え、その」

「いや、まあ、お前三人姉妹の末っ子だし、兄貴が欲しいと思う気持ちも分からなくもねぇけど」

「……ァ、ワァ……」

「悪いけど、俺はお前の兄貴にはなれねぇよ」

「……」

 

「すっごい勢いで内情察してもらえた上に断られてる」

「む、むごい……見てるこっちまでいたたまれなくなってきた……」

 

 私の願望とか諸々全部察せられて、その上で申し訳なさそうに断られてしまった。

 あれ、私ここで死ぬのかな?

 もう恥ずかしすぎて生きる価値がないとさえ思えてきちゃった。

 笑みを引きつらせながらぷるぷると震える私にカツミ君はため息をついて視線を斜めに逸らす。

 

「つーか、兄貴とかそれ以前に俺たちは友達だろうが。今更、変な呼び方すんな、俺とお前は対等なんだから……こっちの調子が狂う」

「か、カツミくーん……」

 

 なんとか一命はとりとめたようだ。

 彼にすがりつこうとして肩を押さえられた私に、カツミ君はなにかを悔いるような表情をする。

 

「まあ、俺も悪かった」

「え、なにが?」

「心配かけさせたせいで精神的に参っちまったんだな。すぐにハクアのところにつれていくからな……」

「ち、ちが、違う違う!」

 

 なんかすっごい深刻な方に捉えられちゃってる!?

 力強く手を取られドキマギとしている間に、彼は私の手を引いていく。

 

「大丈夫だ。ハクアは記憶喪失になった俺を弟にした前科がある。お前の悩みも分かってくれるはずだ」

「白川ちゃんに二次被害が広がっていくぅ!?」

 

 こ、このままじゃ医務室で私と白川ちゃん、そしてカツミ君で気まずいメンタルカウンセリングが始まってしまう!?

 咄嗟に助けを求めようと振り返るが、二人は既にそこにはいなかった。

 あの裏切り者共!

 そうこうしているうちに、白川ちゃんのいるメディカルルームへとたどり着いてしまう。

 

「ハクア! 記憶喪失の俺を弟にしたお前に相談したいことがある!」

「ハゥ!?」

 

 あぁ、こっちはもう収集つかないことに!?

 

 


 

 その片鱗を感じ取った瞬間、私の中の根源的な本能が大きく揺るがされた。

 この世界に帰還した穂村克己が見せた形態———いえ、なりかけた形態とでもいうべきだろう。

 “運命のアルファ”に“進化のアルファ”という“前宇宙”からの遺産。

 オメガが存在しない、単一であり二人のアルファ。

 星界人を中心とした勢力に与し、前宇宙を食らいつくそうとした原初のアルファを退けたその後に自身の全ての力を引き換えにエナジーコアへと姿を変え、今の次世代の宇宙に流れ着き———その先で、導かれるように穂村克己の手に渡った。

 そして、異例に満ちたありえざる双子のアルファの力が合わせられ、さらに高められた太極を揺るがし、破壊に至る力が彼に宿った。

 

「ッ、ァ……!!」

 

 その力の片鱗を目にした瞬間、私の胸の奥底から形容することすらできない感情が湧きだした。

 ようやく彼が至高に至った喜びと、嫉妬。

 私の手で、目覚めさせるつもりだったのに、先を越された!

 許せない許せない許せない!!

 私のものにしなければ!

 穂村克己は、私の……私が最初に見つけた……ッ。

 

「……ッ」

 

 顔を押さえた指の隙間から見える黒髪が毛先から淡い光を放つ青色へと変わっていく。

 駄目だ、押さえつけなければ、このままでは私は我を忘れてしまう。

 

「落ち着きなさい、私……」

 

 私は、ルインじゃない。

 原初じゃない、なり損ない。

 湧き上がる衝動を理性で押さえつけ、呼吸を整える。

 青色へと変わりつつあった髪も元の黒髪へと戻って、その事実に少しだけ安心する。

 

「ルインを、殺せる力……」

 

 いや、まだ駄目だ。

 まだ彼はルインと戦える資格を手に入れただけだ。

 まともに戦ったとしても勝てる保証はない。

 

「あんな存在、許してやるものか」

 

 ルインという存在がいるだけで腸が煮えくり返るような衝動に駆られる。

 そんな憎悪を持つ私をルインは理解しながら、面白がって放置している。

 その侮りが、慢心が、さらに私の怒りを逆なでする。

 

『———』

 

 

 顔を押さえ、怒りに支配されかけている私に、地球のオメガのクローン“ν(ニュー)”が心配するように服の袖を掴んで見上げてくる。

 真っ黒に染まった相貌に浮かんだ二つの光る目。

 表情は分からないが、私を母と認識しているこの子の目が私を気遣っていることを察した私は、表面上は怒りをおさめ、ニューの頭を撫でる。

 

「ああ、心配ない。心配ないとも。私は大丈夫さ」

 

 穂村克己の成長は一先ずもういい。

 ジャスティスクルセイダーの成長を考えなければならない。

 

「ゴールディは一旦、穂村克己を戦いから遠ざけるだろう」

 

 恐らく、穂村克己は仲間に自身の力を明かしていない。

 明かしているとしても、それは極一部、ジャスティスクルセイダーの三人娘か、スーツ開発者であり自称親友を名乗るゴールディくらいだろう。

 そう仮定するならば、どのような事態に発展するか分かったものじゃない彼の新しい変身をおいそれと使わせるとは考えにくい。

 

「なら、当分は怪人事変の繰り返しかな」

 

 戦いの時代は遡り、怪人VSジャスティスクルセイダーといった感じになるかな。

 

「星界雲器も手に入れなきゃならないし、やらなきゃいけないことが多すぎるねぇ。待てなくなった奴らもやってくる可能性もあるし大変だ」

 

 次元の虫という大仰な名で呼ばれる低能の虫共に来られても面倒なだけなんだよなぁ。

 ま、星界エナジーで怪人を強化できるし、色々と遊んでいこう。

 

「ニュー、これからもっと忙しくなる。頑張ってね」

『? ———!』

「よしよし」

 

 不思議そうに首を傾げた後にこくこくと頷くニューの頭を撫でる。

 




真っ向からカツミにボコボコにされたアカネと、なぜか巻き添えをくらったハクアでした。



今回の更新は以上となります。
次回あたりから新章に移れそうです。
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